FluorCam 800MFによるクロロフィル蛍光イメージング

2017.8.16最終更新

クロロフィル蛍光イメージング装置FluorCam

クロロフィル蛍光測定の一般論については、光合成とクロロフィル蛍光をご覧ください。以下のプロトコールは、Photon Systems Instrumentsのクロロフィル蛍光イメージング装置FluorCam 800MFを用いてクロロフィル蛍光を画像として解析するためのプロトコールです。

クロロフィル蛍光の測定は、光合成生物に励起光を照射することにより放出される蛍光を感知すればよいだけですから、基本的には非破壊の測定です。したがって、励起光の反射・散乱光をカットするようなフィルターをカメラにつければ、通常の写真を撮るように蛍光画像を取得することができます。

このようなクロロフィル蛍光イメージングによる解析が有効な場合には二つあります。一つは、対象生物に異所的な差がある場合で、例えば斑入りの葉や、色素の状態が異なる果実などを材料に、場所による光合成状態の違いなどを解析することができます。もう一つは、スクリーニングに用いる場合です。シロイヌナズナの芽生えや、シアノバクテリアの細胞のパッチをシャーレに並べておけば、それらを一度の測定により解析できますから、数多くの変異体の中から特定の光合成の状態を示すものを探し出すことができます。

クロロフィル蛍光情報の取得には様々な方法が考えられます。例えば、飽和パルス光の照射時の蛍光変化の有無(つまり定量的にはFv/Fmに相当する変化の有無)だけであれば、極めて小さな対象についても敏感に検出できますから、シアノバクテリアのシングルコロニーを対象に光化学系Ⅱの活性が失われた変異体のスクリーニングなどが可能です。一方で、励起光を照射した際の蛍光の時系列変化(いわゆるコーツキー変化)を比較する方法もあります。この場合、シングルコロニーでは難しいことが多いですが、ある程度の面積を持つ細胞パッチであれば検出可能ですし、植物体の芽生えでも大丈夫です。コーツキー変化は、細胞内の状況を極めて敏感に反映しますから、光合成の状態の小さな変化を解析できる一方で、条件をそろえて測定することは困難です。したがって、通常、異なるプレート間データを比較することはせず、同じプレートに常に対照サンプルを置いて、それとの比較で議論する必要があります。蛍光イメージングにおいて通常のクエンチング解析をすることも可能です。しかし、クエンチング解析によって得られる蛍光パラメータは、光合成の状態に関する情報を与えてくれる一方で、その状態の小さな変化を必ずしも敏感には反映しませんから、スクリーニングの目的にはそれほど適しません。スクリーニングに使うのであれば、むしろコーツキー変化などを用い、得られた候補の詳細な解析は、通常のクロロフィル蛍光測定装置により行なう方が望ましいのではないかと思います。

現状の機械には、617 nmに極大を持つ赤/オレンジ光LEDパネルと、色温度6500 Kの白色LEDパネルが装備されています。前者を、測定光および励起光として用い、後者を飽和パルス光として用いています。CCDカメラはRG695とLP770のフィルターの組み合わせで保護され、クロロフィル蛍光のみをモニターするようになっています。これらの光源とフィルターの組み合わせを変えることにより、例えばGFPの蛍光イメージングなどの目的に使用することも可能です。

コーツキー変化測定の手順

  1. 電源ボックスの電源をonにする。
  2. 測定装置本体正面左上のPowerスイッチをonにする。onになると、スイッチが赤く点灯する。
  3. 制御用パソコンを立ち上げてソフト(FluorCam7 ver.1.0.20.4)を起動する。
  4. 画面上部のシルクハットアイコン(プロトコールウィザード)をクリックし、右側のアイコンの中からKautsky effect with continuous lightを選んでOKを押す。
  5. 条件設定ウィンドウが開くので、条件を設定する。
    1. Actinic light 1 (赤色励起光:617 nm)にチェックを入れる。
    2. Actinic light 2(白色励起光: 6500 K)にはチェックを入れない(入れると、励起光照射時に白色光も照射される)。
    3. Experimental durationは、シアノバクテリアの場合は45 s、陸上植物の場合は12 sが適当。
    4. Every nth frameは最低の2を選択(1フレームは20 msなので、40 ms間隔の測定に相当する)
  6. Liveタブで画像を確認する
    1. 試料を置いて右側のパネルのAct 1をチェックして励起光を照射すれば、試料の位置を確認できる。ここで、Act 1 の強さも変えることができるが、実際の測定プロトコールには反映されない。
    2. レンズのピントはここで確認する。ピントは、上部のカメラのレンズの先を回すことにより調節できる。ピントが調節できたら励起光は消しておく。暗順応する場合には、励起光を消してから必要な時間だけ待って測定を開始することになる。
    3. CameraパネルのAutoのチェックは外しておく。これにチェックを入れると、SensitivityやShutterを自動調整してくれるので、Liveイメージには便利だが、実際の測定の際には、自分で条件を設定することになる。
    4. CameraパネルのAverageにチェックを入れると、S/N比が改善する。これは、おそらくは空間的な平均化を行っているのだと思われる。
    5. CameraパネルのContrastにチェックを入れると、イメージのカラースケーリングを0-4096に調整する。これにより、画面のコントラストが改善する。
    6. SensitivityやShutterの設定値も確認できる。通常のコーツキー測定ではSensitivity=20%、Shutter=5 (i.e. 500μs)程度で試してみるのが良いが、試料ごとに必要な条件は大きく異なるので、初めての試料の場合は試行錯誤が必要。これらは、下のUseボタンを押すと測定プロトコールに反映される(Useボタンを押し忘れると、測定には全く反映されない)。
    7. 厚みのない比較的小さな試料に関しては、試料棚の位置は最上段にしておけばよい。
  7. Protocolタブで、プロトコールを確認する。
    1. ここには、シャッターなどの測定条件が記述されたのち、「<0, TS * 2 ... 45s>⇒m」といった形で測定手順が記述されている。ここで2はevery nth frameの値、45はexperimental durationの値。
    2. プロトコールファイルは、自分のフォルダにセーブすることが可能。
  8. 画面上部の青い稲妻アイコンをクリックして測定を開始する。測定中に、本体上部のLight sourcesパネルのLEDランプにより、必要な光源だけがついているかを確認する。例えば、連続光によるコーツキー変化の測定の場合、(励起光を測定光に使っているので)Measuring flashランプはつかないはず。励起光をつけずに測定する場合は、測定時にMeasuring flashランプの点灯を確認できる。ソフト画面のパネルの下部に、測定の進行状況がバーと数字で表示される。
  9. 測定終了後PreProcessingタブに移行するので、カラーバーの左側の三角矢頭の間を、上からクリックしていき解析対象の画像が表示されるようにする。さらに、一番下の矢頭をドラッグすることにより微調整をする。基本的に試料が解析対象として認識される一方で、背景が認識されないような状態になればよい。代わりに右側パネル中央付近のManualボタンを押してManual modeにし、自分で、解析対象となるエリアを指定してもよい。デフォールトではAuto modeになっている。
  10. なお、CCDカメラの限度を超える光が入射している場合は、ピクセルオーバーフローの警告メッセージが出るので、測定条件を変更する必要がある。弱い測定光と強い励起光/飽和パルス光の組み合わせでは、測定光による蛍光が小さくても、励起光によるバックグラウンド蛍光シグナルが大きいために、この警告が出る場合がある。
  11. 右下のAnalyzeボタンを押して解析を開始する。
  12. 解析結果はResultタブに表示される。
    1. Fpの画像は、複数の測定スポットがある場合、それぞれのFpの時点の画像を合成したものになるため、同一時刻の画像ではないことに注意する。
    2. 右側に表示される画像を右クリックしてセーブすればBMPファイルとして保存できる。
    3. Experiment-Export-Kinetic-Alldataによりキネティクスをファイルに保存できる。
    4. Experiment-SaveAsにより全データを保存できる。

一般的なパラメータ設定の目安

  1. El Shutter (プロトコール中ではElectronicShutter)は、1回の測定でシャッターを開けている時間を設定します。数字で指定を行い、対応は、0: 10 μs、1: 20 μs、2: 33.3 μs、3: 100 μs、4: 250 μs、5: 500 μs、6: 1 ms、7: 2 ms、8: 4 ms、9: 6.3 ms、10: 10 ms、11: 16.7 ms、12: 20 ms、となっています。PAMモードでの測定では0-2、連続光モードでの測定では3-12が推奨されています。なお、この設定により、同時に測定光の持続時間も設定されます。
  2. Sensitivityは、測定感度を設定します。80%以上に設定するとS/N比が悪くなるとのことですので、20-80%程度になるようにするのが良いでしょう。
  3. Actinic light intensity(プロトコール中ではIrradiance)は、励起光の強度を指定します。これは、LEDの出力を%で示したものなので、当然、同じ値を用いても、実際に試料にあたる光の強さは、試料の位置(試料棚の位置)によって大きく変わってしまいます。実験にあたっては、実際の励起光強度を試料の位置で実測するか、最低限、Actinic light intensityと共に、試料棚の位置を記録しておく必要があるでしょう。
  4. Super light intensity(プロトコール中ではSuperIrradiance)は、飽和パルス光の強度を指定します。これにも、上述の励起光と同様の注意が必要です。