植物生理学概論 第3回講義

生物のエネルギー

第3回は呼吸と光合成、つまりエネルギー代謝の大枠とATP合成の仕組みについて解説しました。寄せられたレポートと、それに対するコメントを以下に紹介します。


Q:さまざまな代謝について学んだが、「タンパク質代謝」について興味を持った。プロテインを飲みすぎると肝臓に悪いとか、ボディービルダーに膵臓疾患の人が多いといったことはよく聞くが、なぜタンパク質の過剰摂取が体に悪いのか、また大きくなりたいビルダーなどは体を壊さないようにタンパク質摂取するにはどうしたらよいのかを考察したい。タンパク質代謝においてアンモニアが発生する。アンモニアは生物にとって危険な物質であるために、肝臓にて尿素という形に変わる。そして、その尿素を排出するのが腎臓となる。もしも1度にタンパク質を過剰摂取したら、余分な分を排出しなければならなくなり、通常よりも肝臓・腎臓ともに過剰な負担がかかってしまう。通常の生活を送るならば体重1kg当たり1gのタンパク質でよいが、運動をやる人は1kg当たり2gほど摂取する。ビルダーとなればこれ以上のタンパク質を摂取するので一般人よりも余計に負担がかかるであろう。これを解決するためには①肝臓・膵臓への負担を減らすか②負担のかかった臓器を修復するかのどちらかであろう。タンパク質にはNが含まれているので、このNを取り除いた食事または規定範囲内のタンパク質摂取を行うことでしか①は達成できない。また、②においては、なんだかの酵素・ホルモンが働く必要があるだとうか。これは検討の余地がありそうである。授業でPathway解析というものに触れた。それによって、さまざまな代謝経路のうち、特定の酵素発現によって経路が決まるということを知った。この解析によってタンパク質代謝の新たな経路が導き出せれば、特殊な酵素やタンパク質が作れるかもしれない。ただし、もしもこの方法が確立したとしても「ドーピング」に引っかかる可能性があるが。(遺伝子ドーピングになる?)

A:前半はするする読めたのですが、最後の部分「タンパク質代謝の新たな経路が導き出せれば、特殊な酵素やタンパク質が作れるかもしれない」というところが、よくわかりませんでした。どんな経路であれ、それは腎臓などで処理されるわけでしょうから、臓器への負担は変わらないように思いますが・・・。


Q:Before organisms that require photosynthesis, organisms that breathe are dated to be the first organism to be on planet Earth. However, these organisms require organisms to produce oxygen to live. Therefore, scientists believe that amoebas were the first living organisms on Earth. In my opinion, I feel that there is something else that came before amoebas, because this organism needs food as well, which had to come from somewhere. For this reason, there must have been some sort of plant form that lived in the waters for these organisms to live off of, but just could not be found to date. There can always be organisms deep on the ocean floor that cannot be retrieved for scientists to date with current technology. This can be compared to how animals tend to migrate towards a place where food is available in abundance. If there were no food, the animals would not waste their energy going there. Same for the amoebas, for I do not see why they would have been in the waters to begin with if there were no food for them. So when food sources became available, the amoebas came and began to multiply, which started the growth of life on Earth.

A:「scientists believe that amoebas were the first living organisms」というところがちょっと・・・。この科学者って誰でしょう?いずれにせよ、講義の中で、化学合成細菌については触れたはずなので、そこをきちんと考えて欲しかったところです。


Q:講義の中で現在の高等植物の光合成回路、つまり光化学系Ⅰと光化学系Ⅱはそれぞれ緑色硫黄細菌と紅色細菌の持つ光化学系と類似しており、これらが祖先にあたる可能性が高いとの話を聞いた。それらの光合成細菌の光化学系がどのようにして共存を遂げたのかを考察してみた。まず紅色細菌がどのようにして発生したかを考えたい。これはリボゾームRNAの塩基配列を中心とするウーズの研究によると、光合成細菌の祖先が35億年以上昔に誕生し、それから緑色硫黄細菌、さらに紅色細菌が派生することとなったらしい。これを参考にして考えると、二つの細菌は非常に双方近い領域に存在していたことがわかる。さらに双方硫化水素を酸化してエネルギーを得ることからもそれが確認できる。よって物理的な接触の機会は十分にあった。そしてここで改めてどの様に二つの光化学系が融合を果たしたのかを考えると、細胞融合の面と遺伝子伝達の面が考えられる。細胞融合は通常ウイルスや電気的刺激などによって引き起こされる。この状況下では紅色細菌は緑色硫黄細菌から派生したものであるから膜成分などにも極端な違いは少ないと考えられる。さら同じ生息領域という面からも細胞融合の可能性は高く、十分あり得る。次に後者の遺伝子伝達であるが、“バクテリアは異種に関わらず遺伝子を伝達する性質がある(Wakeford)”ためプラスミドのように他の細胞のDNAに自身のDNAを入りこませる可能性はあり、その機会も十分であると考えられる。以上、二つの光化学系の共存は二つのプロセスが考えられる。
参考文献
ウェイクフォード・トム 遠藤圭子訳 共生という生き方 微生物がもたらす進化の潮流 シュプリンガー・フェアラーク東京株式会社 2006年4月24日
原島圭二 光合成細菌の世界 共立出版株式会社 1994年5月26日

A:まず、お断り。「赤色細菌」となっていたので「紅色細菌」に直しました。あと、緑色硫黄細菌は硫化水素などを使いますが、紅色細菌の場合は有機酸などが使われます。レポートでは、2つの可能性が均等に扱われていますが、できたら、何か独自の理由を考えて、片方を完全に否定しないまでも「実際はこちらだと思う」と結論づけた方が面白いレポートになると思います。


Q:While it is believed by many that cell respiration came before photosynthesis due to the fact that the electron transport system of oxygen respiration is older compared to that of photosynthesis, this is not a proven theory. Thus, could it also be possible that photosynthesis is older than cell respiration? Photosynthesis and cell respiration are similar processes in which both use electron flow coupled with phosphorylation. Their origins are similar, in which both process evolved from eukaryotes; however, mitochondria evolved from aerobic bacteria, while chloroplasts evolved from cyanobacteria, or blue-green algae. As there was little oxygen during the time, the photosynthetic system was the main way in producing oxygen on earth. Putting the characteristics of mitochondria and chloroplast aside, it would make sense that cell respiration used the oxygen produced by photosynthesis to perform its processes and thus photosynthesis would be the older of the two processes. As aerobic respiration requires the presence of oxygen and glycolysis does not need the presence of oxygen, this would further support this theory. Also, the utilization of light energy by photosynthesis seems to be the most simplest and primitive method of survival.

A:真核生物は、いわば新しく現れた生物ですから、光合成や呼吸の起源といった古い現象を考える場合には、やはり原核生物、例えば光合成でいえば、光合成細菌やシアノバクテリアについて考えるべきでしょうね。もし、光合成の方が新しい、と考える場合は、例えば大腸菌は一度持っていた光合成を失った、と考えるのでしょうかね?


Q:呼吸では光合成によって生まれた酸素を使う。太古の地球には酸素はほとんどなく、反対に二酸化炭素は非常に多く存在していた。この事実から考えると、呼吸のメカニズムは光合成のメカニズムの後に誕生したと考えられそうだが、実際呼吸の電子伝達鎖複合体は光合成電子伝達鎖より起源的に古いと考えられている。呼吸をする従属栄養生物を支えるために無機物質を利用してエネルギーを獲得する独立栄養化学合成細菌が存在していたと考えられるが、それならばなぜ光合成のメカニズムの方が先に確立されなかったのだろうか。考えられる理由として、地球が誕生した当初は光合成が出来る環境が整っていなかったのではないだろうか。例えば太陽からの光が十分に地表に届いていなかった、そのため光合成のメカニズムは発達しなかった、その環境の中で生命維持をするためには光に頼らず、独立栄養化学合成最近が行っていたような酸素を利用しない呼吸がまず発達したのではないか。そして呼吸のメカニズムをベースにし、呼吸が発達・進化して光合成がうまれたのではないだろうか。

A:面白いレポートです。ただ、「太陽からの光が十分に地表に届いていない」という可能性は、その理由を説明するのが難しいですね。むしろ考えやすいのは、太陽からの光が届くようなところには、紫外線や放射線も届くので、生物はそれらが届かない深海で進化した、ということでしょうか。太古の地球にはオゾン層がないので紫外線は強かったでしょうし、電荷を持つ放射線を減らす地球磁気も太古には弱かったので、放射線も昔は強かったでしょう。そのあたりに、もしかしたら原因があるのかも知れません。


Q:今回の講義で高等植物が酸素発生を行うためには、(P680)*とNADPの酸化還元電位差が少なく反応が進まないため一回P700に電位を下げることを学んだ。光化学系2での電子供与体クロロフィルP680は他の電子供与体に比べて1.2Vと極めて高い酸化還元電位をもつ。これに対し、光化学系2の祖先と考えられている紅色硫黄細菌の電子供与体タンパク質P870は約0.4Vと低い。高等植物と紅色硫黄細菌の違いを考えてみると電子供与体としてのH2OとH2Sの違いに行き着く。水の酸化電位は約0.88Vであり、この水の酸化を可能にするため高い酸化電位が必要であると考えられた。植物が硫黄よりも効率のよい水を使い、酸素を発生させるように進化ことには納得がいくが、P870からP680へどのように発達したのか。調べてみるとP680はP870と同様の二量体構造を持つことが分かり、光化学系2の祖先が紅色硫黄細菌であることには納得がいったが、進化の過程は理解できなかった。

A:元のレポートでは、系1と系2にローマ数字が使われていて、それが正しいのですが、WEB上では文字化けの可能性があるので、アラビア数字に変えてあります。このレポートはよく考えていますね。最後に「進化の過程は理解できなかった」とありますが、実は、世界中の研究者も理解できていないと思います。水の酸化のあたりは、現在でも謎が残っている部分です。


Q:発電というものは、基本的にタービンを回すことでエネルギーを得る。生物もATP合成酵素を持ち、それを回転させることでエネルギーを得るのは非常に面白いと思った。ATP合成酵素は、なぜ120度ごとに回転するのだろうか。ATPの数を調整するには、ATP合成酵素は回転対称の形を持つものがよいと思うが、120度ごとより、360度ごとに回転し1回転した方が、調整は簡単にできるように思える。文献によると、ATPの120度ステップは厳密には90度と30度のステップに分けられ、30度ステップは90度ステップの後自動的に進むが、90度ステップはある程度のATP濃度がないと反応が起きないらしい。一気に360度回転させるには、120度のときの3倍のプロトンの流入が必要ということだろう。プロトンが少ない状態においてもATPを合成できるように、ATP合成酵素は、αサブユニットとβサブユニットを3つずつ持ち、120度ごとに回転するようになったのではないか。ただし、講義では生物の種類によってcサブユニットの数が違い、プロトンをいくつ流入すればATPが1分子合成できるかは、生物によって違うということを聞いた。少ないプロトンでATPを合成できればそれが一番で、効率の良い形は決まっているはずなのに、どうしてこういう違いができるのか、疑問を抱いた。

A:これもよく考えています。「生物の種類によってcサブユニットの数が違い」という部分は、実験的に確かめられているのですが、「プロトンをいくつ流入すればATPが1分子合成できるかは、生物によって違う」というのは、まだ推測の段階です。いずれにせよ、「少ないプロトンでATPを合成できればそれが一番で、効率の良い形は決まっているはずなのに」というのはもっともな疑問で、これも今後の研究が待たれる部分です。


Q:The process of fermentation requires breaking down of the sugar. Ethanol and lactic acid which are the by-product of this process are secreted outside of the cells. In the lecture it was stated that plants do not go through fermentation, only plant roots which are submerged under water. This suggests that the process of fermentation is foreign to most plants. But there are a lot of food products called Shokubutsu-hakkou-shokuhin, which are produced by fermenting plants including fruits and vegetables. Because plants do not ferment, when they are forced to go through fermentation, a foreign process, by some catalyze, why is it that these plants are being sold as ‘food’ product? Because when us humans are faced with a foreign substance or process to the body, we get sick or are diagnosed with a disease, so if plants are being made to go under a foreign process, would they not rot and go bad? Since fermented food products are out on the market, it is obvious that these are safe and not rotten for us to eat, which suggests that plants somehow adapt to the fermentation process. Even though plants do not go through the process of fermentation by themselves alone, when they are faced with a fermentation catalyze, they adopt to the process and go through fermentation without any problems.

A:少し誤解があるような。植物発酵食品というのは、植物「が」発酵するのではなく、植物「を」発酵させるのです。ダイズを発酵させて味噌や醤油を作りますが、別にダイズが発酵を行なっているわけではなく、ダイズ自体は通常ゆでられて「死んで」いるわけです。発酵のプロセスを行なうのは、植物ではなく、乳酸菌や酵母なのです。


Q:ピルビン酸脱水素酵素は3種類の酵素が寄り集まって複合体を作っている。当然それぞれ違う働きがあって、3種類あると便利だからだと考えられるので、それぞれの働きを調べ、3種類ある利点を考察していきたい。まず第1の酵素、ピルビン酸デヒドロゲナーゼはチアミン2リン酸を補酵素とする酵素で、動物体内では食事として摂取したビタミンB1(チアミン)から合成する。第2の酵素はジヒドロリポアミドトランスフェラーゼといい、リポイル基を結合したタンパク質である。ピルビン酸は、まず第1の酵素の作用で脱炭酸されると同時に、残ったアセチル基は第2の酵素のリポイル基に結合する。第2の酵素についたアセチル基は、この酵素自身の触媒作用によりCoAのSH基に移される。こうしてピルビン酸は二酸化炭素とアセチルCoAに分解したが、第2の酵素についているリポイル基はジヒドロリポイル基に還元されたままである。第3の酵素、ジヒドロリポアミドデヒドロゲナーゼは、これをNAD+で酸化してリポイル基に戻す反応を触媒する。このようにピルビン酸脱水素酵素の働きは非常に複雑である。さらに酵素自体が複雑であると同時に補酵素も多様にあることがわかった。たとえば、NAD+とCoAはピルビン酸脱水素酵素複合体にとって基質であり、反応の結果NADHとアセチルCoAに変化する。しかし生体全体からみると、それらの生成物は別の反応で元の形に戻されて何度も反応に関与するため、生体内の触媒機構を担っている。酵素が3種類の酵素から成る利点はここにあると考えられる。つまりピルビン酸脱水素酵素複合体がピルビン酸を分解しているようにみえるが、その反応に関与する物質は循環している。反応に使われる4分子のATPと酵素の補因子を合成するビタミンB群を除き、物質が循環している非常に効率的な反応である。したがって3種類の酵素が寄り集まっているのもこの循環をスムーズに行うためであろう。(ピルビン酸をそのまま細胞外に捨てない理由も同じだと考えられる。)
参考文献:太田次郎 生体の物質的成り立ちと代謝

A:これは非常に面白い考え方ですね。酵素というのは、触媒の一種で、基本的に自分自身は変化せずに反応の進行速度を変えます。その「自分自身は変化せずに」という部分を、複数の酵素群に拡張した考え方と言えるでしょう。独創的なアイデアだと思います。


Q:講義でいわれていたように、はじめに独立化学合成細菌が存在し、次に光合成細菌が出現して二酸化炭素を使用し続けたことで酸素の量がふえ、好気呼吸をする従属栄養生物が出現したというのは理解できる。しかし、地球の最初の生命が独立栄養化学合成細菌であるということであったが、化学合成とは光のかわりに,無機化合物の酸化で遊離する化学エネルギーを用いて二酸化炭素から有機物を合成することである。つまり、電子伝達系のシステムは化学合成細菌には存在する必要はないのではないだろうか。したがって、呼吸と光合成のシステムのどちらがはやくつくられたのかというのは呼吸の電子伝達鎖の遺伝子が光合成のものより古いということから証明されているそうだが、その理由がよくわからなかった。資料が見つからなかったため分からないが、呼吸の電子伝達鎖のほうが遺伝子的に古いのは何かほかの理由があるのではないだろうか。推測になってしまうが、光合成をおこなう以前の化学合成細菌のなかに電子伝達系をもっているものが現れ、そこからわずかなATPを作り出し、使用していたのではないかと考える。そしてそこに葉緑体が加わって光合成細菌へと進化したのではないだろうか。
参考文献:スクエア最新図説生物 第一学習社

A:「無機化合物の酸化で遊離する化学エネルギー」とありますが、物質の酸化は、電子の伝達です。つまり、化学合成細菌では、まさに電子伝達によってATPを合成しているのです。というわけで、議論の前提条件が掛け違ってしまっているので・・・。考え方は面白いですが。


Q:ガンは大量の栄養や酸素を消費し、爆発的な速度で増殖、体の各部位に転移する悪性新生物である。その増殖速度は、発がんにより代謝系のスイッチが胎児期型の代謝に切り替わる場合が多いことにより胎児期用の代謝系を流用しているのではないかということも考えられているほどである。しかしガンの脅威は前述した転移性といっても過言ではない。発がんした部位より他の部位に転移、潜伏し、術後の衰弱したところに発がんする。この驚異的ながん細胞の適応力はその未分化性にある。がんと胎児の類似点は爆発的な細胞分裂を促す代謝系だけではなく、その未分化性がもたらす適応力でもあるのではないだろうか。

A:これは、ある話題についての記述としてはよいのですが、レポートとしてはもの足りませんね。「・・・あるのではないだろうか」と放り投げるのは、評論家としてはあり得る記述だと思いますが、科学者としては適切ではありません。自分なりの論理・考え方を反映したレポートになるように努力して下さい。


Q:全ての生物においてのエネルギー通貨はATPであるが、なぜアデニンが構成単位の一つであるATPが圧倒的に使われ、それ以外のGTP,UMP,CMPはあまり使われないのだろうか。つまり、なぜアデニンが選択されたのだろうか。そこでアデニンと他の三つの塩基を比べてみると、アデニンは他の塩基と比べて一重結合と二重結合が交互になっている共役長が長い。ここで、共役構造を持つ物質はそれを持たない物質よりも安定であることが知られている。したがって、アデニンは他の塩基よりも安定であると推測される。このことから、アデニンが選択された理由としてはその安定性故であり、目的の物質ではない他の物質と勝手に反応してエネルギーを渡してしまうことがないようにするためであると考えられる。
参考 pc-chem.info: Aromaticity (http://pc-chem.info/2006/04/aromaticity.html)
「専門化学」 掲示板 共役・二重結合と色 http://www.chemistryquestion.jp/forums/viewtopic.php?t=34

A:面白い議論だと思います。ただ、アデニンの物質としての安定性と、ATPの反応性は、必ずしも対応しないのではないかと思いますが・・・。


Q:講義でアルコールと二日酔いのことを触れた。そこでアルコールと二日酔いの関係性を調べ、二日酔いの対策法を考えるとする。毎日新聞の"続・がん50話"によると、アルコールに含まれるエタノールは肝臓でアルコール脱水素酵素によってアセトアルデヒドに分解され、さらにアセトアルデヒド脱水素酵素により酢酸に分解される。エタノールは脳を麻痺させる"酔い"の役割を持ち、二日酔いの症状である頭痛や吐き気の原因は、アセトアルデヒドが持つ強い毒性であると言う。ならばアセトアルデヒドを消すことが出来れば二日酔いにはならなくて済むはずである。そのためには酵素を活性化させて、分解しやすくすればよい。今回は講義で触れたアミノ酸以外の方法を考える。あまりにも簡単かつ大胆な考えではあるが、NADを直接摂取するのはどうだろうか。これをすることで分解のスピードは格段に上がり、二日酔いを防止できるはずである。NADの正式名称はニコチンアミドアデニンジヌクレオチドであり、分子式はC21H27N7O14P2である。この式を見る限り大きな物質であると思われるが、摂取できないことはないと思われる。

A:面白い考え方です。ただし、通常、酸化還元する物質は、いわばリサイクルしているので量が足りているので、物質として使う量を全て供給しようとするととてつもない量になる場合がほとんどです。1日に人間が必要とするエネルギーをATPの形で摂取しようとすると、たぶん胃の中に納まらないでしょうね。同様に、NAD+もNADHとの間で、循環させていないと難しいでしょう。


Q:代謝経路の決まり方について:細胞内では起こりうる反応が数多くあるため、もし一部の酵素が欠損しても、別の経路を使って代謝をすすめることができる。授業ではPathway解析によって、シアノバクテリアではTCAcycle内のある酵素が欠損しているにもかかわらず、光合成ができていることがわかっている。では、逆に複数ある選択肢の中から何を基準に特定の代謝経路が選択されているのかについて考察した。
1.最短距離:複数の経路の中から最もシンプルな経路を選ぶということは、余分なエネルギーや時間を使わないという点で利益があると考えられる。
2.副産物:発酵についての説明の中で、ピルビン酸を細胞外にそのまま排出しない理由はNAD+を得るためであると説明されていたが、最もシンプルな経路でなくても、途中で重要な副産物を生産するための経路を選択しているということが考えられる。もし、このような経路で酵素が欠損した場合、この副産物を失わないように新しい経路を選択しなければならない。
3.自由エネルギー、酸化還元電位:解糖系の自由エネルギー差や光合成の酸化還元電位を利用して、それぞれの反応の方向性(平衡状態なら両方向に進むが、自由エネルギー差が大きければ一方向にしか進まない)や反応を調節するために、適切なエネルギー差や酸化還元電位を利用できる経路を選択している。
 細胞内での代謝経路は生物にとって最も都合がよいように選択されていると考えられる。よりシンプルにできそうな代謝経路であっても、副産物や自由エネルギー、酸化還元電位などと合わせて考えると、無駄はないようにできていると考えられる。

A:誤解のないように言っておくと、Pathway解析からTCAcycleの欠損が見つかったのではなく、講義の中で、TCAcycleの欠損をPathway解析の上で示しただけですので。これも非常に面白いですね。単に「最短距離」という一番考えやすい点を考えついた段階で考えを止めるのではなく、その他に2つの要因を考えついたところが非常に高く評価できます。特に3番目の点は、代謝系を調節する上では極めて重要になります。