PAM2500によるクロロフィル蛍光測定

2022.4.14最終更新

クロロフィル蛍光測定の一般論については、光合成とクロロフィル蛍光をご覧ください。以下のプロトコールは、Walz社のPAM2500を用いて、植物のクロロフィル蛍光を測定するためのプロトコールです。

PAM2500の特徴

Leaf Clip of PAM2500

Walz社のクロロフィル蛍光測定装置は、今となっては"OldPAM"と呼ばれている据え付け型の測定装置から始まり、現在では光化学系1の反応中心であるP700の吸収変化測定も同時に可能なDualPAMとその後継機が普及しています。一方で、時期的にはそれらの間に発売されたPAM2500は、バッテリーで駆動できる比較的小型のPAM2000の後継機であり、野外での測定が可能です。ノートパソコンの代わりにタブレット端末を使えば、実際に腰に機器をつけて歩き回りながら測定することも可能です。また、測定ヘッドには、右の写真のように小型の光量子センサーと熱電対がついているので、その場の光量と温度をリアルタイムで測定できるという意味でも、フィールドワークに向いています。一方で、少なくとも葉を試料とする限りにおいては、実験室における厳密な生理学的実験に対応できるだけの性能を持っています。したがって、吸収測定などが必要なく、クロロフィル蛍光のみが測定できればよいという場合には、広い範囲の研究に対応可能です。

機器の接続とソフトウェアのインストール

Connector Port of PAM2500
  1. コントローラーには、右の写真のように4つのコネクタと光ファイバーの接続ポート(コネクタの下のカバーに隠れている)があるので、Leaf Clipコネクタに測定ヘッドの端子を、EXT.DCコネクタに電源コードを、USBコネクタにパソコンとの接続USBコードを、光ファイバーの接続ポートに光ファイバーを接続する(AUXコネクタには接続なし)。
  2. 光ファイバーの先端を右下の写真のように測定ヘッドのソケットに挿入してねじで固定する。この際、ソケットには目盛りがついているので、ソケットの一番奥まで押し込まずに、適当な位置に光ファイバーを固定することも可能。当然、奥まで入れれば試料にあたる光は一番強くなり、離れれば弱くなるが、離した方が光の当たり具合の均一性はよくなる。奥から1目盛り分浮かせるのが経験的にはよかった。なお、藻類培養液などの液体試料の場合は、試料をキュベットに入れて、測定ヘッドを使わず、光ファイバーの先端を直接キュベットとの距離が一定になるように固定することにより測定可能である。また、キュベットに入れず、たとえば培養している試験管の外側に直接光ファイバーを当てて測定することもできる。ただし、測定ヘッドに光量子センサーがついているので、光ファイバーを単独で用いて測定した場合には、光量の情報を得ることはできないので、後述のように自動的にlight curveを測定しようとする際には不便である。Leaf Clip with Optical Fiber
  3. パソコンにPamWin-3ソフトウェア(最新版は現在ver.3.22d)をインストールする(古いバージョンのソフトでは、ソフトのインストールのあと、で、作成された専用ディレクトリ(PamWinフォルダー)内のUSBPORTディレクトリの中のCDM Setup.exeファイルをPAM-2500 本体の電源をONにした状態でPCにつないだ状態で実行してUSBドライバーをインストールする必要があったが、新しいバージョンでは(インストールの途中で出てくるFTDI CDM Driversのインストールのプロンプトに従えば)自動的にドライバがインストールされるはず)。

クロロフィル蛍光の測定条件設定

  1. 制御用パソコンのPamWin-3ソフトウェアを立ち上げる。
  2. コントローラーが接続されていていればソフトから認識される。コントローラーのスイッチを入れた直後は認識されないことがあるので、スイッチを入れてから1分ほど置いてからソフトを立ち上げるとよい。逆にコントローラーのスイッチをずっと入れっぱなしにしておいた場合に、USB機器が認識できないというエラー(COM-Ports are not available)が出る場合がある。これは、実際にはUSBやパソコンの問題ではなく、コントローラーの連続運転による不具合のようなので、コントローラーのスイッチを一度切って、しばらく待ってから再度スイッチを入れて接続すると解消する(逆にUSBの問題だと思ってパソコンの側を再起動などしても解消されない)。
  3. プログラムを立ち上げると、COM-Portsが確認されたのち、「Do you want to start a New Report?」というプロンプトが出るので、通常はYesを押す。その後に開く初期画面は、メニューが使いにくいので、右上のAdvancedというボタンを押して、通常モードに入る。
  4. プログラム画面は、上部、右側、下部、中央部の4つのパネルからなっており、中央部パネルのみは、タブ形式で内容が切り替わる。それ以外の上部、右側、下部のパネルには、いつも同じ情報が表示されている。
  5. 最初は、中央パネルにGeneral Settingsタブが開くので、そこで測定条件をセットする。この状態で既に光の検出自体は始まっており右側パネルのFtの所に蛍光レベル(実際にはこの段階では測定光をあてていないので外光を見ていることになる)が表示されているはず。また、その下のPARには、測定ヘッドが受けている光量が表示されているはず。また、下部のパネルには、照射光の状態がブロックで示されており、例えばMLのブロックをクリックすると、ブロックの中央が赤くなり、MLが照射される。具体的な設定項目は以下の通り。
    1. General Settingsタブの一番左のMeas.Light小パネルで測定光の設定を行う。Intで光量を設定し、その下のAuto MF-Highのチェックボックスには通常チェックを入れておく。これにより、測定光だけの際には、MF-Lの低い周波数で測定光が照射されるために励起効果が弱くなる一方、励起光や飽和パルス光が当たっている時にはMF-Hの高い周波数で測定光が照射されるため、時間分解能とS/N比がよくなる。それぞれの状態の具体的な周波数は、すぐ下で選択して設定する(単位はHz)。
    2. その下の小パネルで、ゲイン(増幅率)とダンピング(時間平均)を設定する。測定光が弱いなどの理由でシグナルが小さい時にはGainを上げる必要があるが、その場合にはノイズも大きくなる。ダンピングは、最低の1にすると時間分解能は10 μs(ただし測定光の周波数以下にはならない)であり、最大の8にすると時間分解能は4 msとなる。測定光の周波数が100 kHzであっても、ダンピングが4以下では時間分解能への影響はほぼないので、実際にはダンピングの設定は4かそれ以上でよい。
    3. その下の小パネルのAnalysis Modeで、Slow Kineticsによるクエンチング測定などか、Fast AcquisitionによるOJIP測定かを選択する。
    4. 右側の2列の小パネルで、励起光(Act.Light)、飽和パルス光(Sat.Pulse/MT)、系1光(PSI Light)などの光源の設定と、Slow Inductionで蛍光の誘導期測定の際の飽和パルス光照射条件の設定をする。励起光はWidthを0にすることにより、連続照射(切るときはマニュアルで切る)に設定することができる。飽和パルス光の光量設定は、「Int」と「Int (Fo,Fm)」の二種類がある。これは、試料によっては、暗順応した状態FoレベルでFmを測定する際には少し弱めの飽和光が必要(強すぎるとシグナルがかえって小さくなってしまう)けれども、励起光照射下では十分強い飽和光が必要である場合に、別々に飽和光の光量を設定できるようにするためである。
    5. タブの下部右寄りの小パネルではZero Offsetの設定ができる。Zoffボタンを押すことにより、その時の蛍光レベルがバックグラウンドとして引き算される。実際には、葉の測定においてはほぼ無視できる。
    6. 個々の実験設定は、タブ右側のOpne/Save User Settingsによってファイルの書き出し、また読み込むことができる。ファイルはPamWin_3フォルダのUser Settingsフォルダに保存される。ただし、Zero Offsetの値は保存されない。

Slow kineticsの測定

  1. いわゆるクエンチング測定などは、上記のようにGeneral SettingsタブのAnalysis ModeでSlow Kineticsを選択したうえで、Slow kineticsタブから測定を行う。
  2. 測定画面の右の下側の小パネルに、Ind.Curveという選択ボタンがあるが、実際には、ここでManualを選択して、自分で照射光のタイミングなどを下部パネルのブロックで操作して測定した方がやりやすいことが多い。ただし、定型的な測定を繰り返し行う際には、Ind.Curveや、励起光後の回復過程も測定するInd.+Recも便利である。Manualではない測定の場合の測定条件は、General Settingsタブで設定する。
  3. Manual選択ボタンの下にあるStartボタンを押すと測定が開始するので、下部パネルにある測定光(ML)、励起光(AL)、飽和パルス光(SAT pulse)などのブロックを必要なタイミングで押すことにより測定を行う。最初に測定光だけを当てている状態で、Fo Fmのブロックを押せば、飽和パルス光が照射され、その際の蛍光レベルがFm、その直前の蛍光レベルがFoとして登録され、タブの右側に表示されている様々な蛍光パラメーターの計算に用いられる。
  4. 測定が終了したらStopボタンを押す。

Light Curveの測定

  1. Slow Kineticsモードでは、Light Curveのタブから光-光合成曲線の測定を行うことができる。
  2. 基本的には測定画面の右の下側の小パネルのStartボタンを押せば、自動的に光量を少しずつ上げて測定を繰り返すことにより、光合成速度(ETR)の励起光依存性測定が行われる。
  3. どのように光量を上げていくかは、Startボタンの上のEditボタンから、編集することができる。励起光の強さと持続時間をそれぞれクリックすると新しい値を入力できる。また、Uniform timeにチェックを入れると、最後に入力した持続時間にすべての持続時間が統一される。光量PAR自体は、リストから読み込まれるので、直接は変更できない。持続時間に0が入力されているところで、測定は終了する。デフォールトのリストでは、最大光量のあとで持続時間を0にしているので、そこで終了するが、これを例えば2に書き換えれば(10秒単位なので20秒を意味する)、そこから今度は光量を下げていくプロトールに修正することができる。このパラメータリストをパネル上部のアイコンからセーブしておけば、必要に応じて読み込んでそれをそのまま使うことができる。

OJIPの測定

  1. いわゆるOJIP測定は、上記のようにGeneral SettingsタブのAnalysis ModeでFast Acquisitionを選択したうえで、Fast Kineticsタブから測定を行う。
  2. OJIP測定は、飽和パルスを照射した際の蛍光の上昇キネティクスを測定するだけなので、極めて簡便で再現性も得られやすい一方で、情報量は限られる。基本的には、測定パネルの右側のStartボタンを押せば測定ができる。Startボタンの下のAuto ML onにチェックを入れておけば、飽和パルスの照射直前に測定光がonになり、測定後に自動的にoffとなる。

データの保存

  1. 測定されたデータは、基本的には自動的にセーブされる。セーブ先はPamWin_3フォルダの中のDATA_2500フォルダとなる。
  2. キネティクスデータも、上部のメニューバーの「Option」の「Kinetics auto save」にチェックが入っていれば、自動的にセーブされる。
  3. テキスト形式でキネティクスをエクスポートする場合は、Fast kineticsの場合は、Fast kineticsタブの右の上にあるエクスポートアイコンを使い、Slow kineticsの場合は、Windowの右下にあるView Modeボタンを押してから、Slow kineticsタブの上部に出現するエクスポートアイコンを使う。