クロロフィル 構造・反応・機能

垣谷俊昭・三室守・民秋均著(三室守編集)、裳華房、2011年、305頁、4,000円

媚びない教科書である。本文の冒頭、「クロロフィルはMgを配位した環状テトラピロールの金属錯体と定義される。」という最初の一文から始まって、知っておくべき事実がたんたんと述べられていく。口絵に4ページのカラー写真があるほかは図もすべて白黒、唯一文体に若干の感情の高まりが感じられるのは、謎として残されている研究テーマを語るときだけである。それでも300ページを超す本を最後まで読ませる力があるのは、自分の知識を集大成して残しておきたいという著者の思いが読み取れるせいなのだろう。付録として、分子種の一覧、吸収スペクトル、吸収極大の位置とモル吸光係数、定量法、参考文献、そしてクロロフィルを持つ生物の入手方法まで載せているのも、そのような思いの反映だと思える。編著者の三室さんは、この本の最終校正作業中に亡くなられたので、まさに遺作となってしまった。

クロロフィルの有名な教科書としては、1966年に出た「The Chlorophylls」という本があり、クロロフィルの生物学・化学・物理学を網羅している。本書においても、クロロフィルの「化学」「物理学」「生物学」を紹介した3つの章が中心となっており、これに「クロロフィルと光合成」および「クロロフィルの分析法」の章が加わる。各章に最新の論文を含む参考文献が載せられているのは、それぞれの章をその専門家が書いている強みだろう。「クロロフィルの物理学」の章は、分子構造と電子状態の一般論がクロロフィルの具体論とやや遊離しているのが残念。生物系の学生にはやや厳しいかもしれない。いずれにせよ、勉強しなさいと渡されて読む本ではなく、研究の興味あるいは必要から自分の意思で読み始めるべき本であろう。

日本植物生理学通信 112, p.29 (2011)