植物科学I 第2回講義

生物のエネルギー獲得戦略

第2回は生物がどのようにエネルギーを獲得しているのかを動物の呼吸、植物の光合成、その他の生物の場合などについて解説しました。また、生物のエネルギー獲得に大きな意味を持つ化学浸透共役およびその背景にある電子伝達反応を動かす酸化還元電位についても説明しました。化学のバックグラウンドが全くない人には少し難しかったかも知れません。


Q:難しい。光合成!でも、当たり前と言えば当たり前だと思います。生物が生まれて、何億年という長きにわたって進化してきて、やっと獲得した光合成という画期的なシステムを2時間の講義で理解しようというのが所詮無理なのかも(ただ自分の理解力がないのかもしれませんが)。緑色硫黄細菌が一つの光化学系だけで、植物が2つの光化学系を持っていると言うのがただ単にシステムの差だと思っていた事が、1つが2つになるという進化の過程をそこで見た思いです。
 そこで、もっと根本的な質問なんですが、葉緑体の分裂、増殖の仕方は、一般的なバクテリアのように分裂して増えるんでしょうか?共生説が正しいとすると、葉緑体もそういう気がするのですが。でも、植物体の一部だと考えると、無分別に増殖をするのも、変な気がするし、なにか植物の細胞分裂などとリンクして調節などしているのでしょうか?
 今回の講義では、何だかクエン酸回路、カルビン回路、電子伝達系等多くのサイクルが出てきて、ぐるぐる~と回ってました。地球は回るし、太陽も回る、そして、合成系のサイクルも回る。本当世界は回ることがとても自然な事なのかもしれない。うまく物質が回り、リサイクルされまた回ってくる。僕のはいたCOが回って、窓辺の幸福の木にはいり、サイクルを回って、Oとしてまた僕が吸う。やっぱり回っている。万物の根源は火じゃないみたいだけど、万物は流転してるようだ。
 それでは、僕の目も頭も回ってきたので、此の辺で、お疲れ様でした。

A:葉緑体(ミトコンドリアもそうですが)は、バクテリアのように分裂リングにくびりきられるようにして分裂、増殖します。また、葉緑体自体、遺伝子を持っていて、必要なタンパク質の一部を合成しています。ただ、バクテリアと違うのは、自分の活動に必須なタンパク質の一部の遺伝子が、細胞の核(つまり葉緑体にとっては外部)に存在するということです。従って、周りの細胞と協調していなくては、正常に活動していけないのです。例えば、光化学系Iのサブユニットの遺伝子は、一部は葉緑体に、一部は核に存在します。従って、「無分別に増殖する」ことが出来ないようなしくみになっているのです。


Q:今回の授業では植物のエネルギー獲得経路を分析することにより、それぞれの機構のもつ意味を探ることができた。具体的にはプロトンの濃度勾配を利用したATP生成の過程に非常に緻密な仕組みがあり、NADP+の還元のため植物に二つの光化学系がある理由などはとても興味深かった点であった。また、亜硝酸酸化細菌と硝酸還元細菌など、種種の細菌のエネルギー獲得様式を知ることで、それらの細菌の分布が自ずから明らかになってくる点から、生物のもつ仕組みには一つ一つそれにつながる意味があり、生命活動を営む上で最も合理的なかたちを模索してきた一つの結果であることを実感した。酸化還元電位の話は高校の化学でしっかりやったつもりでしたが、あの式を見るのは初めてでした。独立栄養生物ではほっとくと酸化力が、従属栄養生物では還元力がたまってしまうという対比は、エネルギー代謝を考える上でクリアで分かりやすいと思いました。一つ疑問に思ったのは、光化学系に反応において紫外線は高エネルギーであるが、核酸や蛋白質にも吸収され生物体自身をおかしてしまうといっていましたが、逆に紫外線に耐えうる機構が出来れば非常に効率よく光エネルギーを利用することが可能になるのではないでしょうか?紫外線を利用して生きている生物というのは存在しないのですか?教えてください。

A:僕は限り紫外線のエネルギーを利用して生きている生物は知りませんね。でも、赤外線のエネルギーを利用して生きている生物はいます。よりエネルギーの低い赤外線は利用できるのに紫外線は利用できないということは、やはり、安全に紫外線を利用するというのは非常に難しいのではないかと思います。


Q:授業を聞いた後、光合成器官について少し調べてみた。光合成が行われる葉緑体は、真核生物細胞に含まれる細胞小器官である。一方、原核生物の光合成器官は独立した器官ではない。そして光合成器官は、光合成細菌に見られるような顆粒状のものから膜状構造のものへ、また藻類から高等植物に進化するに従って、一重層から多重層のものへと系統的な発達や分化が見られることが分かった。授業で、電子伝達の最初で水を使えるかどうかは酸化還元電位によって決まる、とあった。これは光合成器官の性能の違いではないか、さらに、膜構造が複雑になるほど性能が上がるのではないか(脳の皺のように)と思った。しかし、膜構造がどこまで発達していれば電位を低くできるのか、それでいて光化学系Iで同じ電位に戻す時はどういう仕組みになっているのか、という疑問がわいてきた。それにしても、生物は不思議だとつくづく思ってしまう。光合成細菌と高等植物という見た目も全く違うものが根本的には同じことをしているのだから。

A:「構造」と「機能」の関係というのは非常に難しいですね。酸化還元電位が膜の構造による、ということはたぶんないと思いますが、水を分解できる電位を持つ光化学系IIの反応中心と、できない光化学系Iの反応中心は、どちらもタンパク質に結合したクロロフィルがその本体です。ということは、タンパク質とクロロフィルの相互作用の違い、つまりは、タンパク質の構造の違いが酸化還元電位の違いを生み出していることになります。動物は光合成をしませんが、植物は呼吸もします。植物と動物は、見かけは違いますが、その呼吸のメカニズムを調べると、ほとんど同じと言っていいでしょう。話が細かくなればなるほど、見かけは重要でなくなるようです。一方、生態学などのマクロな分野では、見かけが非常に重要になってきます。


Q:今回は生物のエネルギー獲得戦略ということで、最初に呼吸反応の流れを学んだ。この程度のことなら高校の生物でも勉強したので、基本のおさらいという感じだった。NHKの教育テレビでよくやってる番組みたいだと思った。次にATPを合成する最終段階である電子伝達系が、光合成と呼吸で類似しているということが論じられた。二つの違う細胞小器官(葉緑体のチラコイド膜とミトコンドリアの内膜)に、極めてよく似たシステムが機能しているということに興味がわいた。本で読んだことだが、、細胞内共生説では、もともと葉緑体は光合成を行う独立栄養生物、ミトコンドリアは好気性の従属栄養生物として別々に存在し、それらがアメーバのような嫌気性従属栄養生物に取り込まれたのだそうだ。それによって酸素を用いた効率のよいエネルギー代謝と、光合成の両方ができる真核細胞ができたのだという。それだけでなく、水を酸化するために二つの光化学系をドッキングするなど、生物の進化という流れの中で、気の遠くなるほど時間をかけて改良と淘汰を繰り返してきたであろう現在のシステムは、驚くほど理にかなっていて、勉強意欲を掻きたてられる。これからの講義にも期待します。

A:二つの光化学系がどのようにドッキングしたかなどは、いまだに謎として残っています。初回の講義で触れましたが、生物の進化の過程というのは、これからの生物学の話題の一つでしょう。


Q:光合成と呼吸は「同化と異化」という全く異なる反応だという意識がありましたが今回の授業で電子伝達の部分では似たような反応が起きているということが分かり、今までとは違った側面から光合成と呼吸という反応を見ることができました。また、同じ電子伝達系でも呼吸の場合は酸化還元電位が高くなる反応でNADHがあれば自然に進むのに対して光合成の電子伝達系は酸化還元電位が低くなる反応で光のエネルギーがあってはじめて進むものだということが酸化還元電位のグラフを並べて見てわかりました。
 発酵の際NADHを酸化してNADにするため乳酸やアルコールが作られるということも今回の授業ではじめて気付きました。光合成の二酸化炭素の固定では水素伝達系で得られた還元力が使われますが、これは発酵で乳酸やアルコールがつくられる場合と同じように「NADPHをNADPにするために二酸化炭素の固定が行われる」とはとらえないのでしょうか。それとも発酵で作られる乳酸やアルコールは菌にとって不必要なものであるのに対して二酸化炭素の固定で作られる糖は植物にとって必要なものだから発酵で乳酸やアルコールがつくられるのと光合成で糖が作られるのは全く異なる話なのですか。

A:植物の場合、電子伝達を環状に行うことによって、NADPHを作らずに、ATPを合成することも可能です。その場合、NADPHを捨てる必要はなくなるのですが、やはり、二酸化炭素は固定しなくてはなりません。ですから、植物の場合は、やはり二酸化炭素の固定によって作られる糖が重要であるということになるでしょうね。


Q:エネルギー代謝の機構については生化学などでやっているので特に難しいとは感じなかったが、光合成と酸化的リン酸化の電子伝達の類似については、自分でも区別がつかなくなって考えた事があったので面白く感じた。プリントのような図はどちらもよく見かけるが、実際の機構はどのようになっているのか、初回で話していたATPaseが回るといったような実物が見てみたいと思った。また亜硝酸酸化細菌と硝酸還元細菌は先学期やったところなので(呼び方が多少違うのですがアンモニア酸化細菌+亜硝酸酸化細菌が窒素固定のルートで硝酸還元細菌が硝酸還元・亜硝酸還元でいいのですよね?)まとまっていて大変理解しやすく良かった。その授業のここの範囲では反応のスピードが速く条件が難しいため中間生成物が良くわかっていないという話を聞いたが、他のエネルギー獲得様式ではどのくらい反応ルートについて分かっているのか、またクエン酸回路など詳しく中間生成物が分かっているものはどのようにして調べたのか疑問に思った。

A:そうだ、ATPが回るビデオを見せると約束して、見せてませんでしたね。今手にはいるのはQuickTimeの形式のファイルで、PowerPointからでは見せることができないので、もうしばらくお待ち下さい。代謝回路の中間生成物の調べ方は、カルビン・ベンソン回路のところで説明しましょう。


Q:生体反応や生物体の構造には全て意味があるのだろうか?講義では複雑で細分化された回路を workさせるために膜構造という仕切りがあるという話があった。さらに、細分化された回路では各反応の活性化エネルギーが小さくなり体内での反応を可能にするという意味づけも与えることが出来る。もちろん、全てに意味付けが出来ているわけではないし、または実証出来ているわけではないので研究が行われているのであろうが、例えば光合成なり呼吸なりの反応でなぜ存在するのかが全く検討もつかないという機構なり構造なりはあるのだろうか?僕自身はどの機構なり構造なりも存在する目的は「その生物体にとってよりよい生活のため、もしくはその生物体の子孫を残すため」だと思っているがそれ以外の理由もあるのだろうか?
 さらに現在存在する回路について疑問を持った。よりよい回路を生物が求めるのであれば例えば、カルビン・ベンソンなどの回路は将来進化していくのであろうか?そしてそうであるならどのように進化していくかの見通しをしている学問はあるのであろうか?

A:人間に意味づけができるかどうかは別として、生物の構造には何らかの意味はある(もしくは、あった−痕跡器官の場合もありますから)のだと思います。カルビン・ベンソン回路はC3植物といわれるタイプの炭酸固定回路ですが、C4植物をいわれるタイプの植物では、ある意味で、より進化した炭酸固定回路が用いられています。これについては第3回の講義で話す予定です。


Q:今回の講義では、今まで何度か触れていた内容も多かったのですが、一方で前回の講義で先生が「howの疑問だけではなく、whyの疑問を持つ」ということをおっしゃっていて、納得していたのに、いざ自分がwhyで考えることが少ないことに気が付きました。
 高校でも生物を履修し、大学でも生物を学んでいるので、反応系などは何度か学んできているはずなのに、「なぜクエン酸回路は4つのCにくっつけてまで面倒な反応をしているのか?」(←この疑問はその昔、高校時代に質問して、なにか、いまいちな反応を当時の生物教諭にされた記憶がよみがえりました。)、「なぜ酸素発生には2つの光化学系が必要か?」といった疑問を抱かずに、そういうものだと思っていた自分に驚きました。これまでの他の授業でも、先生に問いを与えられれば、考えていたけれど、自分で問いを見つけることが少なかったことがショックで反省しています。
 全体的に今回の授業内容はどこかで触れたことが多かったので、「ああ、そうだった。」とあいまいな記憶を整理することができましたが、正直、酸化還元電位のところはさっぱりです。高校で物理をやらなかったことが悔やまれます。あれは、自分で計算してみないと想像できるようにはなりませんよね?

A:そうですね。計算式は、自分でいじってみないとなかなか理解できるようにはなりません(数学の才能のある人は式を見ただけでわかるかも知れませんが)。東大の植物のある先生は、息子が大学で生物をやりたいと言ったので、「それならば大学受験は物理・化学で受けなさい」と言ったそうです。ぼくも、この様な意見に賛成です。生物の理解に化学や物理のセンスが必要になることがあるのが1つの理由。もう1つの理由は、生物は、大学に入ってから勉強しても間に合うという点です。生物と違って、物理や数学などはなるべく若いときにやっておいた方が良いみたいです。


Q:植物の光合成は酸化還元電位に逆らう不自然な電子の伝達であり、しかも、それでいて呼吸量よりも光合成量の方を多くさせてしまうエネルギー源としての太陽の存在の重みを改めて実感しました。クエン酸回路において、オキサロ酢酸が加えられることで数種の中間代謝物が生成され、反応過程を多段階にしてエネルギーを少しずつ放出することと、糖の分解における活性化エネルギーは体温で越えられるくらい小さいということがリンクされたので、一見無駄にしか思えないC4の存在がクエン酸回路において重要かつ効率的であることに感激しました。また、発酵において、ピルビン酸をそのまま細胞外に捨てないのはNADHをためこまないため、またはNAD+を確保するためであり、逆に、還元力が大量に必要な植物は発酵しないという話は筋が通っていて実に説得力がありました。クエン酸回路にしても発酵にしても、生物の生理現象が効率的にできていることに感嘆しました。…しかし、先生もおっしゃっていましたが、授業の内容がややこしいことに加えて進みが少し早かったようで(私は)ついていくのが大変でした。Howを理解するのに精一杯でWhyを考えるまでには至りませんでした。

A:すみません。少し速すぎた気はしたのですが、どこでどうゆっくりすれば理解してもらえるかがよくわかりませんでした。僕が話している途中でも、わかりにくくなってきたら、どんどん質問して中断してもらえると、かえって助かります。


Q:植物が進化の過程で光化学系を2つもつに至った経緯、というのが非常におもしろかったです。光の波長μvの関係上限られた範囲でしか得られないエネルギーを二段階にわけることでATPをより合理的に生産する方法を考え出したのが素直にすごいと思いました。
 ひとつ質問したいと思ったのは、植物はそのように二つの光化学系を持ちましたが、そのそれぞれ機能をひとつずつしか持たなかった光合成生物(パープルバクテリアやグリーンサルファーバクテリアなど)はどうやって足りない分を補っていたんですか?なにかそれに代わる機構をもっていたのか、それとも足りないままそれをサイクルさせていたんですか。もしそうだった場合なにかその生物に影響があったりしているんですか?普段、実験や授業の内容上どうしても実際の生物の体内における反応とあまり結びつけることがなかったので新しい観点から化学を見直せて自分の中で新しい発見があったりして楽しいです。酸化還元反応がすこし身近になりました(笑)

A:パープルバクテリアなどの光合成細菌は、1つしか光化学系を持たない代償として、水を分解して電子を得ることができません。水を分解する必要がなければ、1つの光化学系でも足りるわけです。光合成細菌では、例えば硫化水素などの電子受容体が必要となり、植物に比べてその生育環境が大きく制限されてしまいます。その意味では、損をしていることになります。


Q:光合成とミトコンドリアのどちらもイオンを電位差によって流すことによりATPアーゼをモーターにしてエネルギーを獲得すると言うことはとても興味深いというか、なんか物理学の基礎を使った感じで、すごく面白かった。ATPアーゼというものは「アーゼ」なのだから何かの酵素、つまり気質酵素複合体となり、加水分解などをおこなってエネルギーを取り出す(どうやってかはよくわらないけど)のかと思っていたが、単純なプロトンモーターであるということは大変面白かった。
 また、高等植物は二つの光化学系を併せ持ち、それが下等な光合成細菌の経路にとてもよく似ているというのはこれまた興味深かった。興味深い点は二つで、ひとつは結局電子を供与されて行っているということと、もうひとつは併せ持つと言うことである。マーギュリスのミトコンドリア・葉緑体の共生説を思い出させるような感じだった。
 生物はDNAorRNAという遺伝情報を持つというてんだけではなく、ある反応と逆反応、いくつかの生物の性質を併せ持つ、など、共通点がとてもおおいというのがおもしろかった。

A:ATP合成酵素は「単純な」モーターですが、ATP->ADP+Pi という反応を触媒するという意味では、立派な酵素です。共生説については、昔は仮説でしたが、現在はほぼ認められていると言っていいでしょうね。


Q:生物にとってエネルギーの獲得は大変なことのようで、効率よくエネルギーを獲得するための工夫が至る所に見られ、とても興味深かったです。特に代謝反応と燃焼の比較で、代謝反応系が複雑で多段階になっている理由の一つに活性化エネルギーを低くするためと知ったときには、複雑な反応系も少し受け入れられる気がしました。化学の分野で活性化エネルギーを低くする方法の一つに、触媒を使うという方法があるのですが、解糖系が酵素反応だけで進むのは、酵素が触媒の働きをするため、活性化エネルギーが低くなり、反応がすすむということなのでしょうか。それともNADHの還元力による酸化還元反応だけにより反応が進むということなのでしょうか。反応系を多段階にするより触媒による反応のほうが反応系が簡単になり、効率が良いように思えるのですが。授業のスライドがカラフルなのはとても見やすいのですが、色によってはとても見にくいものがあり、今回の授業でも黄緑色で書かれた部分が極めて見にくく、Hand outにも写っていなかったので、少し大変でした。

A:ご指摘のように、活性化エネルギーの低下には、酵素が重要な役割を果たしています。実際の代謝回路では、必ず酵素の触媒作用が反応系に使われています。スライドは、一部に昔のOHPをそのまま使っている場合があり、見にくいのかも知れません。Hand outも、本当はカラーにしたかったのですが、受講者が20名近くなったので、断念しました。すみません。


Q:今回の講義では、生物のエネルギー獲得戦略としての呼吸について、解糖系、クエン酸回路、酸化的リン酸化、また理論として酸化還元電位の概念の説明がありました。
 この中で、いまいち理解が不十分だったのは、脂肪酸酸化回路の説明で、炭素原子が2原子分づつ短くなりながら、アセチルCoAを生産するという話で、もし、炭素数が奇数だった場合、残りの1つはどうなるのですか?また偶数だった場合と、奇数だった場合では何かエネルギー生産の効率において違いがあるのでしょうか?以前、生化学の授業で習ったような気がするのですが、忘れてしまったことも多いのでもう一度解説していただきたいと思います。
 今回は、いままで丸暗記してきたクエン酸回路の仕組み(多くの段階を経ることによるエネルギー獲得の能率化)や、光化学系が2つある理由など、既存の知識のwhy?を知ることができ、とてもよかったと思います。酸化還元電位は少し理解に時間がかかりましたが、それでも生命現象が物理や化学の法則によって説明できるというのは興味深いです。こんなによく考えられたエネルギー代謝や光合成を、生物は何億年も前から行っていた(意識的ではなく自然選択の結果によってですが)と思うとロマンを感じてしまいます。
 生命の起源ということを考えていたところ、授業の最後に出てきた化学合成細菌について少し興味がでてきたので調べてみました。太陽光のまったく届かない深海底では食物も少なく、ごくわずかな生物しか住めないと考えられてきましたが、1977年に水深2600mほどの深海底にも大量の生物がすんでおり、オアシスのような状態になっていることが発見されたそうです。これらの地帯では、岩石の割れ目から湧き出す硫化水素を含む熱水によって、化学合成細菌がエネルギーを生産し、他の生き物を支えているそうです。生物の世界は奥が深いです。

A:脂肪酸酸化回路は脂肪酸を分解する代謝系ですが、脂肪酸の合成にも使われます。合成の時に炭素2個から始めるので、分解の時に炭素が1つ余ることはないわけです。ただ、例えば火星人が炭素1つから脂肪酸の合成をしていて、その脂肪酸を地球人が分解しようとしたときにどうなるかは、僕にもわかりません。深海底の生物相の話は、僕は非常に好きなのですが、この講義は植物科学なので、スキップしました。


Q:今回面白かったことは「なぜ酸素発生には2つの光化学系が必要か?」と「発酵の意味」だった。一方で酸化還元電位の式が理解できなかったので、授業後自分なりに考えてみた。(間違っているところは指摘してください。)Eh = Em + RT/(nF) x ln([Ox]/[Red])という式は熱力学の仕事量の計算式に似ているという印象があったが、これは化学熱力学の一般原理を電気化学的な系に拡張しているからだと思われる。この式は酸化体と還元体の可逆な電子授受平衡が成り立っている状況での電位をEhとして表したものでありΔEhが正の時、この反応は自発的に進行する。この式から、電位Ehが酸化体と還元体の濃度比によって変化するということがわかるが、プロトンが還元剤として酸化還元反応に関与する場合Ehが(プロトンの濃度である)pHによって変化することになる。これはpHメーターの作動原理になっている非常に興味深い現象である。

A:「化学熱力学の一般原理を電気化学的な系に拡張しているからだ」というのは、まさにその通りです。ΔEhのところは、「反応」なるものをΔEhとからめてきちんと定義しないと、答えづらいですね。僕自身、pHメータと組み合わせて考えたことがありませんでした。確かにその通りですね。


Q:今回は生物のエネルギー獲得戦略ということでエネルギー代謝や呼吸などについての講義でしたが、クエン酸回路の意味(燃焼との違い)や光化学系が2つあることの意味など、そういう回路やシステムが生体反応としてあるということは知っていても、どうしてそれがあり、なんのためにそれを採用しているのか、ということについて考えさせるような講義でとても良かったです。
 その「クエン酸回路の意味」のところについて。燃焼に対して、生物がたくさんの中間物質を経た代謝をおこなうのには(1)各段階での活性化エネルギーを低く抑えることによって体温で十分にそれを超えることができるようにする、(2)エネルギーが熱として放出されないので有効に活用できる、という2つのメリットがあることはとてもよくわかったのですが、一方で酸化のプロセスを細かくしたことによるデメリットというのもあったのでしょうか。私がなんとか考えついたのは、燃焼より単純に時間がかかるであろうことや、燃焼では放出されたエネルギーを使って自発的に反応が進行するのに対して、プロセスを細かくするといちいち色々な酵素を使って反応を進めていかなければならないことくらいでした。また、アセチルCoAの2つの炭素にオキサロ酢酸の炭素を4つ加えることで中間産物にバリエーションをもたせることができるということでしたが、その理由だと7Cや8Cやもっと大きい物質の回る回路があってもいいような気がしてしまうのですがなぜいつも6Cなのですか?

A:まあ、プロセスを細かくすると、時間はかかるでしょうが、一番たいへんなのは、やはり酵素などの反応系を用意することでしょうね。なぜ、6Cかという疑問に完璧に答えることはできませんが、生物は概して「必要最小限」ということにこだわる傾向があるようです。つまり、もし6Cで用が足りるならば7Cや8Cにはしないということです。もっとも、7Cにするとさらに効率が上がる、という場合は、一部に7Cの回路を持つ生物がでてきても不思議はないですけれどもね。