生体膜のエネルギー装置

吉田賢右・茂木立志/日本生化学会編、共立出版、2000年、211頁、3,700円

本書は日本生化学会が編集している「バイオサイエンスの新世紀」と題するシリーズのうちの一冊で、総勢45人の著者の分担執筆となっている。読み始めてすぐに違和感を覚えたが、しばらく読み進むうちにようやくその原因に思い当たった。題名から始まり、ほとんどの章において、「生体は常に多くの酸化ストレスを...」などといった一般的な言い回しで説明が進められ、生物種が特定されないが、そのうち、「生体では我々が呼吸して得る酸素の...」といった表現が現れ、実はヒトについての記述であることが判明する。レドックス制御についての記述においても、「その重要性が再認識されたのは1989年の...」などとあり、古くからレドックス制御が重要な研究テーマであった光合成生物を扱っている評者としてはとまどいを感じるが、これも、「ヒトでは」という言葉を補足して読むと理解が可能となる。執筆者の一覧を見ると実に41名までが医学関係の部局の所属であり、おそらく医学部の先生にとっては「生物・生体」という言葉は「ヒト」と同義語なのであろう。各章は専門化されたテーマに関する多くの節からなり、 各節において最新の研究成果がコンパクトにまとめられている。特に第4章はヒトの病気との関わりに重点が置かれており、対象がヒトであることが明示されていて上記のようなとまどいを感じさせない分、かえって読みやすくなっている。様々な病気に対する酸化ストレスの関与の多様性は興味深く、医学に疎い評者には大変勉強になった。

生物科学ニュース 2001年5月号(No. 353) p.8