植物生化学 第9回講義

酵素の化学反応論・吸収の測定

今回の講義では、生化学の方法論的な問題として、酵素の化学反応論と、生体物質の吸収測定を取り上げました。今までと内容がだいぶ違ったせいか、期限までに提出されたレポートは1件だけでした・・・。今回の講義に寄せられた意見とそれに対するコメントを以下に示します。


Q:酵素は活性化エネルギーを下げる.活性化エネルギーを下げるとは,遷移状態を安定化することである.酵素の活性中心ではどのようにして遷移状態を安定化しているかを考察する.Hammndの仮説によれば,発熱反応では遷移状態の構造は反応物のものに近いということが分かる.遷移状態が反応物近くになればなるほど,活性化エネルギーが下がる.私の考えた触媒反応時のシナリオは以下の通りである.基質結合部位近傍に,反応に必要な物質が集められている.酵素の基質結合部位に基質がはまり込む際に,非常に小さな構造変化が基質に起きる.この変化が起きた時点で,活性中心の立体構造の関係により即座に新たな反応を引き起こすというものである.非常に小さな構造変化では,遷移状態は基質の構造とあまり変わらないので,活性エネルギーの低下を期待する.ただし,本来の遷移状態の構造が最も他の分子などが接近しやすい構造であると思われるので,この説明には無理があるような気がしている.

A:実際には、遷移状態の電子状態が大きな意味を持っています。一番簡単な例で言えば、遷移状態のある部分に負電荷があるならば、その近傍に正電荷を配置すれば、遷移状態を安定化することができます。構造の安定化には、電子の授受を伴うような酸化還元が絡む場合、一度基質と酵素の間で共有結合ができる場合、そして、金属イオンの電荷を使う場合、などがあります。


Q:今回は、実習のためになりそうな知識としてスター活性について調べた。制限酵素によりDNAを切断する場合,想定外の部位が切断されてしまうことがある。多くは酵素認識配列の1塩基ちがいなどの場所を間違って切断してしまうようだ。原因としては、①5%を超えるグリセロール濃度、②DNAに対し酵素量が多すぎる、③Buffer濃度が薄い(< 25mM)、④pHが高い(pH>8.0)、⑤DMSO,エタノールなど有機溶媒の混在、⑥Mn, Cu, Co, Znなどのイオン混在が挙げられる。多くはdouble digestionなどで入れる酵素量が1割を超えてしまった場合である。通常酵素は凍結を避けるため50%グリセロール中にあり、1割を超えるとトータルのグリセロールが5%を超えてしまう。制限酵素は本来ほんのわずかでも十分時間をかければ切断可能なので、入れすぎないようにするべきである。スター活性が問題になる制限酵素としては、 BamHI, BsiWI, BsoBI, EcoRI, HgaI, PflMI, PvuII, SalI, ScaI, SspI, TsMI, Tth111Iがある。

A:レポートそとしては、調べただけでなく、考えた結果が反映されていると良いのですがね。例えば、グリセロールの濃度が高いとなぜスター活性が出るのでしょう?別に、その疑問に対する正しい回答が必要であると言うことではなく、自分の頭で考えて、このような可能性があるのではないか、という考えの道筋がレポートになっていると、すばらしいレポートになります。