ポストゲノム時代の生命科学 第5回講義

色覚、遺伝子、サル、サカナ

第5回は、人類進化システム分野の河村先生が担当されました。 寄せられたレポートの中から印象に残ったもの4つを以下に載せておきます。


進化とは本当に不思議なものだ。分子レベルでの何らかの変化がいつのまにかマクロの視点での動物(植物)の振る舞いに変化を起こす。今回のテーマは、色覚を扱うことで、この適応進化の分子機構を明らかにしていける、というものだった。サイエンスとしてのディティールを完全に理解できたとは言えないが、日ごろ目にする世界が非常に新鮮なものに感じられるようになった。ヒトの目も、長い淘汰の中で生き延びてきた非常に優秀な機能なのだろう。ヒトの目の能力が、実は一度失われた色覚を取り戻して出来ているものだ、というのには驚いた。日ごろ、進化の法則である、と一言で済まされるところに「なぜ?」と切り込んでいく姿は、ありていな言葉になるが非常に「カッコいい」と思う。


今回は色覚進化と遺伝子についての講義で、今までのポストゲノムへのアプローチとは少し違っており、「こういう解析の仕方もあるんだなあ」と気づかされた。が、少し考えてみると、僕の見方が今まで偏っていたのかもしれない、と思いついた。今まで「遺伝子解析」「塩基配列」「セントラルドグマ」など、生物、というより物質に近い(という感想を抱いている時点で僕の視野が狭いのだろうけれど)生命の機能を学びその最先端の研究の一端を知り、「生物学」の真髄に触れたような気分になっていたが、やはり「生物学」はこの講義でそうであったように、生物の、個体としての機能、能力を深く研究し、その中に見出される秩序や混沌を追求することから発展していったものであるから、生物学を学ぶ上でこういった視野を忘れてはならないと思う。僕は先ほどの「遺伝子」関連の事柄に大変興味があり、こういう分野に携わって研究をしたいと思っているが、視点を常にDNAやその発現などにおいているのではなく、「生物」、命がありさまざまな機能を持った個体としての「生物」という視点をつねにもっている、視野の広い研究者になりたいと思う。


ポストゲノム時代は、おそらく、今までの常識や思い込みが今まで以上に劇的に覆されてゆく時代なのでしょう。進化の度合いが激しいからといってヒトのDNAが優秀というわけではなく、大腸菌や酵母と大して違わないことが明らかになってきました。色覚も、我々の思い込みとは裏腹に、我々より「色鮮やかな世界」が見える生物が多いというのです。彼らの見る世界は、我々には決して見えません。それがヒトの限界であり、面白さでもあるのでしょう。世界が違う・・・。大変興味的でした。もちろん彼らには、違う色の世界があるなどと考えられはしません。鮮やかな世界を持つものはそれを自覚することなく、持たない者ははその世界を想うことができる。そんなものなのかもしれません。少し驚いたのは、色覚がハンデにもなりうるということでした。視覚に頼りすぎて擬態を見抜けなくなる。見えるものの中に常に真実が在るとは限らないのです。哲学的になってしまいましたが、色々な意味で考えさせられたと思います。 


色覚から進化や系統にアプローチするというのは思いもよらなかったので、新鮮な感じがした。色があまり識別できない動物がいることは知っていたが、ヒトよりも多い四色型色覚を持つ鳥類や魚類がいるというので驚いた。今私たちが眺めている世界が普通のように思えてしまうが、そういう動物にはどういう風に見えているのだろう。調べてみると、紫外線が見える生物はかなりいるようだ。ハチドリは、紫外線を感知し、花の蜜のある場所を示すハニーガイドが見える。モンシロチョウの雌の羽は紫外線を反射し、雄はそれを目印に雌を探す。私たちには見えないものが見える、同じものを見ても違うように見える、何気なく見ているこの世界がなんだか不思議に見えてくる。ヒトにも紫外線が見えたら日焼け対策は万全な気がするのですが、どうでしょう。