植物生理学II 第9回講義

炭素同化の仕組み

第9回の講義では、光エネルギー変換によって得られたATPとNADPHを用いて、二酸化炭素を有機物に固定する反応の概略について解説しました。講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:今回の講義では、光合成の炭素同化反応であるカルビン・ベンソン回路を発見したカルビンの実験について説明があった。これは、緑藻をロリポップ型のフラスコ内で培養し、14Cを与えながら光を当て、その秒数ごとに下のエタノールに落ちた緑藻内の14Cがどんな有機物に含まれるかを二次元ペーパークロマトグラフィーで特定したものであった。講義では、これによってカルビン回路の同定が行われたということであったが、この実験によってかなり詳細なカルビン回路が提示されたのは、光合成が遅い反応であったことも大きく関係したのではないかと考えた。光合成内ではたらくRubisCOは、講義内でもあったとおりターンオーバーレートが3程度とほかの酵素と比べて非常にゆっくりと反応を触媒する。このために葉緑体は可溶性タンパク質の半分もをRubisCOにする必要があり、遅さを数で補っているようだった。しかし、一般にRubisCOは数を増やしても律速要因となるようで、講義内ではスーパーRubisCOの開発も昔行われていたことが紹介された。こうしたRubisCOの性質から、とくに光が十分な場合にはカルビン回路に炭素が取り込まれる速度はほかの酵素が触媒する反応よりもゆっくりだと考えられる。観測する14Cの取り込みがゆっくりな以上、ほかの反応も上流・下流の産物の量比から形態の移り変わりは急激にならず、カルビンの実験は成功したのではないかと考えた。もしも、RubisCOが早い酵素だった場合は、最初のPGAは同定が行えるかもしれないが、より細かく試料を得る時間を分けなければ、複雑な反応系の途中や最後は14Cの各過程での分布を確定できないと考える。一方で、カルビンの結果は特定した反応が秒単位で進む反応だという示唆も与えるものであり、光合成の反応への理解に大きな意味があったのではないかと考察した。

A:確かに初発反応の速度は、回路の解析に重要な役割を果たすでしょうね。面白い点に着目したと思います。


Q:ルビスコの進化がO2に対するCO2の反応性の比に現れている事を学んだ。この比はSrel値と呼ぶようだが(1)、この値は進化系統樹の推定に使えるのではないかと考えた。サンプル数が多いとは言えないが、ユーグレナ、緑藻類、シダ植物、高等植物(C4植物とC3植物)というように緑色植物亜科においては進化を経てSrel値が増大するとのことである(2)。ただ、原始紅藻ではSrel値が230-240であり紅藻が緑色植物亜科とは系統樹的に外れている事がSrel値から確認出来る(1)。ここで、DNAの柔軟性という要素を加えたいと思う。Chromosome1の遺伝子間領域の柔軟性をPackerのパラメーター(3)で解析した結果、私調べでは、ユーグレナ、緑藻類、シダ植物、高等植物という進化過程でChromosome1の遺伝子間領域の柔軟性は下がる(安定性は増す)という結果となり、原始紅藻(シアニディオシゾン)は同時期もしくはそれ以降に誕生した緑色植物亜科の生物のDNA柔軟性よりも低く、緑色植物亜科の系統樹から外れる事を表していた(4)。つまりは、Srel値の増大と遺伝子間領域の安定性上昇は緑色植物亜科の進化において相関が見られるということになった。明確な出典は不明だが、植物が陸上進出する過程でDNAの安定性が増したという話は知られた話のようである。この事から、相関があるだろうというたった1つの根拠のみだが、植物の陸上進出がカルボキシフェラーゼ反応優位に進化させたのではないだろうか。
《参考文献》(1) Rubisco. 光合成事典. 日本光合成学会.https://photosyn.jp/pwiki/index.php?Rubisco (2019年12月7日閲覧)
(2) Andrews, T. J. and Lorimer, G. H. 1987. Rubisco : Structure, mechanisms, and prospects for improvement. In “The Biochemistry of Plants” (ed. by Hatch, M. D., Boardman, N. K.), Vol.10. Academic Press, New York, P.131-218.
(3) M. J. Packer. et al. Sequence-dependent DNA Structure: Tetranucleotide Conformational Maps. J. Mol. Biol. (2000) Vol.295, P.99
(4) 生物学演習_分子遺伝学研究室担当課題

A:考え方はユニークで面白いと思うのですが、例えば、一般的な系統樹の作成に、どのような遺伝子配列が使われるかを考えると、少し考え方が変わるのではないかと思います。通常は、なるべく広く分布している遺伝子であることが求められますが、さらに、イントロンなどの産物の機能に直接かかわらない部分が使われます。これは、機能に直結していると、環境からの選択圧が大きく変動することによって系統関係をマスクしてしまう可能性があるためです。それを考えた場合、ルビスコの性質といった、環境の影響をもろに受ける形質で系統関係を論じるのは極めて難しいだろう、ということが予測できるでしょう。「進化を経てSrel値が増大する」と解釈した部分も、そのような考え方を踏まえると、別の解釈が可能になると思います。


Q:植物のカルビン-ベンソン回路とその中でCO2固定を担う酵素ルビスコについて学び、ルビスコの反応が遅くO2によって間接的に阻害されることから、酵素としては活性が低いことについて興味が湧いた。シアノバクテリアがルビスコを利用することから、植物は光合成細菌の時代から同じ酵素を使っていることになる。その間別の酵素や反応に置き代わることがなかったことから、生物がCO2を固定・同化する上でこの反応を超える活性を持つ反応は存在しないと考えられると思う。現に条件付きでルビスコの活性を高められるC4植物が繁栄している位なので、ルビスコ自体の活性に関する構造は最適化されているはずだと思う。また、ルビスコの活性は基質のCO2濃度の上昇に伴って高くなり、光合成の産物O2によって阻害されることから、地球全体の植物の光合成がCO2とO2濃度によって律速されているとみなすことができ、長期的に見れば平衡状態が保たれているという見方ができると思う。

A:論理展開自体は良いと思います。最後の一文の「平衡状態」が何の平衡状態なのかが理解できませんでした。


Q:ルビスコは世界で最も多く存在する酵素であるという。では植物の種類によってルビスコの量に大きな差はあるのだろうか。光合成の二酸化炭素固定経路が特徴的なものとしては、C4植物、CAM植物が挙げられるだろう。C4植物は「通常の光合成ではCO2固定で作られる物質は炭素3個のPGAだが、炭素4個のオキサロ酢酸を作る」(*1)ことで、CAM植物は「夜間に気孔を開けてCO2固定を行ってリンゴ酸を作り、昼間にリンゴ酸からのCO2を使用」(*1)することで、環境に適した光合成を行っている。こうした炭素を濃縮する経路を用いてカルビン・ベンソン回路における炭素固定を行っていると、ルビスコは多く必要なように思われる。しかし、現在のCO2濃度を考えると「ルビスコはCO2に関して飽和していない」(*2)という。よって、C4植物やCAM植物のように多少炭素を濃縮する経路を持っていても、ルビスコを持つ量に変化を与えるほどの影響はないと考えられる。
*1 岩本伸一 他10名 著、『NEW PHOTOGRAPHIC 生物図説』、秀文堂、2013年、*2 寺島一郎著、『植物の生態―生理機能を中心に―』、裳華房、p 43

A:少し論理が交錯していますね。例えば、二酸化炭素濃縮機構がある場合に、ルビスコ量が多い必要があるのか、少なくてもよいのかは、少なくとも自明ではないように思います。また、ルビスコの反応が飽和しているかどうかについても、C4とC3植物をきちんと分けて議論する必要があるでしょう。


Q:今回の講義を聞いて、ルビスコは触媒速度の遅さや光呼吸の存在によって、光合成で二酸化炭素を固定するうえでは十分に優秀な酵素とは言えないのではと考えた。しかし、1つのルビスコにおける二酸化炭素との親和性が低いのであれば、その分植物体全体が含む量をとにかく増やせばいいのではないかと考えた。しかし、実際には十分な速度で反応を進めるほどの量のルビスコを生産しているとはいえない。この理由としては、CO2が十分に存在している環境では、光合成を律速しているのはルビスコの量というよりは植物体全体における窒素の利用効率であり、CO2と土壌中から得られる窒素量が律速因子になっており、ルビスコの生産に手が回っていないのではないかと考えた。

A:後半の論理展開は、科学的には問題ないのですが、完全に抽象的で、具体的になぜそのように考えられるのかが読み取れません。「考えた」というだけでなく、何を根拠にどのように考えたのかを記述するようにしてください。


Q:近年RLPの発見によりRuBisCOの由来がRLPであることが示唆されているが、元来硫黄代謝に用いられていた酵素を、その基質が類似してることを起因として、“たまたま”光合成が実現した可能性が考えられる。つまり、RuBisCOが必然的に選択されたわけではないということなのだが、果たしてそれがさらに効率の良い分子に置き換えられていないことには疑問の余地がある。シアノバクテリアが誕生した30億年前の地球ではCO2分圧は相応に高く、従って、RubisCOを用いた光合成は特に問題がなかったと考えられる。ところが、現環境の緑色植物はシアノバクテリアとの一次共生から生まれたものであるから、30億年前に形成された光合成のシステムをそのまま利用するしかないという状況に置かれている。私は、この共生関係が炭素同化の効率化を妨げている一つの要因なのではないかと考えている。例えばごく一部の好熱性紅藻ではCO2への親和性がより高くなっているRuBisCOを利用している。光合成の効率から見れば、こちらのRubisCOを利用しないのはが明らかに不利である。だが、一次共生によってさまざまな形態や環境適応性を獲得したとすれば、その不利を覆せるだけのさらなる競争力を手にしたといえる。結果として、30億年前の光合成システムは共生関係によって現在まで生き残り続けたのではないだろうか。

A:細胞内共生を、進化の上での制約と考えたアイデアは非常に面白いと思います。ただ、好熱性紅藻の議論に関しては、講義で紹介したように、ルビスコの親和性と最大活性はトレードオフの関係にありますから、最大活性を犠牲にすれば親和性を挙げることができることに注意する必要があります。