代謝生物学 第7回講義

分光学の基礎と光合成の測定

第7回は、光合成のさまざまな測定方法について概説しました。また、分光学の基礎知識についても説明しました。どうもあと残りが1回になってきたもので、予定していた講義内容を全部やろうとつい思ってスピードが速くなるようです。


Q:昨年の4つくらいの実習の復習のようでしたので、実習前に講義があったらなあと思いました。パルス変調測定法で励起光というネーミングが誤解のもとなのではないでしょうか。A-Ciカーブの律速段階の変化のところで、高濃度で二酸化炭素濃度は律速でなくなったのでしょうが、電子伝達に律速が移ったと考えるのは早計なのではないでしょうか。

A:蛍光測定では、測定光が色素を励起しますので、それ以外の励起光とどうしても混乱しますね。どうもうまいネーミングがなくて困ります。律速の変化についてはご指摘の通りです。実際には、糖の合成のところで扱ったリン酸律速の場合も、高濃度の二酸化炭素領域の光合成を律速する可能性があります。


Q:どうして1原子分子ガス、単一の元素からなる2原子分子ガスは、赤外領域に吸収を持たないのですか?今回は後半の部分の講義についていくことができませんでした。特に飽和パルス光のところがよくわからないのですが・・・。

A:赤外領域の吸収は、主に原子間の振動などによって生じます。ですから、1原子分子ガスが吸収を持たないのは明らかですね。単一の元素からなる場合は、結合の対称性が高いのが原因かも知れませんが、僕にはよくわかりません。この辺は化学の専門家に聞いてみましょう。後半、わかりづらくて申し訳ありません。急ぎすぎました。


Q:前半の内容は去年先生の研究室でトウモロコシやヤシャブシの葉を使った実習の内容だと思いました。今日の講義で久しぶりにオープンシステムやクローズドシステムの話を聞いて思ったのは、長い時間の測定で葉がダメージを受けて光合成能が下がってしまうことがあるんじゃないかということです。プリント三枚目のパルス変調を用いた測定など、光にさらした状態で蛍光を測定できるという点が新鮮でした。ああいう様々な測定方法について実際に行う際には色々な手順や扱いの難しさがあると思うのですが、どういう失敗をよくしてしまうかを教えてほしいです。

A:二酸化炭素の吸収で光合成を測定する場合の難しさは、やはり気孔が充分開くかどうかにつきるでしょう。特に、植物体を切り離した場合には問題が生じることが多いようです。パルス変調などは、測定自体は簡単きわまりないので、まず失敗しません。ただ、こちらはデータの解釈が難しいですね。


Q:飽和パルス光の話で、Fo, Fm, Fm', F, Fo'などの値の意味がよくわからないのですが、それぞれ具体的には何を表しているのでしょうか?
 ところで、光合成ではなく生物に興味を惹かれている身としては、今回の講義はあまり面白くありませんでした。こういう方法論は実習の中でしてほしい(ほしかった)と思います。

A:Foなどの値は、ある時点における蛍光収率を示しています。基本的にはそれ自体に、具体的な「意味」はありません。ただ、光合成で使われるエネルギーが多くなると蛍光は小さくなるので、蛍光が小さいFoの時は光合成の収率が高く、蛍光が最大値を取るFmの時は光合成の収率がほとんど0のはずだ、といった議論はできます。
 方法論は、2年前にむしろ学生さんからの要望があって取り入れたのですが(レポートを書くときの参考にしたいということだったのでしょう)、実習の内容や時期が変わっていて、あまり今回は役立たなかったようですね。


Q:実験データを正しく解釈するためには測定の原理をちゃんと理解していなければなりませんが、そのためには物理や化学や数学を避けてと通れないということを痛感します。また、3年実習で実際自分が光合成測定を行ったときには、葉を採取する時間、切った葉を保存しておく条件などなど、データに影響を与えるであろうさまざまな要因が考えられて、「葉」という比較的大きく、実験室外に生えている対象を扱うのは予想外に難しいものだと感じたことを思い出しました。

A:実は、ほとんどの実験で、「データに影響を与えるであろうさまざまな要因が考えられ」ます。例えば、電子顕微鏡で細胞の構造を見ようとすれば、固定のプロセスで構造が変化しないかどうか注意しなくてはなりませんし、酵素活性を生化学的に測ったとしても、生体内での基質量が実際に充分であるかどうかによって測定値が生体内で実現する保証はありません。実際の生物の状態を頭に置く実験はみな予想外に難しいですね。もっとも、人によっては、生物には興味がなくて、例えば酵素の活性の制御メカニズムに興味があれば、そのメカニズムが生体内で実際に起こっているかどうかはどうでもよいのかも知れません。ただ、生物学者としては、それでは本来いけないと思うのですが。


Q:生態研の3年実習で光合成量の変化を二酸化炭素のクローズドシステムでの測定を用いて調べました。なぜ発生した酸素量ではなく、吸収した二酸化炭素量を測るのだろう、同じような装置で酸素を測定するものはないのだろうか、と思っていたのですが、それは単一の元素からなる2原子分子ガスは赤外領域に吸収を持たないからだという説明で納得しました。ただ、なぜ1原子分子ガスや単一の原子からなる2原子分子は通常赤外吸収を持たないのかがよく分かりませんでした。さらに、「通常」ということは、吸収するものもあるのでしょうか?他に様々な測定法を今回学んだのですが、よく理解できなかったものも多いので、実際にそれを用いて測定して、原理を理解できるようになりたいと思います。

A:ガスの種類と吸収の関係については上の方を見てください。また、化学が専門ではないので、「通常」以外の例というのはよく知りません。気相で測るときも酸素電極を使うことは可能です。ただ、その場合は、もともと20%あるガスですから、小さい変化をきちんと測るのが難しい面もあります。二酸化炭素ならもともと0.035%しかありませんから、光合成が少し起こると、相対的には濃度が大きく変化することになります。


Q:今回の範囲はかなりヘビーでした。コーツキー効果からかなりちんぷんかんぷんになってきました。パルス変調測定光と励起光とのどのような違いを元にどのような実験結果を得ようとしたのかもう一度教えてください。かつ、蛍光変化の定量化の式もよくわかりません。

A:結局、今年は生態研の実習でもパルス変調をやらなかったそうですね。本当は、実習で、実際に扱っていて、その意味をよく考えてみよう、という講義にしたかったのですが。蛍光の時間変化は基本的に2つの要因、光化学消光と非光化学消光によって説明できます。変調測定と飽和パルス光の採用によって、その2つの要因を別々に評価できるようにする、というのがパルス変調蛍光測定の眼目です。定量化も、2つの要因がそれぞれ、どれだけの寄与をしているのかを示すための方法です。


Q:光化学系Iと2を別々に測定できることや、微分スペクトルやパルス変調などの数学的(物理的?)解析に興味を持った。先日行った光合成測定の実習では、葉をクローズドシステムに置いた状態で空気中の二酸化炭素濃度変化を測定した。このとき機械が水に弱いという理由で塩化カルシウムによって空気中の水分を吸収しながら測定したのだが、このことは測定に影響を与えたのだろうか。気孔の開閉は、水の蒸散や光合成のための二酸化炭素吸収だけでなく、呼吸にも影響を与えると思う。光合成と呼吸を独立に測るには、光の条件を変えるしかないのだろうか。

A:湿度が低下すると気孔はどうしても閉鎖しますので、光合成速度を最適条件で測るのは難しくなります。ただ、結果として実験をしたときに気孔が十分開いていたのなら、問題ないことになります。光が当たっている条件での呼吸速度を測るのは、アイソトープを用いるなどしないと難しいでしょうね。


Q:分析法の原理を学ぶことをついつい敬遠してしまいがちだったので貴重な機会でした。ただ、実際に自分で扱ったことのないものがほとんどで消化不良ぎみでした。

A:2年前は実習と平行していたので問題なかったのですが。すみません。


Q:葉緑体内で行われる反応であり、光合成と並んで重要と考えられる窒素同化の測定方法で画期的な方法はあるのでしょうか。

A:光合成の測定は、光が関与する反応であるという特殊性から、さまざまな方法が開発されてきましたが、窒素同化の場合は、一般的な酵素反応ですから、いわゆる生化学的な測定になると思います。


Q:室温では光化学系Iは殆ど蛍光を発しない、とのことですが、なぜ光化学系Iのみなのかが不自然に感じました。蛍光を発する分子は殆ど同じクロロフィルのはずなのに、複合体の状態で蛍光発光の有無に違いが生じるのはなぜですか?電子伝達系が活発に機能する室温のもとでは、光化学系Iが吸収した光エネルギーはかなり効率よく電子伝達系に使われるのに比べ,光化学系IIでは反応中心のエネルギー効率が悪く一部が電子伝達系に使われずに蛍光として観察される,という解釈は可能ですか?光化学系IとIIが独立に同量の光エネルギーを受けた時に、エネルギー効率はどれくらい違うのですか?もし光化学系IIのエネルギー効率が光化学系Iよりも低いとすれば,光阻害の回避や光化学系IIへのエネルギー分配など、様々な生物学的な解釈が可能だと思います。

A:蛍光強度の温度依存性が系Iと系IIでなぜ違うのか、に対する直感的な説明は難しいと思います。物理的には基底状態の準位と励起状態の準位との相対的な位置関係で決まるはずです。光化学系のエネルギー収率は、光化学反応だけに限れば、系Iでも系IIでもほぼ99%以上です。逆に蛍光の収率は、光合成が進む状態では、わずか0.6%程度です。これに比べてタンパク質に結合していないフリーのクロロフィルの蛍光収率は30%程度になります。温度を変化させたときの光合成の効率の変化で、蛍光強度の温度依存性を説明できるかも知れない、との考え方は非常に面白いのですが、初期の電荷分離は液体窒素温度でも進むことを考えるとどうも実際には当てはまらない気がします。


Q:今までわからないで実験していたことの詳しい内容がわかり非常に興味深い授業でした。いまいち理解できなかったのが変調のあたりです。なんとなくわかるんですが。。。波の性質を理解していないことが悪いのでしょうか。後は授業ではあまりふれなかったのですが結局コーツキー効果はいったいなにが原因なのでしょうか?光合成系が二つに分かれているからでしょうか?

A:蛍光収率は非光化学消光と光化学消光が組合わさって変化します。光合成系のFNRや炭酸固定系の酵素は暗所では不活性化されているので、暗所に置かれた葉に光を当てると、酵素の活性化が起こり、それによって光合成の活性、ひいては光化学消光が複雑に変動し、結果的に蛍光収率が変動します。また、エネルギーを熱に変換する安全弁の役割を持つ熱放散系も光照射によって変動しますから、これも蛍光収率の変動につながります。これらが複合的に影響を与えた結果がコーツキー効果です。


Q:今回は光合成の測定についてのおはなしで、酸素電極のところまではとてもわかりやすかったのですが、分光器のあたりから、はげしいねむけに襲われたせいか(すみません・・)とても難しく感じました。明日からの実習のほうで勉強しなおしたいと思います・・・

A:すみません。今回のテーマは特にストーリーがなく、説明に終始したので、眠くなったのでしょうね。