顕微PAMによるクロロフィル蛍光測定

2017.10.10最終更新

クロロフィル蛍光測定の一般論については、光合成とクロロフィル蛍光をご覧ください。以下のプロトコールは、Walz社の顕微PAM(Microscopy PAM)を用いて、組織レベル、細胞レベルのクロロフィル蛍光収率を測定するためのプロトコールです。

顕微PAMの特徴

顕微PAM (Microscopy PAM)

クロロフィル蛍光測定は、励起光を照射して、放出される蛍光を測定するだけですから、基本的には、どのような光学系でも測定可能です。微小な面積から発するクロロフィル蛍光であっても、基本的には顕微鏡と組み合わせることによって、測定は可能です。そのような顕微鏡レベルでのクロロフィル蛍光測定のための装置が顕微PAMです。

Walz社の顕微PAMにおいては、顕微鏡自体はカールツァイス社のAxioscopeを改造したものが使われています。本体奥に励起光源としてLEDを搭載し、ここからの光をリフレクターで反射させて対物レンズを通して試料に照射します。試料からの光(蛍光)は、フィルターを通したのち、光路を切り替えることにより、接眼レンズへ、あるいは蛍光の検出部へと送られます。平成29年度時点においては、励起LEDとして青色光LEDとオレンジ光LEDを搭載しており、陸上植物や緑藻などの励起にはクロロフィルの吸収が大きい青色光LEDを用いる一方で、青色光ではあまり励起されないシアノバクテリアを材料とした場合には、オレンジ光を励起光として選ぶことができるようになっています。

顕微PAMに使われる光

顕微PAMの特徴として、光の検知にフォトダイオードではなく、光電子増倍管を使っていることが挙げられます。これは、感度を上げるためですが、一方で、連続励起光を使うと光電子増倍管に無理がかかるという欠点があります。これを避けるため、励起光にもパルス光(22 μs)を用い、測定パルス(5 μs)と次の測定パルス光の間に励起パルスを当てるようにしています。さらに、測定光、励起光、飽和パルス光をすべて一つのLEDから発光しています。

測定光

標準設定(3)の場合、測定光の周波数は18 Hzに相当します。ここに、飽和光もしくは設定4以上の励起光が照射されると、測定光の周波数設定は自動的に最大の12(700 Hzに相当)に上げられます。これにより、ノイズを減らすとともに時間分解能を上げることができます。飽和光または励起光が切れると測定光の周波数も元に戻りますが、励起光が切れた後の早い蛍光変化をモニターできるように、0.2秒のラグをおいてから周波数がもとに戻る設定になっています。

励起光

励起光は、22 μsのパルスを周波数を変えて照射することにより強さを調節しています。Act-Intにより12段階で調節され、1段階上げると光量は約1.5倍になります。

飽和光

飽和光は、22 μsの励起パルスをSat-Intで調節可能な周波数で照射するとともに、5 μsの測定パルス光を20 kHzで照射しています。

赤外光

オプションで赤外光のLEDをつけることもできます。Fo'の正確な測定のためには、励起光を切った直後に赤外光をあてる必要があります。しかし、通常のセットアップでは、赤外光がフィルターを透過して光電子増倍管に入るため、赤外光を使う場合にはこれを避けるために700 nm以下だけを透過させるshort-passフィルターを付ける必要があります。しかし、その場合には、蛍光のシグナル強度は1/3に低下するので、もともと蛍光の弱い顕微測定では赤外光を利用することは難しいでしょう。

顕微鏡のセッティング

  1. 前回、別の目的(顕微蛍光測定)に使われていた場合は、LEDのモジュールに入れてあるNDフィルターを変更する必要がある可能性がある。通常目的では、4種類あるNDフィルター(6.6%、13.7%、23.5%、51.2%)のうち、一番濃いものを1枚入れておけばよい。これは、LEDの強度が、特に測定光としてはそのままでは強すぎることによる。試料の蛍光収率によっては、NDフィルターを追加したり、より明るいフィルターに変更したりしなくてはならない可能性がある。スクリューリングを回して外すと、フィルターを交換できる。なお、オレンジ光LEDの場合は、長波長の光をカットするためにKPF647.5フィルターをセットする必要があり、これは、NDフィルターよりも手前(光源から見れば一番外側)にセットする。
  2. LEDモジュールの右手のコネクタに測定光用のケーブルを接続する。このコネクタはやや固いが、単純に押し込むことで接続できる。外す場合は単純に引っ張る。ケーブルのもう一方は、PAMコントローラーのMLコネクタに接続する。
  3. 光電子増倍管を顕微鏡本体に接続する。顕微鏡上部にまず延長ユニットを接続して六角ねじで固定し、その上に絞りレンズユニットを載せ、その上に光電子増倍管を載せる。
  4. 光電子増倍管から出ているケーブルを、PAMコントローラーのPMコネクタに接続する。
  5. 左奥に電源スイッチがあるので、これをオンにする。
  6. 電源スイッチの手前にある回転式の調節スライダーで、ハロゲンランプの光量を調節する。
  7. 下部の手前の回転式の切り替えで、ハロゲンランプ用のフィルターを選択する。「・」:オフ、1:青色フィルター、2:白色25%、3:白色6%、4:白色1.5%、5:白色100%。
  8. 上部左側の棒を引き出すことにより、接眼部への光路を解放する。
  9. 上部右側のレバーを手前に倒すことにより、光路を接眼部へと切り替える。
  10. 顕微鏡本体の手前側中央にあるリフレクター/フィルターの回転式切り替え位置を選択する。1,2は蛍光測定用の赤いフィルターが入っているので、この時点では素通しの3もしくは4の位置を選択する。
  11. 通常の顕微鏡と同様に、試料の位置とピントを合わせる。
  12. 上部左側の棒を押し込むことにより、接眼部への光路を閉鎖する。
  13. 上部右側のレバーを奥に倒すことにより、光路を光電子増倍管へと切り替える。

クロロフィル蛍光の測定

  1. 顕微鏡の奥側上部の右側にあるつまみを回して適切な光源を選択する(現在は、一番手前の位置(1)は青色LED(IMAG-L470M)、(2)はオレンジ光LED(IMAG-L625M、シアノバクテリア用)、奥の二つの位置にはLEDが入っていない)。
  2. 顕微鏡本体の手前側中央にあるリフレクター/フィルターの回転式切り替え位置を選択する。現在は1と2にクロロフィル蛍光測定用の赤フィルターを入れてあり、3,4は素通しになっている。光源が1の場合はこちらも1を、2の場合は2を選択する必要がある(連動して変更する必要がある)。
  3. 制御用パソコンを立ち上げ、WinControl-3 ソフトウェア(現在ver.3.22)を立ち上げる。ソフトウェアを立ち上げると、ケーブルが接続されていれば、自動的にPAM-Control(制御部)の電源がオンになる。ただし、おソフトを終了しても自動的にオフにはならないので、終了時には、手動でPAM-Controlをオフにすることを忘れないようにする。
  4. 必要に応じて、顕微鏡本体と光電子増倍管の接続部分にある絞りを調節する。絞りを絞れば、視野の中央部のより狭い面積のシグナルだけを得ることができるが、当然、シグナルは弱くなる。
  5. 蛍光のシグナル値は、下部右側のOnlineのFtに表示される。試料がなくてもFtが0でない場合には、AutoZeroにより調節する必要がある。Settingsタブの右下にSystem Settingというボタンがあるので、そこを押すとSystem Settingタブが開く。ここでAutoZeroボタンを押せばよい。試料が存在する際のシグナル値は、200-500であることが望ましい。
  6. 蛍光のシグナル値が0もしくは非常に低い場合は、測定光が照射されているかどうかを確認する。このためには、試料の位置に白い紙をおけば肉眼で確認できる。測定光が見えないときは、以下の点をチェックする。(1)上記のように、光源の選択とレフレクター/フィルターの切り替え位置があっているか? (2)ソフト上で、測定光をつけているか(Measuring Lightにチェックが入っているか)? (3)ソフト上で、測定光のレベルが十分に高く設定されているか? (4)光源のLEDに不必要なNDフィルターがつけられていないか?(顕微PAMとイメージングPAMでは同じ顕微鏡を共用しており、両者の間では感度が大きく違うため、NDフィルターによって測定光の強度を調節する必要がある)
  7. Settingsタブで、各種の測定条件を設定する。この際、顕微PAMの使用にはMeas+Act/SATにチェックが入っていることが必須なので、必ず確認する。(PAM-ControlはWater PAMでも使用するが、Water PAMの場合は逆にチェックを外す必要がある)
  8. 測定条件の設定については、以下の点を考慮する。
    1. Ftが小さい時には、PM-GainもしくはOutput-Gainを上げる。(ただし、あまりにも数値が小さい時には、上記の「蛍光のシグナル値が0もしくは非常に低い場合」を参考に、測定光の強度をまずチェックする)
    2. 測定光(Meas)は、光強度(Int)を固定し周波数(Freq)を調節する。同様に励起光(Act)は光強度(Ampl)を固定し、周波数(Int)を調節する。これは、顕微PAMは光源として単一のLEDを使用しているため、光強度を変化させると、測定光、励起光、飽和光に同時に影響が出てしまうためである。
    3. 飽和光(Sat)の光強度(Int)は最大でよいが、照射時間(Width)は効果がある最短の時間に設定する必要がある。
  9. 測定したいモードに応じてタブを選択する。一般的には、クエンチング解析などに使うChartタブ、もしくは光飽和曲線などを測定するためのLight Curveタブを使うことが多い。
  10. チャートの右上に、測定間隔1/sが表示されているので、より測定点の多い5/sに変えておく。
  11. チャートの右下のStart Onl. Recボタンを押すと測定が開始する。開始後は、Stop Onl. Recボタンになるので、これを押すと測定が終了する。
  12. 測定中にどの光源が働いているかは、下部左側のStatusのところで、Meas. Lightなどのどれにチェックが入っているかを見れば確認できる。
  13. 測定中に励起光を照射したい場合は、StatusのAct. Lightにチェックを入れればよい。この際の励起光の強さは、下部中央のBasicのAct. Int.を変えることにより調節ができる。
  14. 測定中に飽和光を照射したい場合は、下部中央のSAT-PulseのFo,Fmボタンか、SATボタンを押す。前者は、ボタンを押す直前の蛍光値をFo、飽和パルス照射時の蛍光値をFmとして認識する。後者は、励起光照射中などに用い、ボタンを押した際の蛍光値がFm'として認識される。

データの保存

  1. 測定終了後、FileメニューからSave Dataを選択してデータをセーブする。
  2. このほかに、チャートの右上のOptionsボタンからExport Allを選択すると、テキストデータとしてセーブが可能。