V-650による吸収スペクトル測定

散乱試料の吸収スペクトル測定の原理については、散乱試料の吸収測定をご覧ください。以下のプロトコールは、日本分光の紫外可視分光光度計VP-650STを用いて散乱試料の吸収スペクトルを測定するためのプロトコールです。

装置:紫外可視分光光度計V-650STに積分球ユニットISV-722をつけたもの(日本分光)

分光光度計V-650 積分球ISV-722

通常の分光光度計は、散乱試料の測定には対応していませんので、オプションで積分球ユニットをつける必要があります。これによって、藻類やシアノバクテリアの生細胞、あるいは植物の生葉などの散乱試料の吸収スペクトルを測定することができます。

開始・終了手順:

  1. 分光光度計右側面手前のメインスイッチをオンにする。上面右手前のスタートボタンではないことに注意。実際の測定までに15分程度ウォームアップすることが望ましい。
  2. 制御用のパソコンをオンにし、測定ソフト(スペクトルマネージャ)を立ち上げる。本体の準備ができるとソフトの右側ウィンドウのV-650の「状態」が「初期化中」から「待機中」になり使用可能となる。
  3. 測定(次項)
  4. 測定ソフトを終了する。ドライバーを停止して終了するので、それを確認してから分光光度計本体のスイッチをオフにする。

測定手順

  1. 「装置-V650」の「スペクトル測定」をダブルクリックして測定モードに入る。左上のWindowの項目がV-650、左下のWindowに通常ユニットもしくは積分球ユニットが表示されていることを確認する。
  2. 測定モードに入ると光源が点灯するので、できれば、この時点から30分ほど光源が安定するまで待ってからブランク測定/試料測定を行なう方がよい。例えば、安定しないうちにブランク測定をして、少し時間が経ってから試料測定をした場合、光源の強さが変化することによってベースラインがきちんとゼロにならない(例えばマイナスの値を示す)場合がある。カタログ値を得るためには、光源の安定まで1時間置いている。この際、紫外領域の測定が不要な場合は、メニューもしくは測定ツールバーのアイコンを使って重水素(D2)ランプをオフにしておく(ハロゲンランプは3,000円ほどであるが、重水素ランプはその10倍以上のお値段がする)。
  3. 測定ツールバー上の「パラメータ」(文字を指で指しているアイコン)をクリックし、以下の測定条件を設定する。
  4. 波長範囲は通常は190-900 nm、積分球をつけている時は200-870 nmの中から基本タブで選択する。
  5. 積算平均は基本タブの「積算/繰返し」で設定できる。
  6. 基本タブで操作モードを「ステップ」にすると、グレーティングをデータ取り込み間隔で動かすが、通常は必要ない。
  7. 制御タブで補正をベースラインにしておくとブランクセルでの補正、ベースライン/ダークにしておくとさらにダークでの補正が可能になる。
  8. 何もしないとランプは自動的に測定時にonになるので、可視領域のみの測定の場合は、制御タブの「光源」でハロゲンランプを選択しておく。
  9. 制御タブの「フィルタ切換」は通常は「スキャンを停止する」にしておくが、非常に速い測定が必要なときは「スキャンを停止しない」に変更する。
  10. 情報タブからファイルに書き込むサンプルの種類などをあらかじめ入力しておくことも可能。
  11. データタブで「スペクトル解析へデータを転送する」にチェックを入れておけば、測定後自動的にスペクトル解析ソフトにデータが転送される。
  12. パラメータ設定の条件の初期値は前回の測定のものが残る(ただし積分球をつけたときとつけないときでは区別される)。
  13. 測定ツールバー上のベースライン測定アイコン(B)によりブランクセルによるベースライン補正を行なう。測定モードによらず、%Tでのベースラインが示される(2012.2.1の測定では積分球をつけた状態で、99.9%から102.3%の間となる)。
  14. 必要に応じて測定ツールバー上のダーク測定アイコン(D)により光を透過しない板などによるダークライン補正を行なう(高濃度の試料測定などの場合に利用)。このためにはあらかじめ上記のパラメータ設定での設定が必要。
  15. 測定ツールバー上の試料測定アイコン(S)により試料を測定する。パラメータ設定で指定してあれば、データはスペクトル解析ソフトに自動的に送られてWindowが開く。

以上の操作はアイコンのクリックではなく、測定メニューからでも行なえる。

スペクトル解析

  1. スペクトルを表示した状態には、トレースモードとズームモードの二種類がある。これは、ツールバー上のアイコン(グラフに赤い縦線のアイコンと拡大鏡がグラフで一部隠れたようなアイコン)で切り替え可能。
  2. ズームモードでは、スペクトルの部分拡大ができる。
  3. トレースモードでグラフをクリックするとそる波長のところに赤い線が現れ、その点の波長と吸光度などが右下の情報バーに表示される。トレースモードで1つのスペクトルを別のスペクトルにドラッグアンドドロップすると(WindowではなくWindowの枠内をクリックする)、複数のスペクトルの重ね合わせなどが可能。
  4. スペクトル解析のファイルツリー上でドラッグアンドドロップする場合は、上記のモードのいずれの場合でも重ね合わせが可能。
  5. スペクトルの重ね合わせ、ピーク検出などの操作をすると、操作前の結果に戻れないことがあるので、最初に必ず元データをファイルにセーブしておいた方がよい。
  6. ファイルをセーブすると、*.jwsという拡張子のファイルが生成される。これは、ソフト特有のバイナリファイルなので、テキストファイルとしてデータをセーブする場合には、「ファイル」メニューの「エクスポート」からテキストファイルなりCSVファイルなりを選んで書き出す。通常は*.txtというテキストファイルがよいでしょう。

試料室の交換

積分球ユニットは、通常の試料室を取り外して付け替える形で本体に装着します。以下にその方法を示しておきます。

  1. 通常の試料室の下部手前の下側につきだしている2本のねじを手で緩めてはずす。
  2. 試料室を手前に少し持ち上げるように引き出して取り出す。
  3. 積分球ユニットを手前から滑らせて入れる。この際に、ユニット底部の奥の切れ込みが、本体の対応部のねじの下側に入るようにする(ねじの上にのってしまうと光軸がずれる)。
  4. ユニットがカチッとはまったことを確認してユニット下部の2本のねじを手で締める。
  5. 積分球ユニットのケーブルを本体ソケットに接続する。積分球ユニットのコードを接続したままユニットの取り付け・取り外しをする場合には、本体スイッチをオンにしたままで行うことが可能。ケーブルを一度外す・あるいは接続する場合は、本体をオフにしてから行なうこと。

液体試料の場合の試料セル

液体試料の場合に使う試料セルは、積分球により散乱や反射を測定する場合には、光路長が長いと散乱光や反射光が失われる可能性があるので、通常は光路長が5 mm、光路幅が10 mmのもの(例えばアズラボのガラスセルG-103/石英セルQ-103)を利用している。ただし、これにより実際に差が出るのかどうかは検証していない。