光合成の質問2015年

このページには、寄せられた質問への回答が新しい順に掲載されています。特定の知りたい情報がある場合は、光合成の「よくある質問」(FAQ)のページに分野別に質問を整理してありますので、そちらをご覧下さい。


Q:植物体にある処理をした場合にフェレドキシンの酸化還元状態の変化があるかを知りたいので、フェレドキシンの酸化還元状態状態を測定する方法を教えてください。(2015.12.24)

A:フェレドキシンの酸化還元状態は、吸収スペクトルから測定することができます。酸化型と還元型では、280 nm付近から500 nm付近にかけての吸収が異なりますので、精製フェレドキシンが使えるのであれば、吸収を測定し、次に完全酸化もしくは完全還元して再度吸収を測定すれば、どの程度が酸化型でどの程度が還元型であったかがわかります。しかし、実際に処理をした植物体からフェレドキシンを単離精製することを考えると、精製には時間がかかりますし、その間に酸化還元状態が変化しないとも限りません。in vivoにおける情報がほしいのであれば、それはかなり難しいのではないかと思います。
 一方、細胞内や葉緑体内では、フェレドキシンはある程度NADHまたはNADPHと平衡状態にあると考えられます。NADHまたはNADPHは、フェレドキシンよりは酸化還元状態を見積もることが難しくないので、NAD(P)Hの酸化還元状態をもって、フェレドキシンの酸化還元状態の指標とする場合もあります。この場合、NAD(P)+とNAD(P)Hで蛍光の収率が異なることを利用してin vivoで蛍光測定する方法、メタボローム的な手法で可溶性抽出液を直接定量する方法、酸化還元によって吸収が変化する色素の反応と酵素反応によって共役させて可視部の吸収変化として酸化還元をモニターする方法などがあります。(2015.12.24)


Q:趣味で胡蝶蘭を育てています。胡蝶蘭は基本的にCAM植物なのですね。ホームページに昼間はCAM植物は気孔を開かないので、光合成の際に放出される酸素はどうしているのか、というコメントがありました。胡蝶蘭を水に沈めて日光にあてると、酸素が出てきます。これは気孔からではなく、葉の縁、葉の付け根から出ます。したがってやはり日光が当たっているときは気孔は閉じたままになっています。酸素をだすための管を別にもっているわけです。このような胡蝶蘭に夜もランプで照度を保つと元気がなくなります。おそらく炭素の固定は主として暗いときに行っているのでしょう。これは贈答用などで売っている葉の分厚い胡蝶蘭の話ですが、原種といわれる葉の薄く、葉の色もうすい緑の胡蝶蘭は、かなり湿度の高いところに生息しているようで、これらを水に沈めて日光をあてると葉の全面に細かい酸素の泡が付き、気孔が開いていることがわかります。したがって同じ胡蝶蘭でも光合成のしかたが違うものがあるということになります。葉の分厚い、緑の濃いものは、より乾燥したところに生育し、分厚い葉に水分を蓄え、葉は水をはじくような性質をもち、炭素固定を夜行うように葉の薄い胡蝶蘭から進化したと思われます。(2015.12.19)

A:これは、質問というよりはコメントですね。お教えいただいた観察結果から考えると、僕の以前のコメントは修正する必要がありそうですね。以下に僕なりの考えをまとめておきます。
1.通常のC3植物の場合、大気中から二酸化炭素を取り込んで酸素を放出します。その際、取り込まれる二酸化炭素と発生する酸素のモル比は1対1ですから、正味の気体の発生は見られません。一方で、よく中学高校の実験で用いられるオオカナダモなどの水草の場合、水の中の溶存二酸化炭素や重炭酸イオンなどが取り込まれる一方、酸素の水に対する溶解度は高くないので、気体の酸素の発生によって光合成の活性を簡単に確認することができます。CAM植物の場合は、二酸化炭素は液胞中のリンゴ酸などに由来しますので、水草の場合と同様に気体の酸素の正味の発生が見られるのでしょう。この点で、僕の過去のコメントのいくつかは頓珍漢だったかもしれません。
2.酸素の出口については、オオカナダモの場合でも、茎の節の部分や葉の先端から酸素の発生が見られます。機械的に弱くなっている部分は酸素の発生が多く見られるようですから、特定の通り道がそのために存在するというよりは、一番弱い部分から気体が抜けるように見えます。オオカナダモなどは自然条件でも茎が切断される場合が多々ありますが、そのような場合には主にその切り口から酸素が発生します。
3.CAM光合成をする植物でも、常にCAM光合成しかしないというわけではなく、一日の間で、昼間はCAM光合成をしていても、夕方になると普通のC3光合成を始める植物はよく見られます。また、生育の過程で塩ストレスなどを受けるとC3光合成からCAM光合成に切り替わる植物もあります。CAM光合成とC3光合成は、種で固定されたものではありませんから、原種から、現在多く見られる園芸品種に一方向に進化したと考えなくてはならないわけではないかもしれません。実際には、生育条件などが変わると同じ種でもCAM光合成をするかどうかが変わる可能性は十分にあります。(2015.12.20)


Q:青色発光ダイオードの光子について知りたいのですが、照度計で測定したluxからphotonを求めることは可能でしょうか?また、出来る場合は方法を教えてください。よろしくお願いします。(2015.11.13)

A:「光の単位」のページの照度の説明の部分に比視感度のグラフを載せました。このグラフを使うか、あるいは理科年表などに載っている比視感度の表などを見て、補正すれば、単色光における照度から光量子束密度への計算は可能です。計算の仕方は「光の単位」を読んでいただければわかるのではないかと思います。発光ダイオードは、スペクトルが比較的シャープなので、極大波長を使って計算をすれば、ある程度の正確さで計算はできると思います。極大波長は、分光器を使って実測をするか、あるいは、製造会社のカタログなどで調べる必要があるでしょう。(2015.11.14)


Q:先生の「光合成とは何か」を読ませていただきました。しかし、第4章5節プロトンの濃度勾配を作るで腑に落ちないところがいくつかあります。この部分の出典とプロトンの濃度勾配ができるメカニズムについてわかりやすいreviewなどがあれば、ご紹介くださいませんでしょうか?(2015.11.13)

A:キノン回路の部分のことでしょうね。このあたりは、ピーター・ミッチェルなどが研究のきっかけを作ったところですが、何か一つの論文でこのようなメカニズムが明らかになったわけではありませんから、「出典」というのは難しいですね。ミッチェル自身の書いた総説としては、Vectorial Chemiosmotic Processes, Annual Review of Biochemistry 46: 996-1005 (1977)があります。ただし、これは現在の考え方の出発点ではあるものの、考え方はここからかなり変遷を経ています。もう少し最近のものとしては、Croftsの書いたThe Q-cycle ? A Personal Perspective, Photosynthesis Research 80, 223-243 (2004)でしょうか。その後になると、総説というよりは教科書になると思います。(2015.11.13)


Q:クロロフィルaとフィコシアニンの定量の式の14.97などの係数の値はどうしてその値なのですか?また、その値でしか求められないのですか?(2015.11.7)

A:吸収を測定して色素の量を定量する場合には、一定の量の色素がどれだけの吸収を持つかを知る必要があります。通常は、モル吸光係数といって、1 cmの厚みの1モルの濃度の物質溶液がどれだけの吸収を持つか、という値で示します。例えばモル吸光係数が200の場合、ある溶液の吸収を測定したらば0.2だったとすると、その物質の濃度は0.2/200=0.002となって2ミリモルであることがわかります。つまり、この時に計算では1/200を吸収にかけていますから、計算の時の係数は0.005であることになります。物質の吸収は、波長により異なりますから、モル吸光係数も波長によって異なります。したがって、原理的には、別の波長で測定することにより、別の係数を使って濃度を計算することも可能です。ただ、通常は、吸収の大きなところで測定したほうが定量の誤差は小さくなりますから、吸収のピーク波長を使います。また、複数の色素を同時に測定する場合には、当然、2つ以上の波長で測定をしなければなりません。(2015.11.7)


Q:光合成が人工的に再現できないのはなぜですか。(2015.10.1)

A:根粒菌などが窒素からアンモニアを合成する窒素固定の反応も、なかなか実現するのが難しい反応ですが、これは、生物的な方法とは全く異なる方法で、人工的に再現することができます。これは、主に、この反応が一つのステップの反応、生物的に言えば一種類の酵素で実現しうる反応である、という理由が大きいでしょう。それに対して、光合成の反応は、光の吸収、電荷分離反応、電子伝達、プロトン濃度勾配の形成、ATPの合成、そして二酸化炭素の有機物への変換と、きわめて多くのステップからなる非常に複雑な反応系です。関わるタンパク質の種類数は100ではききませんし、膜の構造や光合成に関わる成分が空間的に適切に配置されなければなりません。このような複雑さが理由の一つ目です。
 もう一つは、水の分解という反応の特殊性です。1分子の水を分解するためには、4つの電子が水分子から引き抜かれることが必要です。つまり、水の分解という反応を進めるためだけに4つのステップが必要なのです。これが、もう一つの理由でしょう。光合成の反応の複雑さについては、「光合成とはなにか」などを読めば理解していただけると思います。(2015.10.1)


Q:初めまして、私は企業に勤めるものですが、ソーラーシェアリングという仕事に携わっております。作物と上空に設置するソーラーパネルとの関係について担当するものですが、作物と1日の日射時間によって光飽和点が同じ作物でも育ち方に違いがあることが、私たちの実証実験でわかりました。また、C4植物であるトウモロコシをパネルの下(上空を30%の面積率でパネルを設置)で栽培して地面に反射シートを置くだけで露地と変わらない実の付き方になることも確認しました、ただし糖度や成分は不明ですが。そんなことから単に飽和点だけでは判断できない事実から、ほかにどんな要素が考えられるのか?また、作物の育つ4月から収穫の10月まで照度という見方からどれだけ違いがあるのかのデーターを調べたいのですがなかなか、データーが見つかりません。飽和点と日射時間の関係、四季の日射量や照度の推移の調べ方と関係がわかればご指導ください。より良い栽培の目安としたいと考えています。(2015.9.7)

A:文脈から判断すると、ここで光飽和点と言われているのは、もしかしたら最大光合成速度でしょうか。光飽和点というのは、最大光合成速度を与える光量ですが、光合成速度は緩やかな飽和カーブを描くのが普通ですから、明確な光飽和点は実際上は定義できません。以下、光飽和点は最大光合成速度のことだと仮定してお答えします。
 最大光合成速度は、光量に対して飽和した条件での光合成速度ですが、実際には、曇りの日には光は弱くなりますし、晴れた日でも朝晩は光が弱くなります。したがって、実際には、植物が最大光合成速度を発揮できる時間はそれほど多くはありません。一方で、弱光条件での光合成速度は、最大光合成速度に単純に比例するわけではなく、植物の種によって大きく変化します。当然ながら最大光合成速度だけでは、植物の生育は判断できないことになります。さらに同じ植物でも、強光条件の葉(陽葉)と弱光条件の葉(陰葉)では光合成の速度は変化します。この辺りについては、光合成の基本的な教科書か、「光合成とはなにか」などを読んでいただければと思います。
 もう一点の「照度という見方からどれだけ違いがあるのかのデーター」は、何を意味されているのかがよくわかりませんでした。ただ、上の議論からでもお分かりになるように、実際の光合成量は、一日の光量の平均が同じであっても、光量の頻度分布が異なれば、変わってきます。単純に一つのパラメータを調べたら光合成の速度から生育を見積もることができるのではないか、と期待されているのであれば、それは非常に困難だと思います。(2015.9.7)


Q:Q1:オオカナダモには気孔が無いそうですが、光合成に必要な二酸化炭素を葉から吸収しているとすれば、細胞壁や細胞膜は、物質を透過しやすい性質があるのでしょうか。水中にはオオカナダモにとって有害な細菌や菌類が多くいると思います。これらから体を守るためには、侵入しづらい構造が必要だと思います。物質を出入りさせる必要性と、侵入する細菌や菌類から体を守る必要性を同時に満たすことができる、都合の良い構造や機能があるのでしょうか。
 Q2:オオカナダモのような水草は、茎から切断されても死なず、根が生えてきます。体を作るために必要な硝酸イオンや栄養塩類は、植物全体から吸収されるのでしょうか。通常は細胞膜はイオンを透過しづらいと思いますが、植物細胞では、栄養塩類などが細胞膜を透過して入るのでしょうか。(2015.8.9)

Q:1.二酸化炭素は低分子であってイオンでもないので、拡散によって細胞膜を透過することができます。その上、細胞膜には、特定のタンパク質があり、これによってさらに拡散速度を上げることもできます。さらに、細胞壁はセルロースの繊維からできており、基本的に内部に空間を持っており、低分子の物質は簡単に透過することができます。実際には、陸上植物の葉では、細胞壁の外側のクチクラ層と呼ばれるワックスを主体とした層によって二酸化炭素や水蒸気を通さないようになっています。つまり、細菌などの大きなものに対しては細胞壁や細胞膜がバリアーになる一方、二酸化炭素などの低分子の物質に対してはクチクラがバリアーになっているわけです。この場合、対象となる物質の大きさが1万倍ぐらい違うので、「都合の良い構造」を作ることができることになります。
 2.水草では、葉などからも栄養塩類を吸収できることが知られています。確かにイオンは細胞膜の脂質二重膜の部分を透過しにくいのですが、それは根でも同じことです。根では細胞膜中の特定のタンパク質によってイオンを透過させています。従って、葉でも、同様な機構を持てばイオンを透過させて吸収することができます。ちなみに、陸上植物の葉ではクチクラ層もありますし、イオンの透過性は低いのですが、尿素など、イオンではない低分子物質は、ある程度葉の表面から吸収されます。 (2015.8.10)


Q:この夏の自由研究に、ヨウ素デンプン反応をいろいろと試みております。反応をして黒紫色に染まった葉を、押花のように保存していますが、2〜3日経過すると、色調が薄くなっていきます。早いものは1日ほどで色が薄くなっております。これをもう一度ヨウ素液に漬けてみると、またもとのように染色できますので、デンプンが消失しているわけではないようで、純粋に反応した色調が薄まってしまうようです。これは乾燥のために起こるのか、酸素に触れることによって起こるのか、ヨウ素自体が光に不安定なものであるためか(褐色ビンに入れてあることより光に不安定なものと理解していましがいかがでしょうか。)どのような理由から起こるのでしょうか。今のところ、デジタルカメラで反応直後の葉を撮影保存しています。もし、酸素に触れることによって起こるのであれば、プラスチックのシールドで覆えば変色を止められるのではないか、と考えましたが、シールドを購入する前に質問させていただきました。せっかくですから、写真ではなく生標本を保存して纏めたいと思うのですが、ヨウ素デンプン反応の色調をそのまま標本として保存する方法は何かございますでしょうか。よろしくご教示いただけましたら、幸いに存じます。(2015.8.2)

A:これは今まであまり考えたことがありませんでした。申し訳ありませんが、正解を僕は知りません。一般にこの手の発色は、おっしゃるように光照射(光に当てると退色する)、酸素(酸素と反応して退色する)、乾燥(濡れていた方が色が見やすい)といった要因で色が見づらくなりますが、ヨウ素デンプン反応の場合、どのような要因で退色するかを知りません。1日で退職する原因が光による分解である可能性はそう高くないように思いますが、ヨウ素が光に弱いのは確かです。プラスチックシートは案外酸素を通すことがあるので、素材にもよりますが、やや難しいかもしれません。お役に立てずに申し訳ありません。もし、いろいろ実験されて原因がわかりましたら、むしろ僕の方がぜひ教えていただきたいと思います。(2015.8.2)


Q:植物の栽培研究をしている大学院のもの(2回目の質問)です。効率的な光合成サイクルについての質問です。普通植物は午前中に光合成量が最大になって、その後どんどん落ちていき、夜になって光合成産物の転流(昼間も行われる)や呼吸を行いますが、もし環境を人工的に制御できる場合(人工光型植物工場など)に光合成量が次第に落ちていき夜になるまでの時間と、呼吸により同化産物を消費する時間をカットした場合(例えば明期12h暗期12hで24hのところを、明期6h暗期6hを2サイクルで24h)植物はより大きく育つと思うのですが、光合成の観点から見てこの考えに何かおかしな点はあるでしょうか?質問が投げやりになり申し訳ありませんが、回答のほどよろしくお願いします。(2015.7.21)

A:「午前中に光合成が最大」になることがあるのは確かですが、それは環境条件によります。まずは、そのようになる光合成のメカニズムを考えないといけないでしょうね。午前と午後とで、光量が同じ程度になる時間帯を選んで光合成速度を比較すると、午前中の方が光合成速度が高くなる例が確かに多く見られます。この原因は複数考えられますが、一般的には、空気中の相対湿度と土壌の水分含量が午後には低下することにより気孔が閉じていくために、光量が同じでも光合成速度が低下するという要因の寄与が大きいと考えられます。とすると、人工的な生育環境では水分供給と湿度調節が行われると想定されますから、「午前中に光合成が最大」という前提条件が成り立つのかどうか、というそもそものところで疑問符がつきます。植物の光合成は、光以外の環境要因によっても大きく影響を受けますから、具体的な環境調節の詳細がわからない状況で議論するのは難しいように思います。(2015.7.22)

Q:午後での光合成の低下は先生が仰った通り、空気中の相対湿度と土壌の水分含量が影響していますが、そのほかにも葉に光合成産物が蓄積されることによるルビスコやチラコイドタンパク質のような光合成関連遺伝子群の発現により光合成能力が低下すると私は考えております。よって光合成産物がある程度できたら、すぐ転流させるほうが効率的ではないかと思い質問させてもらいました。また呼吸時間の削減についてですが、(品種によって異なりますが)夜中から明け方まで呼吸により同化産物を消費してしまいますが、その時間を削減できれば、より生育が良くなると考 えたのですがどうでしょうか?(2015.7.23)

A:まず、光合成関連遺伝子群の発現抑制についてですが、よく知られているのは、糖が葉にたまった状態でおこるシンクリミットです。シンクリミットは、根などの光合成産物の最終貯蔵場所が制限された場合、特に二酸化炭素濃度を上げた場合などに、ある程度の長期的応答として起こります。植物の種類によっても異なるので、一般論としてまとめるのは難しいのですが、一般に昼間に転流速度に追いつかなかったために葉内に蓄積した光合成産物はデンプンとして貯められます。そして、シンクリミットが生じた場合は夜間の転流によって葉内のデンプンを消費しきれなくなり、葉内の糖の濃度が上昇して遺伝子発現が抑制されます。つまり、夜間の転流によるデンプン分解が正常に行われている条件化では、遺伝子の発現抑制はそれほど起こらない、というのがむしろ普通の考え方なのではないかと思います。逆に考えると、植物は、夜に光合成産物を転流できる範囲に光合成の速度を調節しているはずなので、夜の長さを変化させることは、植物にとって必ずしもプラスに働かないように思います。
 次に、呼吸の速度についてですが、夜間の呼吸速度については、植物の種類によって、夜の初めに高く、徐々に呼吸速度が低下して明け方に最低になるタイプと、夜中一定の呼吸速度を保つタイプがあります。後者の呼吸速度が一定のものの場合、呼吸の総量は経過時間だけによりますから、12時間の暗期が1回でも6時間の暗期が2回でも、結果は同じになります。一方で、前者の場合、6時間を2回にすると、呼吸速度が高くなる時間帯が2倍になりますから、呼吸の総量は暗期を2回にすると増えることになります。つまり、どちらの場合でも夜を2回に分けると呼吸は同じか増える計算になります。「時間を削減」とありますが、夜の時間の合計が変わらなければ、時間の削減にはならないはずですから、削減しようと思ったら夜を短くするしかないのではないでしょうか。(2015.7.23)


Q:お世話になります。ネットで調べていてこのHPにたどり着きました。よろしくお願いします。子供の夏休みの自由研究を手伝っています。研究テーマは大豆の子葉の働きについてです。植物の成長には子葉は必要と思われますが、子葉に日光を与えないようにアルミホイルで子葉のみをつつんで成長の違いを観察しています。研究の中で発芽直後の子葉とアルミホイルでつつんで日光を20日間当てなかった子葉の切片標本を顕微鏡で観察しました。結果ですが発芽直後のものは細胞内や気孔付近に多数の葉緑体を認めましたが、アルミホイルで包んだ子葉はごく少数となっていました。これは日光を当てなかったことにより葉緑体が減ったということでよろしいのでしょうか? またこの葉緑体の減少は恒久的な減少と考えた方が良いでしょうか?それとも一時的なもので、日光を当てれば回復するのでしょうか?もう一つの可能性として子葉としての役割が終了して減っている(加齢による)とも考えましたが、光合成をしないことによる葉緑体の死滅(?)または消滅というのはあり得るんでしょうか?ご教示よろしくお願いいたします。(2015.7.11)

A:1.「日光を当てなかったことにより葉緑体が減った」というのは実験事実そのものですから、その通りと考えてよいと思います。2.葉緑体の減少が一時的なものかどうかは、せっかくの自由研究ならば、是非、自分で試してみるとよいと思います。3.葉緑体の減少が加齢による可能性はあると思います。実際に、完全暗所下では、葉の老化が早く進行するという実験があります。
 答えとしては以上ですが、つまらない「実験」と面白い「研究」の分かれ目になるのは、実験をした後に考えてそれに基づく仮説を立てて、その仮説を証明する実験をさらに行う、という繰り返しをしているかどうかなのです。実験をして考えておしまい、という場合は、研究とは言えません。実験をして結果が出て、そこでいろいろ疑問が生じたのだと思いますが、それこそ次の実験につながる重要な疑問ですから、是非、自分の実験によってその疑問を解決するようにするとよいと思います。そうするとただの実験から立派な研究に昇格すると思います。まだ、もう少し夏休み期間はあると思いますし。(2015.7.11)


Q:真核性の植物プランクトン(特に珪藻)の浮力に興味を持っております。光合成活性が高く、盛んに発生している酸素が単細胞藻の浮力に貢献することはないのでしょうか??藍藻はガス胞で浮力を調節しているようですが、不勉強でお恥ずかしいのですが真核性の単細胞藻で、そのような機構は聞いたことがありません。中性脂肪の蓄積、細胞の大きさ等、浮力に与える因子は多く、浮力には複雑な要因が絡まっていると思いますが、ご知見を頂けましたら幸いです。(2015.6.26)

A:珪藻で一般的に考えられているのは逆だと思います。栄養条件がよい場合は、比重はほぼ海水と同じで珪藻は海面付近にとどまります。一方で、栄養条件が悪くなると、光合成産物が蓄積して炭水化物などがバラストとして働き、沈降します。ただ、実際の細胞の動きは、ご指摘のように細胞の大きさなども含めて複雑な要因が関与していますし、生育光によっても浮力が変わるという報告もあります。種によってもかなり異なるのではないでしょうか。(2015.6.26)


Q:中学校のいろんな教科書や資料集に光合成のガス交換は、気孔で行われているとなっています。しかし、光のあたらない夜の呼吸のガス交換も、気孔となっています。夜は基本的に気孔は閉じているのではないのでしょうか。夜の呼吸のガス交換は、気孔ではなく植物の表面全体を使うのではないのでしょうか。また昼間のガス交換も光合成の気孔とは全く別で、表面全体なのでしょうか。宜しくお願いします。(2015.6.23)

A:確かに夜は気孔は閉じているはずなので、呼吸によるガス交換が気孔を通しておこっているように書かれている図は、本当は変ですね。ただ、葉の表面を使う必要は、実はあまりないと思います。光合成で使う二酸化炭素は、空気中の0.04%です。一方で、呼吸で使う酸素は、空気の21%を占めます。しかも植物の呼吸速度は、最大光合成速度の1/10程度です。つまり、光合成をする際に入れ替えなくてはならない空気の量と比べると、呼吸のために入れ替える必要のある空気の量は1/10 x 0.04 / 21 = 約1/5000 になります。つまり、光合成のガス交換に比べれば、呼吸のために「ガス交換」をする必要はほとんどない、ということですね。これは昼間でも同じですが、昼間は光合成によって酸素が作られていますから、なおさら呼吸のために酸素を取り込む必要はありません。(2015.6.23)


Q:光合成で使う二酸化炭素は、気孔から取り入れられますが、その後どこを通って各細胞に運ばれるのですか?同様に、放出される酸素は各細胞の葉緑体で作られた後、どこを通って気孔に運ばれるのですか?(2015.6.10)

A:腸炎で5日間入院していたもので、大変回答が遅くなりました。気孔から葉の中に入った二酸化炭素は細胞と細胞の隙間(細胞間隙)を通って各細胞表面まで運ばれます。植物の細胞間隙は液体ではなく、空気で満たされています。葉緑体は、細胞の細胞間隙に面した部分の内側に張り付くように存在しており、細胞に溶け込んだ二酸化炭素はそのまま葉緑体に取り込まれます。発生した酸素は同様の経路で気孔まで戻ることができます。ただし、二酸化炭素は空気の0.04%を占めるに過ぎませんので、その分が光合成により全部酸素になったとしても、空気中の酸素濃度は21%が21.04%になるだけですから、ほとんど濃度変化は観察されないことになります。(2015.6.15)

Q:1.「葉緑体は、細胞の細胞間隙に面した部分の内側に張り付くように存在しており」とありますが、葉緑体が発達した細胞では、細胞内のほとんどが葉緑体で占められている場合があると思いますが、そのときはどのように各葉緑体へ、二酸化炭素が運ばれるのですか。(原形質流動で葉緑体が動くときに渡されるのかなと思いましたが・・・)
2.細胞間隙は細胞どうしの接合面であると捉えていますが、そうなるとかなりの通路となると思うのですが、どの細胞にもまんべんなく二酸化炭素を運ぶことはできるのでしょうか。(2015.6.15)

A:1.「細胞内のほとんどが葉緑体で占められている場合」というのは通常見られません。植物の細胞の体積の多くを占めるのは、むしろ液胞で、これが細胞の中心を占めており、他の小器官はその周りに押し付けられるようになっていることがほとんどです。透過型の光学顕微鏡で見ると細胞内にまんべんなく葉緑体が散らばっているように見えますが、立体的にはほとんどの葉緑体は細胞膜にくっつくようにして存在しています。これは、葉の切片の電子顕微鏡観察により確認することができます。細胞の中に入ってから葉緑体までは主に拡散によって二酸化炭素が運ばれます。二酸化炭素の濃度差があって、ごく短い距離の場合は、単純な拡散でも効率よく二酸化炭素が運ばれます。拡散の効率は距離が長くなるとぐっと悪くなるので、葉緑体は細胞膜のそばにいる必要があるのです。
 2.細胞間隙は、細胞の接合面ではなく、空気を含んだ隙間です。中学の1年生の理科の教科書の最初には、たいてい葉の切片の光学顕微鏡写真もしくは模式図が載っています。これを見ると葉の裏側の細胞は、ばらばらと存在していて、間のスペースがかなりあることがわかります。この部分はたくさん穴が開いているので海綿状組織と呼ばれます。一方、葉の表側の細胞は縦長の細胞がびっしり横に並んでいて隙間がなさそうに見えます(この部分は柵状組織と呼ばれます)。しかし、実際にはこの縦長の細胞は立体的には円柱状であり、それを束ねても角柱の場合とは違って必ず隙間が残ります。気孔から入った二酸化炭素は、海綿状組織の隙間をとおり、さらに柵状組織の円柱の隙間を通ってそれぞれの細胞まで運ばれるのです。(2015.6.16)


Q:お忙しい中失礼致します。私は現在美術大学に通っている者です。あまりにも分野違いで申し訳ないのですが、デザインの分野と人工光合成を合わせた気になる記事を見つけたため質問させていただきます。1年ほど前の記事になるのですが、「人工の葉っぱが光合成する日が来た」(http://www.gizmodo.jp/2014/08/post_15169.html)という記事を見つけました。そのなかで”この人工葉は絹タンパク質から作られた素材で作られており、その中に実際の植物細胞から抽出した葉緑体が閉じ込められている。絹タンパク質からできている素材は光と水を与えると中の葉緑体が酸素を作ってくれるのだ。”とありますが、これだと本来光合成で発生するデンプンなどの有機物の説明がつかないかのように思います。また、「光合成とはなにか」の中で、電子伝達を行う人工光合成の研究について少し触れられておりました。そこでは、人工光合成の場合タンパク質を使うわけにはいかないし、そもそも色素や電子給与体、電子受容体を適切な位置に固定するのが難しいとありました。それらのことを考えると、この人工葉はあまり信憑性がないものなのでしょうか。また、もし仮にこの人工葉が機能するならば逆に葉緑体をもった絹糸などを作ることも可能なのでしょうか。大変に長くなってしまい申し訳ございません。よろしくお願致します。(2015.5.21)

A:僕もこの記事は読みましたが、基本的には信憑性がないと判断しました。植物から葉緑体を単離すること自体は可能で、光合成の研究者なら日常的にやっている人も多いのですが、取り出してしまうと活性を保てるのはわずかな時間です。特に二酸化炭素を有機物に変える反応の部分はすぐにだめになります。一方で、水を分解して酸素を出すほうは、多少強いのですが、その場合でも室温ではせいぜい数時間でしょう。ご指摘のようにデンプンに触れられていないのは、もしかしたら、二酸化炭素を有機物に変える反応の部分はダメになっていることが前提なのかもしれません。なお、ここで使われているのは葉緑体のようですから、タンパク質などは葉緑体の中で(少なくとも最初の内は)色素などを適切な位置に固定しているはずです。いずれにせよ、どんなに好意的に見積もっても、作った翌日には、もうこの葉っぱが光合成をすることはないと思います。(2015.5.21)


Q:お忙しい中失礼いたします。各教科書、資料集、問題集内の光合成速度のグラフにて、光補償点および光飽和点の点の位置がまちまちに表示されておりますが、どの位置が正しいのでしょうか。大抵のグラフには二酸化炭素吸収速度が0の横の直線に点が打ってあります。ごく一部の教科書のグラフには、その下の光の強さの横軸の線に点があります。光合成速度と呼吸速度が等しくなる時の「光の強さ」が光補償点、それ以上光を強くしても光合成速度が変わらなくなる時の「光の強さ」を光飽和点、と説明が書いてあるので、国語的には光の強さを示した下の横軸の点をさすべきとは思うのですが・・・。説明がわかりづらいかもしれませんが、ご回答いただければ幸いです。(2015.4.30)

A:ご指摘のように、光補償点はある条件の「光の強さ」を示すものですから、横軸上の特定の位置を指すのがわかりやすいと思います。ただ、ご説明のように横軸以外のところに点が打ってあったとしても、それが「光の強さ」を明確に示すと解釈できる場合は、特に問題ないようにも思います。グラフ上の任意の点の座標は「光の強さ」と「二酸化炭素吸収速度」であらわされますから、どの点であっても「光の強さ」を示していると言えなくはありません。
 ちなみに、光補償点は、定義上きちんと決まる値ですが、光飽和点は実際には存在しません。理論的な光合成曲線において、光合成速度は最大光合成速度を漸近線とする飽和カーブを描きます。漸近線と曲線が交わるのは無限大のかなたですから、理論上は「それ以上光を強くしても光合成速度が変わらなくなる」点は無限大です。そのようなこともあり、新しい教科書では光飽和点の記述は減ってきていると思います。(2015.4.30)


Q:現在日本では植物工場が増え、人工光源(LEDなど)を用いた栽培が行われています。よって私が属している農学部では、どの光源(波長)が最も植物の生育に適しているのか?という研究が多く行われています。具体的には、一般的に光合成は青色と赤色の波長域を効率的に吸収するので、青色のLED、赤色のLED、また青と赤を1:1で含んだLEDなどを作り、生育に対する影響を調査しています。ここからが質問です。私たちの研究室も上記のような実験をおこなった結果、赤色、青色ではなく白色が最も生育が健全でした。(すべての処理区は同じPPFDに設定)この結果は植物はある特定の波長域よりも、広い波長域を含んでいるほうが生育がよいという結果でしたが、このようなことが起こる原因は現在の光合成の研究から見て、何か推察することは可能でしょうか?何かありましたら教えていただけると幸いです。よろしくお願いします。(2015.4.29)

A:もしかしたら、前提条件に問題があるのかもしれません。「白色が最も生育が健全」とのことですが、「健全」の定義は成長速度(例えば単位時間に増加する乾燥重量)がもっとも高い、ということでしょうか。最近の光合成研究の進展に書きましたように(4年前の記事なので今から考えるとあまり最新ではありませんが)、光質の違いは、むしろ光受容体を通して植物の形態に大きな影響を与えます。植物体の「見た目」は光質によって大きく影響を受けますが、それは「生育」とは別の観点から評価すべきことでしょう。またもう一点、同じところに書きましたように、「光合成は青色と赤色の波長域を効率的に吸収する」というのは嘘ではありませんが、光の色が光合成の効率を通して植物の成長に与える影響は実際には極めて小さいと考えられます。そもそも吸収光あたりの光合成の効率は青い光で一番低くなります。さらに光が強いときには、表面で吸収されてしまう赤と青の光よりも緑色の光のほうが効率がよい場合もあることが報告されています。このあたりが観察された現象の原因となっている可能性があるように思います。(2015.4.29)


Q:1.ある材料(金属、セラミックなどの)表面に葉緑体だけをならべても、水、光、二酸化炭素を与えれば光合成は起こるのでしょうか?もしそうならば、材料表面に葉緑体を吸着させる技術をもって”光合成する建造物”などが作れる可能性があります。
2.そのような材料を作成する際に葉緑体単体あるいは溶液が必要なのですが、葉緑体のみの販売はされているのでしょうか?あるいは葉緑体を入手する方法はあるのでしょうか?
3.走査型電子顕微鏡(SEM)などの装置で試料の微細構造を真空観察するとき、観察前に試料を乾燥させる必要があるのですが、葉緑体はどの程度まで耐熱性があるのでしょうか?(2015.4.17)

A:1.葉緑体が光合成をするのに直接必要なのは、水、光、二酸化炭素ですから、その意味では材料表面であろうとなかろうと光合成をさせることはできます。ただ、これは、動物から眼球を摘出して、枠に固定して光を入射させた場合、レンズの効果は見られるか、というのと同じレベルの話です。取り出した直後は機能するでしょうけれども、少し時間がたてばたちまち機能を失うと思います。
2.葉緑体は市販されていません。上に述べましたように、取り出したあとに機能する状態を長時間保つのは不可能ですから、流通させることは不可能なのです。自分で取り出すことは、それほど難しくありません。ホウレンソウを八百屋さんから買ってきて0.4 M程度の砂糖(浸透圧を保つため)を加えた緩衝液(pHを保つため)を加えてジューサーでジュースにしてガーゼで濾した液は、葉緑体の懸濁液と考えることができます。ただし、これだけだと葉のかけらや壊れた葉緑体なども混ざっていますから、壊れていない葉緑体だけをここから取り出そうとすると、密度勾配遠心などによる精製手順が必要になります。
3.温度もさることながら、乾燥すれば機能も構造も失われます。これも動物をイメージして頂くのがよいと思います。ミイラを観察して、得られる情報もあることはあるでしょうけれども、ミイラの観察結果から生きた人間の構造を議論することは極めて難しいと思います。(2015.4.18)


Q:はじめまして。私はたまねぎを生産している農業者です。たまねぎは、発芽をさせるためにハウス内にトンネルをつくり被服資材をかけて生育させます。その管理の段階で、日中たまねぎがもやしにならない様に日光をあてます。できるだけ外気に触れさせたくないため、気温の事だけを言えば、日中よりも1時すぎぐらいに日光にあてるのが理想的ですが、それだとすぐに外が寒くなってしまい1時間半ほどでまた被服資材をかけなければなりません。ここで質問なのですが、もやしにさせないようにするためには沢山光合成をさせる必要があると思いますが、
・クロロフィルができるのは光を当たっているその時なのでしょうか?
・緑化をさせるために必要な時間と積算温度はどのくらいでしょうか?
お忙しいと思いますが、ご回答いただけると幸いです。(2015.3.15)

A:一方で、緑にならないと光合成はしませんが、緑化自体は光合成とは独立に(つまり光合成をしなくても)進みます。光合成にはある程度の強さの光が必要ですが、光合成に必要な光よりもずっと弱い光で緑化は進むのです。もやしを暗いところで育てると、クロロフィル自体はできないのですが、クロロフィルの原料となる物質がたくさんたまります。ここに光を当てると溜まっていた原料が急速にクロロフィルに変化します。クロロフィルの合成自体は光が当たっているその時だけに起こりますが、速い反応なので、長い時間は必要ありません。ですから、本当に玉ねぎでどうなるかは知らないのですが、一般論としては、一日に1時間半ほどでも光が当たれば緑化は進むのではないかと思います。また、温度に関しても、植物が生育できる温度であれば、問題なく緑化は進むと思います。(2015.3.15)


Q:農業用水として使用しているため池(総貯水量30万?、満水面積8ha)に水上式太陽光発電所(敷設率20%)を計画しております。この場合、夏場の水温上昇を少しでも抑えてアオコの発生も抑えられると考えておりますが、約20%敷き詰めた太陽光発電設備によって水中にある藻類の光合成が減り、ため池内の生態系に悪影響を与える事は考えられますでしょうか?(2015.3.7)

A:生態系に「変化」があるか、というご質問だとすれば、ご質問にあるようなアオコの減少の可能性も含めて、十分に考えられると思います。光量のが2割減るというのはかなり大きな違いでしょう。一方で「悪影響」というのは、おそらく人間が善悪を判断するのですよね?そうであれば、生態系というよりも農業用水への影響という観点になると思いますから、その専門家にお尋ねにならないとわからないと思います。(2015.3.7)


Q:大学で,トウモロコシを用いて葉のガス交換などに関する研究を行っております.葉の気孔コンダクタンスについてご質問させていただきたいです.気孔開閉を調節するシグナルとして,“大気中の湿度→多いと開く,土壌の湿度→多いと開く”というものがありますが,温度など他の条件を同じにしたときに「大気中の湿度」と「土壌の湿度」はどちらの方が気孔開度に強く影響を及ぼすのでしょうか?例えば,湿度30%+土壌水分60%(体積含水率)と,湿度80%+土壌水分15%について,どちらの方が気孔が開くといえるでしょうか?(2015.1.15)

A:申し訳ありませんが、僕にはわかりません。気孔の開閉のメカニズムについては、だいぶいろいろとわかってきていますが、ご質問のような各要因の定量的な寄与度については、あまりデータがないのではないでしょうか。気孔の開度は、環境要因のパラメータに対して直線的に応答するわけではありませんから、特定の条件での気孔開度を、その条件からだけ見積もることはおそらく困難です。例として挙げられた2つの条件の気孔開度を知ろうとしたら、実際にその条件にして実験をしてみなければならないのではないかと思います。しかも、気孔の開閉にはある程度の時間がかかりますから、連続的に要因を変化させて一度にデータを取るわけにもいきません。さらには、その時の気孔開度は湿度や土壌水分以外の環境要因によっても当然左右されるでしょうし、その影響も直線的なものとは限らないと思います。実験をするにしても、かなりいろいろ考えて実験系を考えないといけない気がします。(2015.1.15)


Q:気孔の開閉が最も盛んなのが7時から9時と聞いたのですが、その理由はなんですか????光合成には気孔が必要と聞いたので、気孔の開閉によって光合成の量は変わるんですか?(2015.1.12)

A:中学の理科で習ったことと思いますが、植物は気孔から取り込まれる二酸化炭素を材料に光合成をします。したがって、気孔が閉鎖して二酸化炭素が取り込めなくなれば光合成は低下します。気孔は、金魚のように口を開いたり閉じたりして気体を取り込むわけではありません。「気孔の開閉が盛ん」という現象自体、ふつうは見られないと思います。(2015.1.12)


Q:光合成の量で植物の生育に変化はありますか?たとえば午前と午後での違い。光合成は時間帯でいうとどの時間が一番盛んに行いますか?その理由も教えていただきたいです。(2015.1.10)

A:植物は光合成によって生育しています。基本的には光合成で稼いだ分以上に生育することはできません。光合成は光によって進む反応です。一日のうちで光が強くなる時間帯に光合成の速度は上がります。ただし、水不足が生じるような条件では真昼の光合成の低下がみられる場合があります。(2015.1.10)


Q:大変勉強させていただいたおります。弱光下でアンテナ複合体が増える現象(一時的?)は一般的に受け入れられていると思いますが、弱光下で起こるどういった生理的変化に応答してアンテナ複合体が増えるのでしょうか?例えば、弱光下ではプロトン勾配が低下したり、ATPが少なったり、ATPを使ったエネルギー代謝が下がったり、炭素固定が低下したり、結果炭水化物がなくなったり、いろんな弊害がでてくると思います。そのような生理的影響の何に最も応答して、アンテナ複合体が増えるのか(制御機構の概要)を知りたく思っております。知識不足で質問させていただきますことご容赦頂けましたら幸いです。(2015.1.5)

A:実は、この辺りは完全には解明されていないところだと思います。短時間の光量変化への馴化応答であるステート遷移などについては、電子伝達系の構成成分であるプラストキノンの酸化還元状態がシグナルになっていることがわかっています。このプラストキノンの酸化還元状態によって発現が制御されている遺伝子も知られており、陸上植物のアンテナ複合体LHCのサブユニットをコードする遺伝子の発現も光強度によって変わることが知られていますから、プラストキノンプールの酸化還元が一つの有力な候補になると思います。ただし、光強度の変化に対するアンテナ複合体の量の調節は、数日かけて起こるゆっくりした応答ですので、その因果関係をきちんと実験的に示すのは案外困難です。一方で、同じ光合成生物でも、シアノバクテリアの場合は、プラストキノンプールの酸化還元よりは、光化学系Ⅰの還元側(つまりストロマのフェレドキシンやNADPHあたり)の酸化還元状態によって遺伝子の発現が制御されているという報告があります。ただ、いずれの場合でも、電子伝達系の酸化還元状態をモニターしているようですので、酸化還元状態による制御(いわゆるレドックス制御)によっている可能性が高いように思います。(2015.1.5)