植物生理学概論 第7回講義

シアノバクテリアを用いたポストゲノム研究の例

第7回は、原核光合成生物であるシアノバクテリアのクロロフィル蛍光挙動を解析することにより、遺伝子機能のゲノム単位での機能解析を行えるのではないか、という話をしました。今までの講義でも学生さんの朝の朝の集まりはあまり良くなかったのですが、特に今回は講義を開始した時点では3人しか教室に学生がいなくて、多くの学生さんは最初のイントロダクションを聴いていない状態でした。そのせいもあるのか、講義の内容とは直接関係のないレポートが目立ちました。寄せられたレポートと、それに対するコメントを以下に紹介します。


Q:Genomes are very complicated, for every organism has its own set. Determining the sequences of them can become tedious, but the human genome has been figured out. And since the genome has been figured out, the genome of mutant ones have been found as well. These mutants are when a single chromosome is not correct, which can cause devastating effects on the human. This includes Trisomy 21, where there are 3 number 21 chromosomes. As scientists sequence more genomes of humans, more and more of these diseases are being discovered. With such advanced technologies of today, I feel like there can be a way to sequence the genome of the child before he or she is born, and look to see if there are any disorders present. If this defect is caught early on, there may be a way to insert the correct genome into the child and hope that it duplicates, rather than the defected one keep being repeated. Or another possibility is to reconstruct the defected genome of the human to make it correct, which will then prevent the symptoms to be present in the individual. Since there are so much research being done on finding genomes and sequencing new species, focusing more on the human genome may help prevent some diseases to ever affect humans again.

A:言っている内容はともかくとして、講義との関連が薄いのがレポートしては難点ですね。


Q:今回の授業は光合成と遺伝子機能の解析についての内容であったので、藻類の遺伝子を利用して、陸上生物の光合成能力を高めたという研究についての論文の要旨を読み(本文は読むことができなかったため)考察した。光合成の電子伝達系で働く電子伝達体にはプラストシアニンやプラストキノンなどがあるが、シトクロムc6は紅藻、褐藻、シアノバクテリアなどの海水中の植物が主に持っており、植物が陸上に進出する過程で手放したとも考えられている。日本大学の奥教授らの研究チームはノリのシトクロムc6遺伝子をシロイヌノナズナに導入し、60日間生育させたところ、野生のシロイヌナズナに比べて光合成産物の量が明反応のATPでは約2倍、暗反応の炭水化物では1.2倍に増え、二酸化炭素の吸収能力も 1.3倍になり、光合成能力が高まった。また、草丈や根の長さ、葉の面積なども大きくなり、成長も促進された。この研究では遺伝子導入種のプラストキノンが野生種よりも30%減少していることから、シトクロムc6遺伝子の導入によってシロイヌノナズナの光合成と成長が促進されていると結論付けているが、減少した30%のプラストキノンがシトクロムc6に置換されているのか、シトクロムc6遺伝子が本当に正常に発現しているのかなども調べる必要があると考えた。さらに、遺伝子組み換えや遺伝子導入によって植物の光合成や成長を促進することができれば、現在危惧されている食糧難やエネルギー不足の有効な解決策になる可能性も考えられる。
"Expression of algal cytochrome c6 gene in Arabidopsis enhances photosynthesis and growth" http://pcp.oxfordjournals.org/cgi/content/abstract/pcm064v1

A:どうも、これも講義の内容とはあまり関係がありませんね。


Q:先回の授業ではクロロフィルの吸収と蛍光の変化をもとに遺伝子機能の解析を行うことができるという内容を扱った。蛍光はエネルギーの残りくずとして存在するが、その量の変化は何に依存するのか、また、遺伝子が破壊されたときに何の変化を示さなかった破壊株たち(プリント参照)は蛍光の量の変化にどうして無関係であったのかを考察する。まず、蛍光の光子の量の収率であるが、それは以下の式によって与えられる。φF=F/Ia (φFは蛍光の収率、Fは蛍光量、Iaは吸収量)つまり蛍光の収率が高くなるのはFが大きくなるか、Iaが小さくなるかであり、一方蛍光の収率が低くなるのはFが小さくなるか、Iaが大きくなるかである。光の量は一定であるから、それらの値が変化するには具体的に、蛍光量については光化学系の量が多くなれば蛍光量が大きくなり、反対に減少すれば蛍光量も減少すると考えられる(光化学系が正常に作用した場合)。また、Iaも同様にして光化学系の量に依存すると推測できる。つまりは蛍光の収率は全て光化学系の量に依存していると考えられる。このことを前提として、ある遺伝子(光合成と何らかのコネクションがあるであろう)が破壊されたにもかかわらず、その蛍光に影響を及ぼさなかった理由としては、光化学系の量を変化させる要因を持たなかったことになる。その状態とはつまりATP使用にかかわらない部位なのではないかと推測できる。なぜなら光化学系の量が管理される理由としては過剰なATPが細胞内に存在するか、ATPが不足している状態であるからである(光が一定の場合、さらに阻害物質が生産されないと仮定した場合)。例えば転写の遺伝子の5/24の破壊株が何の変化を示さなかったことを検証したい。ある実験で酵母菌のtRNAの遺伝子イントロンを部位特異的突然変異誘発により除去したところ、アンチドン領域に存在するU残基は正常に修飾されなかったものの、tRNAの塩基は入れる葉正常に転写され正常にプロセシングを受けた(Singer 1994)。つまり、わずかに配列は変わってしまったもののその数量に変化を及ぼす要因はなかったこととなる。このようにして転写の遺伝子は破壊されたもののそれがつかうATP使用量に変化が及ばないという状況もありえると考えることができ、蛍光量に変化を及ぼさなかった破壊株はそのような遺伝子が破壊されたのではないかと推測できる。さらに、ここで重要なことは遺伝子の解析を蛍光の面から見た場合、その遺伝子はATPに関わる部分で特異的なものがなければならないと考えられることである。
参考文献:Singer Maxine, Berg Paul, 1994. 遺伝子とゲノム 下、Trans 新井 賢一、東京化学同人

A:うーむ。これも講義の最初のイントロを聴いていなかった感じですね。引用されている式の中の蛍光収率がどのような時に変化するのか、という話をしたのですが・・・


Q:In the previous lecture, we discussed about circadian clocks, and how a fraction of the gene expression is controlled by the circadian clock. In plants, this clock regulates about 5% of the genome. This is 90% in cyanobacteria, which are the simplest organisms known to have a circadian clock. These genes control many processes, including stomatal opening and closing, leaf and petal movements, and the production of enzymes and other components associated with photosynthesis. Seasonal cycles are also controlled through the circadian clock. By understanding the gene regulations in circadian clocks and analyzing how the genes and other molecules interact with each other, this may benefit the diversity of plant species. Many plants are driven to the point of extinction and are endangered due to commercial and environmental factors, while other plants cannot grow properly in particular areas in the world because the land is unsuitable for them. Knowing how the circadian clock controls activities like flowering time, photosynthesis activity, and light-day behaviors may allow scientists to manipulate the clocks in plants. By doing so, endangered plants can be grown at a faster rate (by possible auxin increase?) or even grow in a wider region, to increase the number of the plant species. The timing of flowering may also be altered so a certain plant can flower more frequently and be pollinated more frequently as well. Plants that cannot grow well in particular areas due to insufficient light or dark may have their clock-related genes altered so they can survive better in various environments. This would greatly help in reducing the number of endangered plant species today.

A:前半の生物時計の話と、後半の生物改良の話が直接つながっていませんね。もし、そこにレポートの焦点を絞るのであれば、生物時計をどのようにすれば改良につながるのかの具体的な点をもう少し、挙げられるとよいでしょう。また、講義の中で何度か言いましたが、生物は進化の過程で一番競争力が強いものが生き残ってきているはずです。そのように考えた場合、開花時期を変化させると「通常は」改良ではなく、生存率の低下につながるはずだ、ということを考えてみましたか?


Q:今回の講義では光合成の応用として、クロロフィル蛍光を利用した遺伝子機能解析について学びました。この方法では、光合成のできない動物の遺伝子解析は行えない。では、どうしたらこれが可能になるか考察したい。方法としてはクロロフィルを直接埋め込む方法と、クロロフィルを含む生物(植物)を共生させるというものが考えられる。前者を行う場合、その方法が問題となる。注入による方法ですれば、血液によって体内を循環させられるので可能かもしれない。ただ、単に血液中に流れるだけで蛍光が発現するかどうかは分からない。後者の場合、共生させている場所の遺伝子機能しか分からない。全体の機能を調べるためには、個々の生物を各組織に共生させるしかない。この場合、消化器官等は調べられるだろうが末端器官については調べるのが難しいかもしれない。植物中のクロロフィル蛍光の発現の仕組みをもっと理解してこの現象を考察したい。

A:レポートの話題として、目の付け所はよいと思うのですが、もう一息深い考察が欲しいところです。


Q:今回の講義の内容は、今までの専門的な内容とは少し違って、とても幅広い現代の生物の話を聞くことができた。特に興味をもったのは天球のオリオン座の星それぞれの表現型の話であった。表現型の強さによって星々の実際の距離分布が、なす角によって類似度が明らかになる、という話には驚いたが、星々が同平面の近い位置に必ずしも存在していたとしたら天球としての原理にそぐわないので納得した。また、季節ごとに星座の位置のみならず見え方(たとえば星座全体の形状)までもが変わることの理論も改めて理解することができた。そこで、なぜ距離も分布もバラバラの星々を、人々はグループ分けしたのだろうかという疑問を持った。太古の星々をグループ化して星座などの概念を作った人々は、表現型の強さや類似度などについて理解していたのか、またそれらの動きによって本当に運勢などは左右されるのか調べてみたいと思った。生物学のような学問では、証明されていない事柄はきっとそれほど扱っていないのかもしれないが、興味を持ったのでより詳しい文献などを参考に調べてみたいと思った。

A:昔の人は異なる星が異なる距離にあるということ自体知らなかったはずですが・・・


Q:数多くの種のゲノムを解析する理由として、自分の扱っている種のゲノム情報や進化の過程などについて知る、という利点が挙げられていたが、これに加えて例えば植物の特定の病気の治療法や、それを未然に防ぐ予防法なども解明できるのではないかと考えた。例えば、遺伝子の機能解析の方法の一つである、配列の類似性による解析で病気になった植物のゲノム間に何かしらの類似性が発見されれば原因遺伝子を特定することも可能だろうし、それを遺伝子レベルで操作して治療することも可能ではないかと考えられる。また、農作物などをその作物に適した地域以外で育てたい場合、例えば湿地で育ちやすいものを乾燥した地域で育てたい場合には、遺伝子組み換え技術によって品種改良することもできるが、この場合に乾燥に強い植物で尚且つその作物とホモロジーがあるもののゲノム解析結果を利用すればより効果が得られるのではないだろうか。このようにホモロジーがあるかないかを知るためにも、多くの種のゲノムを解析することは重要である。

A:ちょっと物足りない面もありますが、無難にまとめましたね。もう一歩具体性があるとよいかと思います。


Q:表現型の何を指標にするか、によって野生株と異常株をしっかりと分けクラスタリングをし、その異常株に類似している異常株の変異を予想するというのは、地道だが非常に論理的なやり方だと思った。ただし、この方法には色々限界がある。まず、蛍光挙動はある種の生物には使えないのは勿論、指標を変えてもライフサイクルが短い生物でないと変異体の数に限りが出てしまう。また、シアノバクテリアの蛍光挙動においても、野生株と異常株の違いがはっきり認められた天球微分に辿り着いたのは、とにかくやってみた感じがあり、データが複雑であれば、例え計算機が使えても指標を何にするか(e.g.蛍光挙動の形の似かた)を論理的思考から考えるのは非常に難しそうだ。ホモロジーが存在すれば、遺伝子からたんぱく質の機能が分かるということだが、GFPなどのマーカーが発達すれば、それがどこで発現しているかも分かるようになるだろう。遺伝子は全生物共通なので、研究が進めば遺伝子配列からその表現型を、生化学的な観点から割り出すことは可能にならないのだろうか。

A:これも無難にまとめた感じです。「遺伝子は全生物共通」とありますが、これは実際にはかなり例外があります。炭酸固定の回に話しましたが、枯草菌の硫黄代謝に植物の炭酸固定酵素が働くわけですからね。


Q:今回の講義は光合成生物のクロロフィル蛍光をプローブとして用いて遺伝子の機能解析を行うというとても興味深い内容だった。同時に難しかったので理解が及んでいない部分が多く、自分の知識が足りなすぎると感じてしまった。クロロフィルの蛍光におけるエネルギーの保存則として、「吸収したエネルギー」=「光合成に使われたエネルギー」+「熱になったエネルギー」+「蛍光として放出されるエネルギー」があった。今回の方法では遺伝子破壊株のクロロフィルの微妙な蛍光挙動をもとに遺伝子機能の解析を行うということであったが、この蛍光挙動のデータは、どのような環境でこの実験を行ったかにより変わってくるのではないだろうか。とくに熱になったエネルギーの変動は0にはならないように思う。もちろん、実験環境は一定の状態に保たれているから、蛍光挙動のデータにそういった変化の影響はないに等しいのだだろうが、逆に様々な環境において蛍光挙動を調べることで、遺伝子破壊株が蛍光に及ぼす影響の大きさなどを調べるとまた新たな機能解析につながるのではないのだろうか。あと、今回の講義の後半部分の、モデルケースの紹介部分についてなにか補足資料等があったら教えていただきたいです…理解できてないもので。

A:環境が変わるから結果が変動する、ということももちろんあるのですが、生物を扱う実験の場合は、その生物の成育をそろえることが一番の課題となります。シアノバクテリアの場合、液体培地やプレート上で培養するわけですが、実際の測定時の培養の2回前ぐらいの培養からきちんと条件をそろえて培養しないと再現性のある結果は得られません。モデルケースの部分の補足試料とのことですが、英語の論文以外ではあまり適切なものがありません。論文としては、Ozaki, H., Ikeuchi, M., Ogawa, T., Fukuzawa, H. and Sonoike, K. (2007) Plant Cell Physiol. 48: 451-458というのがその報告なのですが、ちょっと学部の学生さんには難しいと思います。


Q:今回の講義では、ゲノムワイドでの遺伝子解析における実際の研究について知ることができたが、理解が難しい部分が多かった。ゲノム単位での解析を行うために、光合成生物(シアノバクテリア)のクロロフィル蛍光をプルーブとして用いて遺伝子破壊株の表現型を得る。シアノバクテリアは高等植物と同じ光合成系を持つにも関わらず細胞小器官を持たない単細胞生物であるため、代謝系の変化が光合成系に伝わりクロロフィル蛍光に繋がる。そこでクロロフィル蛍光について興味を持った。クロロフィルはエネルギー保存則に従ってストレスをかけると、その条件によって蛍光発光に違いが出る。この蛍光測定は、葉に対する測定光のクロロフィル蛍光を調べるが、葉の表と裏で測定するとクロロフィル量に差があるため蛍光発光の収率がことなるのではないかと考える。

A:「光の吸収」の回に話したように、葉の表面側は柵状組織、裏側には海綿状組織があって、光学的な性質もだいぶ違います。ですから、たとえ蛍光の収率自体は同じような場合でも、測定結果には違いが出そうですね。


Q:今回、蛍光発光のエネルギーにおける保存則を用いて、光合成の効率が高ければ、蛍光発光の収率は低いとし、蛍光を光合成系の動向を示す内部指標として使うことを学んだ。このことと同様に、熱になったエネルギーを測定し、何かに役立てることも可能ではないだろうか。単純に言えば光合成の効率が高ければ熱となるエネルギーは小さくなるだろう。また、余った熱は一般的に害になると考えられているが、温度が高いと化学反応が進みやすくなるため、葉の表面で温められた細胞液などを浸透圧などを用いて上手く内部の細胞液と交換させてやれば上手く熱を使えると言うことも考えられる。しかし、現在のサーモグラフィーでは表面の熱しか測れないため、比較的微小な温度変化で変化する物質を細胞に入れ、その変化を観察すれば、局所的な温度変化が分かる可能性がある。

A:これは面白いアイデアですね。実際に、熱を測定することによって光合成の状態を調べた論文があります。そこでは、光を断続的にあて、それによる熱膨張が断続的に起こると空気の粗密波が生まれることを利用します。「空気の粗密波」というと難しそうですが、何のことはない「音」のことですから、高性能のマイクロホンで拾うとレポートの中で推測されているように、光合成が止まると音が大きくなる、という結果が得られています。このような方法を光音響法と言います。


Q:While searching though the internet to further understand the lecture on genomes and photosynthesis, I came across one news article on photosynthetic bacteria called Chlorobium Tepidum, or green sulfur-bacteria. This bacteria is said to hold a key to understanding the evolution of photosynthesis in plants. Using the method of comparing genomes known as phylogenomic analysis, scientists found similarities between the metabolic process between the green-sulfur bacteria and many species of Archaea and that there is duplication of genes that are involved in photosynthesis and metabolism of sulfer and nitrogen. Though this may have little relation to the lecture, it was interesting in that by analyzing a photosynthetic bacteria paves a way to better understanding photosynthesis of plants. (Article from http://www.sciencedaily.com/)

A:レポートの題材としては悪くないと思います。ゲノムをどのように比較するとそのようなことがわかるのか、という点にまで踏み込めると良かったのですが、専門の論文だとそこまで読み取るのは難しいでしょうね。


Q:共生するミドリゾウリムシとクロレラはそれぞれ生物時計を持っている。しかしミドリゾウリムシはクロレラが体内に存在するときはクロレラの生物時計に同期し、クロレラが体外にいるときは自身の生物時計に従い、日周リズムを整えている。つまり単細胞から多細胞への生物の進化は、共生関係にある細胞のどちらが時間を支配していくかという過程でもあり、生物時計を支配する方が、常に優位に共生関係を支配してきたのではないかという仮説が考えられてきた。この仮説は講義で生物時計は光合成などの細胞内のあらゆる反応に影響を及ぼすため非常に重要な存在であるという意見を支えている。

A:これも短く手堅くまとめましたね。ただ、講義で述べたのは、「生物時計が光合成などの細胞内のあらゆる反応に影響を及ぼすため非常に重要な存在である」ということではなく、「光合成が細胞内のあらゆる反応に影響を及ぼすため生物時計は非常に重要な存在である」ということです。違いがわかるかな?


Q:シアノバクテリアの生物時計について授業で触れたが、具体的にはどのように光環境に応答しているのか調べてみた。「現在、概日リズムの原因となる細胞際振動体としてKaiA,B,Cという3種類のたんぱく質が発見されている。これらとATPを混ぜると、試験管内でも約1日周期のリズムを起こすことができるといわれている。変異型として概日リズムをなくした細胞は、野生型の細胞と一緒に昼夜のある条件で培養すると生き残ることができない。つまり野生型の遺伝子は野生型条件での存在にとっては有利なものである(佐藤直樹)。」つまり、光環境の変動への応答にはKaiA,B,Cとエネルギーさえあればよい。それにもかかわらず、光環境への適応のためだけに、9割の遺伝子がこれらのたんぱく質とそのエネルギーの支配下になる。エネルギー生産には酸素発生型光合成の遺伝子が含まるからだと考えたとしても、環境の遺伝子への影響はかなり大きい。光合成が細胞内のあらゆる反応と相互作用しているからと考えても依然光環境は大きな影響をもつものだと考えられる。以上より、ゲノムワイドな遺伝子機能の解析が進んでも、表現型の設定のみならず環境による影響は排除することは難しく、なぜ概日リズムは必要不可欠なのかなど環境の影響を考える研究は重要になるであろう。
「光合成の科学」 東京大学光合成教育研究会

A:「光合成が細胞内のあらゆる反応と相互作用しているからと考えても依然光環境は大きな影響をもつものだと考えられる。」という部分の「考えても依然・・・考えられる」という論理が読み取れませんでした。このあたりにきちんと理由を書き込めると良いレポートになると思います。


Q:授業で扱ったゲノム配列の決定。今回はその有用性とその問題について調べ、この研究がどのような方向に向かうべきかを考えたいと思う。 まずは有用性について。授業プリントから進化の過程を知ること、また松王さん曰 く、人類の遺伝病からの解放、がん、そして生活習慣病の克服、環境保全等、幅広い面で効果が期待できる。ではその反面、どのような問題点があるのだろうか。調べて みると、ヒトゲノム解析における問題が多いことがわかった。キリスト教的観点から見ると、人間は神を演じるのかという意見があった。キリスト教の教えでは、人間は神が創造したものであり、批判として人間が人を作ることは許されないといったもの がある。確かにゲノム配列が決定され、解析が行われ始めると、将来的にはその有用性も問題もどちらも実現可能になる。ならば問題解決を優先して、このゲノムの研究 をやめることは出来るか。キリスト教的にはyesだが、実質的にはnoである。問題は倫理的なものであるが、人間を救える可能性がある有用性を捨てるわけにはいかない。 木村さんは次のように述べている。ユダヤ、キリスト教の伝統では、“神によって与 えられた生命の忠実な管理者としての人間はその知識と知恵を用いて悪や不正と闘い、苦しみの除去のために、より良き生を求めて最善をつくすことが期待されています。 “すなわち、キリスト教において医療的研究は非ではないことがわかる。人間を救う研究は続けられるべきだと思う。 世界各国は、宗教を考慮に入れて研究をする時、方向性を見失ってはいけない。医療的な研究、または自然を保護することは大賛成である。しかしその道を外れ、クローン製造等に走った瞬間、その有用性は隠れてしまうかもしれない。
(参考文献) “ゲノム科学に関する研究開発についての 長期的な考え方”科学技術会議、ライフ サイエンス部会、ゲノム科学委員会 、“ヒトゲノム解析計画そのものを問うこと---解析後の諸問題を検討する前に---“松王政浩、 “ヒト・ゲノム解析研究の問題点”木村利人

A:サイエンスとしてこのような問題を考える場合、「どこに境界線を引くのか」という基準を明確にすることが大事だと思います。このレポートでは、医療行為は許されるがクローン製造は許されない、という論旨なのだと思いますが、その間には様々な段階が存在します。また、クローンといってもヒトを除く動植物は全て良くてヒトだけがダメなのか、それとも別の基準があるのか、という点も判然としません。「言いたいことは何となくわかる」というのはエッセーとしては合格ですが、生物学のレポートとしては物足りなく思います。