植物生理学I 第2回講義

生物のエネルギー獲得戦略

第2回の講義では、生物がどのように生きるためのエネルギーを獲得しているかについて解糖系、クエン酸回路、酸化的リン酸化などを中心に話しました。また、酸化還元電位についてもその概念を説明しました。以下に講義に寄せられたレポート(感想)と必要に応じてそれに対する答えを載せておきます。


Q:今回の授業では、ミトコンドリア内膜、およびチラコイド膜におけるプロトン濃度勾配によるATP生成のダイナミックさと,生体内における、化学反応がなぜ多段階を踏むのかという考察が、強く印象に残っているので、この二つに関連して想起した事について書きます。
 まずはプロトン濃度勾配によるATP生成に関してですが、植物のおこなう光合成においては,電子が酸化還元電位に逆らう方向に伝達され,この過程において光の吸収がエネルギー源となっているということでしたが,前回の講義における植物の葉が緑色をしているのは赤色側と,青色側の2つ吸収域を持っているからという説明と,今回配布された資料の光合成電子伝達系におけるPSIとPSIIは対応しているのですか?もし対応しているとすると、P680及びP700という分子の電子が一重項から三重項状態に励起するエネルギーがちょうど可視光の,赤色および,青色領域にあたっていたから葉が緑色として見られる,といえますか?
 次に生体内での化学反応が生体内で得られる活性化エネルギーと、安定化エネルギーの変換条件から多段階の反応を経るという考察について、僕は勘違いかもしれませんが生体が高分子からなり、その内活性な基が分子内の割合としては小さいことで、分子間のインターラクションが極めて弱くコントロールされているのではと推測しました。たとえば生体を構成する分子の反応性(相互作用)が医薬品のそれと同じくらい大きかったら先に上げた熱的な条件においてとても不利になってしまうのでは、と思いました。
 最後に講義に関してですが、配布資料はとても役に立つのですが、縮小などで見難い箇所があり、OHPを用いてもやはり細かい所はなかなか確認できません。そこでもし先生の負担でなければ、スライドなどをスキャナーで取り込んでパワーポイントを用いて(ICUにパソコンとリンクできるOHPはあります。)投影すると、今使っているOHPよりコントラストも大きく取れると思います。加えて、著作権などが許せば講義に用いた資料をホームページから見れると細かい所の確認やプリントには出来なかった資料を見れたり、と便利だと思います。ただ、基本的に説明も丁寧にしてくださるので、今のところあまり問題は感じていません。

A:1つ目の質問ですが、植物の葉が赤色および青色の2つの領域の光を吸収するということと、光化学反応系としてPSIとPSIIの2種類があることは対応していません。基本的に光を吸収する色素はクロロフィルがメインですが、これはPSIでもPSIIでも共通です。1分子のクロロフィルが、赤と青の光の両方を吸収します。この点については、いずれ講義でふれる予定です。
 活性基が分子内の割合としては小さいことで分子間のよけいな相互作用をなくしている、という考え方は面白い視点ですね。ただ、タンパク質と核酸と糖などについてはそれぞれ別の考え方を適用する必要がありそうですね。
 ホームページに図を載せることに関しては著作権の問題などがあるので難しいかも知れませんね。自分で図を書けばいいんですが、なかなか時間がとれません。液晶プロジェクターは、使ってみたことはあるのですが、必要な図をぱっと出すのが案外大変です。図を順番に出していくだけなら問題はないのですが、僕の授業は、そのようにきちんと固定化されていないもので。


Q:化学分野の計算のところはやはり難しかったです。内容には一応ついていけたとは思いますが(というかそのつもりなだけかもしれませんが)実際解けといわれると解けるかどうか自信はないです。生物に来るということであういう計算式から逃げてきたというところもあるみたいなのでやはり逃げてはいけないのだと思いました。
 計算以外にも今回は分子レベルで化学の分野的な内容が多かったと思います。あまり得意分野ではないだけに知識として与えられるということが多かったです(その後発展させるまでにはもう少し時間がかかりそうです。)今まで動物と植物の違いというのを意識したクラスは発生学(動物発生学、植物発生学を両方とったため)しかなかったので今回生理学的な面からの違いを見るのは面白いです(動物生理学はとを先学期、今学期で履修しているので)大学院の入試のためには分子レベルで覚えた方がいいのでしょうか?(例えばクエン酸回路とかは物質名やどこで何が出入りするということだけでなく、それによってどこのCが取れるとかまで必要ですか?)

A:計算というものは、人が解いているのを見てもよくわかりませんが、自分で一度解いてみるとよくわかりますよ。その意味で、敬遠しているといつまでも難しいままになります。
 大学院の入試といっても大学によって、いろいろですからねえ。ただ、良心的な入試問題であれば、単純な知識を覚えているかどうかのみをテストするようなことはないと思います。どこのCがとれるか、という点に関しては、アセチルCoAの2つの炭素が新たにくっついたあと、CO2としてとれていくのが、新しくくっついた2つの炭素ではなく、別の炭素だということぐらいは覚えておいてもよいかも知れません。つまり、クエン酸回路はオキサロ酢酸から始まってオキサロ酢酸に終わるわけですが、最初と最後ではその炭素は半分入れ替わっていることになります。この入れ替わっていることには意味がありますから。


Q: なぜ、動物は光合成をすることができないのか、と考えることがある。動物が葉緑体を持たないのはなぜだろう。もしも光合成ができれば、食物を取り入れなくても自らエネルギーを生成できるのに。初期の地球の厳しい環境からエネルギーを得るのは困難であろう、ということから、地球で生じた最初の生物たちは光合成を行う生物であったのではないかと予測できる。実際、細菌などには光合成を行うものもいる。動物は、それらの生物から進化を繰り返した結果にある生物である、と考えられる。なぜ、その進化の過程で葉緑体を体内に持つことをやめ、光合成によるエネルギーの生産をやめてしまったのだろうか?
 そんな疑問が、今回の授業で少し答えられたように思える。食物を取り入れ、呼吸によってそれからエネルギーを得ることは、自然の流れに沿っていると言える。つまり、呼吸の最後のステップである電子伝達系で、電子が酸化還元電位の低い方から高い方へと渡されていく。それに対し、光合成では逆の方向に電子は進む。それを可能とするために、太陽光を必要とするのだと学んだ。もしも太陽光が長期間遮られてしまったら、光合成を行う生物は死に絶えてしまう。そのような状況を避けるために、動物は光合成に頼ることを進化の過程でやめたのではないか、と考えた。
 同時に、植物が自給自足を可能とするために、自然にある太陽光を利用したメカニズムを構築し、現在も生息していることを考えると、改めてそのすごさに感動した。なんとなくではあるが、自分の中に存在していた「動物の方が植物よりも高等に新化した生物である」という考えを見直す機会になったと思う。

A:呼吸と光合成はどちらが古いと思いますか?地球上の酸素分子の大部分は光合成によってできたものだと思われます。呼吸はその酸素を使うわけですから、光合成の方が古い気がしますが、遺伝子配列を用いた系統樹などを見るとどうも呼吸の方が古いという結論がでてきます。おそらく、太古の地球では、水蒸気が電離してできた少量の酸素が存在し、その酸素によって効率は悪いながらも呼吸が行われていた可能性が高いようです。それからすると、「自然の流れに沿った」生物の方が、光合成生物より古いようです。


Q:今回の授業は、とても新鮮な気持ちで先生の話を聞きました。実は、過去に何かの授業で教わった内容もいくつかあったのですが、私はそれを教わった時は何も疑問を持たず、ただ与えられたことをノートに記してわかったつもりになっていたため、先生が「なぜこうなるのか」という質問をされた時、自分が知っていたのは、ある現象のほんの表層部分にすぎなかったのだと気づかされました。
 ミトコンドリアにおける電子伝達系のところで、不思議に思ったことがあります。授業で配られたハンドアウトの図では、シトクロムcが電子を運搬する際には、ミトコンドリア内膜から膜間部分に出て、それからシトクロム酸化酵素複合体に入っています。ユビキノンはミトコンドリア内膜を移動しているのに、なぜシトクロムcは膜間部分に出てから次の複合体へ入っているのでしょうか。調べてみたところ、電子伝達系に関わるユビキノンは脂溶性で、シトクロムcは水溶性だということでした。ということは、ユビキノンはリン脂質二重層からなる膜の内部の疎水基のところを移動することができ、一方シトクロムcは水溶性なため、疎水基の部分にいることができず、膜から押し出されているということが起こっているのでしょうか。しかし、図を見た限りでは、シトクロムcが膜間部分に出ることのメリットはあまりないような気がします。膜間部分に出てしまうことによって、そこに存在している物質と反応し、電子伝達系の経路が途切れてしまうという危険性が増えてしまうのではないか、と思うのですが、そのようなことはないのでしょうか。

A:ふむ。いわれてみれば、シトクロムcの代わりに脂溶性の成分が電子伝達をして悪い理由はないようです。強いていうと、ユビキノンと反応するような物質では困りますね。b/c1複合体をスキップしてしまいますから。もしかすると、脂溶性で、かつユビキノンと反応しないようなうまい物質がないのかも知れません。ふつうの状態では、電子伝達の経路がとぎれる心配はないと思いますが、シアノバクテリア(これは原核生物ですが、高等植物型の光合成をします)から光合成膜(チラコイド膜)を単離すると、その過程でシトロムcが抜けてしまって電子伝達が行かなくなります。高等植物の光合成系ではシトクロムの代わりにプラストシアニンという物質が水溶性電子伝達物質として働いていますが、これは、比較的膜との相互作用が強く、膜を単離してもちゃんと膜にくっついて回収され、電子伝達もうまくいきます。


Q:解糖系、発酵系の解説はミトコンドリアによるEN獲得の後の解説だったため、非常に解りやすかったです。逆に、後半の酸化還元電位、化学浸透共役は解説があっちこっちへ飛んでいったため、聞き手の方も混乱してしまいました。光合成、特にカルビン=ベンソン回路など、回路系は仕組みが非常に複雑なため、ざっと聞いただけではさっぱり解らない場合が多々あります。まず、大まかに回路の仕組みを簡単に概説し、個々を章立てして説明していったほうが良いのではないでしょうか。少なくとも今回の講義ではそのような印象を受けました。回路全体→共役、酸化還元電位などの理論→個々の仕組みの解説、といった順で展開していただけるとより解りやすくなると思います。プリントなどは見やすくて非常にあり難かったです。

A:酸化還元電位のあたりは、第3回の講義でもう一回おさらいをした方がよいかも知れませんね。全体像は第1回の講義でやったから大丈夫かな、と思っていたのですが、ちょっと甘かったですかね。今回はカルビン=ベンソン回路にはあまり触れていなかったのですが、クエン酸回路と間違えてないでしょうね?


Q:今回の授業で扱った部分は、一年生のときになおざりにしてきた部分なので、新鮮に感じる点が多いです。グルコースが分解され、2分子のピルビン酸になっていく過程や、カルビンサイクルなどは、暗記事項として覚えましたが(一時的に…)、具体的にどのような器官でそのような反応がどのように起きているのか、ということは、いまいちイメージが湧いてきませんでした。
 僕も、先生や、先週のレポートの一番最初の方のように、高校ではあまり生物を勉強しておらず、もっぱら物理や化学をやっていました。生物を高校で履修されていた方にとっては、楽勝かつ当たり前のことなのかもしれませんが、僕にとっては、過去に覚えたバラバラの知識が、系統的につながって、使える知識になったような気がします。
 三大栄養素(確か、たんぱく質、炭水化物(糖類)、脂肪)とよくいわれますが、先日配布されたプリントをみるかぎり(左ページ右上、70ページというページ数がふってあるものからの抜粋のもの)、たんぱく質、脂肪はどうしても必要というわけではなさそうなのですが、いったいどうなのでしょうか?つまり、炭水化物(多糖)から、廃棄物に流れる過程において、炭水化物のみでも成り立てるのではないか?ということです。ピルビン酸、アセチルCoA、クエン酸回路過程における生成物は、炭水化物から作るだけでは、不十分ということなのでしょうか?
 それと、前回のレポートでどなたかがおっしゃっていましたが、C3、C4、CAM植物などについても説明をしていただきたいです。

A:もし、エネルギー代謝という観点からのみ見れば、炭水化物さえとっていれば十分で、タンパク質や脂肪と取る必要はありません。ただ、食べ物はエネルギーのみのためではなく、自分の構成成分を作り上げていくためにも必要です。例えば、タンパク質を構成するアミノ酸のうち人間は必須アミノ酸は自分では合成できないので、外部から取り入れる必要があります。
 C3、C4、CAMについてはいずれ講義の中で触れる予定です。


Q: In acquiring energy, it seemed strange that I had not given much thought to the fact that fermentation and photosynthesis had the same glycolysis reaction, up to pyruvate. The different methods, and the reasons for them, in which pyruvate is utilized in latter reactions was also interesting to consider. For example, in fermentation, why is the pyruvic acid is changed into ethanol and lactate? To recycle the NADH (the reduction power) that had been used to create the pyruvate. This is so that the oxidation of gyceraldehyde-3-P can continue, the reaction which is vital for glycosylation. This cycle works so cleanly and efficiently that I was very impressed with living creatures in general. It seems that there are so many different cycles and mechanisms that interact in just one part of a singe cell, but they work without any excessive or superfluous movements, and there seems to be a reason for every reaction in the huge structure of various reactions.
The ATP produced from photosynthesis is much greater than that of fermentation, of course, and this is from the lack of oxygen, which does not allow the Krebs cycle to take place. Thus, only two molecules of ATP are produced, which means that organisms which rely on fermentation alone for the production of energy must consume huge quantities of sugar. This brings to mind the importance of oxygen to organisms, and that it makes an enormous difference in the productivity of oxygen.
Under anaerobic circumstances metabolism shifts to fermentation, but does this occur without a hitch? Can the opposite shift also occur as easily? I still do not understand the exact mechanisms in the fate of pyruvate.

Comments on the lecture
The handouts we had were useful and I’m glad that we had them. But some of the figures were too small to see very well, so it might be better to have bigger copies. I was so interested in the lecture that the time passed very quickly. I like how Professor Sonoike always poses the question “why?” something occurs. It makes things much more understandable when you know that there is actually a very logical reason for certain things to happen.

A:確かに酸素のあるなしで、1分子の糖から得られるATPの量は大きく変わってきます。その意味で酸素の存在は生物にとって大きな恩恵となっているのですが、同時に、酸素は基本的には生物にとって「毒」なのです。最近、活性酸素と老化や病気との関連が注目されていますよね。高等植物型の光合成は副産物として酸素を出しますので、酸素からの防御機構もよく整備されています。その辺についても今後の講義の中で触れる予定です。
 発酵についてですが、酵母などでは酸素の存在によってその代謝系はきちんと制御されます。人間の筋肉などにおいても、酸素が足りなくなると乳酸を作るようになりますが、酸素が供給されるようになれば代謝系はもとの経路に戻ります。その辺はうまくできています(ただ、筋肉痛はしばらく残りますが)。


Q:今まで生物をやってきて、今回の授業でやったさまざまな経路の話ははじめてだったので(名前は少しは触れていたかも知れませんが、どういうものかというのは初めてだったので)とても興味津々でしたが、化学的なところがチンプンカンプンで分かりませんでした。授業で分かってると思っても家で読み直したりする時に分からなくなっていたり勘違いして学んでいるときが多いのでもっと簡単に説明しているお勧めの参考書などございましたら教えてください。
一つ一つの経路がこんなにも複雑だとは考えたこともなく、なんか機械的だなと思いました。でも、本当に生命って不思議で、誰が、といえばいいのか、どうやってこのような反応などが起こるようにできたんだろうって本当に不思議でたまりません。やっぱり地球上にあるものすべてはみな何かに使えて無意味なものってないのだろうね。っておもってしまう。もしあるとしてもそれについて研究したら何か発見できそう!
Plantsとanimal cellの大きな違いはChloroplastがないっていうのはもう高校で学んでいますが、でもなぜAnimal CellにはChloroplastはないんでしょうか?なぜ人間や動物にはchloroplastって存在できないの?もし存在できれば、そんな動物や人間は植物からのエネルギーをもらわなくて良く、Food Webなど存在しなかったのかな?なんて考えてしまった。でも考えれば考えるほど授業からそれていってしまう。すみません。

A:今回の僕の講義で使った図は、南江堂のEssential細胞生物学という本から取りました。ちょっと高いですが、これなどは要点がまとまっていて、ちょっと調べ直すにはいいですよ。
 動物や人間が葉緑体を持ってはいけない理由はないように思いますね。現に、緑藻の一種であるクラミドモナスは葉緑体を持っていて光合成をしますが、同時に鞭毛を持っていて動き回ることができます。また、ホヤなどは体内に光合成微生物を共生させて、その光合成産物を利用しています。現在の真核光合成生物自体も、このような形で取り込んだ光合成微生物が葉緑体となったという共生説が広く認められています。


Q:今回の講義では、解糖によってつくられたピルビン酸が、ミトコンドリアに入って分解される代謝系のクエン酸回路について学んだ。葉緑体のチラコイド膜には、光化学系IIやIの他にも多くのたんぱく質が存在して、水の分解によって生じた電子をNADP+に渡すまでの流れである電子伝達成分についての理解が深まった。光化学系IIで発生した電子は、プラストキノンを経てシトクロムb/f複合体に渡される。このタンパク質の中を電子が移動する時に、プロトン(H+)がチラコイド膜の外側から内側に運ばれる。電子はさらにプラストシアニンを経て光化学系Iに渡り、光のエネルギーによって再び励起され、フェレドキシンを経て最終的な受容物質のNADP+に渡される。酸化還元電位(酸化型と還元型の比が1になった時の電位を標準酸化還元電位という)を計算式に当てはめる事によって算出できるということがわかった。今回の講義では、この部分が理解する事が少し難しかった。なぜ酸化還元型の比が1ならば、Emに等しくなるかという部分ですこしつまってしまったので、後半部分が良くわかりませんでした。光リン酸化や回路の説明はよくわかりました。

A:「このタンパク質の中を電子が移動するときに」というのは「このように電子が移動していくときに」のほうが正確ですね。プラストキノンはタンパク質ではありませんし。酸化還元電位にところは次回にちょっと補足した方がいいですかね。


Q:今回の授業でおもしろいと思ったのは、解糖系は試験管の中でも反応が進むが、光リン酸化は細胞の性質、すなわち濃度勾配によって反応が進み、試験管の中に基質と酵素を入れてもATP合成まで進むことはできないということです。いかに生命がその環境を利用して生きているか、とても感動しました。また、クエン酸回路がなぜあのように複雑な回路になっているかも、エネルギーの形、すなわち熱エネルギーやATP、と関係があり、熱エネルギーをエネルギーとして使えないから小さな反応の繰り返しによってATPという形になおしたエネルギーを生産するためにあのような複雑な系を持っているということに感心しました。
 ここで、ひとつ不思議に思ったのは、なぜ、植物はすべてオキサロ酢酸というC4化合物をアセチルCoAと結合させてクエン酸(C6)をつくり、回路を進めるかという事です。高校の化学の時間に多種多様な炭素の化合物を作ることができると聞きましたが、その場合オキサロ酢酸以外のC4化合物がアセチルCoAと結合して別のC6化合物を作っても理論的にはおかしくないと思います。エネルギーレベルの違いの問題も、探せば別の形で高いところから低いところにうまく事を進める炭素化合物群があっても不思議ではないと思うのです。実際、C4植物や光合成細菌はまた別の回路を持つと文献にはかかれていました。もっとも、C4植物の場合、昼と夜、すなわち温度によって水分蒸発を防ぐために気孔を閉じるときと閉じないときで、C4特有の回路とクエン酸回路の両方を使い分けています。このことからも、C3植物の中にもクエン酸回路以外の回路を持つ植物が存在してもおかしくないと思いました。
参考文献:Introduction to Plant Physiology, William G. Hopkins (2000)

A:クエン酸回路のC4化合物がオキサロ酢酸でなくともよいのではないか、というのはその通りだと思います。炭素が4−6あればかなり複雑・多種多様な化合物が作れますから。光合成細菌が持っている回路というのは還元的カルボン酸回路のことでしょうか。これは、むしろクエン酸回路の逆反応ですね。


Q:現在生物を専攻しています。今回の講義で発酵やクエン酸回路、電子伝達系を取り上げられました。今まではなぜ乳酸やエタノールを作っているのか、などとは考えた事がなく興味を持ちました。質問なのですが、たとえば「なぜクエン酸回路ではオキサロ酢酸を使って複雑な回路を回し、エネルギーを取り出しているのか?」と言う問いは理解の上で重要だと思います。では実際に植物は目的的にクエン酸回路を作ったのでしょうか。つまりエネルギーのロスを少なくするという目的がまずあって、段階的にエネルギーを取り出す回路作ったのかという事です。

A:生物について「目的」という言葉を使うのはあまり適切ではないかも知れません。ただし、エネルギーのロスをする生物と、ロスをしない生物が競争をしたら、ロスをしない生物が生き残りますよね。とすれば、進化の過程で、ロスの少ない回路が選択されるのは当然考えられると思います。


Q: 今回の授業では、まず生物のエネルギー獲得システムの大まかな流れを解糖系中心に学習し、続いてシステムにおけるポイント別の講義(酸化的りん酸化・酸化還元電位など)の説明を受けました。 
 授業中は、ATPとは体内におけるエネルギー源であるという程度の理解しかえられず、実際にこの物資がどのようにしてエネルギー源となっているのかが疑問だったのでATPについて調べてみたところ、これは高エネルギーリン酸結合2個を持つアデノシン三リン酸という物質で、この高エネルギーリン酸結合は、通常の有機リン酸エステルでは加水分解に際しての自由エネルギーの減少(−ΔF)が約3000cal/molであるのに対し、−ΔFが7000cal/mol以上におよぶ物質であり、この異常に大きい−ΔFの原因として、化合物が構成分子に比して共鳴エネルギーの低いこと、分子内における原子間の静電的反発の増大、および構成分子が単独で存在するときのイオン化または互変異性による安定化などが挙げられていることが解り、エネルギー源としての働きはこの高エネルギーリン酸結合が分解する際に変化する自由エネルギーに由来するのだという理解を得ました。またADPについても同様のようです。
 解糖系において、グルコースを分解し得られたピルビン酸を体外に排出する際、発酵を経て乳酸またはアルコールになり排出されます。アルコールはさて置き乳酸と聞くと、pH値を下げるなど腸内の健康を保つために、乳酸菌により作り出される物質という印象がありますが、発酵において作り出された乳酸は体内の健康維持に活用されることは出来ないのだろうかと考えました。やはり腸内で乳酸菌が乳酸を作り出す過程が大切なのでしょうか。
 授業全体の感想としては、やはり生物は神の創造物なのではないかと感じさせる生物のエネルギー獲得システムの精巧さに感動しました。授業中に先生が提供して下さる“なぜ”は興味深く、また理解を助けてくれました。
 最後に第1回目の講義を授業登録していなかったために欠席してしまったので、第1回目のレポートで要求されていた私自身のことについて少しだけ書かせてください。私は高校で生物を含めた殆どの理系科目を学習していなかったので、少しでも専門的な知識は全く持っていないため、このクラスに参加することに不安があったのですが、第2回目の講義はとても楽しく受けさせていただくことができました。今は化学を専攻しており、私にとって初めての生物のクラスなのですが、どうぞ宜しくお願い致します。

A:そうか、生物を取っていないと、ATPといってもぴんとこないのですね。たぶんそこまでは授業中に説明できないので、そのあたりの基礎知識は少しずつ自分で調べてもらわなくてはならないかも知れません。乳酸の効用についてですが、生物にとって「絶対よい物質」というものはありません。生命にとって必要な物質は、必要な場所に、必要な時に、必要な量(濃度)だけなくてはならないのです。例えば、極端な例ですが、医療現場において静脈注射で入れるべき薬を飲ませたり、筋肉注射してしまったりしたら、重大な医療過誤です。乳酸だって飲むぶんにはいいかも知れませんが、筋肉にたまったら筋肉痛になるだけなんですよ。