光合成の質問2020年

このページには、寄せられた質問への回答が新しい順に掲載されています。特定の知りたい情報がある場合は、光合成の「よくある質問」(FAQ)のページに分野別に質問を整理してありますので、そちらをご覧下さい。


Q:イチゴやトマトなどの果菜類の生産を考えています。光合成産物を葉から果実に転流する時間帯はいつごろでしょうか?また、温度が高いほうが転流速度が速いと本でみましたが、イチゴやトマトでは何℃位が適当でしょうか?転流割合を高めるのに都合がいい条件はありますか。(2020.3.19)

A:一般的には、転流の速度は、葉の光合成産物量に依存しますので、昼間に転流速度は大きくなります。ただし、光合成が活発な葉で、転流を上回る有機物合成が起こる場合には、葉にデンプンが蓄積しますから、夕方から場合によっては夜までも、デンプンが分解されて生じる有機物の転流が続くことがあります。「温度が高いほうが転流速度が速い」のは確かですが、どちらかと言うと「温度が低下すると転流が阻害される」という側面が大きいように思います。ある一定以上の温度であれば、基本的には光合成なり生育なりが一番活発になる温度で転流速度も大きくなるのではないかと思います。(2020.3.19)


Q:普段はヒト・マウスを対象とした研究をしており、植物に関しては門外漢です。見当違いがございましたら、ご指摘いただけると幸甚です。以下質問本文です。光合成に関して調べている際、動物界においても盗葉緑体による光合成を行う生物が存在することを知りました。これは葉緑体ゲノム上の遺伝子が動物細胞内においても発現していることを示していると考えました。強制発現系プロモーター(SV40やCMV)であれば植物由来遺伝子であっても動物細胞内で発現することは想像できます。一方、盗葉緑体による光合成で起動している遺伝子は、インタクトな植物由来のプロモーター及び発現制御領域を持つはずです。その場合、植物特有のプロモーター因子(CAやGA)を持つ遺伝子は種差により転写されないのではないかという疑問が生じました。そこで、以下2つの質問へのご回答をいただければと思います。葉緑体ゲノム上の遺伝子が動物細胞内でも発現可能であったのは葉緑体という特殊な区画に内包されているためでしょうか。葉緑体ゲノム上の遺伝子に限らず植物遺伝子全体も含めて、インタクトなプロモーターを持つ植物遺伝子を動物細胞に導入した際に動物細胞核内で転写翻訳イベントは起こるのでしょうか。(2020.3.19)

A:1つ目のご質問に対する回答は、「その通り」です。盗葉緑体は、あくまで葉緑体が移行するのであって、葉緑体の遺伝子が移行するわけではありません。2つ目については、「“効率的な”転写翻訳イベントは起こらない」というのが答えになると考えます。まず、プロモーター部分などを持たない遺伝子を異種生物に導入した実験でも、ごく低い確率で発現が見られることが報告されています。つまり、原核生物と真核生物のように、転写翻訳のシステムが全く異なる場合でも、低い確率ではプロモーターの「新生」によって遺伝子が発現することを意味しています。これに対して、動物と植物はどちらも真核生物ですから、基本的な転写翻訳システムには共通のものがあります。その意味で、完全なプロモーターの新生の場合よりはやや高い確率で遺伝子の発現が起こることが予想されます。ただ、その確率や発現効率は、それほど高いものではないように思います。(2020.3.19)


Q:一酸化炭素を5~10 ppm含む空気は光合成を阻害しますか?また、同空気は植物生理に悪影響を与えますか?(2020.3.13)

A:光合成には影響がないと思います。より広い生理学的な応答についても、1%といった高濃度で過去に研究がおこなわれているところを見ると、5~10 ppmでは影響がないのではないでしょうか。(2020.3.13)


Q:陰生植物の「光-光合成曲線」をLi6400XTを用いて測定しています。その結果、光強度PPFDが150-200で光合成速度はほぼ飽和に達したのですが、PPFDが1500μmol/m2/sになっても光合成速度は低下せず、200μmol/m2/sあたりとほぼ一定のままでした(PPFD200でも光合成速度は2μmolCO2/m2/s、1500でも2前後です)。なお、測定は光量を最大化してから、徐々に下げて測定しました。この結果を単純に解釈すると、PPFDが1500でも光合成速度を最大化できるように見えるのですが、実際、直射日光下では、光阻害(いわゆる葉焼け・葉の黄化)等の障害が発生してしまいます。そこで、以下のような疑問が生じ、自分なりに調べましたが、よく分かりません。
 ・炭酸ガス交換測定では、光阻害は反映されない?その理由は?強光下で光化学系の損傷等が起これば、その下流にある炭酸ガス固定能も落ち込むように思うのですが、落ち込むほどの影響はないのでしょうか(律速していない?)。もしくは、チャンバー内の葉温一定、湿度一定、炭酸ガス濃度一定という理想的な環境下では、損傷等の影響は受けにくいのでしょうか。もしくは、光阻害の影響が炭酸ガス固定へ出てくるには測定期間が短すぎたのでしょうか。また、どのくらいの光強度で障害が生じるかも評価したい場合、(同時)クロロフィル蛍光測定をしなければわからないのでしょうか。(2020.2.22)

A:結論からお答えすると、光阻害の影響が炭素同化の低下として現れるには、測定時間が短かったのだと思います。光阻害という言葉は、人によって何を指すのかがかなり異なりますが、葉焼けなどの可視傷害は、一連の光環境応答の最後の方の段階にあたります。強光照射に対する最初期の応答として、キサントフィルサイクルなどによる熱放散があり、これにより光合成の効率は低下します。これは数分で誘導され、光が弱くなれば、また数分単位で回復します。一方で、回復に時間がかかる光阻害は、一度誘導されると元に戻るまでに1時間といった時間が必要です。そして、その阻害の程度が強くなると、さらに回復に時間がかかるようになり、葉焼けなどの可視傷害につながります。阻害の程度は、低温や低二酸化炭素濃度などの光以外の環境要因によっても左右されますから、「理想的な環境下では、損傷等の影響は受けにくい」というのも正しいと思います。いずれにしても、強光照射を例えば数時間続ければ、炭素同化速度にも差が表れるのではないかと予想します。
 クロロフィル蛍光測定の場合は、光合成収率の低下が、キサントフィルサイクルの影響によるものなのか、光阻害によるものなのかを区別して解析することが可能ですが、葉焼けのような不可逆的な阻害を誘導する最低限の光量を決めたい、というような目的では、得られる情報にはそれほど差がないように思います。(2020.2.23)


Q:人はなぜ光合成をしないのか?すなわち、「太陽光エネルギーを化学エネルギーに変換しないのはなぜか?」についても教えてください。当たり前ですが、人をはじめ動物は葉緑体を持っていないため、光合成を行うことができません。しかし、もし仮に持っていれば、光合成を行うことができ、1つのエネルギー源とできた可能性があります。おそらくエネルギー変換するにあたって、出来なかったわけがあると思うのですが、この持たなかった理由を教えてください。(2020.1.28)

A:これは、基本的には量的な問題です。この辺りは、ブルーバックスの「光合成とはなにか」に詳しく書いておきましたが、人間が活動するためのエネルギーを体表面の光合成でまかなおうとしても、必要なエネルギーの数%しかまかなえません。わずかに食べる量を減らすために、大変な苦労をするのは割が合わないということが一番大きいでしょう。(2020.1.29)


Q:酵素にはそれぞれ最適pHがあると思うのですが、光合成反応を触媒するルビスコには最適pHがあるのでしょうか。あるのであれば、値も教えていただきたいです。(2020.1.26)

A:pHを変えても酵素の反応速度が常に一定ということは考えにくいので、全ての酵素に最適pHがあるはずです。ルビスコにも当然あると思いますし、ルビスコは非常に研究が進んでいる酵素なので、実際の実験データもあるはずですが、僕自身はよく知りません。ただ、一般にその酵素が働いている環境のpHが最適pHになっている場合が多いので、ルビスコの場合、おそらくpH 8程度が最適なのではないかと予想します。(2020.1.27)


Q:クロロフィルの環状構造(4つのテトラピロール環)が可視光線を吸収するのはなぜでしょうか?テトラピロール構造は青と赤の光を主に吸収しやすい(緑の光も少し吸収)とあり、なぜその性質を持つか分かりません。可視光線の性質も踏まえて教えてください。よろしくお願いします。(2020.1.22)

A:低分子の有機化合物、例えばベンゼンは紫外線は吸収しますが、可視光線は吸収しません。ところが、ベンゼン環が2つつながったナフタレンは、同じ紫外線でももう少し長波長まで吸収しますし、3つつながったアントラセンは、さらに長波長の光(といってもぎりぎり可視光までは行きませんが)を吸収します。これは、ベンゼン環にあるような単結合と二重結合が交互につながった構造(共役二重結合)がより長くつながると、より長い波長の光まで吸収することができるようになることを反映しています。クロロフィルの構造を見ると、そのような長い共役二重結合が存在していることがわかると思います。これが、クロロフィルが可視光を吸収する理由です。
 一般的に共役二重結合は一直線ではありませんから、複数の取り方が可能な場合もあります。そのような場合、複数の波長領域の光を吸収できます。また、ある状態から複数の(より高い)エネルギーの状態へと変化する場合には、複数の波長の光を吸収することになります。
 可視光と紫外光の違いは、エネルギー(波長)だけなので、可視光に何か特徴的な性質があって光が吸収されるわけではなく、光のもつエネルギーと、物質のエネルギー状態の関係によって純粋に吸収されるかどうかが決まります。(2020.1.23)

Q:可視光線の吸収のことについてもう少し詳しく説明していただけると幸いです。「複数の波長領域の光を吸収できる」→共役二重結合の長さが様々に変化するからということでしょうか?「光のもつエネルギーと、物質のエネルギー状態の関係によって純粋に吸収されるかどうかが決まります」→関係とはどのようなものでしょうか?(2020.1.28)

A:まず一つ目のご質問ですが、長さが変化するのではなく、複数の状態を取り得るということです。共役二重結合は、単結合と二重結合が交互に存在しますが、これは、共鳴して、1.5重結合のような状態になります。この共鳴状態が複数の仕方で起こりうるということです。例えば、同じ光合成色素でもカロテノイドは直線的な構造をしていますから、共鳴状態は一種類しかありません。しかし、クロロフィルのように環状構造をしている場合、吸収に寄与する共鳴状態が複数あるので、複数の吸収帯が現れることになります。これの極端な場合が石炭などで、炭素の共鳴状態が無数にあるので様々な光を吸収し、結果として黒く見えます。
 二番目のご質問ですが、基本的に光の吸収は、光のエネルギーが物質に渡されて起こります。物質はエネルギーを受け取ると、より高いエネルギー状態になりますが、どの程度の高さのエネルギーをもちうるかは、物質によって決まっています。つまりステップの高さが決まった階段のようなものです。その場合、そのステップの高さとちょうど合うエネルギーをもった光が来た時にだけ吸収され、そのステップの高さより低いエネルギーの光が来たときはもちろん、より高いエネルギーの光が来たときでも、それらの光を吸収することはできません。ただし、ステップの高さにはある程度の揺らぎがあるので、ある波長を中心に、幅をもった光が吸収されることになります。(2020.1.29)


Q:中学受験に向けて勉強をする小学生の保護者です。息子からの質問を投稿いたします。息子が使っているテキストに、「光が補償点よりも強いとき、植物は成長しながら生活を続けます。」とあります。しかし、植物は夜の間にも呼吸をして、デンプンを使うはずです。光の強さがが補償点よりをかろうじて上回る程度ですと、昼の間にたくわえられるデンプンの量がごくわずかになりますよね。確かに昼の間には成長できるかもしれませんが、夜に呼吸をするうちに、昼にたくわえたデンプンがなくなってしまい、昼夜全体で見たときに、植物が成長するのに十分はないように思えます。……という趣旨の内容です。私も生物分野にあまり明るいわけではありませんが、 ご回答を頂ければ幸いです。(2020.1.10)

A:全くもっておっしゃる通りだと思います。ただ、「光が補償点よりも強いとき」という部分を「夜は光が補償点よりも弱いのでこの条件には当てはまらない」と解釈することは、不可能ではないので、やや強引かもしれませんが、そのテキストの表現が間違いであると断定するのも難しいかもしれませんね。(2020.1.10)