化学的酸化還元による光化学系I(P-700)の定量

光化学系Iの反応中心量を定量しようと思った時、一番簡単なのは反応中心クロロフィルであるP-700の吸収変化により求める方法です。一般的にはP-700が光照射によって酸化される際の吸収変化を測定することになりますので、励起光照射ができる分光光度計が必要となります。しかし、吸収変化の大きさは比較的大きく、また、700 nmの領域の吸収変化を扱うのであれば、同じ波長領域に吸収変化を示す物質は多くないので、一度測定系ができあがれば、化学的な酸化還元を用いてもP-700の定量を特別な装置を使わずともできます。ここでは、一般的な分光器を利用して、酸化還元試薬を用いてP-700を定量する方法について紹介します。

光酸化による測定においては、光照射によってP-700を酸化していますが、この酸化還元反応自体は一般的な酸化剤、還元剤を用いることによって化学的も起こります。従って、酸化還元試薬の添加の前後の吸収を測定することによっても、P-700の定量は可能です。ただし、光の照射の場合は、照射前後で試料の状態やセルの位置などが全く同一ですから、測定誤差をかなり少なくすることができるのに対して、化学的な酸化還元の場合は、酸化還元試薬を試料に加える際にどうしても誤差が生じますから、より高濃度の試料が必要になる欠点があります。一方で、光酸化の場合は、電子を受け取る電子受容体に異常がある場合は正確な定量ができません。電荷分離によってP-700が酸化しても、電子の行き場がない場合はP-700の再還元がすぐに起こり、光を照射してもP-700が完全に酸化されなくなるためです。化学的な酸化還元の場合は、電子受容体がどのような場合であれ、P-700自体が正常であれば、きちんと定量できる利点があります。また、通常の分光器だけで、光照射のシステムを必要としないことも利点でしょう。以下に化学的な酸化還元によるP-700の定量法を紹介します。

装置

普通にバックグラウンドの補正ができる分光器。

試薬

バッファー(50 mM Tris/HCl, pH7.5, 10 mM NaCl)、フェリシアン化カリウム(100 mM水溶液)、アスコルビン酸ナトリウム(1 M水溶液)、TMPD(1 M水溶液)、必要に応じてドデシルマルトシド(10%水溶液)

手順

チラコイド膜を高等植物の場合は40-50 μgChl/ml、シアノバクテリアの場合は10-20 μgChl/mlの最終濃度になるように5 mlのバッファーに懸濁する。ついで、最終濃度0.3 mMになるようにフェリシアン化カリウムを加えて混ぜ、そこから2つの同じ規格の分光セルに2 mlずつ分注する。セルを試料側と対象側にそれぞれおき、バックグラウンドの補正を行なう。ついで、まず、試料側のセルに22 μlの水を加えて混ぜる。ついで、対象側のセルに、アスコルビン酸ナトリウム溶液20 μlを加えて混ぜ、すぐにTMPD溶液2 μlを加えて混ぜ、750 nmから650 nmまでのスペクトルを測定する。

注意点

  1. フェリシアン化カリウムはアンテナクロロフィルも徐々に酸化してスペクトルに影響を与えるため、なるべく手早く測定する。ただし、アスコルビン酸を加えるまでは、試料側、対象側共にほぼ同じフェリシアン化カリウム濃度なので、影響は小さいはず。アスコルビン酸だけではなく、TMPDをも加えるのは還元を即座に完了させて、すぐに測定が開始できるようにするため。アスコルビン酸だけだと、P-700の完全還元に2~3分かかってしまう。
  2. TMPDは酸化型になると分解しやすい。従って、フェリシアン化カリウムの入っている試料にTMPDを直接入れることはせず、必ずアスコルビン酸を加えてから、TMPDを加える。アスコルビン酸とTMPDをあらかじめ混ぜた溶液を使ってもよいかも知れない。
  3. ノイズが大きい場合は、最初にドデシルマルトシドを加えてチラコイド膜を可溶化してから測定する。その場合は、最初のチラコイド膜の原液に最終濃度に換算して0.01%になるようにドデシルマルトシドを加える。例えば、チラコイド膜の原液が測定時の100倍の濃度であれば、原液に加えた時のドデシルマルトシド濃度は1%になる。このように一過的に高濃度のドデシルマルトシドで処理することによりチラコイド膜を可溶化し、かつ、測定時には希釈されることを利用し、その後のドデシルマルトシドによるP-700の失活などを最小限にする。
  4. 定量化をする際のベースラインの取り方は、スペクトルの形、ベースラインの傾きなどによって一概には言えない。一般的にはベースラインを書かせておいて、そこに酸化還元をさせた後のスペクトルを上書きして、700 nm付近の吸収変化量を求める。ベースラインが信用できない場合は、725 nmと690 nmをほぼ吸収変化がない点(isosbstic point)と仮定し、そこを結ぶ直線をベースラインとする方法もある。ただ、P-700のスペクトルの形状は生物種によって必ずしも同じではないので、isosbestic pointの選定などには注意を要する。

参考文献

  1. Sonoike K and Katoh S (1988) Biochim Biophys Acta 935: 61-71 (このプロトコールの測定方法)
  2. Sonoike K and Katoh S (1990) Plant Cell Physiology 31: 1079-1082 (P-700の差分子吸光係数)