植物生化学 第6回講義

窒素代謝

第6回は、窒素固定を中心に窒素代謝について紹介しました。今回の講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:根粒菌は根で植物と共生するが、他の部分で植物と共生できる生物は存在できないものだろうか。たとえば草本植物で根よりもシュートで多く窒素同化を行っているものがあるのでシュートのどこかで共生し窒素固定を行えば硝酸輸送にコストを裂くことが減るのでより有利にはならないだろうか。その場合、まずどのように感染するかが問題になるだろう。根粒菌などの菌類は土壌に多く存在するだろうから根以外に感染することは難しい。菌糸を伸ばすにしても根からでは菌糸を伸ばすコストが大きくなりすぎて難しいだろう。傷口から進入するアグバクテリウムのように植物体に進入し、窒素固定を行うことが出来るならば地上部での植物との共生が可能になるように思える。が、進入できる機会が少ないため安定して存在することは難しそうである。根から感染した後に植物体内を移動し、地上部にたどり着くことは可能だろうか。道管を通ればもしかしたらどうにかなるかもしれない。

A:レポートにあるように、地上部で窒素固定できればより有利になることが増えそうです。ただし、窒素固定に働く酵素、ニトロゲナーゼが酸素で阻害されてしまうこともあるので、細胞内酸素濃度が高そうな地上部で行う仕組みには進化しなかったのかもしれません。また根粒形成に働く遺伝子の多くは、菌根形成に働く遺伝子と高い相同性があるようです。そのために地下部で形成する仕組みをもっているのかもしれません。


Q:同じ窒素含量でも、イネ・コムギのほうがホウレンソウ・ダイズよりも光合成速度が大きいことがレジュメ中のグラフから読み取れる。これは何故だろうか。ホウレンソウやダイズ、イネ、コムギは全てC3植物である。おなじC3植物でもホウレンソウやダイズは双子葉植物、イネ・コムギは単子葉植物である。イネ・コムギはイネ科に属し、イネ科にはC4植物が多数含まれる。さらにC3植物のイネなどでは、C4経路では働くがC3植物の光合成には関与しない遺伝子の存在が確認されている。このことから、ホウレンソウやダイズには含まれていない遺伝子の存在により、イネなどでは光合成系の酵素活性が上昇しているのかもしれない。また、イネやコムギのシュートの構造はホウレンソウやダイズとは異なり、根に近い部分まで光が届くことから、同じ窒素含量でも十分な光によって光合成系の酵素がより効率的に使われ、そのために光合成速度が大きくなっているのかもしれない。

A:同一の光強度を照射して光合成速度を測定しているので、受ける光の強さが違うわけではありません。ダイズやホウレンソウの傾きがイネやコムギの傾きよりも低いのは、1)気孔コンダクタンスが低く、細胞間隙CO2濃度が低いため、2)窒素あたりのRubisco量が少ないため、3)Rubiscoの酵素学的な性質が低いためと説明されています(前 1992 「現代植物生理学 光合成」朝倉書店)。


Q:土壌中の栄養塩類を得るために、多くの陸上植物は地下部で菌類と共生している。これらの菌類に対して、ミトコンドリアや葉緑体のように世代間で引き継がれる形で細胞内共生を行い、根圏のような構造を作り上げる組織に特有な細胞内小器官とすることはできないのだろうか。それによって根圏での共生を行った時のように、根の栄養塩類を吸収する効率を上げることはできないのだろうか。根圏での共生にはない利益として、植物にとって病原性の菌類に対する感染のリスクの回避が考えられる。植物体の根と菌体の共生関係の成立には特定の物質を利用していると思われ、それが耐病性の向上につながっているとも考えられる。しかしそのとき、類似した構造を持つ物質を分泌するような病原菌への感染の危険性があると思われるので、その回避に役立つ可能性があると考えられる。しかし細胞内にそのような器官が組織特異的に発現するようになるためには、その調節機構などが植物体のゲノムに組み込まれる必要があり、そのような変化が起きる確率は低いと予想され、植物が陸上に進出した際には世代ごとに行う形の共生を行ったものが広く繁殖したのではないかと考えられる。

A:確かに細胞小器官としてシンビオソームを植物体内につくりあげれば、窒素固定の効率が上がるのかもしれません。植物側は根粒菌が過剰につかないような様々な仕組みをもっているようですので、今後の長い歴史の間で、細胞小器官になるようなゲノム間の遺伝子移動が起こるのかもしれません。


Q:窒素固定細菌は窒素をエネルギーを用いてアンモニウムイオンに変えている。その中で、植物と共生するものはアンモニウムイオンを植物に供給しエネルギーを対価としてもらう。一方、植物と共生しない窒素固定細菌はアンモニウムイオンを同化してエネルギーを得ており、また生成したアンモニウムイオンは硝化細菌によって用いられることもある。ここで思うのは、植物と共生していない窒素固定細菌はアンモニウムイオンを周囲に放出し、それによって硝化細菌が硝化を行う、がそれに酸素を用いているため窒素固定を行うデヒドロゲナーゼの酸素による活性阻害弱まる。すなわち、窒素固定細菌と硝化細菌は共生関係にあるといえるのではないだろうか。窒素固定細菌のみの培養と、窒素固定細菌と硝化細菌を混在させた培養による個体数の違いを見ることができれば興味深い結果が得られるかもしれない。

A:単生窒素固定菌も植物に入り込んで生育しているのも多く、それらは植物からの有機酸を利用しているのでしょう。硝化細菌と共存したときに、硝化細菌から有機酸が利用できれば、共生できる可能性があるのでしょう。別の話ですが、水田で広く生育する水生シダ植物のアカウキクサは、葉の内部にシアノバクテリアが共生し、窒素をアカウキクサに供給しているそうです。