チラコイド膜における光化学系I(P-700)の定量

光化学系Iの反応中心量を定量しようと思った時、一番簡単なのは反応中心クロロフィルであるP-700の吸収変化により求める方法です。一般的にはP-700が光照射によって酸化される際の吸収変化を測定することになりますので、励起光照射ができる分光光度計が必要となります。しかし、吸収変化の大きさは比較的大きく、また、同じ波長領域に吸収変化を示す物質は多くないので、一度測定系ができあがれば、測定自体は極めて簡単です。ここでは、チラコイド膜ないしは光化学系I標品など溶液系での光酸化を用いた方法と、酸化還元試薬を利用した方法について、それぞれ紹介します。

  1. P-700とは
  2. P-700光酸化の測定
  3. P-700の化学的酸化還元の測定

P-700とは

光化学系Iの反応中心

酸素発生型の光合成には2つの光化学系、光化学系Iと光化学系IIがありますが、そのうち光化学系Iの反応中心として働いているのがP-700です。光化学系Iにおいて、アンテナクロロフィルが捕集した光エネルギーは反応中心であるP-700に集められ、結果として励起されたP-700は電子を初期電子受容体のA0に渡して、自身は酸化されます。これが光化学系Iにおける初期電荷分離です。A0に渡った電子は、光化学系Iの反応中心複合体内のA1, FX, FA/Bを経てストロマのフェレドキシンを還元します。酸化されたP-700の方は、チラコイド膜内腔のプラストシアニン(場合によってシトクロムc6)によって元の還元状態に戻ります。P-700の本体は、クロロフィルaとその立体異性体であるクロロフィルa'が二量体を形成したものです。当然のことながら、光化学系Iの複合体にP-700は1つ含まれることになりますから、P-700の定量をすれば、光化学系Iの量を知ることができます。

P-700の酸化還元差スペクトル

P-700の本体はクロロフィルですから、基本的には赤と青の領域に吸収を持ちます。ただし、二量体を形成しているため、その相互作用により赤い領域の吸収帯は長波長にシフトしています。従って、通常のクロロフィルが、生体内では670 nmから680 nm程度に吸収を示すのに対して、700 nm付近に吸収を示します。これが、P-700という名前の由来になっています。P-700が酸化されると、電子を失ってP-700+になりますが、このプラスの電荷は、2分子のクロロフィルの片方に偏っていると考えられます。つまり、還元型の二量体クロロフィルは、酸化に伴い、酸化されたクロロフィル(クロロフィルカチオン)とクロロフィルのペアに変化することになります。ということは、P-700の酸化に伴い、そのスペクトルにおいて、(1)二量体クロロフィルの吸収が減少する、(2)単量体クロロフィルの吸収が増加する、(3)クロロフィルカチオンの吸収が増加する、ことになります。具体的には、(1)により700 nm付近と435 nm付近の吸収が減少し、(2)によって690 nm付近の吸収が増加し、(3)によって800 nmより長波長の赤外領域の吸収が増加する、ということになります。従って、これらのどれかの吸収変化を測定すれば、P-700の酸化還元をモニターすることができることになりますが、たくさんあるアンテナクロロフィル吸収が大きい、435 nmや690 nmよりは、700 nmや赤外領域の吸収の方が測定しやすいので、通常は700 nm付近もしくは、860 nm付近の吸収変化を測定することになります。

P-700の数とクロロフィルの数の比

一般的な高等植物では反応中心とアンテナクロロフィルの数の比(アンテナサイズ)は光化学系Iでも光化学系IIでもおおざっぱに言って200程度になります。光化学系Iの場合は、いわゆる反応中心コアと呼ばれる部分に100程度のクロロフィル、LHCIというアンテナの部分にやはり100程度のクロロフィルが結合しています。P-700というのは、複合体に特別な形で配位したクロロフィルが本体ですから、クロロフィルを抽出してしまったら他のアンテナクロロフィルと一緒で区別が付きません。ただ、P-700の2分子のクロロフィルのうち片一方は、上に述べたようにクロロフィルa'ですから、これをHPLCなどでクロロフィルaと分離して定量することは可能です。このようにして光化学系I量を定量した例も実際にありますが、抽出してしまうとクロロフィルaとクロロフィルa'は相互に変換してしまうので、きちんとした定量結果を出すにはある程度の熟練が必要です。とすると、複合体に結合したままで測定することになりますが、その際に、例えば、700 nmで測定しようとしても、そこには1分子あたりでは小さいにせよ場合によって数百分子のアンテナクロロフィルの無視できない吸収があります。ただし、光によって酸化還元するのは反応中心であって、アンテナクロロフィルは酸化還元しませんから、酸化還元した際の吸収の変化に注目すれば、それはP-700の量を反映することになります。実際には、P-700が還元された状態で吸収を測っておき、次にP-700を酸化して、その際の吸収の変化を見ることになります。この際、全体の吸収に対するP-700の酸化による吸収変化の割合は極めて小さいので、元の吸収をなんらかの形で引き算しておく必要が生じます。そこさえうまくやれば、P-700の吸収変化を多くのアンテナクロロフィルの吸収から分離して測定できることになります。

P-700光酸化の測定

P-700の測定にはいくつかの方法があります。現在では、市販の分光器としては、Walz社のDual PAMを使うか、あるいはBioLigic社のジョリオ型分光器を用いるのが一般的でしょう。以下には、そのようなP-700測定プロトコールを載せておきます。また、以前使われていた日立356型分光光度計によるP-700の測定方法は、P-700の測定方法の原理を理解するうえでわかりやすいと思いますので、現在では、この分光器で動いているものは日本にも存在しないと思われますが、そのプロトコールも紹介しておきます。

Dual PAMによるP-700の測定

DualPAMの使い方

ジョリオ型分光器によるP-700の測定

ジョリオ型分光器による光化学系I(P-700)の定量

二波長二光路の分光光度計によるP-700の測定

日立356型分光光度計によるP-700の定量

P-700の化学的酸化還元の測定

上記の光を用いたP-700の測定は、鋭敏ですが、通常は検出に特殊な装置を必要とします。一方で、化学的に酸化剤/還元剤を用いてP-700を定量する方法は、感度が低いため高濃度の試料が必要になる一方で、ごく一般的な分光器によって測定が可能です。そこで、化学的酸化還元によるP-700定量の方法のプロトコールも紹介します。

通常の分光光度計を用いたP-700の測定方法

化学的酸化還元による光化学系I(P-700)の定量