先端生命科学入門 第8回講義

ノックアウトマウスの光と影

Q:日頃あまり他の教官が説明してくれないような遺伝子操作の実験方法の概略などを聞くことが出来て大変有意義な時間を過ごせました。ノックアウトマウスの作製法やPCR法等も一通りは知っているつもりでしたが、C.elegansやdrosophiaにおけるノックアウトの作製法やPCRにまつわるDNAポリメラーゼの話などは初めて聞く話であって非常に面白かったです。2本鎖RNAによるノックダウンの話も、とても興味深く、自分で少し調べたところ、哺乳類ではC.elegansに比べて非常に短い2本鎖RNAであるsiRNAを導入しないとインターフェロン反応によりRNAiを機能させれない、等の事がわかり、ますますRNAiのメカニズムに惹きつけられました。もっと詳しいことを調べて、自分でその問題に取り組んでみるのも良いなぁ、と感じました。


Q:ノックアウトマウスが万能でない、というのを初めて知った。ということは、ノックアウトして何か異常がでてもその遺伝子が直接その部分を支配しているという保証は完全では無いわけで、その完全なる保証を求めてやっているノックアウトという手法というものの意味は何なのか?
いわゆる"細胞レベル"ということの正体も初めて知った。細胞レベルというのは培養細胞=無限増殖細胞=癌細胞での出来事ということだった。癌細胞でこうだから全ての細胞でもこうだというのはかなり飛躍のある理論のように感じてしまう。個体という巨大なシステムを理解するのはまだまだ時間がかかりそうに思える。


Q:従来の順遺伝学に加え今日逆遺伝学という見解が広まっている。表現型(機能)から遺伝子へと見る遺伝子を順遺伝子、遺伝子から表現型へと見る遺伝子を逆遺伝子という。遺伝子を導入して何が起こるか(表現型の変化)を見ることにより、その遺伝子を解析することが出来る。1培養細胞レベルでの遺伝子導入(遺伝子トランスフェクション)2(トランスジェニック)遺伝子導入個体の作成 などがある。また遺伝子をノックダウンして表現型を変化させることでも遺伝子の機能を解明出来る。逆遺伝学の主たる方法としては1遺伝子欠損個体の作製[マウス、ショウジョウバエ、線虫、酵母](遺伝子ノックアウト)2遺伝子突然変異個体の作製(TILLING)3特定の遺伝子の発現阻害[RNAi](遺伝子ノックダウン) がある。現在はポストゲノム時代からポストゲノムシークエンス時代への過渡期ともいえ、今後の遺伝学の発展が期待される。


Q:ゲノムの解析がすすむことで、(マクロ的観点以外の)生物の解明はほぼ全て完了するものと思っていたが、個々の遺伝子の役割を解明するだけでは、システ ムとしての個体を理解できないという話を聞いて驚きであった。ある機能に関係すると思われる全ての遺伝子を破壊しても、それでもなおその機能が存在する ことがあるとは驚きであった。ただ、逆に一つの遺伝子が数多くの機能(生命に直結するような機能まで)を担っていて、更に代替・補完的な遺伝子が存在しないような、そんな遺伝子もある。この2つの差は一体どこにあるのだろうか。ただの進化の過程で起きた”偶然”なのか、やはりゲーム理論的観点からみてそれがベストな解法だったのか、非常に気になるところであった。