植物生化学 第4回講義

炭酸固定と光呼吸

今回は、炭酸固定反応を中心に、カルビン回路、酵素の光活性化、光呼吸、C4光合成、CAMについて解説しました。今回の講義に寄せられたレポートと、必要に応じてそれに対するコメントを以下に示します。


Q:講義ではRubiscoが真正細菌や古細菌にも存在し枯草菌がRubiscoに似たRLPを持つという話が紹介されていたが、もしもこれが実際にRubiscoと同じファミリーに属するものだとすれば、真正細菌、古細菌、真核生物の3つのドメイン全てに共通するタンパク質であるということになる。ということはRubiscoは光合成をする生物が現れる前から存在していたことになり、もともとは光合成以外の目的に使われていたと考えられる。また、Rubiscoは真核生物の共通祖先に存在していたことにもなるので動物や菌類もRubiscoをもっているのかもしれない。もしそうだとすれば真正細菌や古細菌のとくらべたときに植物のRubiscoにより似ていると考えられるので遺伝子配列を調べれば見つけられるだろう。もしも動物や菌類がRubiscoをもたないのだとすれば進化の過程で失われてしまったのかもしれない。あるいは、真核生物の共通祖先がすでにRubiscoを失っており、同様にRubiscoを失った好気性細菌が共生し、植物ではさらにRubiscoを持った光合成細菌が共生して光合成が出来る様になったという可能性もある。

A:少なくとも枯草菌ではRLPが硫黄代謝に関わるようですから、動物や菌類がそのような酵素を持っていてもおかしくはありませんね。僕も自分できちんと系統樹を作って調べたわけではないので、実はよく知りません。調べてみると面白いかも知れません。


Q:植物は、Rubiscoが酸素を基質にし、2-ホスホグリコール酸を生ずることから、光呼吸を行うことを学んだ。光呼吸の経路は三つの細胞内小器官にまたがる複雑な反応であった。それでは高次の膜構造を持たないが、光合成を行う生物(ex.シアノバクテリア)では、2-ホスホグリコール酸はどのように処分しているのだろうか。あるいは、そもそもRubiscoが酸素を基質にしないようになにか工夫をしているのだろうか。
 調べてみたところ光合成細菌の一種である紅色非硫黄細菌の一群は後者のメカニズムを持っているようである。これらの細菌は酸素が存在するときには光合成に関する遺伝子を発現させず、生育場所の酸素濃度が低くなり、好気的な生活を営めなくなってからはじめてそれらの遺伝子を発現させる。酸素濃度が低いので、この場合、Rubiscoが酸素を基質にすることは少ないだろう。同様に、藍藻類は水中に生息しており、当然酸素濃度は低いはずである。従ってもともとRubiscoが酸素を基質にすることがめったにないはずなので、光呼吸経路を考える必要がないのかもしれない。前述の紅色非硫黄細菌の特定の遺伝子をノックアウトし、環境にかかわらずRubiscoを合成するミュータントをつくり、好気性条件下で生育すると、細胞中の2-ホスホグリコール酸濃度は次第に高くなることが予想される。もしも高くならなかった場合、真核生物とは違う経路で2-ホスホグリコール酸が分解されているのだろう。その経路があったら同定し、真核生物の場合と比較してみると面白そうである。

A:なるほど、原核生物はオルガネラを持ちませんから、光呼吸の反応によって2-ホスホグリコール酸を代謝できずに困るように思えます。非常によい点に気づきましたね。光合成細菌の場合のメカニズムは調べたとおりです。光合成細菌の場合は、そもそも酸素発生をしませんから、嫌気条件で生育する場合は、環境は嫌気条件のままです。しかし、シアノバクテリアの場合は、光合成によって酸素を出しますから、たとえ嫌気的な生育環境にいたとしても、光合成によって酸素が放出され、すぐに好気的な条件になってしまいます。その代わり、シアノバクテリアでは(実際には緑藻類なども)、細胞膜に二酸化炭素や重炭酸イオンのトランスポーターを持っており、さらに二酸化炭素と重炭酸イオンの間の反応を触媒するカーボニックアンヒドラーゼという酵素を使って、炭酸固定の場における二酸化炭素濃度を上げているのです。つまり、別にC4回路を持っているわけではないのですが、二酸化炭素を能動的に外界から取り込むことによって、酸素に対する二酸化炭素の濃度を上げて光呼吸を抑えていることになります。


Q:カルビン回路には光により活性化される酵素が4種類関わっている.また,日中にチラコイドの電子伝達の結果,pHが上がり,Mg2+が放出されるため,高い活性をしめす酵素がある.暗反応を夜間でも継続していれば,その間に糖の貯蔵ができる.ただし,カルビン回路ではATPを必要とする.夜間は光化学系が働いていないので,プロトン勾配ができず新たなATP供給ができない.この状態では,日中に合成したATPを使い切ると,細胞内のATPを利用する必要があり,ATPが無駄になる.よって,不必要に回路を回さないように,回路の途中で反応を止めていると考える.ただし、もし生産したグルコース1分子を合成するのにカルビン回路では18ATPを消費するが,グルコース1分子を分解すれば38ATPを生産するため,ATP収支で見ればATPを生産することになり不都合はなさそうだ.したがって、夜間にカルビン回路を回すことで,明状態では分解しないはずのATPがあるため,回路を回さないだけかもしれない.

A:「グルコース1分子を合成するのにカルビン回路では18ATPを消費するが,グルコース1分子を分解すれば38ATPを生産する」というところで、ちょっと立ち止まって考えて欲しいところです。これだと、カルビン回路と呼吸を組み合わせれば無限にATPが合成できることになってしまいます。呼吸においてはATPはNADHからの電子伝達によって主に作られます。ですから、NADHとATPはどちらもエネルギー物質であるということが言えます。一方で、カルビン回路ではATPの他にNADPHも消費するわけです。つまり、もし、カルビン回路を呼吸で支えようとすると、カルビン回路を回すためにはATPだけでなく、NADPHが必要ですから、解糖系やクエン酸回路によって生じるNADHの一部はカルビン回路に横取りされます。結果として、最終的に合成されるATPはずっと減ってしまうのです。


Q:授業で、光合成の二酸化炭素の取り込みと固定を昼と夜で分けて行うCAM植物の話があった。これは乾燥地で昼間気孔を開くと蒸散が起こりすぎてしまうからである。CAM植物はこの昼と夜の切り替えを、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ(PEPC)の修飾の状態(リン酸化状態)を変えることで行っている。この変化は光の明暗によるようで、明所ではPEPCが修飾を受けてリンゴ酸によって阻害されやすくなり、貯まっているリンゴ酸によってPEPCの活性が押さえられてRubiscoによる炭酸固定が起きるのである。フィトクロームなどのような光受容色素から始まる経路がどこかで働いているのかもしれない。水分を失うのを防ぐという目的から考えると、光の明暗だけでなく気温や空気の乾燥の度合いも切り替えの指標にした方がよいのではないかと思えるが、調べた中ではそのような情報はなかった。どれか1つの要素だけ変化させて、PEPCの修飾の状態や液胞のリンゴ酸濃度などを調べれば、光やその他の環境要素がどれくらい関わっているのかわかるだろう。遊びになってしまうが、CAM植物ではリンゴ酸が液胞にたまってpHが変化するので、アサガオやアジサイのようなアントシアンの色の花をつける植物をCAM化すれば、もしかしたら花の色が変化して面白いかもしれないと。

A:最後のアイデアは、面白いですね。ただ、よく知りませんが、CAM植物でも葉以外の液胞のpHはそんなに変わらないのではないでしょうか。花弁自体にPEPCなどを入れたとしても、それはそれで貯まったリンゴ酸をどうするか、という問題も生じますし。やはり難しいかも。


Q:今回の授業でCAM植物の話題が出た。CAM型光合成(CAMがたこうごうせい)は砂漠などの多肉植物や、同様に水分ストレスの大きな環境に生息する着生植物に多く見られる光合成の一形態であり、これを行なう植物をCAM植物と呼ぶ。このタイプの光合成の特徴として、CO2の取り込みを夜に行い、昼に還元することが挙げられる。では逆に、昼に浴びた光のエネルギーを蓄えておき、夜にそのエネルギーを使って光合成をしても良いのではないだろうか。夜CO2を取り込んで昼間で保存しておく場合に蓄えておきたいものは物質であるのに対して、昼に太陽からの光エネルギーを蓄えて夜使う場合に保存しておきたいものはエネルギーである。このエネルギーを物質として蓄えてまたエネルギーとして放出するために何回もエネルギー形態の変換を行わなければならず、昼間そのまま光エネルギーを取り込む場合に比べてエネルギー利用効率が大幅に減少するであろうことは容易に想像できる。またCAM植物の生息地は昼は暑くて乾燥しているが夜は寒冷になる土地が多く、光合成に関わっている酵素の多くは最適温度が37度付近なので、この面から考えても昼に光合成経路を回したほうが効率が良い。以上の事情を考えると、やはり光合成は昼に行ったほうが良く、もしかしたら地球が誕生してから今に至るまでに夜に光合成を行える植物があったのかもしれないが、昼に光合成をする植物との競争に負けていなくなってしまったのだろうと考えられる。

A:植物でも呼吸をしているわけですから、ある意味で、昼の間に光合成により炭水化物の形でエネルギーを貯めておき、それを使って、夜に呼吸でエネルギーを取り出している(ATPを合成している)と考えることは可能でしょう。でも、その場合には、炭水化物としてエネルギーを貯めているわけなので、二酸化炭素の取り込みは昼間に行なう必要があるわけですが。せっかくだから、エネルギーをどのような形で貯めることができるか、まで考察すると面白いと思います。