植物生理学 第2回講義

光合成と生体のエネルギー

第2回の講義では、植物を含めた生物が、どのようにして生命を維持するエネルギーを得ているのかについて説明しました。ATP合成の仕組みや、やや難しかったかも知れませんが酸化還元電位についても触れました。以下に寄せられたレポートの一部と、それに対するコメントを載せておきます。


Q:クエン酸回路というしくみについて不思議に感じた。クエン酸回路ではもともと2CのアセチルCoAを4Cのオキサロ酢酸と結合させて、6Cのクエン酸にする。これは一見効率が悪いように感じる。アセチルCoAをそのまま二酸化炭素へ変換したほうが効率がよいように感じた。先生は6Cにすることで様々な化合物を作り出すことができ、それらの微妙な違いを利用してエネルギーを得られることが重要だと言われた。しかし、私は水を代謝経路中に取り込めることが重要だと思う。水分子から水素原子を取り込むことにより、還元当量であるNADHを得られるのだ。NADHは酸化的リン酸化を経て、エネルギーを放出する。つまり、いかに水分子を効率よく取り込みやすくするかというのがクエン酸回路に必然性をもたらしていると考えられる。一方、クエン酸が再びオキサロ酢酸に戻るというサイクルを形成していることついて疑問点がある。初めに使われたオキサロ酢酸と、クエン酸回路を回り生成したオキサロ酢酸と全く等しいかということだ。原子レベルで見たときに、アセチルCoA由来の原子が混ざってこないのだろうか。もし混ざってくるとすれば、体内に存在する原子が交換されるという点でもクエン酸回路を利用する意味があるのではないかと思う。

A:水分子については、オキサロ酢酸からクエン酸に変化する部分と、フマル酸からリンゴ酸へ変化する部分で取り込まれますが、前者は、-S-CoA を加水分解して HS-CoA にして切り離す反応なので、還元当量が得られるわけではありません。後者は、水を付加する反応ですが、水素原子と同時に酸素原子も付加されるわけなので、それ自身は、還元反応に寄与するわけではありません。でも、このような点に目がいくと言うことは、化学の基礎がきちんと身に付いていると言うことでしょうね。オキサロ酢酸の同一性についても、目の付け所が鋭いですね。確かに、実際に原子レベルで見ると、オキサロ酢酸の4つの炭素のうち、2つは、アセチルCoA由来のものと置き換わります。従って、2回サイクルが回ると、完全に原子が交換されます。代謝回転するという意味でも重要なのかも知れません。


Q:今回の授業では、生物は光合成が呼吸よりも早くはじめたということに興味が引かれた。光を利用する生物が酸素を生み出しそれを利用する呼吸。酸素と呼吸はエネルギーを得るための活動で、エネルギーは運動するために必要であった。そのエネルギーはATPとして蓄えられて必要に応じて使われる。これまでの過程は生命の度重なる試行錯誤からうまれたのだろう。気になるのは進化に失敗した個体はどうなってしまったのだろう?ということだ。やはりすぐに滅んでしまったのだろうか、それとも元に戻るか、また変異が再び元の機能を補うように変異したのか。
 現在に至っては、遺伝的欠陥もしくはエネルギー効率の悪い生き物をあまり見ない。また、人間と猿の中間の生き物のようなものも見かけることは出来ない。やはり、進化に失敗した生き物は生きられないようだ。つまり、進化の失敗した生物は見ることが出来ない。失敗はのこらない、その代わりに同じ失敗を繰り返しているのかもしれない。

A:「生物は光合成が呼吸より早く始めた」は、「光合成より呼吸の方が早く出現した」です。起源的に見ると、呼吸の電子伝達鎖の方が光合成より古いと考えられるということです。
 ポケモンでは、ある「個体」が進化しますが、生物学における進化では、個体は進化しません。進化するのは、あくまで集団です。集団の中で、さまざまな変異が生じ、その変異が生存に有利に働いた個体が、集団の中で優先していくプロセスが、古典的な進化の解釈です。従って、「進化に失敗した個体」というのは存在しませんが、「生存に不利な変異を持ってしまった個体」は存在します。そのような個体は、その不利益があまりにも大きい時は死ぬだけですし、不利益が小さい時は、他の個体に比べて残せる子孫の数が少なくなり、集団の中からは、そのような形質が徐々に失われます。


Q:アセチル基のC-C結合をきるためには、活性化エネルギーが高くなってしあうために、アセチルCoAはクエン酸へと縮合される。この結果、活性化エネルギーが少なく反応が進んでいく。より安定な物質になるように有機物は反応が続いていく。よって合理的であると思うが、もっと短縮化できないのであろうか。クエン酸回路からスクニシルCoAまでの反応過程では還元物質はNADHのみしかできていない。この過程でも酵素は4つ使われている。スクニシルCoA以降の過程では酵素5つを用いてGTP,NADH,FADH2を産生している。余分なたんぱく質の生成はDNA的にも負担をかけている。スクニシルCoAまでの過程を一気に行うための活性化エネルギーはそんなにも大きくなるのだろうか。酵素3つ分に相当するほどに有効な経路なのだろうか。

A:僕は、有機化学が専門ではないので、この質問には直接答えられませんが、生物は一般に進化によってかなり「合理的」になっています。もし簡単に短縮できるような回路だったら、生物の40億年近い歴史の中で変わっているのではないかと思うのですが。


Q: 植物及び動物においては、光合成によって産生された有機物質を生体内で使用可能となるようなエネルギー単位、つまりATPに変換させることによって、エネルギーを得ることを学んだ。
 呼吸によるATP生成は、還元剤から酸化剤への電子伝達と共役したプロトンの濃度勾配によって駆動され、その原理は、光合成とよく似ている。プロトンの濃度勾配が駆動しているものは何なのか?ATP合成酵素は、回転することでATPが合成されるが、その回転力の源が、プロトン濃度勾配によるものなのか?
 熱水噴出口などの極限環境は現在の地球環境を考えるとエネルギー生成となる材料も乏しく、不利な場所だと思うのだが、あえて、そのような場所を選択し、生き続ける生物がいるのはなぜだろう?地球環境の変化に伴って、酸素を使用できるというところまで進化したにもかかわらず、もっと住みやすい環境に適した生態機構へ進化しなかった理由がわからない。天敵回避のためだけなのか?

A:その通りです。ATP合成酵素の回転自体がプロトンの濃度勾配によって駆動されています。実際にプロトンがATP合成酵素を通過する際に回転力が生じるはずですが、その具体的なメカニズムについては、まだ不明の点が多いようです。
 熱水噴出口に限らず、地球上の極限環境と呼ばれる環境に棲息している生物はいろいろいます。基本的に、環境には、環境収容能力という、どれだけの生物が住めるかという上限の値があり、よい環境では、環境収容能力も大きいとはいえ、競争相手も多くなります。競争相手の少ない極限環境に適応する、というのも生物の生存戦略の一つなのです。


Q:深海の生態系で、有機物の存在する場所ほとんどすべてに生命が存在することに驚いた。「光合成」という機構が存在し、細胞にとって毒性の強い酸素が地球上充満したことで、それを処理する「呼吸」という機構が生じたのでなく、深海の硫化水素を利用する硫黄細菌を始めとする化学合成細菌が、葉緑体を持つラン藻類と、ミトコンドリアの起源となった好気性細菌に進化していったのとするならば、どのようにそれを示せばよいのか気になった。細胞内で、ミトコンドリアや葉緑体で使われるリボソームが古細菌と同じ沈降係数を持つことからだけでは示したとはいえないし、出現を順序だてて決めていったわけではない。さまざまな化学合成の中で真核細胞の元となった反応形がどれなのか特定していくことに研究としての意義はあまりないように思われる。過去の生命の起源を特定するというより今あるものを解明してどう使えるかが課題であるのだと思う。

A:「どう使えるかが課題である」というのは、さすが工学部という感じですね。現在、生物の進化についての一番の手がかりは、タンパク質(もしくは核酸)の一次構造配列の比較でしょうね。多くの生物で、ゲノム単位で一次構造が決まっています。これらを比較することにより、昔はわからなかったような情報が得られるようになりました。


Q:今回の講義で特に興味を持ったのは、代謝における酸化還元電位の変化です。呼吸による糖の分解に於いて何故単純に糖を燃焼させないのかはエネルギー利用効率の問題ということでありました。例えばクエン酸回路では、様々な代謝中間物質を酵素反応で行うことにより、失われる熱エネルギーを最小限にするといいます。しかし勿論呼吸のエネルギー利用効率とて100%ではありません。ならば新たな代謝中間物質が生じることにより、よりよい効率の光合成が今後生じるのでしょうか。それとも分子の構造的に行き詰っており、これ以上の進化の見込みはないのでしょうか。
 また、何故酸素発生には二つの光化学系が必要かという点でも、酸化還元電位の考えは重要です。光化学系では還元力を得るために2回の励起エネルギーを必要としますが、ならば莫大な励起エネルギーを獲得できるクロロフィルが存在したならば、光化学反応系はひとつで十分だったのでしょうか。
 このレポートを書きながら思ったのは、生物に於いて代謝系とは、多くの分子を用いていかに効率的にエネルギーを伝達するかであるということです。生物のエネルギー伝達の仕組みを研究することは、どれだけ人類が永久機関に近づけるかということにつながると思います。
 今回の講義でATP合成酵素の回転の映像を見て大変感動いたしました。今後も機会があれば動画を取り入れていただければうれしく思います。

A:「進化の見込みがない」とは、言い切れないでしょうけれども、現在の生物は、非常に洗練されているように思われます。ただ、自然環境の特徴は「変化する」ということです。変化しない実験的な環境においては、野生型より高い能力を持つスーパー変異株を作ることができる例を、後半の研究紹介で説明する予定です。
 高いエネルギーを獲得できるクロロフィルが存在したら、そのクロロフィルは、高いエネルギーを持っている紫外線を必要とするはずです。一方で、生命にとって重要な核酸は紫外線によりダメージを受けます。ですから、やっぱり無理でしょうね。
 動画はインパクトが強いので、できるだけ取り入れたいのですが、なかなかよいものが手に入りません。今筑波に移られた、加川先生から葉緑体移動の動画を頂いているので、いずれ紹介する予定です。


Q:今回の講義で興味を持ったところは、「光化学系」のところである。高等植物では、光化学系Iと光化学系IIの2種類があるのに、green bacteriaのような下等生物にはなぜ光化学系が1つしか存在しないのか、ということである。これは1つの推論であるが、高等植物では自力で移動することができないため、どこにでも手にはいる水を用いて光合成によってエネルギーを合成するのが、一番適していたと考えられ、一方bacteriaのような下等生物は自力で移動することができるため、その生物が生活する環境に存在するEm値の差が小さい一番エネルギーを合成に適している物質を選択できたことによると思う。そのことにより、高等植物は水からエネルギーを合成するには多くのエネルギーを要するため光化学系を二つに分け、下等生物はEm値の差が小さい都合のいい物質を選べたことによって、光化学系が1つで十分であったので、進化の過程でこのような差が現れたのだと思われる。
 ATP合成酵素のサブユニットはATPの合成と加水分解を行なうということであるが、その合成酵素の反応の進める方向を決定しているものは何なのかということに疑問が沸いた。それはATPとADPの濃度勾配によると考えてよろしいのでしょうか?

A:非常に面白い考え方ですね。別に「高等」だから優れている、「下等」だから劣っている、というわけではないのでしょう。でも、地球上で高等植物の方が多くの場所で生育できるようになったのは確かでしょう。
 ATPの分解と合成は、ATPとADPの比率と、プロトンの濃度勾配の関係によって反応方向が決まります。


Q:今回は様々なエネルギーの代謝の経路について学んだが、その中の脂肪酸の酸化経路について考えていきたいと思う。脂肪酸の酸化経路は常に、炭素数が偶数個の時に周る。このシステムのメリットと炭素数が奇数個のときはどのようなメカニズムでこの回路を周るのかについて考える。
 まず、脂肪酸酸化回路については炭素数が偶数個の時脂肪酸のアセチルCoAが1つずつ切断することでβ酸化されて、ATPの生成を行う。さらに切り離されたアセチルCoAはクエン酸回路に入り、酸化されてより多くのATPを生成する。このように、炭素数が偶数個であるときATPを多量に生成できるという大きなメリットがあるといえる。
 次に炭素数が奇数個の時の酸化回路について考えていく。本来は、炭素数が偶数個の時に脂肪酸酸化経路に入れるが炭素数が奇数個の時は、1つ炭素を加えることで偶数個の状態にして酸化回路に入る。このメカニズムは炭素数が奇数個の脂肪酸にアセチルCoAと1分子のプロピオニルCoAを生成して、スクシニルCoAの状態で中間体に入るという流れになっている。
 つまり、脂肪酸の酸化回路は炭素数が奇数個のものも、1つ炭素を加えることで炭素数を偶数個の形にして酸化回路を周り、この回路を周ることで人間のエネルギー源であるATPを多量に生成することができるというメリットがあるということである。

A:ということは、やはり脂肪酸の炭素数は常に偶数にしておいた方が、余計な反応をしなくてすむので、有利なのでしょうね。一方で、もし、動物が食べる相手が、奇数個の炭素を持つ脂肪酸を持っていたら、それを効率よく分解するために、それ用の回路を持つようになるかも知れません。このような点について考えてみるというのは、非常によいことだと思います。


Q:高等植物が持つ2つの光化学系は光合成細菌の共生によるものだろうという話に興味を持った。進化の過程において真核細胞のミトコンドリアや葉緑体のように、細胞同士の共生は考えられる現象である。そして細胞は共生後に、より良い生命活動の維持のために様々な調和を行う。
 2匹の光合成細菌が共生して高等植物の光化学系の基礎が作られたとしても、光合成細菌が持つ光合成色素はバクテリオクロロフィルであり、一方、進化の過程で最初の酸素発生型光合成を行ったらん藻は光合成色素としてクロロフィルaを持つ。バクテリオクロロフィルとクロロフィルaは互いに異なった色素である。共生後の調和によって、バクテリオクロロフィルではなくクロロフィルaを合成するようになったと考えていいのだろうか。何かそのような証拠があれば納得できるが、普通は考えられない調和であるように思う。
 ミトコンドリアや葉緑体の例でしか細胞共生を知らなかったため、この話を聞いてとても驚いた。そして共生後の調和についてもっと知りたいと思う。何か現在わかっていることで、調和現象のようなものはあるのでしょうか。またはそのような現象はないのでしょうか。

A:そうなんです!光合成細菌と、ラン藻(シアノバクテリア)は、光化学系の数、酸素を発生するか、クロロフィルの種類、という3つの点で、大きな違いを持っています。これらが一度に変わったのか、中間段階があったのかについては、未だ想像の域を出ていません。世の中は広いですから、そのうち、光合成細菌とシアノバクテリアの間の中間段階にある生物(ミッシング・リンク)が見つかって、その回答が得られるかも知れませんね。
 葉緑体に関しては、「調和現象」がある程度調べられています。時間があれば紹介したいと思います。


Q:ATP合成酵素が回転によってATPを合成しているということを構造からだけでなく、ニッケルとアクチンを利用することによって顕微鏡で見ることができるということに驚いた。実際に映像として見れてよかった。これほどすごいことを発見しても、構造解析の出たあとでは認められないということを知って、研究職は厳しい世界なのだなと実感した。
 深海の生態系についても光合成依存によるものがあると知って驚いた。熱水噴出口で非光合成依存の生態系ができることは知っていたが、鯨の背骨から有機物を得て、その小さなところで生態系ができるということは知らなかったためどこででもその場その場に適応するような生物が生態系をつくるということに感動した。シロウリガイのように共生することで酸素を濃縮していることで光合成に依存しない生物も存在するなど、初めて聞くことが多くて楽しかった。

A:構造解析の出たあとでは認められない、と言うよりは、構造解析に対して先にノーベル賞が与えられてしまったので、同じトピックについてまたノーベル賞を出すわけにはいかない、ということでしょう。研究にも運不運があるのは確かです。


Q:私が今回の講義で最も興味が湧いたのはシロウリガイです。講義ではシロウリガイは酸素の乏しい海底の生物と聞きました。海底は湧き出すメタンと海水中の硫黄を利用して、無酸素状態で硫化水素をつくることのできる細菌がいます。だとしたら、なぜシロウリガイは硫化水素の豊富な環境で生きることができるのか?普通、硫化水素は酸素より先にヘモグロビンと結合してしまうので、酸素が運ばれず、窒息してしまうはずです。それが今回私が疑問に思った点です。講義ではシロウリガイの化学合成細菌の共生について述べていたので、共生細菌が硫化水素を消費するから危険性から回避されるのかなと思いました。実際に文献で調べてみるとシロウリガイや多くの化学合成生物には、血液中にヘモグロビンのほかに、硫化水素と結合しやすい特別なタンパク質をもつことで、環境に適応していることがわかり疑問が払拭できました。 講義では酸素を必要とするから地球の最初の生物ではないと指摘していましたが、この事実を知ることで酸素がなかった原始の海の時代でも生きることが可能だということになりますね。

A:すばらしい。よくきちんと調べましたね。インターネットで見ると、ヘモグロビンの他に特別なタンパク質を持っているという
http://www.cosmo-oil.co.jp/kankyo/dagian/41/06.html
海洋科学技術センターのサイトと、ヘモグロビンが、酸素と硫化水素を結合する2種類の基質結合部位を持つ特別なものであるという
http://www.umi-net.toba.mie.jp/kikanshi/aquarium/tsa32wi/son33.html
東大海洋研のサイトがありました。どちらが正しいのかは、僕には判断がつきません。


Q: ATP合成経路である解糖系、クエン酸回路、電子伝達系については今まで様々な講義の中で勉強してきた内容であったので、今回の講義の内容は比較的分かりやすかった。しかし、今回の講義を聞いて新たに知ったこともいくつかあった。まず1つは、クエン酸回路においてピルビン酸が多くの物質を経て分解されるのは、多くのステップに分けることで小さな活性化エネルギーをたくさんつくり出すことができるということである。体温の熱で容易に越えられるように、活性化エネルギーはできるだけ小さければならないことが分かった。また、ATP合成酵素が回転するという現象も新たに知ったことである。確かに、講義の中で見せていただいた映像では蛍光物質を加えたアクチン線維が回転していたことからATP合成酵素は回転することが分かった。しかし、ATPとADPとカラの部分が回転することが、ATP合成にどのような影響を与えているのかが分からなかった。プロトンの濃度勾配を利用してADPにリン酸が付加してATPが合成されるのだから、回転する必要はあるのであろうかと疑問に思った。さらに、高等生物には2つの光化学系が必要である意義も知った。今までは光化学系は2つあるということは事実として勉強していたが、同じような働きをする2つの光化学系が必要であるのにも、生物学的に意義あるものであることが分かった。
 今回の講義で新たに知ったことのように、今まで何度も勉強してきた内容の中でもまだまだ知らないことがたくさんあることが分かった。単に、生物現象として捉えて勉強するのではなく、なぜそのような現象が生物にとって必要であるのかも考えてさらに知識を深めていくことも大切であると思った。

A:ATPやADPの結合部位が、回転によってどのように変化するかの直接的な証明はありませんが、おそらく、回転することによって、結合部位のコンフォーメーションが変わり、ADPが結合していたサイトはATPになった方がエネルギー的に安定な構造になり、ATPが結合していたサイトは、ATPが離れた方が安定な構造になるのでしょう。
 生物学も、覚えるのではなく、考えて欲しい、というのが僕の希望です。


Q:呼吸と光合成の電子伝達がよく似ていることにとても驚いた。また、研究から呼吸系タンパクの方が光合成のよりも古いらしい、との結果が出ているという話に、さらに驚き、疑問を持った。エネルギー産生のために、光合成では酸素を排出し、呼吸系ではその酸素を使う、という観点から離れたら少しはこのことについて考えることができた。つまり、エネルギー産生のために、光合成も呼吸もプロトンの濃度勾配を作っているのであって、酸素などはそれに付随するものに過ぎない、と考えて推理する。先に形成されたと考えられる呼吸系電子伝達の図を見ると、酸素が必要なシトクロムc酸化酵素は電子伝達系の一番末端に位置する。なので、それよりも前の段階までがまずは形成されたと考えられる。その後、電子伝達の最初の段階にあるNADH脱水素酵素が変異し、NADHの酸化ではなく水を分解することでプロトン勾配を作るものができたのではないか。そして、この変異した電子伝達系が光合成、そして変異をする前の電子伝達系が呼吸系として、それぞれ別々に進化してきたのではないかと考えられる。

A:呼吸鎖の進化に関しては、いい本があります。「生体膜のエネルギー装置」という本で、ATP合成酵素などについても載っています。呼吸の電子伝達鎖の進化については、第2章で茂木先生が非常に詳しい説明をなさっています。


Q:今回の講義では生物のエネルギーの得方というのに興味を持ちました。全ての生物に共通していえるのは物質を酸化してエネルギーを取り出しているということですが、その対象物質が色々あるということです。しかし、この中でも気になるのは、最も生物の中で一般化しているグルコースを使った呼吸です。なぜ生物はグルコースを呼吸の基盤に置いたのでしょうか。別に糖であるならば他の、ガラクトース、フルクトース、セルロースでもいいと思うのです。特にセルロースは、植物の基本構成物質とも言えるため、これが呼吸の基本になれば、エネルギー源がより得やすかったのではないかと考えられるからです。セルロース自身、分解できない物質では決してなく、一部の生命体はこれの分解酵素を保持しています。そして、植物が光合成の後にグルコースを産生するようになったのと、生物が酸素による呼吸にグルコースを使うようになったのはどちらが先だったのでしょうか。葉緑素の元になった単細胞生物はおそらく両方同時でしょう。では、それ以外の生物はとなると、やはりその後と考えられるわけですから植物のグルコース産生の後、呼吸にグルコースを使うようになったのでしょうか。ともすれば、何ゆえ最初の光合成生物はグルコースを作ることを考えたのか、気になります。

A:セルロースは、確かに分解できなくはないですが、非常に安定な物質です。また、セルロースは一種のポリマーで、そこからエネルギーを得ようと思ったら、どちらにせよ、まずモノマーに分解する必要があります。これは、葉緑体が貯めるデンプンも同じですね。デンプンも糖のポリマーで、安定なので貯蔵に使われます。実際にそこからエネルギーを取り出す際には、分解してグルコースなどの形にしてエネルギーを得ることになります。一方、ガラクトースはグルコースの異性体ですし、フルクトースもグルコースから水素原子がとれた形をしていますから、呼吸基質として悪い理由はありません。実際に、フルクトース-1,6-二リン酸は解糖系路の中に出てきます。一方、グルコースは反応性が高いので、生物にとってはある種の毒性を持ちます。従って光合成産物としては、グルコースではなく、スクロース(ショ糖)もしくは、デンプンの形で貯蔵するのが一般的です。


Q: 今回は光合成と生体のエネルギーという内容だったのですが、  ATP合成酵素は回転する様子を映像でみたことが特に印象に残っています。話をただきているだけだったり、字を目で追うだけより頭の中にはっきりと残るので、これからもこのようなものを授業にとりいれてもらえたらいいなと思います。
 さて私が今回の授業で気になったことは最後のほうにやった生態系についてでした。深海でも有機物があれば生態系が形成されるし、非光合成依存型の生態系だって存在するのです。このことをふまえて砂漠化などの環境問題に取り組むことはできないのでしょうか? 私はまず、植物が生態系の中枢といえると思うので、還元剤などを積極的に与えエネルギーを作りやすくしてやれば、ある程度水分がなくても植物の成長を促進させる手助けとなり、そうすればこの植物たちを中心として従属栄養生物である動物などが暮らせるような環境ができてくるのではないかと考えました。

A:水が、光合成の基質としてだけ使われるのであれば、確かに硫化水素などをまくことにより、光合成細菌に依存した生態系を砂漠に作り出すことができるかも知れません。しかし、生物にとっての水の意義はそれだけではありません。むしろ、光合成の基質として使われる水の量は、全体のほんのわずかを占めるに過ぎません。細胞の中での化学反応は、全て水溶液中の反応であり、水無では進まないのです。また、植物にとっては、葉から水を蒸発させることによって、蒸散流を作り、物質の移動にも使っています。というわけで、なかなか難しそうですね。


Q:先日の講義を聴いて、呼吸も光合成も膜を介した濃度勾配を利用した、高エネルギー「状態」を利用するという点について気になったので、自分なりに少し考えてみました。
 呼吸も光合成も化学反応によって高エネルギーの物質を作り出したり、分解したりする現象です。化学反応をするときには活性化エネルギーが必要になります。つまり、目的物や原料よりも高エネルギーの中間体が、一時的にではありますが、体内に存在することになります。化学で取り扱うような、例えば溶液同士の反応でしたら、高エネルギーの中間体は観測されないほど短時間に生成、分解されます。しかし、生物の体内において呼吸は生きている間ずっと、光合成は光が当たっている間ずっと、行われているので、もし、光合成や呼吸の際に高エネルギー中間体が出来るのだとすれば、常に一定量の高エネルギー中間体が存在することになります。生物は、活性酸素などの例を見ても分かるように、高エネルギーの反応性に富んだ物質を嫌う傾向にあります。蛋白質のコンフォメーションなどに異常をきたす可能性があるからです。このような理由もあって、生物は呼吸や光合成の際に、自身に害をなし得る高エネルギー中間体ではなく、よりリスクの低い高エネルギー状態を利用するのではないでしょうか。

A:非常に面白い考え方ですね。このような考え方をできる感性は貴重だと思います。一方で、実際に光合成では、光が当たっている間中、色素の励起が起こります。励起された色素も、一種の高エネルギー中間体なので、これが悪さをしないように、植物はいろいろ工夫をしています。これについても、今後の講義の中で触れる予定です。