光の種類

光で引き起こされる反応を扱うものにとって、光は当然重要ですが、いわゆる「光」は、目に見える光だけを指すとは限りません。ここでは、光の種類について考えてみましょう。光の明るさ(強さ)についての議論は、「光の単位」をご覧下さい。

人に見える光

「光とは何か」という定義は、実は人によってバラバラです。創世記によれば、世界の始まりにあたって光が最初に現れたことになっています。この場合、暗黒の世界から人の目に見える世界になる点が重要なのだと思いますので、ここで言うところの光は、可視光、つまり人が目で感じることができる光でしょう。人が目に感じる光と言っても、赤橙黄緑青藍紫といろいろな色があります。この色は光の波長の違いによって生じます。同じ光でも波長が680 nmの光は赤く見えますし、波長が580 nmの光は黄色く見えます。では、可視光の波長の範囲はどのぐらいかと言うことになりますが、この定義がまた、人によって異なります。人間の目はデジタル式の機械ではありませんから、あるところの波長までは見えた光が、その値を超すと急に見えなくなるわけではありません。徐々に感度が悪くなっていくわけですから、見える光と見えない光に明確な境目はないのです。とすると、区切りのよい数字で、エイヤッと決めることになります。多くの場合、400 nmから700 nmの間の光を可視光とするようですが、400 nmから750 nmとする場合もありますし、380 nmから700 nmとする場合もあるようです。光は、物理学・化学・生物学・地学の全ての基礎科学に関わり、かつ、照明や光通信といった応用的な分野でも重要です。えてしてそのような場合、自分の分野に都合のよい定義をそれぞれの分野で決めることが多いので、異なる定義が生まれることになります。人間を対象とする学問の場合は、もちろん人間の目の感度がどのぐらいの波長まであるかが重要ですし、地球物理の分野では大気の吸収がどの波長で大きくなるかが問題になるでしょう。光通信の場合は材料の光透過性を考えなくてはなりません。何々の分野ではこの定義が常識である、と言い張る方も多いのですが、その常識が別の分野の常識と必ずしも一致しない状態ですから、あまり議論してもしょうがありません。このサイト「光合成の森」では、多くの場合、波長が400 nmから700 nmの間の光を可視光としてあります。

赤外光と紫外光

わざわざ「可視光」という言葉があるからには、目に見えない光もあるはずです。それが赤外光や紫外光です。分野によって可視光だけを光と定義する場合には、赤外光ではなくて赤外線、紫外光ではなくて紫外線になりますが、意味は同じです。紫外光、赤外光は、文字通り可視光の波長範囲の外側の波長を持つ光です。波長の短い紫の光よりもさらに短い波長を持つ光が紫外光ですし、赤い光よりも長い波長を持つ光が赤外光です。紫外光の場合、400 nmよりも短波長の光になりますが、短い方は10 nm程度までを紫外光と呼びます。紫外光は英語でultraviolet lightになので、よくUV光とも呼ばれ、波長によって長い方からUV-A, UV-B, UV-Cに分けられます。ところが、またこの3つの領域を区切る波長も人によって異なります。この他に、近紫外・遠紫外・真空紫外といった区分けもありますが、これもまた分野によって定義が異なります。基本的には、自分の分野での定義を覚えて、他の分野ではその定義が通用しないかも知れないことを頭に置いておくしかなさそうです。生物学の分野では、紫外光は主に、DNAの損傷を引き起こす原因として重要ですし、一部の光受容体の吸収波長は400 nm以下ですので、紫外領域の光を検出していることになります。

赤外光は波長が700 nm以上 1 mmまでの光をいうことが多いようですが、これも人によって必ずしも同じではありません。また、赤外光をさらに区分して、近赤外光、中赤外光、遠赤外光に分けますが、その区切りの波長も分野によって異なるようです。近赤外光と中赤外光の区切りを2.5μm、中赤外光と遠赤外光の区切りを4 μmとする場合が多いようです。生物学的な反応としては、中赤外光、遠赤外光が問題になることはあまりありません。植物の光受容体であるフィトクロームの吸収は波長が長いところで710 nm程度ですし、光合成細菌の光合成色素であるバクテリオクロロフィルの吸収は長くて800 nm程度までの波長の光なので、いずれも近赤外の領域ですね。なお、最近、文部科学省の教科書検定では、可視光の波長範囲を750 nmまで広げて、700 nmから750 nmの波長領域の光を遠赤色光と呼ばせているようです。どの分野の用語体系が取り入れられた結果なのかは知りませんが、英語では確かに昔からfar red lightという言葉はよく使われてきました。ただ、少なくとも光合成の分野では、遠赤色光という言葉は定着した用語ではないので、このサイトでは主に近赤外光という言葉を使っています。

電磁波

紫外光の波長は10 nm以上、赤外光の波長は1 mm以下だといっても、それより外側の波長を持つ光が急に存在しなくなるわけではありません。光は、電波などと同じ電磁波であって、電子レンジに使うマイクロ波、テレビ放送に使うテレビ波、ラジオ放送に使うラジオ波は、いずれも赤外線より波長の長い電磁波です。逆に、ガンマ線やX線は、紫外線よりも波長の短い電磁波です。光を一番広く捉えると、電磁波のことであると定義できます。ただし、マイクロ波やX線になると、可視光とはだいぶ振る舞い方が変わってきます。可視光を利用して物質の吸収などを測定してその性質を明らかにする方法に分光学があります。「分光」というのは、光を波長ごとに分けて利用することです。いわゆる分光器と呼ばれる装置を用いて対象の物質を測定をするのですが、紫外光から赤外光まででしたらほとんど同じ形の装置を使って測定を行なうことができ、それぞれ紫外分光測定、可視分光測定、赤外分光測定と呼ばれます。つまり、目に見える、見えないは別として、赤外でも紫外でも可視光とほとんど同じ取り扱いができるのです。しかし、例えばマイクロ波になると全く違います。生物学の分野でもよく使われる電子スピン共鳴(ESR)という測定方法があるのですが、これはマイクロ波を使って対象の物質の性質を調べます。この場合、マイクロ波を通すのには導波管というものが必要で、可視光や紫外光のように装置の中をビームの形で通すことはできません。また、可視光や赤外光の場合は、いろいろな波長のものが混ざった光を作る方が簡単で、むしろ単一の波長の光を取り出す方が難しいぐらいなのですが、マイクロ波の場合は、特定の波長のものを使う方が簡単です。ガンマ線、X線、テレビ波、ラジオ波も可視光と取り扱いが異なることは同様で、これらと、紫外光・可視光・赤外光の間にはその振る舞い方に大きな違いがあります。紫外線・赤外線を紫外光・赤外光とはいっても、テレビ波・ラジオ波をテレビ光・ラジオ光といわないのは、そのあたりが理由なのではないかと思います。

光合成と光

光合成色素には、クロロフィル、カロテノイド、そしてフィコビリンがありますが、いずれもその吸収は可視光の領域にあります。ただ、普通の植物は持たない、光合成細菌だけが持つバクテリオクロロフィルは、上に述べたように近赤外光を吸収することができます。また、シアノバクテリアの一種には、クロロフィルdという、やはり近赤外光を吸収することができる色素を持つものもいます。ですから、光合成に使われる光は基本的には可視光であり、一部、近赤外光を使うことのできる生物もいることになります。僕の知る限り、今までに紫外光を使って光合成をする生物は見つかっていませんが、これは、紫外光がDNAに損傷を与えるため、そもそも利用しづらいのでしょう。また、もともと太陽光に含まれる光は可視光が主です。近赤外光は比較的多く含まれますが、紫外光については、大気とオゾン層によって吸収されることもあり、地表に届く量は可視光に比べると少なっていて、これも理由の一つかも知れません。

最後に緑色の光について一言。クロロフィルを有機溶媒に溶かして吸収スペクトルを測定すると、赤い光と青い光はよく吸収している一方で、緑色の光の領域の吸収は非常に小さいことがわかります。吸収が緑色の部分で小さいからこそ、吸収されなかった光が人間の目に入り、クロロフィルは緑色に見えるわけです。とすると、植物はなぜ緑色の光を無駄にするのかという疑問が生じるのは当然で、このサイトにもそのような質問が時々寄せられます。確かに、太陽光のスペクトルを考えても、緑色の領域の光が一番多いぐらいですから、それを使えないとしたらもったいない話です。ところが、有機溶媒に溶かしたクロロフィルではなく、葉そのものの吸収スペクトルをみると、実は緑色の領域でも8割以上の光を吸収しているのです。その葉に含まれるクロロフィルを有機溶媒にとかして、葉に含まれるのと同じ量を葉と同じ厚みの層にした場合は、緑色の領域での吸収は葉よりもずっと小さくなります。これは、葉においては全体として光の吸収の効率を上げるような(正確に言うと、光路長を葉の厚みの何倍にもする)構造をとっているため、有機溶媒に均一に溶けたクロロフィルの場合とは異なる結果を与えることによります(詳しくは「光合成とはなにか」に書きましたのでそちらをご覧下さい)。ですから、実際には、植物は緑色の光も十分利用しているのです。しかも、最近の研究では、光が強い時には、むしろ葉の中に深く入り込む緑色の光の方が光合成にとって有効であるとの実験結果まで出ています。生き物を見る時に、部分だけを見ても理解できないという一例でしょう。