植物生理学II 第1回講義

光合成研究の意義

第1回の講義では、生物と人間にとって光合成がどのように重要であるのかについて解説しました。講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:今回の講義では、石炭は過去の植物の遺骸であり、石炭の蓄積は過去の時代に光合成と呼吸のバランスが光合成側に偏ってしまったために起こったことが紹介された。これについて、授業で紹介されたような光合成が活発になる場合では、付随して起こる温室効果ガスの減少が寒冷化を引き起こし、寒冷化は有機物の分解を妨げる方向にはたらく負のフィードバック現象がはたらくと予想され、これから抜け出すことは難しいと考えられたために、石炭紀頃から気温増加の間に起こった気候変化を調べ、何が起きて寒冷化が停止したかを考察した。 まず、3億5900万年以降の気温変化を調べてみると(文献1)、酸素同位体比からこの頃は気温は低下しておりその後のペルム紀末まで低下したのちに三畳紀になるころに急に上昇に転じたことが分かった。また、文献1からは酸素濃度がこの頃に急激に上昇・二酸化炭素濃度は急激に低下し、{①二酸化炭素濃度の減少終了②酸素の減少③二酸化炭素の増加④気温の上昇}の順にイベントが起こったことが読み取れた。さらに、ペルム紀末の大きなイベントとして大量絶滅とパンゲア大陸の誕生があることが分かった。これより、温度上昇を考えた場合、二酸化炭素濃度の低下が終了してから上昇までにラグがありその間で酸素の減少が始まったために、はじめは地球上の大量の植物が二酸化炭素の上昇を緩衝する形で働いていたのが補いきれなくなったではないかと考えられる。つまり、負のフィードバックが是正された原因ではじめに起こったのは二酸化炭素の増加であると考えられ、この原因として挙げられそうなのがパンゲアの誕生だと推測した。パンゲアの誕生は、多くのプレートがぶつかり合い火山活動を増加させることを示唆し、これによって地球自体が発生させる二酸化炭素が増加、この量は当時の植物が消費できる量を超えてしまい負のフィードバックシステムが是正されて気温が上昇に転じたのだろうと考えた。
文献1 磯崎行雄, 江里口良治 編. 地学基礎. 啓林館. 平成28年度用. 2017. pp.92-95, 101

A:よく考えられていてよいと思います。ただ、このような因果関係は、複数のケースを考えることができるようで、調べてみると、いろいろな説があります。素人には、どの説が正しいのかという見極めは極めて難しいですし、その「正しさ」も、時とともに移り変わるようです。


Q:光合成の研究意義として生物、人類の文明を支えているという重要性に加えもう一点挙げられると考えられる。それは、環境形成作用を持つという点ではないだろうか。光合成により二酸化炭素を有機物へと炭素固定する事で、(同時に蒸散が行われ温室効果を持つ水蒸気も放出されるが、)呼吸・化石燃料の燃焼による大気中の二酸化炭素濃度上昇が抑えられ、それに起因する地球温暖化の進行が抑えられる。結果として地球は(基本的には)生物が生存するのに適した温度を保っている。実際に地球温暖化研究等でも使われる数理モデルGeneral circulation model(GCM)というものが存在しており、陸域(植生)と大気間の炭素循環はそのうちの一要素を成す。炭素循環に注目した光合成研究は地球温暖化抑止の鍵となるため、光合成研究者のfuture earthへの参画が重要ではないかと考えられる。
《参考文献》1. 戸田求. 大気―植生相互作用モデルによる陸域生態系の炭素収支研究. 光合成研究. 第20巻, 第 1号(通巻57号)2010年4月, P34-42
2. 串田圭司. 陸域生態系の炭素収支のリモートセンシング. 光合成研究. 第20巻, 第 1号(通巻57号)2010年4月, P43-47

A:その通りですね。炭素循環が地球温暖化のモデルの主要な部分となっていることには間違いないでしょう。


Q:地球生命のシステムについて、植物が炭素を固定し太陽エネルギーを有機物に蓄えて酸素を放出、呼吸により有機物が酸化されてエネルギーが取り出されるという流れを再確認できました。光合成が生命の活動に関して多大な寄与をしているという話を聞いて、地球が光合成を用いて自発的に環境を作り上げたという見方ができるかもしれないと思いました。惑星で光合成が行われることは惑星が地球型惑星になる条件なのか気になります。

A:光合成のためには、その惑星に二酸化炭素と水が十分に存在する必要がありますから、いずれにしても、その条件が重要でしょうね。


Q:今回の授業では光合成研究の意義について考えた。その過程で太陽エネルギーの話が出てきたが、太陽光については「波長600 nmの橙色光、波長300 nmの紫外線1 molのエネルギーを(中略)求めると、200 kJ/mol、400 kJ/molになる」*1とされ、「光のもつエネルギーはATPの加水分解によって生じる約50 kJ/molよりもはるかに大き」*2いという。すなわち太陽エネルギーを利用することは動けない植物にとって効率のよいエネルギー収集の方法であったことは間違いがない。逆に言うと光合成能力を持たない植物は他の方法でエネルギーを得る必要がある。光合成能力を持たない、すなわち葉緑体を持たない植物として私はギンリョウソウが思い浮かんだ。ギンリョウソウは腐生植物であり菌類と共生している。ギンリョウソウは光の届かない山奥に生えている印象があることから考えて、最大のエネルギー源である太陽を利用できない代わりに独自の進化を遂げた結果、菌類と共生して生きるというエネルギー獲得方法を身に着けたのではないかと考えた。
*1寺島一郎著、『植物の生態―生理機能を中心に―』、裳華房、p 74
*2寺島一郎著、『植物の生態―生理機能を中心に―』、裳華房、p 75

A:ギンリョウソウの場合、共生というよりは寄生かもしれません。おそらく菌類は一方的にエネルギーを収奪されているのではないかと思います。


Q:今回の講義では、好気呼吸と発酵それぞれで産生されるATP1分子あたりのエネルギー量を比較すると、発酵の方がエネルギー量が高いことを学んだ。しかし、実際には好気呼吸を行い、エネルギーを確保する生物の方が多い。その理由を考えると、ATP1分子あたりのエネルギー量は発酵の方が大きいが、そもそもそれぞれの代謝方式において、1反応あたりに産生されるATP分子の数に違いがあり、総合的に得られるエネルギー量が異なることが考えられる。実際に、グルコースを基質とした場合、好気呼吸では1反応あたり38分子分のエネルギーが回収できるとされるが、アルコール発酵では2分子分のエネルギーしか回収できないとされる。このことから、得られるATP1分子あたりに見るエネルギー効率は、発酵の方が高いが、1反応あたりに見るエネルギー効率は好気呼吸の方が高く、好気呼吸をエネルギー獲得の手段として選択している生物が多い一因として説明できるのではないかと考える。

A:もしかしたら、少し誤解があるかもしれませんが、好気呼吸と発酵を比較したのは、物質の反応に伴う化学エネルギーの中で、どれだけをATPのエネルギーとして回収できるかの効率です。そのような見方によれば、発酵の方が効率が高くなる、という話です。