先端生命科学入門 第1回講義

4次元の光合成

初回は、この講義の概要の説明のあと、光合成の意義と光合成研究の方向性、そして光合成の研究の実例を紹介しました。レポートの数が少なかったので、初回でもあり、全てを載せて、それに対するコメントをつけておきました。


Q:私は特に「タコクラゲ」「ゲノムの決定と遺伝子の機能解析」の話題に興味を抱きました。タコクラゲでは人工的にでも光合成を自己のみで行える生物を作れるのか、ということが気になりました。葉緑体DNAをtransfectionしてやれば出来るのか、初期の卵細胞に葉緑体を注入してやれば自律的に分裂・増殖を繰り返して葉緑体を含む体細胞から構成される個体が生じるのか、生じないとすればどこの段階で失敗してるのか・・・etc
私は発生の段階でエネルギー不足になるのかなぁ、と漠然と思っているのですがならば人工的に卵黄の量を増やした卵で同じことを行ったら上手くいくのか等、自分でも次々に疑問が沸き起こってくる状態です。後ゲノムの話題では「ゲノムの決定」と言った時、遺伝子の個体差、SNP等をどう表現するのかと言うのが不思議でした。全体的には、生物未修者がいる以上仕方ないのかもしれませんがそれでも少し易しすぎるのではないか、という印象を受けました。

A:実は、葉緑体の機能を担うタンパク質の遺伝子は、一部だけが葉緑体のDNAにコードされていて、かなりの部分は細胞の核のDNAにコードされているのです。ですから、葉緑体DNAや葉緑体そのものを細胞に入れても、核のDNAまで変わらない限り葉緑体は増殖することができないのです。 ゲノムの決定といった場合は、ある特定の細胞、もしくは個体を材料にして配列を決定します。ですから、同じ種とされているものを自分の研究室で使っていても、実際に配列を比べてみると食い違う部分が出てくることがあります。 講義のレベルは難しいですね。理系の生物未履修者はもちろん、文系の学生までいる中では、どこにレベルを設定しても不満は出そうです。ただ、これから一回ごとに違う講師が講義をしますから、その講義の難かしさは、どうしてもある程度ばらつくと思います。おそらくこれからもう少しレベルの高い講義もあると思いますから、それでご容赦下さい。


Q:この講義を通して、光合成が地球上の生物に対して、重要な役割を持つことを改めて認識した。又、光合成については課題がまだまだ残っていることも分かった。その中で、一番興味深かったのはクロロフィム蛍光画像を利用して、遺伝子を調べることだ。シアノバクテリアでは、直接に関係ない遺伝子をつぶしても、光合成が六割以上で変化することに驚いた。その遺伝子は光合成に直接に関係ないので、おそらく他のシステムを影響することによって、光合成に影響を与えるだろうと思う。それで、一つの疑問が生み出される。今、遺伝子機能解析のために、よく変異株を作って、表現型を調べる。しかし、ある遺伝子が光合成に直接な関係がなくても、その遺伝子をつぶしたら、変異株には光合成の異常がある。自然に、その遺伝子が光合成に関する遺伝子だと結論が出てくるが、実はそうではない。つまり、今までの遺伝子機能の解析には問題があるのではないかと私は思う。

A:ある特定の遺伝子をつぶした時に、いろいろな表現型が出ることはよくあります。有名なのはFtsという一群の遺伝子で、これは、filamentous temperature sensitiveの略で、初め、温度を上げると細菌の細胞が細長くなるという表現型を示すものとして取られました。しかし、実際に個別に機能を解析してみると、「形態を丸くする」遺伝子だったわけではなく、細胞分裂に関与するものや、プロテアーゼなど様々でした。1つの表現型を見ただけで結論に飛びつくと間違うかも知れない、と言う意味ではその通りです。


Q:遺伝子の機能解析の方法に特に強く興味を持ちました。ある表現型の発現には複数の遺伝子が複雑に関与していることが多いため、事前の予測に基づいてその表現型に関わる遺伝子を一気に全て特定するのはほとんど不可能であるから、遺伝子の生物のシステムの中での位置を知るためには、やはり網羅的に一つ一つの遺伝子について変異体を用いて調べるのが最も効果的だと思います。しかし、そのような網羅的解析においても、その遺伝子の生物としての機能を知るためには事前の予測が必要であることから、知識の蓄積に基づいたモデルや理論の必要性を感じました。しかし、ゲノム配列の決定速度が上昇し、また遺伝子の機能に関する知識が蓄積されているのに伴って、配列の類似性や蛍光挙動の類似性に基づくモデルや理論が誕生し、遺伝子の機能解析がこれからますます容易になっていくであろう、と思いました。

A:確かに、データの蓄積量が増大すれば、新しい理論による機能予測が可能になるかも知れませんね。ただ、やはり最終的には、泥臭い生物実験で確かめなくてはならないと思いますが。


Q:人間は常に、エネルギーを作っているのではなく太陽エネルギーを利用できるかたちに変換しているのにすぎない。だから光合成する生物が動かないのは大きい面積での行動が非効率的というより、むしろ動くのは太陽エネルギーの間接的利用のためで、直接利用できるなら行動するということの意味がないからとも考えられる。それだけに植物にとり光合成は重要で、ゲノムのかなりの部分が光合成に関連しているのだろう。
光合成に関連がないはずの部分を破壊したのにクロロフィル蛍光が変わるというのは今判っている仕組みは主要な部分ではあるが全てではないことの証明に思える。クロロフィル蛍光の変化を使って遺伝子の機能解析をする手法は逆に解析された遺伝子を壊してクロロフィル蛍光を調べることで、その遺伝子の光合成との関連性をつかみ仕組みの真の全体像を解明する手掛かりになるのかもしれない。

A:植物の場合は、いわば光合成を指標に使うことができるのですが、他の動物などには応用できませんよね。そこを何とかしたいと思っているのですが、なかなか難しいですね。


Q:私は高校時代に生物を学んでいたのですが、高校までの理科では光合成は単に植物がどのようにエネルギーを獲得しているか、という観点でしか見てこなかったような気がします。しかし今回の講義では地球レベルでの光合成のもつ役割という見方を提示され、大変新鮮でちょっぴり感動しました。あと、遺伝子機能解析の方法のなんですが、動物では蛍光挙動の代用に血液の成分分析という手法は使えないのでしょうか?講義中、たとえばホルモンの血中濃度などを調べればホルモンの分泌にかかわる遺伝子とわかり機能解析の役に立つかもしれない、と考えました。
講義自体については最先端の研究内容をさらっと知ることができ、大変興味深く、レベルも適切であったと思います。ただ、いろいろな話題を90分という短い時間内で説明するので、できればレジュメを配布していただけるとうれしいです。ノートをとる手間も省け、講義に集中することができ、かつ後で見直すのにも便利で、とても助かります。これからの講座も興味深いものばかりなので、楽しみにしています。

A:血液の分析もよいと思いますが、本当は、非接触の測定方法があるともっとよいですね。蛍光測定の場合は、測定対象に触る必要がないのが非常に便利です。シャーレにはやしたシアノバクテリアや、植物の芽生えを、シャーレの蓋を取らずに測定できるのがよいところです。 レジュメは、だいたい受講者の人数が固まったら、配れるかも知れません。このあとの先生に申し送っておきます。


Q:今回の講義は大変興味深かった。明所と暗所における植物の成長の違いの話では、一見当たり前であるような現象であっても、何も無いところからその理由を見出すことの難しさを認識した。例えば、なぜ暗所で育った植物は長く生長するのかという疑問だが、答えを聞けば「あぁ」と思うようなことであったが、自分で思いつくことは非常に困難であった。また、今回の講義のテーマである光合成についてだが、教官のHPに載っていた実験の数々は、一般の人向けとは言えどいずれも好奇心を抱かずにはいられないものであった。特に、ピーマンの実やスイカの皮が光合成をするかどうかという実験は、わかりやすいテーマでありながら、光合成についての正確な知識を提供する良い実験であると思う。この講義を通し、身の回りのものに注目してこそ研究者なのだと強く思った。容易ではないだろうが、生物学的な目でさまざまな現象に注目していきたい。

A:そうですね。一般に、一つの研究を突き詰めていくと、だんだんと話が細かくなって、専門家以外にはちんぷんかんぷんということになる場合がありますが、僕自身は、やはり、素人にも、面白いな、と思ってもらえるような研究をしていきたいと思っています。


Q:植物の光合成は生態系において多様な意義を持つ。例えば、熱力学第一法則の成立している生態系内で、植物は光合成によって、光エネルギーを化学エネルギーに変換する生産者としての役割を持つ。このような光合成の機構を、原子レベルや生態学・地球規模で捉えたり、適応・進化を通じて4次元的に解析したりすることは、今日注目されているポストゲノムの研究に大いに役立つ。遺伝子の機能解析には、主に2つの方法がある。1つは、遺伝子を破壊し、個体の形質変化を調べる方法。もう1つはゲノム解読後、塩基配列の類似性からその機能を推定、解明する方法である。後者では既知の遺伝子産物と、性質が類似した遺伝子産物を合成する遺伝子を見つけ、同じ生態機構に関わる遺伝子か否かを確認する手順が有効である。シアノバクテリアでは光合成に関わる既知の遺伝子を利用したゲノム解析が進んでいる。この後者の発想の動物への応用を今後期待したい。

A:これは講義内容のを自分なりにまとめたものですね。できれば、これに自分なりの解釈・考え方、が反映されるとよいレポートになります。


Q:第一回目の講義で特に印象に残っていることの一つは、暗条件下で育った植物が何故もやしになるか、ということだった。暗闇中で育っていると、葉を作るのは無駄であり、地中にいるのと錯覚した状態で形態形成を行うためというのはとても合理的で、生物のメカニズムを素晴らしく思った。しかしこれには植物はどうやって光の有無を認識するのだろうかという疑問が残った。光により植物中の物質が化学変化し、それが植物の形態形成に影響を及ぼすのだろうか。それとも全く異なる植物特有の仕組みがあるのだろうか。また、地中にいるのか陸上にいるのかは光の有無によって認識しているのだろうか。今回の講義では様々なことを知ることをでき、それに伴い新たな疑問も生まれた。もっと詳しくこの講義の内容を知りたくなり、生物に対する興味が一層わいたように思う。

A:光の感知には、一般的に、光を吸収する色素部分を結合したタンパク質が働き、光を吸収したときにタンパク質の構造が変化することにより、その信号が別のタンパク質に伝えられ、最終的には形態の変化やクロロフィルの合成などにつながります。地中にいるのか、陸上にいるのかは、光をシグナルとして使っているはずです。


Q:化石燃料は結局太陽エネルギーに由来するということは自分自身の想定の範囲でしたが、水力発電も水の循環が太陽エネルギーによるものであるということを考えたことが無かったので非常に新鮮でした。 光合成は植物が生きていくうえで必須の生命活動であるのに、その活動により海では酸化鉄が析出し、鉄が限定要因となって植物プランクトンが生育出来なくなっているのは、まるで自分の営みで自分自身の首を絞めたようで、ある意味では自分たちの暮らす環境を破壊している人間とも通じる部分があると思いました。 あと、一つ質問をさせていただきたいのですが、クロロフィルの原子レベルでの対象性について、見せていただいた画像では非常に対象性が強かったのですが、対称性が強いと具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか?対称性のあるものと無いものではどのように光合成の効率などがかかわってくるのでしょうか?よろしくお願いします。

A:メリット、といえるかどうかはわかりませんが、分子が対称性を持って配置されると、分子が1つ単独でいる場合とは物性が変化します。例えば、クロロフィルのような色素の場合は、その吸収スペクトルは、対称性を持つ配置によって大きく変化します。ですから、単独の分子では吸収できなかった光が吸収できるようになったりします。