植物生理学概論 第2回講義

光の吸収と光合成色素・酸化還元と電子伝達

第2回目は光の性質から始めて光の吸収の物理的意味、光合成色素による光の吸収、アンテナ複合体の構造、反応中心複合体の構造、電子伝達、といったところを解説しました。以下に寄せられたレポートと、それに対するコメントを載せておきます。


Q:クロロフィルは青の光と赤の光を光合成に用いる。ここで何故赤よりもエネルギーが高い緑の光を吸収しないのかという疑問が生じる。考えられるアプローチとしては環境的要因と物質性質的要因である。環境的要因では光合成が出現した時代、つまりシアノバクテリアが出現した30億年前の地球ではオゾン層もなく、紫外線から逃れるために生物はある程度の海中の深さまで潜らなければならなかったと考えられ、海中の生物に届く光は海の成分に大きく依存していることが推測できる。現在では波長の高い順に届きやすくなっているが、当時の海では様々な金属イオンや有機物が溶けており、そのような物質がたまたま緑色の光の透過を阻害し青と赤の光が光化学反応に使われるようになったのではないかと考えられる。一方、物質性質的要因では、光化学反応は反応中心が励起することによってエネルギーを得るシステムだが、励起は物質ごと波長に依存している。よって海中に多く存在した物質が緑ではなく赤や青の光の波長に励起するものであり、それが現在のクロロフィルに発展したと考えることもできる。
参考文献
玖村敦彦 古谷雅樹 宮地重遠 植物生理学講座1光合成 朝倉書店 1971年
杉村新 図説地球科学 岩波書店 1988年4月

A:このレポートのよいところは、色素の光吸収について環境的要因と物質的要因の両面から考えた点でしょう。あともう少し考えて欲しかったな、と思うのは、バクテリオクロロフィルのことです。バクテリオクロロフィルは植物よりも古い起源を持つ光合成細菌の色素です。そして、陸上植物のクロロフィルが可視光を吸収するのに対して、赤外領域の光を主に吸収します。これを、もう一つ、進化的要因として考えてみたらどうでしょうね。


Q:黒色は光を吸収しているため、黒色に見え、熱を持ちやすい。黒いものが赤や緑、青などの可視光線を吸収しているだけで直射日光の下、あのように熱くなるのだとしたら、可視光線のみならず、電磁波や紫外線、赤外線などのあらゆる波長を吸収する物体はどうなるのだろうか。私たちはブラックホールという光でさえ重力により飲み込む存在を観測している。ブラックホールの重力場に捕らわれた光や天体のエネルギーはどこへ行くのか。それはセンサーなどの装置が用をなさないため、ブラックホールの内部がどのようになっているのか今のところ詳しくは分かっていない。しかし私はブラックホールがそれらのエネルギーを重力場の中心にあるものに衝突させ、黒色のように全ての物質、エネルギーを熱エネルギーに変換していると考える。そうして得た熱エネルギーを重力に変換したりしているのではないだろうか。

A:目の付け所は斬新ですが、エネルギーというものの概念がややごっちゃになっているように思えます。まず、光が持っているエネルギーがあるのはよいのですが、重力場に捕らわれて落ちていく時には、位置エネルギーも放出されます。一方で、重力自体はエネルギーではありません。ですから、熱エネルギーが重力に変換する、ということはあり得ません。このような場合、単位を考えてみるとよいでしょう。エネルギーの単位として、ジュールというものがあります。これはニュートン(力の単位)とメートル(距離の単位)をかけ算したものです。さらにニュートンはkg(質量の単位)にm/s2(加速度の単位)をかけたものです。重力は、この最後の加速度に相当し、重力の場に質量が置かれると力が発生します。その力により物質が移動するとエネルギーになるわけです。


Q:The sun is the main source of energy for Earth, and it has many different types of lights given off depending on its wavelength. The range of light that a human can see with its bare eyes is roughly between 380 nm to 750 nm, which turns into white light. Light that has a range of wavelength lower than that are ultraviolet rays, and light that is more are infrared rays. As the sun sets, it is obvious that the sky changes colors, such as red and orange, but the sky is blue while it is above the Earth. This is due to the angle that the light is shinning at as the sun comes around the Earth. So if this happens to the light within the visible light range, I thought this happens in the infrared and ultraviolet ray area as well. Depending on the location of the sun according to a particular location, it will be at an angle, causing the light to deflect different wavelengths. If so, infrared and ultraviolet rays should be deflected at different wavelengths as well. If so, the amount of energy that is absorbed by Earth should vary as well. If this were the case, scientists would be able to collect the maximum amount of energy at the times when the rays are at the angle giving off the most energy. This would help in the world wide energy demand, plus still be eco-friendly to not further worsen global warming.

A:太陽の角度によって透過する光の波長が変わるのはその通りですし、それが紫外線、赤外線の領域にも当てはまるのもその通りですが、最後の部分はどういう意味なのかわかりませんでした。地球に入射するエネルギーは太陽の角度によって変化しますが、これは人間が変えるわけにはいきませんし、地球から出て行くエネルギーは、地表面から放射されるので、そもそも「角度」というものがありません。wavelengthは"wave length"ではなく1語なので、そのように直しました。


Q:Green Light Absorption: Chlorophyll absorbs light most strongly in the blue and red wavelengths but absorb poorly in the green wavelengths of the visible spectrum. Thus, green light is reflected off and makes plants look green. This leads me to question - why isn’t green light used or absorbed as efficiently as light in the red or blue spectrum? Another puzzling concept is the fact that plants, in order to maximize its output and resources, should try to take in as much energy from light as possible. Yet, why is it that green light (500-550 nm in wavelength), which contains higher energy levels, is not absorbed and red light (650-750 nm in wavelength), which is lower in energy, is? The sun emits visible rays of all wavelengths; however, green light is not used or absorbed as much as red or blue, especially during the morning and evening, when the sun rises and sets. As the majority of the photons that make up the sun are red, and blue light, with the highest energy level, is the only light that can pass through clouds, it may be possible that the more frequently exposed light, red and blue, is absorbed more readily than green light. Also, leaves may not be able to make full use and obtain all the energy from photons absorbed, and thus has no need to maximize its amount of light energy absorption and absorb green light. Furthermore, land plants are believed to have evolved from marine plants, and since green light is not easily absorbed by water, there may have been no need to absorb green light in order to adapt to living on land.

A:次の講義で話す予定ですが、実は、エネルギーが高い光も、エネルギーが低い光も、1個の光子によって引き起こされる光合成の反応は変わらないのです。つまり、高いエネルギーを持つ光子(例えば青い光)では、エネルギーあたりの光合成の効率は低くなることになります。この点については、次回に詳しく話します。あと、最後の文の論理はちょっとわかりませんでした。水が緑の光を吸収しないことと、地上で緑色の光を吸収するようにならないことの間に論理的関係がありますかね。


Q:光合成を行う場所となるのが葉緑体です。その葉緑体中のクロロフィルが光を集める役割を果たしています。そのクロロフィルの中心にはマグネシウムが位置します。しかし、マグネシウムの変わりに亜鉛が含まれる、亜鉛クロロフィルを持つ生物が発見されました(紅色光合成細菌など)。このことから、何故通常のクロロフィルはマグネシウムを持っているのか、亜鉛ではだめなのか。また、亜鉛以外の物質、例えば銅(亜鉛クロロフィルは足尾銅山の高山廃液から見つかったというため、どうして銅ではなく亜鉛が含まれるようになったのか)ではどうなのか考察していきます。Mgは生物体にとって必須な物質で、エネルギー生産やタンパク質合成といったさまざまな酵素反応に関与しています。Znも酵素反応に関与し、重荷酵素の構造形成および維持をしています。CuクロロフィルはMgよりも光や酸に安定なようです。と考えると、光に安定すぎると光合成が円滑に進まないのではと考えました。次にCuとZnを比較してみると、どちらも遷移元素で(12族も遷移元素に含むとすると)周期表にて原子番号が29,30と隣り合っています。このことから、遷移元素は全部ではないにせよMgと置換できるのではないかと考えられます。Cuを含むクロロフィルがないか調べてみると、Cuクロロフィルというものが存在するようです。顔料として色落ちが少ないうえ、鉱物顔料よりも肌に優しいので化粧品にも使われています。どのような方法でこういったことを調べたらよいでしょうか?まずはZnクロロフィルとCuクロロフィルの生成過程を調べます。Mgと置換反応をおこしたのかもしれません。クロロフィルの合成にCuが不可欠ということから、合成過程で発生したものかもしれません。残念ながらよい参考文献が見つからなかったので、引き続き考察したいと思います。
<参考文献>
渡辺 正, 小林 正美, "亜鉛クロロフィルをもつ光合成生物がいた!", 化学と教育 45, 456-457 (1997).

A:講義の中でクロロフィルがヘモグロビンの持つヘムと似ているという話をしたと思います。ヘムは中心に鉄が入っていますが、クロロフィルはマグネシウムで、それらの金属をポルフィリン環の部分に入れるためにはそれぞれ特有の酵素がはたらいています。つまり、入る金属の種類は、その酵素の基質依存性によって決まっていると言ってよいでしょう。亜鉛クロロフィルの含量は、環境条件によって変化するようですから、酵素の基質依存性と実際の基質(金属)濃度によってどれだけがマグネシウムのクロロフィルになり、どれだけが亜鉛クロロフィルになるかが決まるのでしょう。銅のクロロフィルは天然には存在しないと思いますが、安定なので、人工的に作って染料として使っています。


Q:第1回の講義で学習した内容にもあったが植物の葉はただでさえ吸収が困難な太陽からの光エネルギーを、葉の表面積を広くすることで効率よく光を集めている。そしてさらなる効率をあげるのが、葉の表と裏の異なった構造である。一般的に私たちが日々目にしている緑色野菜や広葉樹というのは、葉の表面は裏面に比べて緑色が濃いことは誰もが知っている。ただし針葉樹を見てみると、”葉”というイメージから離れて、いかにも光を集めにくそうな細長い形をしている。植物といったら光合成が役割というイメージなのに、どうしてあのような太陽の光を集めにくそうな形状をしているのかについて疑問に思って調べてみた。するとわかったことは、針葉樹は実は葉面積においては広葉樹よりも多く、ただ単に一方方向からの光の吸収率を上げるのではなく、比較的寒冷の地域で年間を通じて少ない光を有効に光合成に利用するためにあの形状をしているということである。近年発表された研究で、針葉樹は冬場の光合成は行わないことが明らかになったそうだ。「葉が針の形をしているから針葉樹」というのはもはや当たり前の事実と認識されるが、具体的な理由を考えてみると改めて勉強になった。

A:このレポートのポイントは、針葉樹は「少ない光を有効に光合成に利用する」という点でしょう。ただ、そこで考えがストップしているのが残念です。もし、針葉樹の方が広葉樹より効率がよいのであれば、世の中、広葉樹は生き残らないはずです。レポートの中の記述では「一方向からの光の吸収率」は広葉樹の方がよいように思えます。ですから、太陽が天の一点に固定していれば広葉樹の方が効率が良さそうですが、実際にはそんなことはありませんから、別の理由を考える必要があります。そのあたりをもう一息考えると完璧なレポートになります。


Q:In the previous lecture, it was said that animals cannot and do not need to perform photosynthesis unlike plants because they produce energy by taking in food. And it was stated that it is inefficient for animals with such large bodies to take in sunlight and perform photosynthesis. Therefore, as long as there is food source for animals to produce enegery, it is possible to say that there is no need for sunlight for animals to live. But,because plants need sunlight to perform photosynthesis, what will happen when there is no sunlight available for them to observe (absorb?, K.S.) energy? Will plants all go extinct or would they go through evolution to adapt to sun-less environment? During the night, without sunlight, plants take in oxygen to produce energy, so it can be predicted that if there is not sunlight, plants will start taking in oxygen just like animals. And if plants start taking in oxygen as well as the animals, there wont be a source for the consumption of carbondioxide. This phenomenon may lead to the overflow of carbondioxide in the atmosphere...It is endless to think about the possibilities of what will happen if there was no sunlight. My report went a little off topic, but relating to the thought of plants eventually breathing oxygen if there was no sunlight,it can be said, in equal, that if there was no oxygen animals may have eventually started performing photosynthesis, the process of breathing in oxygen and photosynthesis are interchangeable.

A:レポートとしては面白いアイデアを展開していますが、頭の中でだけ考えていて、世の中の事実から読み取れる論理と一緒に考えていないのが気になります。「なぜだろう?」「どうなるだろう?」と考えるのはサイエンスの第一歩です。しかし、サイエンスを進めるためには、もう少し、事実を見つめて、事実から意味をくみ取る姿勢が必要でしょう。


Q:葉の表側の内部には柵状組織が密に並んでおり、効率良く光エネルギーを吸収しているため人間の目には光が入ってこず、色が濃く見える。一方、葉の裏側には海綿状組織が並んでおり、光が散乱されるので表側に比べると色が白っぽく薄く見える。ハンドアウトの写真のコマツナの葉では表裏がはっきりと分かるが、例えば葉の形がネギのように細長く、筒のようになっているものに表裏はあるのだろうか?
 長ネギの葉には緑の部分と白の部分があるが、葉脈を観察してみると緑の部分と白の部分で途切れていない。畑で育てられているネギを見ると、土に埋まっておらず空気中に露出している部分は緑であることが分かる。よってこの色の違いはもやしと同じように、日光に当てるか当てないかで出来るものだと考えられ、コマツナの葉の表裏のような色の違いとは関係ないことが分かる。タマネギを輪切りにした図で考えてみると、普通の葉でいうと芽が巻いているときのように葉の表を内側にして丸まっていることが分かり、ネギの葉の目に見えている部分は葉の裏である可能性が考えられる。とすると必ずしも葉の表が光合成に適しているとは言えないことも考えられる。

A:これは、講義から得た知識と、そこからの推論、そして事実の観察が一体となっていて、それに基づいて考察していますのでレポートとしては高く評価できます。ネギの例は、ある意味でかなり特殊ですが、例えば多くのイネ科の草では葉がかなり垂直に立っていて表からも裏からも光が入ってきます。そのような葉では、表裏の葉の見え方が似ているのが普通です。


Q:Q-サイクルにより、実際には2つの電子しか励起されていないのに4つのプロトンが膜を通過することができる。これは、最初2つの励起された電子がそのエネルギーを2つのプロトンが膜を通過するために使うが、まださらに二つのプロトンを通過させられるだけのエネルギーを有しているため、光化学系Ⅰには渡さずにb/f複合体で循環させて再利用していると考えることができる。再利用された2つの電子は光化学系Ⅰに渡され、今度は新しく入ってきた励起された2つに電子がまた再利用されると考えられる。ここで重要になるのは、b/f複合体がどのように一度使われた電子と新しく励起された電子を見分けているかということであるが、これはb/f複合体のクロロフィルaに電子を送り込み、どの程度励起されるかによって、その電子のエネルギーレベルを知ることができると推測される。つまり、b/f複合体のクロロフィルaが、電子のエネルギーメーターになっていると考えることができる。

A:色素が光を吸収すると電子が励起されますが、それは1つの分子の中での話です。励起された電子が別の分子へと移動すると、最初の分子は酸化され、移動先の分子は還元されます。この酸化還元反応を電子伝達といいます。ですから、「2つの電子」の部分は、正確に言うと「励起」ではなくて「伝達」ですね。「2つの電子しか流れていないのに」というのが正確な表現になります。b/f複合体のクロロフィルaがエネルギーメーターになっている、というのは斬新で面白いアイデアですが、具体的イメージがつかみづらいですね。せっかく自由に考えられるのですから、もっとまるで見てきたように描写できるとよいと思います。


Q:講義において、光のスペクトルにおいて緑は吸収しないとあった。さらに植物は緑だから光合成をする、つまり紅葉した葉は光合成と関係ないとあった。植物は緑色は吸収しないのに、緑だから光合成をするのである。たくさん吸収して使い切れない光を放出しているから緑色とあったが、なぜ緑色光を利用しないのだろうか。光のエネルギーから考えても、赤色光よりも緑色光の方がエネルギーが高い。しかし、光合成で光エネルギーを吸収する役割を果たす光合成色素の代表であるクロロフィルaは緑色光をほとんど吸収しない。吸収スペクトルは赤色光と青紫色光にピークがあり、作用スペクトルも赤色光域と青紫色域にピークがある。ということは、他に緑色光を利用している生物がいるのであろうか。まず緑色以外の植物が、緑色光を利用している可能性がある。さらにヒトも緑に癒されるというのも何か科学的な理由があると考えられる。そのメカニズムを探ってみるのも面白いであろう。

A:ちょっと前半部分の表現に正確さがかけるのが気になります。また、「いるのであろうか」「探ってみるのも面白いであろう」というのは、他人事の評論ですね。サイエンスにおいて要求されるのは評論ではなくて、事実に基づく考察(論理)です。事実自体は自分が直接観察した結果である必要はありません。講義で聴いたこと、自分で調べたこと、人から聞いたことでも構わないので、事実に基づく論理的思考を目指して下さい。


Q:今回の講義で様々な光合成色素の存在を知ることができ、中でも高等植物、緑藻、シアノバクテリアがもつβ‐カロテンについて興味をもった。ビタミンAのもととなるβ‐カロテンはニンジンなどの緑黄色野菜に含まれ体にいいというイメージがあるが、なぜニンジンの光の届かない根の部分に光合成色素が必要なのか。β‐カロテンを調べてみると美容にいい、脳卒中の死亡率が半減する!?など実に様々な(人間にとっての)利点があることがわかる。しかし、ニンジン自身にとって何の働きをしているのか理解できない。カロテンは二重結合を多く含むため抗酸化作用を持ち、酸素の多く集まる場所に多く発生する。単純に考えたら、土の中よりも気孔のそばにいたほうが有利に思える。また、植物にとって色を付けることは虫や鳥などへのアピールと考えられるが、土の中に隠れていては他の生物との関わりもなく必要性が感じられない。そこで、人間が人為的にカロテンを野菜に入れたのではないかと考えたが、ニンジンを調べてみてもそのような記述は見られない。やはり、カロテンはニンジンが何らかの役割を求めて取得したものだと考えられるが一体その役割とは何なのか。カロテンを抜いたらニンジンは育つのか…。研究の余地があるように思えた。

A:過去にこんなレポートが寄せられています。僕も正解は知りませんし、世の中の人誰も知らないのかも知れませんね。


Q:講義の中では、いろいろと新しいことがあって興味深いものばかりだったが、特にシトクロムb6f複合体の役割に興味を持った。シトクロムb6f複合体はいわゆる電子伝達系であり、チラコイド上に光化学系I、Ⅱとともに存在し、構造が変化することで光合成にとって重要なQ−サイクルも稼働させる物質で、その構造の複雑さゆえにまだ明らかになっていない役割も多いようだ。私が気になったのは何故その中に光合成色素が含まれているのか、ということである。光の吸収はチラコイド膜に存在する光合成色素にまかせて、b6fシトクロム複合体は電子の輸送を行うわけにはいかないのだろうか。答えとしては、できるだけ多くの光合成色素がチラコイド膜上に存在していたほうが、光の吸収効率がよいからではないかと考える。

A:講義の中で、酸化還元の反応は還元されやすい物質が酸化されやすい物質によって還元されるという流れが基本であり、そこができない部分では光のエネルギーを使って酸化還元反応を進める、という話をしたと思います。それが2つの光化学系に相当するわけです。とすると、b6fシトクロム複合体にある光合成色素が光を吸収したとして、それを何に使うのでしょうか。「光の吸収効率がよいから」となっていますが、植物にとって光を吸収することは目的ではなくて、光合成のための手段です。吸収した光をどのように利用するか、まで考えるとよいレポートになると思います。


Q:クロロフィルを持つことが確認されている深海魚オオクチホシエソ(Malacosteus niger)。また彼らは講義で習ったように赤外線照射装置と赤外線感知システムを持つという。このレポートではクロロフィルと赤外線の関係を調べ、またなぜ深海魚がクロロフィルを持っているのかを考える。Susan MiliusがScience Newsに書いた記事" Red-flashing fish have chlorophyll eyes. "と、1998年にNature発表された文献によれば、オオクチホシエソの目にはクロロフィルの派生物が含まれており、その化合物によりオオクチホシエソは遠赤色光が見えるという。また、京都大学が発表した、クロロフィルdは他の光合成色素では吸収できない遠赤色光を吸収するということと照らし合わせると、オオクチホシエソが持つクロロフィルとは"d"のことであると推測される。また深海魚の多くが行う、生物発光によって赤外線を発しているのであろう。そもそも何故深海生物であるオオクチホシエソがクロロフィルを持っているのだろうか。非常に簡単な考えだが、それは何年もの進化の過程を経て、体に合った物質がたまたまクロロフィルと同じ構造になったのだと思う。状況は全く違うが、シロアリの道しるべフェロモンと、ボールペンのインク成分によく使われるフェニルセロソルブの構造が似てるように、そのようなことも十分考えられると思われる。

A:実際には、クロロフィルdも中心にマグネシウムを持つ一方、講義の中で紹介したように「魚のクロロフィル」は中心に金属を持ちませんから別物です。レポートとしては「体に合った物質がたまたまクロロフィルと同じ構造になった」という部分でやはりもう一ひねり考えて欲しかったように思います。例えば、講義の中で、クロロフィルの構造がヘモグロビンなどが持つヘム(これは中心金属が鉄)の構造とよく似ている、という話をしたと思います。そのあたりと関連づけて議論することもできたのではないでしょうか。なお、送ってもらったレポート中のクロロフィルbはクロロフィルdの間違いだと思うので修正しておきました。


Q:植物はなぜ緑色なのか。それは、植物の持つ主な葉緑素、クロロフィルaとクロロフィルbが青と赤の光を吸収し、緑色の光は反射するからだ。光合成細菌など葉緑素の起源を考えると、大昔オゾン層が形成されていなかった時代は、紫外線の届かない海の中で発生したものである。その時代の海は、酸素がまだ存在しないために、金属などが大量に含まれていて(例えば、海中の沈殿Fe(III)などが酸化される前はFe(II)の状態で溶存していた)、浮遊物が多かったものと考えられる。そうすると、光合成に利用できる光は赤色が主だっただろう。色素は、DNA、補酵素、呼吸色素、光合成色素の順に進化してきたと考えられている。補酵素(フラビン)は青色の光を吸収し、呼吸色素(ヘム)は緑色の光を吸収する。太古の光合成細菌としては、赤色の光だけを吸収すればいいわけだが、水中には他の波長の光は届かないので、実際には可視光線のほとんどを吸収できる可能性を持っていてもおかしくはない。色素の進化過程で、青と緑の光を吸収していたのだから、光合成色素になってもその波長の光は吸収できたと考えるのが自然ではないか。そうすると、その時代の植物は黒色だった可能性がある。植物が陸上に発生し、青色の光が届くようになっても、青色の光は高いエネルギーを持つので光合成に有利に働いたに違いない。つまり、植物が緑色なのは、赤色と青色の光を吸収するようになったのではなく、何かの理由で緑色の光を反射するようになったことからではないだろうか。考えられる理由としては、アンテナ色素の生産にコストがかかるため、色素の種類を制限したか、緑色の光は届かない水中で発達した呼吸のシステムが陸上に上がった際、緑色の光を吸収するシトクロムのヘムに余計なエネルギーを与えることになり、呼吸に何か問題が起きたのかもしれない。

A:上でも少し書きましたが、より大きなエネルギーを持つ青い光でも低いエネルギーを持つ赤い光でも、光子1個で引き起こされる反応は同じなのです。ですから、「青色の光は高いエネルギーを持つので光合成に有利」ということはありません。この点については、次回の講義の中で触れるつもりです。植物の色に関する考察は面白いですね。現在でも、海苔(アサクサノリ)などは、ほとんど黒に見えます。これは赤と青を吸収するクロロフィルと緑を吸収するフィコビリンを持つためです。最後の所は、シトクロムのヘムが緑色の光を吸収する場合に、他に緑色の色素があると、ヘムはむしろ光を吸収しづらくなるのではないでしょうか。シトクロムはヘムの吸収する光エネルギーを使っているわけではありませんから、論理としてはやや苦しいように思います。