水環境の今と未来 藻類と植物のできること

神戸大学水圏光合成生物研究グループ編、生物研究社、2009年、120頁、1,800円

内容的には副題の「藻類と(水生)植物」が大きな位置を占めているが、タイトルに「水環境」を打ち出すだけあって、水質浄化、環境改善、多様性の保全といった応用性への視点をもった教科書である。藻類の研究紹介の公開シンポジウムの内容をもとにまとめられた本だけあって、藻類の各分野の専門家が具体的な研究内容を紹介しており、特に環境への関わりを論ずるにあたって、単に定性的な議論をするのではなく、特定の地域の実例を紹介しているために、具体的イメージを持って議論をとらえることができるのが強みとなっている。「今と未来」といっても、単に「藻類を使えば何でもできる」というバラ色の未来を描くのではなく、過去の失敗例をきちんと紹介している。「地球を救う」とまで期待されたホテイアオイによる水質浄化が、コストや規模の問題から実用化に失敗した例を読むと、世の役に立つためには、理論と理想だけではどうにもならないことがよくわかる。また、海洋深層水の放流や発電所の温排水の環境への影響を評価すると、実はそれほど大きな影響がなかったという結果にも考えさせられた。これは「環境をかく乱しない」という意味ではよいニュースだけれども、藻類の増殖を速めて二酸化炭素の固定を促進したいと考えているものには悪いニュースである。つまり、地球温暖化に本当に有効な対策は、少なくとも局所的には環境を大きくかく乱することを意味しているとも言えよう。「藻類と植物ができること」には限りがあるにせよ、その可能性を探索するのは重要であると思わせる内容となっている。

書き下ろし 2011年4月