植物生化学 第5回講義

光合成産物の転流

今回は、光合成の産物である糖とデンプン、そして転流の仕組みについて解説しました。今回の講義に寄せられたレポートと、必要に応じてそれに対するコメントを以下に示します。


Q:講義で糖の濃度が上がると光合成関連遺伝子が抑制されるという事が述べられていたが、どうしてこのようなことをするのか考えてみる。糖の濃度が上がると植物体内の浸透圧が上昇して代謝経路の様々な部分に不都合が起こると考えられる。しかし、これを回避する方法は光合成を抑制して糖がそれ以上たまらないようにする以外にも糖を水に溶けづらいでんぷんや脂肪などの形に変換する方法がある。現実にサツマイモなどは芋にでんぷんをためている。ではどうして多くの植物がそのような、シンクにあまった光合成産物をためる方法をとらないのだろうか?ここで、シンクにためることのデメリットを考えてみる。光合成産物がたくさんあるシンクは動物などにとっては恰好の栄養源である。当然シンクは捕食の対象になるだろう。捕食に対抗する方法としては毒をためることや捕食者に食い破られないようにすることなどがある。これらの方法は現実の植物でもとられている方法である。しかし、これ以外の理由がないとすればもっと多くの植物がこの方法をとる気がする。実際は、多くの植物では光合成産物を最大効率で作っても成長に消費されてあまることがないのでシンクにため(途中文字化け)もしれない。

A:講義でははっきりと説明しなかったので一部誤解されたようですが、糖の濃度が上昇して光合成関連遺伝子の発現が抑制される器官は、葉です。シンクでの蓄積や消費を光合成からの糖生産が上回ると、葉からの転流が抑制され、葉の糖濃度が増加します。このときには、光合成生産を低下させるメリットが大きいので、葉の光合成関連遺伝子の発現が抑制されるのだと思います。シンクだけを低温にした場合、高CO2環境下や低栄養塩条件下の場合では起こりうる状況です。シンク器官のサイズが大きい植物では、糖による光合成遺伝子の抑制は起こりにくいと考えられています。すべての植物が大きなシンク器官をもたないことの理由ははっきりとは分かりません。シンクを大きくすることが必ずしもその植物の適応度の増加につながらないのでしょう。


Q:授業の中で紹介されていた「葉の炭水化物量」のグラフでは、昼の間だんだんと二酸化炭素吸収が落ちていっているのは、ショ糖やデンプンが蓄積されてくるせいであるという説明があった。夜の間に転流が起こって、ソース器官である葉からシンク器官へと糖が輸送され、葉の炭水化物量が元のレベルに減るので、また朝になると速い速度で二酸化炭素を吸収するということであった。では、なぜショ糖やデンプンがたまってくると二酸化炭素吸収(つまり炭酸固定速度)が落ちるのだろうか?光リン酸化に必要なリン酸の供給源は、ショ糖合成のためにトリオースリン酸が葉緑体の外へ運ばれるとき対向輸送されるものと、デンプン合成の経路で発生するものである。ショ糖やデンプンが多く合成されれば葉緑体内のリン酸も増え、光リン酸化が進んで炭酸固定も進むのではないのだろうか。そう考えて調べたところ、デンプンの場合は蓄積されすぎると葉緑体の形が著しく変形してしまい、炭酸固定の妨げになってしまうことがわかったが、ショ糖については記述を見つけられなかった。おそらく、デンプンの場合は浸透圧に関係しないが、ショ糖は増加することによって細胞質の浸透圧が上がってしまうからではないだろうか。ショ糖が限界まで蓄積したときの細胞の状態を観察したり、人工的に細胞質のショ糖濃度を変えたりできれば、その証明が得られるかもしれない。

A:デンプンの蓄積による葉緑体の変形とCO2の透過性の問題は以前から言われていますが、きちんと測定された例はまだないと思います。面白い問題です。ある濃度以上のショ糖が蓄積すると、細胞質だけではなく、液胞に蓄積すると考えられています。細胞質と液胞のどちらにどの程度分配されているかについては分かりません。細胞質と液胞の各体積から推定されている例があるくらいだと思います。ショ糖がある程度細胞質に蓄積するとショ糖合成が阻害され、細胞質のリン酸濃度が低下し、トリオースリン酸を葉緑体から輸送できなくなり、光合成速度が低下すると考えられています。しかし、ショ糖の蓄積と光合成速度の低下との詳細な関係についてはまだ不明なことも多いです。また、光合成速度が夕方に低下し始める原因としては、気孔の閉鎖も考えられます。


Q:C3、C4植物ではCO2の吸収量は陽の光が当たる時間になって急激に増加し、逆に夜中にはほとんど吸収が見られない。CAM植物は逆に夜中にCO2を吸収する。そこで、大気中のCO2濃度を減少させるために植物を生育するならば、C3、C4型植物やCAM植物のいずれかだけを一斉に植えるのではなく、両方を交互に植える方が日中も夜間もCO2が吸収できるので効率がよいのではないかと考えた。仮に1:1の割合でC3、C4型植物とCAM植物を植えた場合、日中あるいは夜間に吸収されるCO2の量は一方の植物だけを植えたときの半分になり、CO2濃度の低下の度合いが小さく、一個体当たりが吸収できるCO2の量が多いだろうというのがその理由である。CAM植物の一種であるトウダイグサ科の植物にはゴムノキやキャッサバといった商業的、あるいは農業的に重要な作物があるので、それらを育て、ある程度成長したところでそれらを換金すれば、予算も少なくてすむのではないだろうか。

A:C3植物(もしくはC4植物)とCAM植物を混植した場合、その植物群落では1日中、CO2固定速度がCO2放出速度を上回ると思います。しかし一般に、CAM植物の葉の最大光合成速度は、C3植物やC4植物に比べ、低い場合が多いです。したがって、混植した場合、C3植物やC4植物を単植した場合よりも、群落全体の1日のCO2固定量の収支が上回るとは思えません。植物群落のCO2固定速度は、葉1枚の光合成速度だけでなく、草型などにも影響されます。どのような草型を混植すると群落内の光環境が変わり、群落の光合成生産が変化するのかという研究もあるようです。


Q:師管において、師管液はソース器官からシンク器官へと液の濃度を利用して流れていく。一方導管においては、導管液は根から葉や芽へと気孔からの水の蒸散を利用して流れていく。そして茎頂、花や実などのように導管液も師管液も流れ込むことになる器官が存在する。また、サツマイモの根のような、導管液も師管液も流れ出る器官が存在する。このとき、植物のあるシグナル物質がシグナル合成場所からシグナル受容器官へと、導管液もしくは師管液を介して輸送されるとすると、常に情報を受けるのみの器官と、情報を発信するのみの器官ができることになる。導管と師管によるシグナル輸送を受け取ることしかできない茎頂の花や頂芽の場合は、オーキシンによる極性輸送により、シグナルの発信源になることができる(頂芽優勢や光屈性)。しかしそれらの器官において合成されるのはオーキシンのみでなく、ジベレリンやブラシノステロイドなども合成されている。これらの物質が、情報を伝達するなら師管導管以外の方法で伝達されなければならない。ならば、オーキシン以外の物質に関して、オーキシン同様に極性輸送が行われるか、または未知の情報伝達方法が存在するだろう。

A:篩管や導管を介したシグナル輸送の話はしませんでしたが、導管を介した根からのサイトカイニンやアブシジン酸の輸送の話は聴いたことがあるでしょう。葉からの炭水化物がシグナルになる可能性も指摘されています。茎頂からのオーキシン以外の植物ホルモンの輸送伝達方法については、私は教科書以上の知識はありません。福田先生や澤先生、川口先生がお詳しいと思います。


Q:前回の講義でモジュールの自律性について学び、落葉コナラの当年枝間の転流パターンを知る実験を行った結果、先端枝の光合成産物は偽輪生枝の果実に転流されるが偽輪生枝から先端枝やそのほかの枝への転流は起きなかったことを知った。私は、これはどんぐりの吸引力、もしくは一旦入った物質を引きとめておく力が強いためではないかと思った。偽輪生枝に13CO2を注入した結果を見てみても、他の器官に対して明らかに果実に溜まっている量が多いことも私の予想を後押しした。(枝のどの部分に注入したかにもよるが)もしくは、葉が持っている押し出す力がどんぐりにはないのかもしれない。これを確かめるために、葉の中に本来存在せず利益にならず、かつどんぐりの中には入れるような分子量大きめの物質を同位体で標識して師管に注入し、5日後の局在を調べる方法を考えてみた。どんぐりの吸引力が強いなら今回の実験のようにどんぐりに局在している様子が観察できるだろうし、葉の押し出す力が要因ならば、拡散しているか(自由拡散できる物質だった場合)、注入した部位に局在したままだろう。

A:このような実験に使える物質は思いつきませんが、光合成産物の転流を、ソースが決めているのか、それともシンクが決めているのかということはよく問題にされます。このような実験や、もっと単純なシステム(葉が一枚と根だけをもつように誘導した植物)で、ソースよりもシンクの方が光合成産物の転流速度や転流先を決めているという結果が得られているようです。


Q:ヤマハンノキではモジュール間では光合成産物が転流されない.この生態的意義について考察してみる.ヤマハンノキは窒素固定能力を持ち,一次遷移の初期段階で栄養塩に乏しい環境に侵入する.このような環境は,ほとんど裸地に近い状態であり,周りには樹木がほぼない.よって,ヤマハンノキには太陽の直達光が照射し,光合成系が損傷を受けることが多いはずである.もし,モジュール間で光合成産物を転流して,転流先の枝が痛んだら光合成産物の損失となる.したがって,モジュール内で光合成産物を保持することで,植物体全体における光合成産物を損失するリスクを軽減していると考える.このような観点からすると,パイオニア植物はモジュール間で光合成産物の転流がおこらないであろうということになる.

A:パイオニア植物の中で窒素固定能力を持つものはさほど多くありませんから、ヤマハンノキをパイオニア植物の代表例として考えるのはやや問題かも知れませんね。また、光阻害は、通常の生育条件とストレスを受けた状態とのギャップによって引き起こされます。ですから、暗い環境の植物でも何かの際には光阻害を受けてしまいます。とすると光阻害の回避が目的であれば、ほとんど全ての植物がモジュール間の独立性を示してもよいことになります。