ピーマンの実やスイカの皮は光合成をするか?

光合成をきちんと測るにはいろいろ大変ですが、パルス変調蛍光測定装置という装置があれば、光ファイバーの先端を測定したい植物に押し当ててボタンを押すだけで、どのくらいの光合成能力を持っているかが瞬時にわかります。そこで、この装置を使って、実際にピーマンの実などが光合成をする能力を持っているかどうかを平成14年11月1日(金)2日(土)に行なわれた東京大学・柏キャンパスのオープンキャンパスに合わせて確かめてみました。

この公開実験には、二日間で約200名の方に参加していただきました。アンケートに答えていただいた170名ほどを見ると、大学生・一般の方が半数以上を占め、残りが中学生以下・高校生・大学院生+教員です。これらの方々には、実際に実験を行う前に、まず結果を予想していただきました。

その答えの分布を見ると、鉢植えの草の葉で「光合成をする」という意見がほとんどだった以外はかなり意見が割れており、皆さん確固とした予想があるわけでは無いようです。それでは実際にはどうだったでしょうか。

材料と方法

測定は、蛍光のFv/Fmと呼ばれるパラメーターを指標にして行いました。この値は、光合成の潜在的な最大能力と関係があります。測定したのは、鉢植えの草の葉、八百屋さんで買ってきたホウレンソウ(当然根はない)、ホウレンソウのお浸し(熱湯で2分ぐらい湯がいたもの)、ホウレンソウのジュース(水を加えてミキサーで破砕したもの)、ピーマンの実、赤ピーマンの実、枝豆の鞘、スイカの皮の緑色のところ、スイカの皮の黒いところ、の合計9種類です。

葉の部分の光合成

まずは、鉢植えの草の葉の測定を行いましたが、これはもちろん光合成の能力を持っていました。植物の成長は光合成に依存しますから、ちゃんと生きているのであれば、光合成をしているはずですから当たり前ですね。次に、八百屋さんで買ってきたホウレンソウですが、これも光合成能力を持っていました。このことから、根っこが無くとも、しばらくの間は光合成の能力を保っていられることがわかります。ただ、夕方ぐらいになってしなびた部分を測ると光合成の能力が落ちていましたから、植物にとって根から水を吸い上げることが必要なことはもちろんです。

次いで、ホウレンソウのお浸しを測ると、光合成能は全くありませんでした。お浸しはちゃんと緑色のままですから、葉緑素(クロロフィル)は別に熱によって分解はしていないようです。このことから、光合成には、クロロフィルの色素だけでなく、タンパク質の働きも必要で、タンパク質の働きが熱によって失われると光合成の能力も失われることがわかります。このように熱によって働きが失われることを熱失活といいます。次にホウレンソウのジュースですが、これはジュースにした直後から光合成の能力が急速に失われ、夕方には完全に能力が無くなっていました。これは、ミキサーによって葉が細かくなるときに、細胞も破砕され、いったん細胞が壊れると、光合成活性が急速に失われることを意味しています。

ピーマンやスイカの光合成

それでは、問題のピーマンやスイカの光合成はどうだったでしょうか。結論からいうと、ピーマンの実も、スイカの皮の緑色の部分も、黒い部分も、枝豆の鞘も、全て立派に光合成の能力を持っていました。スイカの皮の黒い部分も、よく見ると緑が濃くなって黒く見えているのがわかるので、基本的には、植物の緑色の部分は光合成をする能力を持っていると言ってよいかと思います。

では、赤ピーマンはどうでしょうか。赤ピーマンのクロロフィル蛍光を測ろうとすると、元々のシグナルが非常に小さいことがわかりました。これは、赤ピーマンにはクロロフィルがほとんど含まれていないことを意味しています。無理矢理拡大して光合成の能力を求めてみましたが、全くありませんでした。赤ピーマンも元々は緑色なわけですが、クロロフィルが無くなれば光合成能を失うことがわかります。

ちなみに、何人かの方から、「この赤ピーマンが古いだけではないの?」という質問を受けました。このような考え方は科学的な思考・実験にとって非常に重要です。「本当に緑色があるかどうかが決め手なら、この赤ピーマンの緑色のへたの部分が光合成をしているかどうか測ってみて」と言われて実際に測ってみたら、ちゃんと光合成をしていました。この実験から、実のへたでも光合成をすること、また、赤ピーマンが光合成をしないのは、単に測った赤ピーマンが死んでいたせいではないことがわかりました。

結論

植物では、葉っぱでは光合成をし、それ以外の部位では光合成をしないのではなく、クロロフィルがある部分で光合成をし、無いところでは光合成をしない、と言えるでしょう。葉っぱに比べると、へたや実、茎などでは、強い光の下での光合成能力は落ちると思いますが、それでも、その光合成能力は植物の成長にプラスに働くはずです。なお、何人かの方から、「ピーマンと赤ピーマンでは、光合成をするピーマンの方が栄養があるの?」と質問されました。ピーマンも赤ピーマンも、主には葉っぱでもって光合成をするわけですから、別に光合成をする実だからといって栄養があるとは言えないでしょう。含まれる色素の種類などが違いますから、もし健康を考えるのでしたら、いろいろな種類のものを召し上がるのが一番だと思います。

より詳しく知りたい人のために

今回の実験結果のより定量的な解析を「ピーマンの光合成実験の解説」に載せておきましたので、ご覧下さい。また、パルス変調蛍光法については、「クロロフィル蛍光と光合成」にさまざまな情報が載っています。