植物生化学 第5回講義

光合成産物の転流

第5回は、前回積み残したCAM型光合成について補足すると共に、光合成の産物と、転流の仕組みについて紹介しました。今回の講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:ソースでは光合成産物を稼ぎ、その産物はシンクに輸送され、消費または貯蔵される。そのとき光合成を行う葉緑体も、デンプンの貯蔵を行うアミロプラストもどちらも色素体であることは興味深く思われた。葉緑体の中では光化学反応と炭素還元反応が行われ糖が作られるため、葉緑体にもデンプンは貯蔵されるが、他の場所でその糖を利用するためには、そこから糖を外部に運び出す機構がストロマから葉緑体膜の過程の中に必要であると思われる。一方でアミロプラストでは、輸送された糖からその内部でデンプンを合成するため、アミロプラストの膜には糖を取り込むような機構が必要であると思われる。このような色素体の多様な構造の発現は、組織間におけるソースとシンクの分化の一環であると考えられ、また葉緑体はそれ自身デンプンを貯蔵できるにも関わらず、アミロプラストのような構造が作られている。このことは光合成を行うには光環境が不十分であるような組織での光合成系を作るコストを軽減し、また重力応答に関与するなど存在する色素体を有効に利用することに役に立っていると思われる。

A:プロプラスチドから葉緑体への分化には、光照射後に核ゲノム上にあるRNAポリメラーゼ(NEP)による、葉緑体ゲノム上にあるRNAポリメラーゼ(PEP)の活性がまず大切です。その後、PEPとシグマ因子との協同で光合成に必要なタンパク質がつくられていくようです。アミロプラストへの分化ではまだ不明な点が多いようです。培養細胞を使った研究が進められています。


Q:植物は何故光合成によって合成した炭水化物をスクロースという形で転流し、デンプンとして貯蔵するのだろうか。合成したグルコースをなぜそのままの形で師管を通して輸送しないのだろうか。植物では、単糖(グルコース)トランスポーターの他にスクローストランスポーターが存在し、主に維管束を介した糖の長距離輸送に重要な役割を果たしている。これらのトランスポーターが存在していることから、細胞からグルコースをくみ出すことが不可能であるためにスクロースを用いている、というわけではなさそうである。スクロースはフルクトースー6−リン酸とUDPグルコースから合成されることから、スクロースの合成によってそれぞれの単糖に結合していたリンを回収することができ、また単糖→二糖にすることにより、浸透圧が下がったり、へミアセタール構造の変化により還元性がなくなること、またそれ以上重合せず転流中にデンプン粒となって篩管に詰まることがなくなるためではないかと考えられる。
参考文献:化学1B・2の新研究 三省堂

A:講義中にはっきり言わなかったのですが、グルコースはその一部が直鎖状の構造を取ります。直鎖状のグルコースはアルデヒド基を有するために還元性を示します。動物細胞中とは違い、植物細胞では炭水化物が非常に高い濃度になります。もしグルコースを蓄積すると直鎖状のグルコースがタンパク質のアミノ基と反応してしまいます。おそらくそのために、植物ではスクロースのかたちで転流しているのでしょう。


Q:CAM植物はどのようにして昼夜を感知しているのだろうか。気温や光を感知する手段があり、それによってCOの取り込みと合成を分けていると考えられる。一定温度でCAM植物を育てる、一定の光条件で育てる等の後に光合成産物量を測定すればどのような条件で分けているのかある程度わかると思う。昼に相当する条件(ある程度高めの温度+光)で育て続けてCO不足で枯れてしまうとも考えにくいので、空気中の水分等も含めた複合的な条件でCOの取り込みと合成をわけているのかもしれない。

A:時間の都合上、CAM植物の光合成を詳しく言わなかったので誤解していたようですが、多くのCAM植物では明け方と夕方には気孔を開き、CO2を取り込み、Rubiscoが直接CO2を取り込むC3光合成を行います。ただし、葉の齢が進んだり、乾燥条件下などでは、明け方や夕方でも気孔はあまり開きません。気孔の開閉、光合成酵素の活性化、不活性化には湿度、細胞間隙のCO2濃度、光など複数要因が影響していると思いますが、不明な点が多いです。


Q:浸透圧の仕組みを上手に利用した圧流説に興味をもった。植物は気孔の開閉や膨圧運動などで、同様に浸透圧をうまく利用している。しかし、ソース側の水圧を高めるだけでは、糖の移動方向を有意義に決めることはできない。根や地下茎がシンクのときには下部に、先端成長をするときや花がシンクのときには上部に糖を輸送させなくてはならない。どのように糖の流動方向を調節しているのだろうか。まず、1つはシンクで糖のデンプン化を進めること。シンクにおいて浸透圧が下がることで浸透圧が下がり、糖が輸送されてくる。しかし糖のデンプン化には時間がかかることが、葉の炭水化物の時間変化を見るとわかる。成長段階に合わせて、篩板などの糖輸送タンパクの局在が変わるのかもしれない。タンパクが特定できれば、レポーター遺伝子を用いて生育段階による局在を観察することができる。

A:圧流説では、シンク器官の細胞内の糖濃度ではなく、シンク器官の師管の糖濃度を下げることが重要だと思います。シンク器官の細胞では糖の能動輸送体(sucrose transporterやhexose transporter)、H+-ATPaseの発現が上がるようです。またK+やCl-の輸送体の発現も増加し、シンク器官の師管の浸透圧を下げているようです。レポートにも書かれているように、葉の成長段階にしたがって、糖輸送タンパクがどのように変化するかを調べると面白いと思います。