読書記録2021

最近、一度読んだ本でも忘れていることが出てきて年を感じます。ひどいときは、新しく読む本だと思って、面白く読み進めていくうちに、何だか知っている気がしはじめて、読み終わる頃に、そういえば昔読んだことがあったと思い出すこともありました。「常に新鮮な喜びが味わえてうらやましいこと」などと言われる状態です。そこで、新しく読んだ本を忘備録としてここに書いておくことにしました(平成14年3月開始)。「新しく読んだ」というだけで、別に新刊の本とは限りません。


「宇宙に行くことは地球を知ること」 野口聡一、矢野顕子、光文社新書 令和3年12月読了
 宇宙飛行士の野口さんとミュージシャンの矢野さんの対談を林公代さんがまとめたもの。宇宙の肌感覚が少しわかるような気がします。

「宇宙の統一理論を求めて」 風間洋一著著、岩波現代文庫 令和3年12月読了
 古代の宇宙論から解き起こして、ケプラー、コペルニクス、ニュートンといった科学者たちの紹介から現代の物理理論にまで至る副題通り「物理はいかに考えられたか」をたどる本です。1990年の本が底本で、2016年の時点での知識を踏まえて改訂されています。物理の発見の流れが概観できます。

「宇宙の渚」 NHK取材班編著、NHK出版 令和3年11月読了
 NHKスペシャルで放送された、宇宙ステーションを宇宙と地球の接点という観点から紹介した番組を、取材班が書籍化したものです。境界領域を「渚」ととらえるコンセプトが明確で、オーロラ、流星、スプライトなどが新たな角度から観察される様子が語られます。せっかく視覚的にセンセーショナルな現象が紹介されている割には、カラー口絵がやや物足りない感じ。

「最後の弟子が語る折口信夫」 岡野弘彦著、平凡社 令和3年11月読了
 歌会始の選者を長く務められた岡野先生が、折口信夫の思い出などを語られた文章です。もともとは、雑誌の連載だったものをまとめたもののようで、本としてまとめて読むとやや繰り返しが多い印象を受けますが、さまざまなエピソードがしっとりと語られます。

「アーサー王ここに眠る」 フィリップ・リーヴ著、創元推理文庫 令和3年10月読了
 アーサー王伝説を別の角度から語りなおした物語で、テーマはアーサー王伝説からファンタジーを取り去って物語の力を加えたらどうなるか、という点でしょう。まあ、楽しく読めました。

「皇帝フリードリッヒ二世の生涯(上・下)」 塩野七生著、新潮文庫 令和3年9月読了
 中世という時代に縛られながら、政教分離の法治国家の確立を進めた異色の皇帝のお話。塩野七生さんがいかにも気に入りそうな、論理的に物事を考え、強くて、責任感をもっていて、実行力がある人物です。いいですねえ。唯一の欠点は、五十代半ばで死んでしまったことでしょうか。当時としては短命というわけではないでしょうけれども。

「古典の中の植物」 金井典美著、北隆館 令和3年8月読了
 早稲田大学の教育学部の廃棄される図書から救い出した一冊。教育学部で非常勤講師をしていた筑波常治氏寄贈という判が押してある。著者は文学部を出て執筆活動に入った人らしい。主に源氏物語と古事記に出てくる植物の解説。植物学の視点は薄いけれど、参考にはなります。

「科学と文学」 寺田寅彦著、角川ソフィア文庫 令和3年8月読了
 寺田寅彦の随筆の内、映画に関するもの、連句に関するもの、そして科学と文学の関係について論じたものがまとめられています。おそらく読んだことはあるのだと思いますが、覚えていませんでした。単発の短い随筆ではなく、あるテーマについてまとまって書かれているので、やや論証調が強く感じましたが、連句の部分などは勉強になりました。

「ブラックホール・膨張宇宙・重力波」 新貝寿明著、光文社新書 令和3年6月読了
 相対性理論の生まれた過程から、それが宇宙論などに大きな影響を与えていった様子をタイトルにある3つの言葉をキーワードに解説した本です。2015年に出た本で、その直前までの展開が紹介されています。発刊直後に買って「積ん読」状態になっていたのを掘り出して読んだのですが、最後に紹介された「最新の情報」が今となっては6年前の話で、もっと早く読んでおくべきだったと後悔しました。

「天皇の歴史10 天皇と芸能」 渡部泰明ほか著、講談社学術文庫 令和3年5月読了
 和歌や管弦、立花、茶の湯まで、さまざまな芸能と天皇の関係が紹介されています。4名の著者がさまざまな角度から論じているので、同じ天皇についても異なる側面が見られて面白いですね。

「短歌のレシピ」 俵万智著、新潮新書 令和3年5月読了
 下の本の続編。こちらは2004年から2009年ごろに連載されたもの。添削の仕方はさすがになるほどと思わせるのが多いけど、後ろの方になってくると、ところどころ「これは前に議論していたこの点がちゃんと修正されていないぞ」という歌も出てくる。そこに気づくということは、上達に役立っているということなのかもしれないけど。

「考える短歌 作る手ほどき、読む技術」 俵万智著著、新潮新書 令和3年5月読了
 短歌の鑑賞と添削を通して短歌の詠み方を伝えようとする本。例が具体的なのでわかりやすいけれど、それで短歌が詠めるようになるわけではなさそう。2002年ごろの連載がもとになっているので、例として挙げられている短歌も20年近く前のもので、今となっては懐かしい風景が詠まれている場合もあって面白い。

「小説イタリアルネッサンス 1−4」 塩野七生著、新潮文庫 令和3年4月読了
 ヴェネツィアの貴族を主人公にした小説。「最初にして最後の歴史小説」と帯には書いてあるけれども、特にほかの著作と区別するほどではない。「同じヴェネツィアを題材にした『海の都の物語』と重ねて読む価値があるか」と聞かれたら「塩野七生さんのファンでなければない」と答えるかも。ファンだから読むけど。

「ケーキの切れない非行少年たち」 宮口孝治著、 新潮新書 令和3年4月読了
 非行の背景に認知能力の問題があることを訴えた本。内容は別に悪くないのだけれど、何しろ繰り返しが多い。同じ話が何度も何度も出てくるので、重複を削ったら長さは1/4にはなりそう。編集者はなぜそのままにしたんだろう。それとも逆に、新書一冊にするには短いからもっと膨らませろと編集者が言ったのかな。

「星屑から生まれた世界 進化と元素をめぐる生命38億年史」 ベンジャミン・マクファーランド著、渡辺正訳、化学同人 令和3年4月読了
 書評を生物学関係の書籍の書評の所に載せておきました。

「光合成」 ロバート・ヒル、C.P.ウィッティンガム著、みすず書房 令和3年3月読了
 書評を生物学関係の書籍の書評の所に載せておきました。

「ここはたしかに完全版」 笹本碧著、 ながらみ書房 令和3年1月読了
 がんで早世した歌人の歌集。農学部出身で、カルビン回路やクエン酸回路が出てくる光合成研究者必読(?)の歌集。ちょっと他では読めない短歌が読めます。書評を「ミニ評論」として『短歌往来』の2021年5月号に掲載していただきましたのでそちらをご覧ください。