読書記録2011

最近、一度読んだ本でも忘れていることが出てきて年を感じます。ひどいときは、新しく読む本だと思って、面白く読み進めていくうちに、何だか知っている気がしはじめて、読み終わる頃に、そういえば昔読んだことがあったと思い出すこともありました。 「常に新鮮な喜びが味わえてうらやましいこと」などと言われる状態です。そこで、新しく読んだ本を忘備録としてここに書いておくことにしました(平成14年3月開始)。「新しく読んだ」というだけで、別に新刊の本とは限りません。


「校正の散歩道」 古沢典子著、日本エディタースクール出版部 平成23年12月読了
 1979年出版の本を古本で見つけてなんとなく買ってみました。著者は大正生まれ、岩波の校正課にいた人で、印刷所で活字を1つ1つ拾っていた時代の校正の様子がユーモアを交えて紹介されます。エッセーのようですが、これを教科書として使っていたのでしょうかね。装丁が「物理の散歩道」に似ているのがほほえましく思えました。

「ローマ世界の終焉 上・中・下」 塩野七生著、新潮文庫 平成23年12月読了
 「ローマ人の物語」の最終巻です。ローマ帝国が崩壊する過程もさることながら、最末期のローマを支えたのが生粋のローマ人ではない点が印象的です。ローマの国が崩壊する以前に国民がローマ人ではなくなっていたということなのでしょう。

「ファンタジーの秘密」 脇明子著、沖積舎 平成23年12月読了
 トールキンやアランガーナー、マキリップ、ピアスなどの作品を論じたファンタジーの評論です。なじみのある物事について、全く思いもかけない切り口から新しい側面を見せてくれるという評論のだいご味を味わわせてくれる本でした。

「ウソを見破る統計学 退屈させない統計入門」 神永正博著、講談社ブルーバックス 平成23年11月読了
 英会話のテキストによくあるような、短いスキット(寸劇)とその解説を組み合わせた17の章からなる統計の入門書です。ある統計手法もしくは概念がどのような場面で用いられるのかがスキットによって具体的にイメージできるという点が本書のよい点でしょう。この本を読んで統計を使いこなせるようになるわけではありませんが、初心者が基本的な事項の意味を把握するのにはうってつけです。

「生命とエネルギー」 岡山繁樹ほか著、共立出版 平成23年11月読了
 書評を生物学関係の書籍の書評の所に載せておきました。

「今はじめる人のための短歌入門」 岡井隆著、角川ソフィア文庫 平成23年10月読了
 同じ短歌の入門といっても、鑑賞入門と作歌入門がありますが、これは後者で、歌を作り始めた人に向けて、作歌のポイントが具体的に与えられます。芸術活動をマニュアルでやろうとしても無理でしょうし、さりとてただ抽象論議を繰り広げられても初心者には役に立たないと思いますが、その間のバランスをうまく取って、実際に作歌に取り組み始めた人に役立つ本に仕上がっています。

「科学史の事件簿」 科学朝日編、朝日新聞社 平成23年9月読了
 歴史上の科学者の、何らかの意味で負のイメージを与えるエピソードを集めた本です。化学同人から「配信の科学者たち」という本が出ていますが(5年ほど前に講談社のブルーバックスに入りました)、この「事件簿」の方が科学そのものへの踏み込みは甘いようです。

「僕が大人になったら」 佐渡裕著、新潮文庫 平成23年9月読了
 下の本の続編です。前回が新しい世界に飛び込んだ時の姿だとすれば、今回は自分の目的に向かって階段を上っていく姿と言えるでしょう。少し大人になって、面白みは少し減ったかも。

「僕はいかにして指揮者になったのか」 佐渡裕著、新潮文庫 平成23年8月読了
 世界的にも有名な指揮者の生い立ちをつずったエッセイです。ちょうど僕と同じ年齢の著者が15年前に書いた本ですから、35歳の時の本ですが、ずいぶん若々しい感じです。大学もそうかもしれませんが、芸術の世界も子供っぽい人が多いのかもしれません。

「変わる植物学 広がる植物学?モデル植物の誕生」 塚谷裕一著、東京大学出版会 平成23年7月読了
 書評を生物学関係の書籍の書評の所に載せておきました。

「すべてがFになる」 森博嗣著、講談社文庫 平成23年7月読了
 スカイ・クローラの著者のデビュー作です。何しろ15年前の作品なので、重要な役割を果たしているコンピュータ関連の話題の古めかしさはいかんともしがたいですね。登場人物は魅力的ですが、ミステリとしては平凡に感じました。

「植物の成長」 西谷和彦著、裳華房 平成23年7月読了
 書評を生物学関係の書籍の書評の所に載せておきました。

「ピアニストが見たピアニスト」 青柳いづみこ著、中公文庫 平成23年7月読了
 二十世紀の名ピアニスト六名の評伝で、音楽に疎い者にはわからない用語が頻出するのですが、音楽家の人間性は十分に伝わります。自らの才能の上に立って観客と対しなくてはならない音楽家の迷いや恐れが、まるでわがことのように伝わってきます。

「魔法泥棒」 ダイアナ・ウィン・ジョーンズ著、創元推理文庫 平成23年5月読了
 こちらは、1992年の出版ですが、この著者特有のユーモアとスピード感が心地よいファンタジーです。SF的な味付けもこの著者の作風だと違和感なく溶け込みます。

「孤絶の諷刺家アンブローズ・ビアス」 西川正身著、新潮選書 平成23年5月読了
 悪魔の辞典で有名な作家アンブローズ・ビアスの伝記です。昭和49年出版の本ですが、アンブローズ・ビアス自身が南北戦争を戦った時代の世代ですから、古びているということはないでしょう。興味深い人物ではありますが、友人にしたくはない感じですね。

「牢の中の貴婦人」 ダイアナ・ウィン・ジョーンズ著、創元推理文庫 平成23年5月読了
 英国ファンタジーの名手が1960年代半ばに大人向けに書いたという最初期の作品で、まあ試作品という感じは否めません。

「クロロフィルー構造・反応・機能ー」 垣谷俊昭、三室守、民秋均著、裳華房 平成23年5月読了
 書評を生物学関係の書籍の書評の所に載せておきました。

「バイオリニストは目が赤い」 鶴我裕子著、新潮文庫 平成23年5月読了
 バイオリン奏者からみたオーケストラの舞台裏などがユーモアたっぷりに描かれます。1つのエピソードがほんの3-4ページで紹介されてしまうのがもったいないぐらいです。

「「複雑ネットワーク」とは何か」 増田直紀、今野紀雄著、講談社ブルーバックス 平成23年4月読了
 ネットワーク理論をやさしく解説した本です。現実の問題に即した形で一つ一つの考え方が紹介されていき、すらすら読めます。学問としての「難しさ」が感じられない点がやや不満に感じられるぐらいです。一般向けの啓蒙書としては、素晴らしい出来だと思います。

「水環境の今と未来 藻類と植物のできること」 神戸大学水圏光合成生物研究グループ編、生物研究社 平成23年4月読了
 書評を生物学関係の書籍の書評の所に載せておきました。

「夏至の森」 パトリシア・A・マキリップ著、創元推理文庫 平成23年3月読了
 これは「冬の薔薇」の続編という形で、マキリップには珍しく現代を舞台にしています。車や携帯電話、パソコンゲームという背景の中で前作のファンタジーとしての雰囲気を保てるという点が著者の力量を感じさせます。

「新古今集 後鳥羽院と定家の時代」 田淵句美子著、角川選書 平成23年3月読了
 後鳥羽院と定家という、和歌についてはともに一流でありながら性格はまるで異なる二人が、一つの文化的時代を築いた過程がありありと描写されていいて、一気に読み終わりました。定家の性「狷介」と評される部分はわが身を見るようでしたが、定家と異なり和歌の天才ではないものにとっては、身を慎むしかないようです。

「白鳥のひなと火の鳥」 パトリシア・A・マキリップ著、創元推理文庫 平成23年2月読了
 これは下の本の続編ですが、こちらはアメリカにいる時にはまだ出ておらず、初めて読みました。

「女魔法使いと白鳥のひな」 パトリシア・A・マキリップ著、創元推理文庫 平成23年1月読了
 どこかで読んだことがあるような気がして確かめたら、なんとその昔に原書で読んでいました。ちょうど20年ほど前、アメリカに留学している時にペーパーバックの新刊として出たのを購入したのでした。

「バジリスクの魔法の歌」 パトリシア・A・マキリップ著、創元推理文庫 平成23年1月読了
 これは復讐譚ではではありますが、この著者ですと一筋縄ではいきません。最後が駆け足になっているのがやや残念ですが、密度の濃いファンタジーです。

「茨文字の魔法」 パトリシア・A・マキリップ著、創元推理文庫 平成23年1月読了
 複数の登場人物の視点から描かれたプロットは、交錯しながら焦点へと向かいます。ゆっくりとしたペースから緊迫していく展開がいいですね。

「ホアズブレスの龍追い人」 パトリシア・A・マキリップ著、創元推理文庫 平成23年1月読了
 これは短編集ですが、それぞれマキリップのファンタジーの雰囲気を持っています。しかも、それぞれが違う雰囲気を持っているのに感心します。