光合成の質問2021年

このページには、寄せられた質問への回答が新しい順に掲載されています。特定の知りたい情報がある場合は、光合成の「よくある質問」(FAQ)のページに分野別に質問を整理してありますので、そちらをご覧下さい。


Q:植物を扱う研究室への配属を希望している大学2年生です。先生のサイトにはよくお世話になっております。有光条件下での呼吸について質問です。光合成の質問箱の過去の回答(2014.11.4分)で“一般的に呼吸による二酸化炭素の吸収速度は光照射下では抑えられる傾向にあります”と仰っていました。自身で調べてみたところ、植物の葉や藻類などを用いた実験で上記のような結論を出している文献が見つかりました。しかしその一方で、Peliter and Thibault (1985)のトレーサー実験の結果では”有光条件下でも呼吸速度は変化しない”と結論付けられていました。ここで質問なのですが、両者の違いは実験に用いた生物種の違いによるものなのでしょうか?お忙しいところ大変恐縮ですが、お教えいただけますと幸いです。(2021.8.21)

A:一般的な条件では、呼吸における二酸化炭素発生と酸素吸収は1対1に対応します。しかし、光照射下においては、過去の回答にありますように、光合成の産物が有機酸の形でミトコンドリアに運ばれ、その還元力が電子伝達を駆動して酸素が吸収される例が知られています。従って、一口に呼吸と言っても、二酸化炭素発生は光照射によって抑制されるのに対して酸素吸収は光照射の影響を受けにくい傾向にあるようです。Peliter and Thibault (1985)の実験は、酸素の吸収を見た実験ですから、むしろ呼吸の指標として二酸化炭素を使うか酸素を使うかの違いが反映されている可能性もあるように思います。一方で、彼らの実験は緑藻のクラミドモナスを材料としていますから、ご指摘のように、陸上植物とはふるまい方が異なっている可能性も考えられると思います。前者の可能性のメカニズムについては、東京薬科大学の野口航さんが日本語の総説を書いておられます。日本光合成学会のホームページから無料で見られますので参考にしてください。https://photosyn.jp/journal/kaiho55.pdfの中の「光照射下の葉の呼吸系の働き」という解説記事です。(2021.8.21)


Q:青色LEDと赤色LEDを葉緑体に照射した際の、光合成量の差を見る実験に関してです。光合成量の測定方法として、クロレラの増え方で判断できるのではと考えました。すなわち、容器に純水・栄養素(無機物)・二酸化炭素・クロレラを入れて青色LEDと赤色LEDを照射し数日後、それぞれの培養液の緑色の濃さが、行われた光合成量を表しているという事です。栄養素量や二酸化炭素量、光量は十分であるとして、この実験に何か致命的な問題点はあるでしょうか。(2021.8.17)

A:致命的ではないかもしれませんが、2つ問題になり得ることがあるように思います。(1)光の影響を考える上で、色も重要ですが、量も重要です。もし、青色LEDと赤色LEDで光量に大きな違いがあった場合、実験結果に違いが出たとしても、色が効いているのか、量か効いているのかを判断できなくなります。例えば、LEDのカタログでそれぞれの光量を調べて、光量が同じになるように利用するLEDの数を調節する、といった準備が必要かもしれません。(2)光は、光合成だけでなく、フィトクロム、クリプトクロム、フォトトロピンといった光受容体を通して細胞内の状態に影響を与える可能性があります。影響を生育で見た場合、それが光合成を通しての影響か、光受容体を通しての影響かを区別するのは、案外難しいかもしれません。もちろん、生育の差を見る実験としては成り立ちます。(2021.8.17)


Q:よろしくお願いします!「光合成とはなにか」の紅葉のコラムで、なぜ紅葉がおきるのかがまだ解明されていない。と理解しました。私は紅葉は広葉樹の葉のアポトーシスではないかと思います。紅葉は寒さにあたると進みます。そして紅葉が進むと葉が落ちます。秋から冬に向けての準備として冬眠に近い状態で寒さから身を守るためではないでしょうか。針葉樹は葉が落ちないので、紅葉しませんよね。この仮説いかがでしょうか?(2021.8.1)

A:『光合成とはなにか』を読んでいただいてありがとうございます。仮説として十分に考えられると思います。針葉樹との対比を考えるという方向性もよいと思います。一方で、世の中には紅葉しないで、単に茶色や黄色になって葉を落とす樹木もたくさんありますよね。もし、寒さから身を守るのに必要なのだとしたら、すべての落葉樹の葉が赤くなってもよいと思いませんか。おそらく、本当の意味での「なぜ」を明らかにするためには、紅葉する落葉樹と紅葉しない落葉樹の差を説明するような仮説が立てられるとよいのではないかと思います。(2021.8.1)


Q:光を吸収する際にクロロフィルbやカロチンなどではなくクロロフィルaが主要な色素である理由は何かあるのでしょうか。それともただ調べた結果がそうだっただけということでしょうか。(2021.6.16)

A:すべての光合成色素が光を吸収できる(=光のエネルギーを集めるアンテナとして機能できる)のに対して、クロロフィルaだけは、反応中心として電子伝達を駆動することができます。具体的には、光を吸収してエネルギーを持った状態(励起状態)になったクロロフィルaが電子受容体に電子を渡すことによって自らは酸化されます。これによって電子受容体を還元して電子伝達がスタートします。このような酸化還元する能力は、カロテノイドよりはクロロフィルの方が優れていますし、クロロフィルの中でもクロロフィルaは非常に優れていると思います。もちろん、系統的な制約もあると思いますが、基本的には酸化還元の能力がクロロフィルaの反応中心としての働きを決めている側面が強いのではないかと思います。(2021.6.16)


Q:お忙しいところ、初めての質問失礼します。学校にて各々実験をデザインしてそれを行うと言う授業で、光の角度と色の違いによる酸素発生量の違いを水草を使って行おうと思っているのですが、実験のデザインの部分で行き詰まっています。 1、どこを対象にして角度を決めればいいのか。2、どのぐらい光源と水草の距離を取れば確実に差が出るのか。3、どのような光源を使うのがベストなのか。
 最後にすごく根本的なことを尋ねるのですが、この実験はきちんと機能するのでしょうか?(2021.5.7)

A:このような実験は、原理的には可能なのですが、実際にやろうとすると、極めて難しいのではないかと予想します。一つの理由は、条件を変えてから酸素発生速度に違いが出てくるまでにしばらく時間がかかることです。植物の状態にもよると思いますが、10分ぐらいかかることは十分に考えられます。その場合、ある条件にして10分、次の条件にして10分という風に、条件ごとに時間がかかりますから、3つの条件を調べるだけでも30分かかります。そして、その間は他の条件が変化しないように気をつけなければなりません。次に、光の色に関しては、例えば、違う色のLEDを使うという手がありますが、違うLEDの光の強さを比べるのは、専用の測定機器がないと難しいと思います。その場合、差が出たとしても、それが色の差なのか、強さの差なのかが判断できません。これは、白色光に色セロハンなどを使って異なる色の光をつくった場合でも同じです。
 個別の質問について答えると、1.水草がオオカナダモだとすると、さまざまな角度に葉が出ていますから、光を当てる角度を決めるのも難しいですね。よい案は思いつきません。2.距離は光源の強さにもよります。光源が弱ければ、距離が長くなった時に当然酸素発生量が少なくて、差を見るのが困難になります。ただ、1の問題が解決して、一定の方向から光を当てることになった場合は、距離が短いと光が広がりますから、距離を遠くする必要があります。実際の距離は光源の種類にもよると思います。3.酸素発生をきちんと見るためには、ある程度強い光が必要ですので、まずはそれが重要です。本当は、太陽の直射光が強くて光が広がらないのでよいのですが、曇ったり、時間と共に確度が変わったりするという問題があります。蛍光灯や電球は、光が広がりますから、少なくとも角度を変える実験を考えた場合にはあまり適切ではないでしょう。LEDは比較的指向性があるので、よいと思いますが、1個では光の強さが不十分かもしれませんね。いずれにしても、なかなか難しい点が多いとは思いますが、一つ一つ困難を解決していくのも研究の醍醐味ですので、頑張ってください。(2021.5.7)


Q:「光合成とはなにか」をはじめ、「植物工場」に関しては、旧日立中央研究所高辻正基先生の著書等を読ませて頂きました。しかしながら、経済新聞などでは、植物工場の40%位が、光線にLEDを利用していても未だ赤字であるとの記載がありました。LEDを利用して太陽の光にかわる光を放射し、明反応は促進するとして、暗反応のカルビンサイクルを促進するために、明反応で出来た水素及び新しく水素を追加して、ADP+NADPHを強化し、植物栽培を積極的に助長していく試みは行われているのでしょうか?(2021.5.2)

A:前段から後段への論理展開がよくわかりませんでしたが、植物工場を黒字にするために光合成の側を改変できそうか、という意味のご質問でしょうか?そうだとすると難しいと思います。赤字の原因は、従来の農業よりも余計にコストがかかることにありますから、たとえカルビン回路を促進することができたとしても、それにさらに余計なコストがかかれば何の意味もありません。植物工場の黒字化は、基本的には付加価値の付与によってなされるのだと思います。一方で、前段には意味がなく、純粋に光合成を強化できるかどうかを聞きたいのであれば、いくつかの試みはなされています。質問文中で「水素」とあるのは、還元力を指しているのだと思いますが、これを「追加」しても光を強くすることと同じなのであまり意味がありません。しかし、カルビン回路の鍵となる酵素であるルビスコの改変の努力などがなされています。また、C3植物のC4化なども試みられています。それでも、光合成を改変して植物の生育をよくする研究で目覚ましい成果をあげた例はありません(理由は『光合成とはなにか』をお読みであればご存知と思います)。なお、これも『光合成とはなにか』に書いておきましたが、「明反応」「暗反応」という言葉は現在では使わないようになっています。(2021.5.3)


Q:光合成のデメリットはどんなことがありますか?なぜ全ての生物が光合成をするように進化しなかったんでしょう?光合成をする事は生物にとって負担になるのでしょうか?(2021.4.22)

A:これについては、いろいろな答え方があると思うので、以下はそのうちの一つとお考え下さい。例えば、ヒト(人間)が光合成をしようと考えたとします。一人のヒトの活動を支えるためのエネルギーを普通の植物の光合成によって得ようとした場合、数十平方メートルの面積の葉が必要となる計算になります。そのような大きな面積の葉を作るための負担もさることながら、そのような大きな葉を抱えて動く自体も大きな困難を伴うでしょう。光合成の泣き所は、エネルギーの密度が必ずしも高くない光をエネルギー源として必要とし、同じエネルギーを得るためには大きな面積が必要な点です。ヒトのような動物は従属栄養生物といって、光合成生物に従属して生きています。大きな面積を自分で作るより、他の光合成生物を食べて動ける生物として生きていく方がはるかに楽だったということのように思います。(2021.4.23)