光合成の質問2003年以前

このページには、寄せられた質問への回答が新しい順に掲載されています。特定の知りたい情報がある場合は、光合成の「よくある質問」(FAQ)のページに分野別に質問を整理してありますので、そちらをご覧下さい。


Q:お忙しいところまことに申し訳ありません。
 葉緑体のチラコイドの構造についてなのですが、ある問題に葉の表にある細胞のチラコイドは裏にある細胞のチラコイドより量が少ないとありましたが、これは本当でしょうか?表のほうが光が強いのでチラコイドも発達しているようなきがするのですが・・
 また、クロロフィルaである波長の光を吸収するしたあとクロロフィルbで吸収するほうが、bで吸収したあとにaで吸収するより効率がよいということもありましたが、これはいかなる理由なのでしょうか?いろいろな専門書をあたってみましたが、見つけることができなかったのですがどのような本を調べたらよいのでしょうか?
 お時間のあるときでかまいませんのでお教えいただければ望外の幸せです。(2003.12.24)

A:チラコイド膜に関しては、「量」ではなく、「重なり」かと思います。葉緑体中のチラコイド膜は、部分的に「スタック」と呼ばれる数重の積み重なり構造をとります。この積み重なり構造は、葉の裏にある葉緑体で枚数が多いことが知られています。同様に、陰葉と陽葉を比べると陰葉の方で枚数が多くなります。
 光化学系IIは、光化学反応を直接行なう反応中心と、光を捕集するアンテナ複合体から構成されますが、実は、アンテナ複合体が多いほど上記のチラコイド膜の重なりは多くなります。光が弱い環境では、より光を多く集めようとアンテナ複合体の量を増やすため、結果的にチラコイド膜の積み重なりも多くなります。なぜ、積み重なり構造を作るのかという生理学的な意義については、まだよくわかっていません。
 クロロフィルに関しては、「クロロフィルaである波長の光を吸収するしたあとクロロフィルbにエネルギーを受け渡すよりも、bで吸収したあとにaに受け渡す方が効率がよい」ではないでしょうか。クロロフィルaとbの吸収スペクトルを比べると、bの方がより短波長の光を吸収します。つまり、よりエネルギーの高い光を吸収します。そのため、bからaへのエネルギー移動は、高い方から低い方へのエネルギー移動となって効率がよいのですが、aからbへのエネルギー移動は、低い方から高い方への移動となりますので、効率が悪くなります。上記の例で言うと、反応中心はクロロフィルaだけを含み、アンテナ複合体はクロロフィルaとbを両方含みます。つまりアンテナのクロロフィルbによって吸収された光も、最終的には反応中心のクロロフィルaに渡されて利用されることになります。
 クロロフィルaとbの吸収波長の順番は、赤い部分の吸収帯と青い部分の吸収帯で逆になっていますので、この点について少し長くなりますが以下に補足しておきます。
 物質は、一番安定な基底状態の他に、より高いエネルギーを持つ励起状態を持ちます。基底状態と励起状態の間のエネルギーの差に等しいエネルギーを持つ光(必ずしも可視光でなくてもよい:電磁波)があたるとそのエネルギーを物質が吸収して励起状態となります。これが光の吸収です。
 一方、励起状態は複数の状態が可能で、従って、吸収帯も複数ある場合があります。クロロフィルの赤の吸収と青の吸収がその例です。しかしその場合でも、より高い励起状態は、極めて短い時間の間に一番低い励起状態にまで落ちてしまうのが普通です。この際の差のエネルギーは熱になってしまい、利用できません。つまり、青い(よりエネルギーが高い)光を吸収したクロロフィルも、すぐに赤い光を吸収したクロロフィルと同じ状態になってしまうのです。従って、他の色素のエネルギーを渡す場合などは、一番低い励起状態がどれだけのエネルギーを持っているか(別の言い方をすると、一番波長の長い吸収帯がどの波長にあるか)、だけが問題で、より短波長の吸収帯の位置は(エネルギーの利用の観点からは)意味がないのです。
 ちなみに、光合成の効率を示すのに、「量子収率」というものが使われます。これは、光量子(光子)1個があたったときに、光合成に有効な反応が起こる確率です。これだと、赤い光でも青い光でも量子収率は同じになります。一方、普通、効率というとエネルギー効率(当てた光のエネルギーのうちどれだけが光合成に使われたか)が頭に思い浮かびますが、これだと、赤い光が当たったときに比べて、よりエネルギーの大きい青い光が当たったときは、最低励起状態になるまでに熱で失われるエネルギーが大きいので、見かけ上エネルギー効率が低くなります。これだと不便なので、量子収率が使われるのです。


Q:植物プランクトンが死滅することでクロロフィルaがフェオフィチンになることはわかったのですが、その後フェオフィチンは何か別の物質に変化するのでしょうか?教えてください。(2003.12.22)

A:一般的にクロロフィルやフェオフィチンの分解は、ポルフィリン環からフィトールが切り離されて、さらに分解されていきますが、植物プランクトンの場合は、死んだあとの話なので、生物学的な過程ではありません。従って、その時の温度、光、などの環境によって一定ではないと思いますし、また、生物学者はあまり研究をしていないと思います。
 一方、老化した葉などでのクロロフィルの分解は、生物学的な過程であり、反応に特有の酵素が関与しています。こちらは、研究もかなり進んでおり、極めて多数の酵素と反応ステップによって徐々に分解されていくことが示されています。


Q:TLCによる植物色素の分離で、ほうれん草を分離したのですが、Rf値が0.50〜0.66くらいに3つの色素が分離しました.3つともフェオフィチンかと思ったのですが、違うそうなんです。なぜなのでしょうか???(2003.12.18)

A:TLCは、物質が、その各々の性質によって特有のRf値を持つことを利用して、どのような物質があるかを調べる方法ですよね?
逆に言うと、Rf値が違えば違う物質である、ということが前提のはずです(ただし、違う物質がたまたま同じRf値を持つことはあり得る)。ですから、3つの色素が違うRf値を持てば、そのうち1つはフェオフィチンかも知れませんが、その場合残りの2つはフェオフィチンではないことになります。もちろん、さらに3つともフェオフィチンではない可能性もあります。少なくとも、3つともフェオフィチンという可能性はない、ということは言えるでしょう。


Q:フィコビリン系色素を加熱すると、退色するのはなぜですか?(2003.12.16)

A:フィコビリンは、フィコビリンタンパク質が、フィコシアノビリンなどの発色団を結合したものです。ですから、加熱すると通常のタンパク質と同様に変性が起こります。クロロフィルなどとは違ってフィコビリンの発色団とタンパク質の間の結合は共有結合であるため、界面活性剤などの処理に対してはフィコビリンは比較的安定なのですが、加熱によりタンパク質自体が変性してしまうと、さすがに色素としての性質を維持できないわけです。


Q:薄層クロマトグラフィーの実験で、ナスの皮(紫色のところ)だけをとって、抽出液(ジエチルエーテル)につけたところ、緑色の液体になりました。これは、クロロフィルなのですか?その後、クロマトグラフィーの実験を行ったのですが、出てきたRf値もクロロフィルaと同じような値になりました。どういうことなのかよく分かりません。教えていただけませんか?
変な質問でごめんなさい。(2003.12.14)

A:ナスの皮の紫色は、アントシアン系のナスニンという色素の色だそうです(光合成色素以外はよく知らないので伝聞です)。しかし、その紫色に隠れてよく見えませんが、クロロフィルも持っているのです。アントシアン系の色素は水溶性のものが多いのに対して、クロロフィルは脂溶性です。つまり、ジエチルエーテルのような有機溶媒で抽出すると、ナスニンは抽出されず、クロロフィルだけが抽出されるので、抽出液は緑色になります。おそらく水で抽出すれば、今度は、ナスニンだけが抽出されてクロロフィルが抽出されず、紫色の液体が得られるはずです。ですから、クロマトグラフィ−の実験は、きちんと成功していたということですね。わかれたのは本当にクロロフィルだったのです。
 ちなみに、ナスの皮のクロロフィルも、きちんと光合成の能力を持っています。果物などの光合成に関しては、公開実験の結果を見てください。


Q:暗反応を分かりやすく教えてください。複雑すぎて、本などを読んでも分からなかったので。(2003.12.9)

A:なかなか大きな質問ですね。暗反応(最近は炭酸固定反応もしくはカルビン・ベンソン回路と呼びます)は、それだけで1冊の本が出ているくらいなので、簡単にと言っても難しいですが、以下になるべくエッセンスを。
 光合成は大きく分けて光のエネルギーからエネルギー源(ATP)と還元力(NADPH)を作る光化学反応と、ATPとNADPHを使って二酸化炭素を固定する炭酸固定反応に分けられます。炭酸固定反応では、二酸化炭素が生物が使える有機物の形に固定されます。
 反応として大切なのは、二酸化炭素(炭素原子を1つ含む化合物)が、まずRuBPという炭素原子を5つ含む化合物)と反応して、炭素原子を3つ含む化合物2分子になる反応です(1+5=3×2)。この反応は、ルビスコという地球上で1番量の多い酵素によって触媒されます。できた炭素原子3つを含む化合物は、一部はもとの炭素5つをふくむRuBPを作るのに使われます。しかし、二酸化炭素が固定されるたびに炭素の数は増えますから、全てをもとのRuBPという物質に戻す必要はありません。そこで、残りは、葉緑体の中でデンプンに変えられたり、細胞質に送られてショ糖に変えられたりします。このようにして植物は、二酸化炭素から、デンプンやショ糖を作ることができるのです。光化学反応によって作られたATPやNADPHは、これらの反応を進めるのに使われます。


Q: はじめまして,素人で申し訳ないのですがため池などの水中で光合成がどのように起こっているのか教えていただけないでしょうか?(2003.12.3)

A:水の中には、いわゆる「水草」も生えますが、光合成の大部分は、単細胞の藻類(微細藻類)が担っています。池の場合は、主に、ケイ藻、緑藻、シアノバクテリア(藍藻)の仲間が主に生息しています。これらの中で、どのような藻類が多いかは、場所によっても、季節によってもさまざまです。単細胞の藻類は、水に溶けている二酸化炭素を細胞の中に取り込んで、光合成を行い、酸素を放出します。二酸化炭素の細胞内(葉緑体内)への取り込みには、ポンプの働きをするタンパク質の力が必要です。クロロフィル(葉緑素)による光の吸収や、二酸化炭素の固定といった、光合成のメカニズム自体は、高等植物の光合成と極めて良く似ており、基本的には同じメカニズムで行われていると考えてよいかと思います。


Q:TLC実験の結果、実際の光合成色素のRfと実験値が一致しませんでした。考えられる原因と、問題となる物質を確実に同定するためにはどのような実験を行えば良いか教えてください。(2003.11.28)

A:どの程度一致しないか、にもよるかと思います。論文に出ている値と実験値を2桁ぴたっと合わせるのは、そもそも難しいと思います。大きく違う場合は、展開溶媒の影響が大きいかと思います。石油エーテルは、実は単一の化合物ではなく、ガソリンの一種で、沸点によって決められているものです。ですから、例えば試薬会社によってその成分が異なる可能性も充分考えられます。あとは、TLCの場合極性の有無で分離するわけですから、有機溶媒が完全に乾燥しているか、ある程度水を含んでいるかによって、溶媒の極性は変化するでしょう。その場合も色素のRf値は変わるでしょう。
 色素の同定を確実に行うためには、シリカゲルから色素を抽出して、分光器により吸収スペクトルを測るのが一番よいかと思います。


Q:光合成の2つの働きのうち、光の捕獲においてクロロフィルaがどのように関連しているのか教えてください。それと、植物が含む色素の吸収スペクトルとその植物の生殖場所の関係を教えてください。(2003.11.27)

A:クロロフィルaは光を吸収します。従って、光の捕獲を直接自分で行ないます。また、他の光合成色素が吸収したエネルギーも、反応中心における電荷分離に使われる場合に、いったんクロロフィルaに渡されますから、光エネルギーの伝達役も果たしています。
 色素(この場合光合成色素とします)の吸収スペクトルは、基本的には、その生物の生育場所の光を吸収できるようになっているはずです。ただし、陸上の場合は、基本的には、特定の色の光が注ぐ場所というのは極めて限られますから、生育場所によって色素を変える必然性はあまりありません。一方で、光が弱い時には、より光を集めるためにアンテナを大きくする必要があります。アンテナは、反応中心(クロロフィルa)にエネルギーを渡す必要があるので、同じクロロフィルaか、より短波長の(つまりエネルギーの大きい)光を吸収するクロロフィルbとなります。従って、光が弱いところでは、相対的にクロロフィルbが(つまり、より短波長の光を吸収する色素が)増える傾向が見られます。


Q:光合成色素の分離の実験で、どうして色素は分離したのですか?至急解答お願いします。(2003.11.23)

A:薄層クロマトグラフィーの実験でしょうか?薄層クロマトグラフィーの場合、シリカゲルの層にスポットされた光合成色素は、シリカゲルの細かい粒にくっついたり、離れたりしながら動いていきます。ですから、強くくっつく場合は遅くなり、弱くくっつく場合は速く移動します。洗濯物の繊維にくっついた汚れを洗濯機で落とす場合を考えてください。水で洗ってもなかなか落ちない汚れも、汚れを溶かす洗剤の溶液を使うと落ちます。同じように、色素をより溶かす溶媒を使うと、シリカゲルとのくっつき方が弱くなって速く動きます。光合成色素は、ものによって水に溶けやすさ(極性といいます)が異なり、水に溶けにくい溶媒(つまり極性の小さな溶媒)を使うと、水に溶けにくい色素ほどシリカゲルとのくっつき方が弱くなって速く動きます。それで、違う色素を分離することができるのです。具体的な溶出の順番は、2つ下のQ&Aをご覧下さい。


Q:イネ特有の光合成を教えてもらえませんか?(2003.11.20)

A:光合成は植物にとって重要であるため、原核生物であるシアノバクテリアから、緑藻などの藻類、高等植物にいたるまで、光合成のメカニズム自体は極めてよく保存されています。光合成という観点から見た場合、イネは典型的なC3植物で、特に「特有の」というほどの特徴はないと思います。個葉レベルで見た場合、イネは、比較的高い(葉身窒素あたりの)ルビスコ含量を持ち、また、気孔伝導度も高い部類に属します。ルビスコの比活性はコムギに比べると低く、全体としての光合成活性はコムギ程度で、ダイズなどに比べると高くなります。群落としてみた場合は、イネ科型とよばれる葉の立った群落構造を示し、群落の内部まで光が入る、という特徴を持ちます。こんな所でしょうか。


Q:教えてください。カロチンとクロロフィルa,bについて、なぜそれらのRf値がカロチン>クロロフィルa>クロロフィルbになるのですか?(2003.11.16)

A:これは、ペーパークロマトグラフィ−や薄層クロマトグラフィ−の時の話でしょうね。実は色素の動きは、必ずいつも同じではなく、展開の溶媒によっても変化します。一般的に、光合成色素の分離の場合は、石油エーテルとアセトンの4:1の混合物を使うことが多いようですが、その場合には、ご指摘の順番になります。この場合、展開溶媒の極性はかなり小さい(つまり油を溶かしやすい)ので、色素の方も、極性が小さいものの方が大きく動くことになります。カロチンは基本的には炭化水素だけでできているのに対して、クロロフィルは酸素分子なども含んでいるので、極性はより大きくなります。クロロフィルaとクロロフィルbを比べると、側鎖の1つがクロロフィルaでは-CH3なのが、クロロフィルbでは-CHOになっていて、bのほうが酸素分子が加わっているだけ、極性は若干大きくなることが予想されます。この結果、ご指摘の順番になるわけです。分子の大きさや、形状が非常に異なる場合は、極性だけでは説明できない振る舞いをする場合もありますが、光合成色素の場合は、とりあえず、分子の極性で説明できるようです。


Q:TCAサイクルにてスクシニルCoAからコハク酸に変わるときGDPがGTPになり、そのGTPがADPにPiを渡してATPを合成するとの事ですが、この時のADPの由来は何処なんでしょうか?(2003.10.21)

A:TCAサイクルは光合成ではありませんが、まあ、エネルギー代謝ではありますね。基本的に生物のエネルギーはATPに依存していますので、葉緑体・ミトコンドリアはもちろん、細胞質にも常にATP/ADPのプールがあります。物質の合成・輸送、ある種の酵素反応などに、常にATPが必要なので、細胞内ではATP/ADPの相互変換が常に起こっています。従って、特に「由来」というものがあるというよりは、細胞内にある手近なADPがATPになると考えてよいかと思います。


Q:初歩ですみません。クロロフィルa(光合成の主色素)は何色の光を吸収しているのですか?
 それと、カロテン、キサントフィル、クロロフィルa、クロロフィルbの4種類の色素は、少しずつ色が違いますが、これは光の吸収についてどんな効果があるのですか?(2003.10.5)

A:クロロフィルaは、主に青い光(波長の最大は435 nmぐらい)と赤い光(波長の最大は680 nmぐらい)の光を吸収します。2つの吸収の間(緑色の光の部分)にはあまり吸収を持たないので、葉っぱは緑色に見えるのです。
 基本的に、色が違う物質は、異なる波長の光を吸収します。ですから、いろいろな色の色素を組み合わせれば、太陽の光(白色光:いろいろな色の光が混ざっている)の多くの部分を利用することができます。1つの色素しか持っていなければ、その色素が吸収する光しか利用できません。ただし、カロテン、キサントフィルに関しては、に書いたように、アンテナとして光を集める以外の役割も果たしています。


Q:地球の大気は、シアノバクテリアがつくったが、初期には酸素が水や空気中に急激に増加しなかったのはなぜですか?(2003.9.28)

A:酸素濃度が、シアノバクテリアの出現と共に急激に上昇しなかった理由としては2つ考えられます。
 1つは、海水中に大量に含まれた還元型の鉄が、生じた酸素と反応して環境中の酸素濃度の増加を抑えたことによるものです。今、人類が利用している鉄は主に、縞状鉄鉱層と呼ばれる鉄鉱石から作られていますが、この縞状鉄鉱層は海水中の鉄が酸化されて沈殿したものが主成分であると考えられています。
 もう1つは、生物の分解によるものです。いくらシアノバクテリアが酸素を発生しても、死んだあと、微生物などによって分解酸化されれば、その時に、発生しただけの酸素が使われて、大気中の酸素濃度の増加につながりません。つまり、何らかの形で、生物体が酸化されずに蓄積しない限り、酸素濃度は上昇しません。地球の歴史区分では「比較的最近」に、大きな大陸が出現します。大陸ができると雨・川によって土が削られて海に流れ込み、その時一緒にシアノバクテリアなどの生物が閉じこめられると、酸化が起こらないので、酸素濃度の増加につながります。つまり、大陸の出現も、酸素濃度の増加の1つのきっかけになったと考えられます。(ちなみに閉じこめられた生物の遺体ー石炭や石油ーが酸化されれば、今度は酸素濃度が減少するはずです。酸素濃度は大気中の20%程度を占めるので、すぐには濃度変化として現れませんが、二酸化炭素濃度は、大気中の0.03−0.04%程度なので、その濃度の上昇を観察することができます。)


Q:緑色であればピーマン、スイカの皮などでも光合成を行っているとあります。では、光合成で重要な基質である二酸化炭素はどのように供給されるのでしょか?ガスを通す穴(気孔のようなもの)があるのでしょうか?穴があるなら、その穴は気孔のように環境に対して反応性をもつものなのでしょうか?穴がないなら、二酸化炭素の供給は、非常に少ないと思われますが、そのような低二酸化炭素濃度で行われる光合成速度は、実際どれぐらいの大きさ(umol m-2 s-1)で、その植物にとって、意味がある物でしょうか?(2003.9.26)

A:果実の気孔については植物の種によって違うようです。ピーマンの場合は、実の本体の部分には気孔はないが、「へた」の部分の気孔が実全体のガス交換を担っているとされています。鹿児島大の学生さんが調べた結果が
http://www.synapse.ne.jp/~tabira/thesis/thesis01.html
に載っています。植物によっては、実の本体の部分に気孔をもつものもあるようです。気孔の形は、葉の気孔と基本的には一緒で2つの孔辺細胞からなるようですので、環境に対して反応性も持つと思います。(ただ、実際に調べた例は知らない。)
 実際に、僕が蛍光で測定した場合、ピーマンの実でも葉に近いレベルの電子伝達が行なわれていました。ただ、一般的には、電子伝達反応が起これば二酸化炭素が固定されますが、蛍光による測定では、実際に二酸化炭素が固定されているかは証明できません。
 僕の見た範囲では、光合成の専門家が、ピーマンの実などの二酸化炭素の固定速度をきちんと測定した例はないようです。(蛍光では簡単に測れるが、二酸化炭素の吸収を見ようとすると、実では物理的に測定しづらい。デンプンの蓄積を見ることはできるが、その場合、実で光合成をしたのか、転流で運ばれたのかが区別できない。)
 イネの穎の光合成はお米の収量を左右するほどである、と書いてある本を読んだことがありますが、どのような実験に基づくものかは知りません。


Q:葉っぱの紅葉(黄葉)について調べていて疑問に思ったので質問させていただきます。葉の葉緑体の中にはクロロフィル(緑色)のほかにカロチノイド(黄色)も含まれていて、クロロフィルの働きを助けているそうですが、カロチノイドは葉緑体のどこに存在しているのですか(クロロフィルと混ざっているのか、別の場所にあるのか)?
 また、クロロフィル分子は太陽光を吸収して励起し、元に戻る時にその余分なエネルギーを水分子の分解に使っている(一種の光触媒)ということですが、カロチノイドも同じような働きをしているのですか?(カロチノイドの吸収した光エネルギーはどのように使用されるのか。クロロフィル同様、水分子の分解に係っているのか)もしそうだとすれば、クロロフィルばかりがもてはやされ(?!)カロチノイドが可哀想な気がします。←余計なお世話?
 また、海藻等には他にフィコビリンという色素も含まれているそうですが、これは何色の色素でしょうか?陸の木の葉には含まれないのですか?そしてこちらもクロロフィルと同じように光合成に直接係っているのですか?
 以上、変な質問で恐縮ですが、もしご存知であればお答え頂きたく存じます。(2003.9.18)

A:別に全く変ではないと思いますが。光合成色素のおおざっぱな役割については、にも書いてありますので参照して下さい。
 さて、まずカロチノイドの存在場所ですが、そのほとんどは、葉緑体の中のチラコイド膜という膜に含まれているクロロフィルタンパク質複合体(クロロフィルなどを結合したタンパク質がいくつか集まったもの)にクロロフィルと共に結合しています。ただし、クロロフィルはチラコイド膜にしか存在しないのに対して、カロチノイドは他の膜系(例えば細胞膜など)にも若干含まれるようです。まあ、基本的にはクロロフィルに混ざって存在していると言ってよいかと思います。
 次に、光触媒としての働きについてですが、実際に光によって励起されてエネルギーを電気化学的なエネルギーに変換できるのは、クロロフィルの中でも反応中心と呼ばれるクロロフィルだけです。反応中心は、だいたい200個のクロロフィルの中に1つしかありません。反応中心は、クロロフィルが2分子くっついたものからできています。そしてカロチノイドでは反応中心になれません。そこが「もてはやされる」かどうかの分かれ道なのだと思います。ただし、反応中心以外の多くのクロロフィルは、アンテナとして働くので、それらのアンテナクロロフィルの機能に関しては、カロチノイドとあまり差はありません。
 フィコビリンは、見た目は青く見えます。そして、陸の木の葉には含まれません。フィコビリンも反応中心として働くことはできませんが、アンテナとして働いています。


Q:初めまして。私は土木資材メーカーに勤めております。
近々、コンクリートに樹を植えてみて、その生育及び根系分布等を観察したいと考えているのですが、どの程度、樹はどの程度の日射量を必要とするのでしょうか?「西日は強すぎるので、植物にはよくない」と本に書いてありました。では、どの程度の陽射しの強さ加減がよくて、何時間くらい日があたればよいのでしょうか?お忙しいとは思うのですが、お教えください。
また、このような観察を行う際、基準になります実験要領書のようなものがあるのでしょうか?(2003.9.18)

A:地球上には、砂漠から極域までさまざまな場所にさまざまな植物が生えていて、それぞれの場所に適応しています。光の強さをとっても同じようなことが言えて、熱帯の直射日光を常に受けているような植物から、うっそうとした森の中の薄暗い環境に生えている植物もあります。一般的に、強い光を好む植物(陽生殖物といいます)は暗い環境では育ちが悪く、弱い光を好む植物(陰生殖物)は逆に強い光が当たると生育阻害を引き起こします。従って、植物種が特定できないと必要な日射量というのは決まりません。逆に言えば、実験の環境に合わせて、その環境にあった植物種を選定することも可能かと思います。
 実験要領書に関しましては、物理や化学の実験と異なり、植物の生育実験の場合は、植物の種類やその場の環境要因(光強度・温度・湿度・根への水分供給など)によって結果がさまざまに変化しますから、統一的な要領書を作ることはできません。ある植物種が、どのような環境を好む植物か、という点に関してでしたら、その植物が園芸植物であれば園芸書などを参考にすることができるかと思います。


Q:植物が複数の光合成色素を含んでいるのは何故ですか??(2003.7.14)

A:これは、実は2つの場合があります。
 最初の場合は、いわば補助アンテナとして働く場合です。もっとも一般的な色素である葉緑素(クロロフィル)が吸収しにくい光、つまり緑色の光を吸収する色素を持てば、太陽の光のいろいろな色の光(虹の7色)をより有効に使うことができます。シアノバクテリアという単細胞の光合成生物では、クロロフィルの他にフィコビリンという色素を持っていますが、これはクロロフィルが吸収できない光を有効に利用するための仕組みです。クロロフィルにはクロロフィルa、クロロフィルb、クロロフィルcといった少しずつ吸収する光の色(波長)が違うものがありますが、これらも、少しでも広い範囲の色の光を吸収するための仕組みと考えることができます。
 もう一つの場合は、安全装置として働く場合です。植物の葉にはβーカロチンという黄色い色素が含まれていますが、これはアンテナとしての働きは弱く、むしろ光が強すぎた場合に、余分な光によって生じた体に害を及ぼす物質(活性酸素といいます)を無害にする働きをしています。植物には他にもキサントフィルという一群の色素が含まれていますが、これらも一種の安全装置として働いていると考えられています。
 と言うわけで、補助アンテナと安全装置、この2つの役割が複数の光合成色素を含んでいる理由です。


Q:光合成の反応を,光を用いる反応と光を用いない反応に分けることがあります。
高校の教科書「生物IB」(東京書籍;加藤栄先生ら)87ページには,「明反応は光化学反応のみ」で,その他の反応(水の分解と還元型補酵素の生成,ATPの生産,二酸化炭素の固定)は「すべて暗反応である」とあります。
一方,今年度からの新課程教科書「生物II」には,光化学反応,水の分解と還元型補酵素の生成反応を「光の影響を受ける」反応,その他を「光は直接影響しない反応」と記載しています。
どちらが正しいかというよりは,分類の仕方が異なるのだと思うのですが。
大学入試でしばしば出題されるテーマなので,教える自分がはっきりと理解したいと思います。よろしくお願い致します。(2003.7.8)

A:これに関しては、歴史的経緯もありますので、少し回答が長くなりますがご容赦下さい。
 言葉の定義というのは人によって違うので一概に言えないのですが、まず第1に、大勢としては、「明反応」「暗反応」という言葉は誤解を招くので使わないようにする方向に進んでいます。加藤栄先生は、明反応・暗反応という言葉を使うべきではない、と昔から主張されてきた方なので、ご指摘の表現は、実際に光を使う部分は光化学反応だけなので、従来のように電子伝達全体を明反応と呼ぶのは不適切であるとの主張を込めたものかも知れません。もっとも高校の教科書の場合、著者の意向のほかに文部科学省の検定による縛りがあるので、記述が完全に著者の意向を反映したものかどうか微妙な点もあるかも知れません。大学入試問題でも、明反応・暗反応という言葉は、昔に比べるとだいぶ減っています。まだちらほら散見されはしますが。
 明反応・暗反応という言葉を避けるのは、電子伝達系の場合も、2つの光化学系の間のチトクロ−ムb/f複合体の反応などには、光は直接関与しないことによります。例えばチラコイド膜を単離して電子伝達の活性を光強度を変えて測定すると、光が弱いときには、光化学系が律速段階となり、光が強くなるとチトクロ−ムb/f複合体の反応が律速段階になりますから、電子伝達反応の中にも「明反応」と「暗反応」があることがわかります。また、話が複雑になりますが、カルビン回路の酵素のいくつかは光(正確には光によって引き起こされる酸化還元反応)によって活性が制御されており、その意味では、「光の影響を受ける反応」であることになります。その意味でも、従来の意味での明反応・暗反応という言葉は適切ではありませんし、「光の影響を受ける」という言葉も曖昧です。明反応・暗反応という言葉を使わない場合は、暗反応に相当するところは炭酸固定系(あるいは、カルビン回路、カルビン・ベンソン回路)になり、明反応に相当するところは、電子伝達系(文脈によって光化学系)とする場合が多いと思います。
  「光の影響を受ける」というのですと曖昧ですが、「光エネルギーの変換に直接働く」ということであれば、だいぶ具体的になります。アンテナ色素による光の吸収と光化学反応中心への伝達、そしてその後の光化学反応中心における電荷分離まででしょう。非常に狭く捉えれば、初期の電荷分離だけで、水の分解による酸素の発生や、プラストキノンの還元は「直接」は働いていないとも解釈できますが、これらは、1つの色素タンパク質複合体の中での反応なので、僕としては、一緒にしてよいのではと思います。従って、2種類の光化学系色素タンパク質複合体での反応(光化学系IIでの水の分解からプラストキノンの還元まで、光化学系Iでのプラストシアニンの還元からフェレドキシンの還元まで)が光エネルギーの変換に直接働いていることになり、その間のb/f複合体が行うプラストキノンの酸化からプラストシアニンの還元は、直接ではない、と定義できるかと思います。この場合は、ほぼ、光化学反応の定義と重なります。
 僕も、新課程の「生物I」「生物II」の教科書を執筆していますが(大日本図書)、そこでは電子伝達系で光のエネルギーを利用してATPと還元力を生成し、炭酸固定系ではそのATPと還元力を利用して二酸化炭素を固定する、と記述しています。基本的にATPや還元力は、炭酸固定系以外の反応にも使うことが可能です(例えば電子伝達系で生じた還元力は窒素代謝の反応にも使われます)。従って、本来は、「光が関係するかどうか」でもって分類するよりも、「(光により)ATPや還元力を作る反応」と「ATPや還元力を使う反応」として分類するのがよいのではないかと思います。
 ちなみに、「水素伝達系」という妙な言葉が電子伝達系の代わりに文部科学省の検定により導入されて、日本の高校教育界だけで一時期使用されていましたが、新課程から再び、普通の言葉に戻ったようですね。大学の新入生に、いちいち、「水素伝達系」という言葉は世界広しといえども日本の高校でだけ通用する言葉で、大学や、他の国ではみんな「電子伝達系」というんだよ、と教えなくてはいけないのはむなしいものでした。


Q:クロロフィルの生理活性あるいは薬理活性について教えてください。(2003.7.4)

A:ここで言う「生理活性」「薬理活性」というのは言葉のニュアンスからすると、植物の中での活性ではなく、動物に与えたときの活性なのでしょうね?そうだとすると光合成の質問ではないので、専門家としての回答ではなく、常識の範囲での答えとなりますが、ご容赦下さい。
 同じ光合成色素でもカロチノイドはビタミンの前駆体になったりしますので動物にとっても重要ですが、クロロフィルに関してはそのような話を聞きません。ただ、十年ほど前でしたか、緑藻やシアノバクテリアの乾燥錠剤が健康食品としてもてはやされた頃、それらを過剰に摂取した人に日光アレルギーの症状が出たという話を聞いたことがあります。これは、充分に分解されなかったクロロフィルがヒトの体内で光を吸収して活性酸素を放出したことによるのかも知れません。従って、過剰摂取した場合は、クロロフィルは動物の体内で、活性酸素発生源になり得ると考えられます。


Q:色素の抽出の際に化学反応によって本来の成分が変化し、別の化合物になってしまうことはあるのですか?もしあるのならこれを防ぐためにはどのような工夫などをしたらよいでしょうか?(2003.7.4)

A:別の化合物になることはよくあります。よく起こるのは、クロロフィルaの立体異性体であるクロロフィルa’がクロロフィルaになる変化や、クロロフィルから中心金属のマグネシウムが抜けてフェオフィチンになる反応です。これらを防ぐためには、普通の生化学の常識的な条件、「手早く行う」「低温で行う」が一番です。この他に色素特有の条件として「光を当てない」というのもあるでしょう。色素は光を吸収するとエネルギー状態が高くなりますから、それによって化学反応を起こす場合があります。


Q:生物系をまったく勉強していなかったのでわかりやすく教えてもらいたいのですが、何故、クロロフィルは有機溶媒に良く溶け、水にはあまり溶けないのですか?(2003.6.27)

A:クロロフィルは、おおざっぱにいって四角の1つの角から長いしっぽの生えたような構造を持っています。四角い部分の中央にマグネシウム原子が配位していて、この四角の部分(ポルフィリン環といいます)は水にある程度は溶ける性質を持っていますが、しっぽの部分(フィトール鎖といいます)は炭化水素の長い鎖なので、脂質の一種と考えられ、水に溶けにくい性質を持っています。全体としては、フィトール鎖の影響の方が大きいので、クロロフィルは水に溶けにくいのです。脂質的な性質が強いということは、逆に有機溶媒には溶けやすいことになります。世の中にはフィトール鎖を切断する酵素もありますが、それによってポルフィリン環の部分だけになると、ある程度水に溶けるようになります。


Q:フィコビリンもクロロフィルもそれ自体の極性にはそれほど差はないのに、なぜクロロフィルだけがジエチルエーテルで抽出されるんですか?(2003.6.25)

A:光合成関連の色素は、基本的に植物体内でタンパク質に結合した形で存在しています。フィコビリンもクロロフィルも、色素自体は似たような構造を持っていますが、実は、クロロフィルとタンパク質の間の結合は配位結合なのに対して、フィコビリンとタンパク質の結合は共有結合なのです。従って、有機溶媒抽出などでクロロフィルはタンパク質からはずれますが、フィコビリンははずれません。これが抽出の差の原因です。ちなみに、フィコビリンは共有結合であるため、SDS等の界面活性剤でもタンパク質から解離しません。ですから、シアノバクテリアのチラコイド膜をSDSゲル電気泳動で流したりすると、染色前でも、フィコビリンのバンドは色が付いているのを見ることが出来ます。
 なお、上で、「フィコビリンとタンパク質の結合」という書き方をしていますが、普通は、タンパク質と結合した全体を「フィコビリン」と呼びます。


Q:初めまして。私はまったくの素人ですが、葉緑体が光の波長に偏性を持つのは何故でしょうか?(2003.6.20)

A:すみません。「偏性」という言葉がどのような意味で使われているのかがわかりませんでした。生物の分野では「偏性嫌気性細菌」「偏性好気性細菌」という形で使うことはありますが、ここでは違いますよね?光学の用語では「偏光性」という言葉がありますが、これも少し違う気がするし。ホームページでお答えする前にメールで質問の意味を確認しようと思ったのですが、gadriell というユーザー名はないとはねられてしまったので、連絡が取れませんでした。再度ご連絡をいただけますか?


Q:植物の葉が緑色である理由を教えて下さい。光合成で赤色と青色の光を吸収するから葉は緑色になるのでしょうか。できるだけ詳しく教えて下さい。宜しくお願い致します。(2003.6.7)

A:「光合成で」というよりは、葉緑素(クロロフィル)が赤色(680 nm前後の光)と青色(430 nm前後の光)の光を吸収することにより、残りの緑色の光が反射されたり、散乱されたりして我々の目に入り、葉が緑色に見えます。光合成の活性とは直接関係ないことは、光合成活性を失ったホウレンソウのお浸しでも緑色をしていることからもわかります。ちなみに、光合成に使われない場合は、クロロフィルが吸収した赤と青の光は大部分熱になります。高等植物では、クロロフィル以外の光合成色素として一番多いのはカロチノイド(カロチンやキサントフィルなど)ですが、これらはオレンジから黄色に見える色素で、主に 500 nm 前後の光を吸収しますので、これも緑色の光はあまり吸収しません。
 写真を現像するための暗室などでは作業のために、赤色灯がついていることがありますが、植物を暗所で処理するような実験では、暗室に緑色の明かりをつけて作業します。これは、緑色の光ならば、人間の目には見えるけれども、植物には吸収されにくいことを利用しています。人間の目の感度が一番よいのが実は緑色の領域なのです。ちなみに、写真暗室で赤色灯を使うのは、赤い光は波長が長く、エネルギーが低いので、印画紙を感光させづらいことによります。


Q:光合成では多くがデンプンを作っているという説明を見ますが、炭素同化でデンプンを合成せず、他の糖類を合成している生物はあるのですか。また、そのような生物のがあれば、具体例を教えてください。(2003.5.19)

A:光合成生物の多くは確かにデンプンを作ります。ヨウ素デンプン反応なので紫色になる実験を小中学校でやりますよね。デンプンは糖がたくさんつながったもので安定なので、糖を貯蔵するためによく使われます。しかし、必要なときには再び糖に分解されて使われます。つまり、植物にとって直接必要なのはデンプンではなくて糖なので、デンプンを合成しない植物でも生きていくことは可能です。多くの植物では葉の葉緑体にデンプンをためますが、例えばホウレンソウは砂糖(ショ糖ともいいます)の形で葉の中に糖をためて、デンプンはほとんどためません。教科書などにはデンプンを作るのが当たり前のように書いてありますが、ホウレンソウのようなごく身近な植物でも葉にデンプンをためない植物は存在します。(自分でちゃんと確かめたことはないのですが、ホウレンソウを使ってヨウ素デンプン反応を見ようとすると、失敗するはずです)


Q:ごく単純でばからしい質問なんですけど、教えてください。蛍光灯だけで光合成は可能でしょうか?日光と蛍光灯とでは光合成にどんな違いが生まれるのでしょうか?教えてください。(2003.5.12)

A:単純かも知れませんが、ばからしくはありませんね。植物を育てる人にとっては重要な問題です。結論から言いますと、蛍光灯だけでも光合成は可能です。光合成は葉緑素(クロロフィル)が光を吸収しておこなうのですが、蛍光灯は充分にクロロフィルが吸収できる光を出しています。その意味では、日光と蛍光灯はほとんど差がありません。ただし、直射日光に比べると、一般的な蛍光灯の光の強さはかなり弱いという違いはあります。といっても、普通の植物を栽培する場合は、充分な数の蛍光灯をつければ問題なく光合成させて、生育させることができます。
 もう一つの違いは、日光は当たると暖かいのですが、蛍光灯はそれほどでもない、という点も違います。これは、蛍光灯の場合、あまり赤外線(目に見える光より波長が長く水に吸収されるので体にあたると暖かく感じる)があまり含まれていないせいです。赤外線は、光合成には使われませんが植物の形づくりのシグナルとして働いているので、植物の形は蛍光灯で育てると日光で育てた場合と少し違ってくる場合が多いようです。一般的には、より茎が短い「寸詰まり」の形になります。


Q:一般にクロロフィルはよく光で退色するといいます。退色具合をよく確認しようとクロロフィルを溶媒で抽出しまして光にあてておりました。はじめは緑色をしていましたが徐々に蛍光色がぬけていき、茶色くなったように感じになりました。しかしそれ以降なかなか透明になってきません(直線的に退色しないような感じがします)。これはクロロフィルが分解して光に安定な物質ができてしまったからなのでしょうか?それとも濃度が薄くなったためにクロロフィルに光があたる確立が低くなったからなのでしょうか?(2003.1.29)

A:まず、葉っぱの中でのクロロフィルの退色と、有機溶媒中の(試験管内での)クロロフィルの退色は、必ずしも同じメカニズムでは進まないだろうと思います。葉っぱの中には、クロロフィルを分解する酵素や、分解した断片をさらに分解する酵素などもあります。それに対して、有機溶媒中のクロロフィルの分解の場合は、光の作用によって起こる化学反応によって起こることになります。葉っぱの退色の場合は、強光により葉が白くなることもありますが、有機溶媒中では、何らかの分解産物が残るでしょうから、完全に透明になることはないのではないでしょうか。その意味で、「クロロフィルが分解して光に(より)安定な物質ができた」というのが最もありそうなケースだと思います。茶色になったという物質が何かは調べてみないとわかりませんが、クロロフィルからその中心に結合しているマグネシウムが抜けると、フェオフィチンという物質になり、この物質は見た目に茶色に見えます。


Q:クロロフィルが蛍光を発するというのは分かったんですが、蛍光を発するのはその色素の分子構造に何か関係があるのでしょうか?あるのだったたら、どういった構造をもつものが蛍光を発しやすいのでしょうか?ぜひ、お願いします。(2002.11.12)

A:分子構造が変わると蛍光の強さが変わるのはもちろんですが、分子構造を見ただけで、蛍光を発しやすいかどうかを見極めるのは難しいのではないでしょうか。化学の専門家なら、ある程度経験でわかるのかも知れませんが。さらに蛍光の強度は、温度でも変化しますし、色素分子が会合する(複数の分子が集まること)場合にも変化します。また、タンパク質に結合している状態では、色素分子単独の場合とは蛍光の強さが変化します。というわけで、申し訳ありませんが、少なくとも僕には構造から蛍光の発しやすさを予測することはできない、というのが答えです。


Q:光合成の仕組みを説明する簡単にできる実験(中学生レベル以下)を教えてください。(2002.10.29)

A:小中学生レベルで、となるとやれる実験はかなり限られます。昔から有名なのは、ヨウ素デンプン反応を使った実験です。デンプンはヨウ素と反応して紫色になります。葉っぱが光合成をするとデンプンを作りますが、そこでヨウ素液をかけるとデンプンが作られた部分だけ紫色になるのでわかります。ただ、葉緑素(クロロフィル)があると、その緑色でヨウ素デンプン反応の色がよく見えないので、アルコールなどで、クロロフィルを溶かしだしておいた方がよいのですが、小中学生だとアルコールを扱うのが難しいかも知れません。少しレベルが上がりますが、この反応を利用して、葉っぱに、ネガの写真をプリントすることもできます。こちらにその実験の紹介があります。
 もっと、簡単なのは単純に重さを量る実験です。何のタネでもいいのですが、まずあらかじめタネの重さを量っておきます。次に発芽させた後に暗いところにおいておくと「もやし」になります。何日かして十分もやしが大きくなったあとに、それを、からからに乾かして、再度重さを量ると、体積はずいぶん増えたように見えるのにほとんど重さは変わらないことがわかります。一方で、芽が出たあと、同じ時間だけ光を当てて育ててから乾かして重さを量ると、今度は、光合成で空気中の二酸化炭素が取り込まれた分、重さが重くなります。からからに乾かすのは乾燥器があるとよいのですが、なくても何とかなるのではないかと思います。
 あと、葉っぱにプリントの実験と同じサイトで紹介されているPETボトルを利用した酸素発生の実験も、比較的簡単にできるかと思います。このような実験は、高校の生物の先生にうかがうのが一番よいかと思います。


Q:クロロフィルの抽出液に光を当てると、蛍光が見えるのはどうしてですか?(2002.10.28)

A:クロロフィルは光が当たると、エネルギーを持った状態になります。エネルギーを持った状態というのは不安定なので、しばらくするともとの状態に戻りますが、戻る際に、余分なエネルギーが熱になる場合と、光になる場合があります。クロロフィルをアルコールなどで抽出したものは、この光になる割合が高い(普通30%近くと言われています)ので、人間の目でもこの光(蛍光)が見えます。一方、葉っぱの場合は、エネルギーは光合成にも使われるので、もともと光になる割合は低くなります。ですから、葉っぱを使うと肉眼で蛍光を見るのは難しくなります。


Q:葉緑素(クロロフィル)は赤い光と青い光を吸収するので、吸収されにくい光が緑色に見えると聞きましたが、どうして赤と青しか吸収しないのですか。全ての光を吸収できた方が効率がよいと思うのですが。(2001.9.13)

A:別に、緑色を吸収する色素でも、光合成は動くと思います(もっとも、赤外線では酸素発生型の光合成にはエネルギーが足りませんし、紫外線では、他の分子にダメージがおきますから、可視光線でないと困りますが)。現に、シアノバクテリア(ラン藻)の仲間では、フィコビリンという色素を補助色素として使っていて、600-650 nmぐらいの光を吸収します。
 基本的には、吸収は、分子の構造に依存します。クロロフィルはおおざっぱに言うと四角にしっぽがついた形をしていますが、四角の対角線の方向に、光に共鳴しやすい構造があり、光を吸収すると、エネルギーを持った状態になります。このエネルギーを持った状態には、主に2種類あり、それぞれ別々の光(つまり赤い光と青い光)を吸収します。中間波長に、大きなピークを持とうとしたら、そのような構造を分子内に、新しく付け加える必要があります。ですから、全ての光を吸収するような単一の分子というのは、あちらこちらに光に共鳴しやすい構造を持つ必要があり、ものすごく複雑な分子になることが予想されるので、事実上、使えないのだと思います。それよりは、クロロフィルとフィコビリンの例のように、複数の色素を使い分けて、吸収帯を広げる方が、植物にとっては、楽だったのではないでしょうか。