植物生理学 第8回講義

光合成の環境応答

第8回は、植物がさまざまな環境に対して応答をする意義を概説し、その上で、環境の光の量(明るさ)と質(色)が変化した時に、どのような応答を行なっているのかについて説明しました。今回の講義に寄せられた意見の中からいくつかを選び、必要に応じてそれに対するコメントを以下に示します。


Q:今回の授業で興味を持ったのは,植物にとって光はストレスであるということです。高校の時は,陽性植物と陰性植物の光の要求はそれぞれ量が違うという漠然としたことしか習いませんでした。しかし,光が植物の最大のストレス源というのを聞いて,この光りの要求量の違いが出てくるのかが分かることができました。しかし,なぜ植物は暗さではなく明るさをストレスの原因にしたのか疑問に思いました。ここで考察すると,やはり動物同様にDNAに有害な紫外線を含むので強い光はDNAに変異をもたらし成長することができない。もう一つは,暗い時間より明るい時間のほうが長いので明るさにストレスを感じたほうが都合がよかった。というように考察することができます。このように考えると,太古の昔,暗さに刺激を感じる植物系の生物がいたかもしれない・・・・・・・・。

A:暗さの場合は夜がありますからねえ。ただし、2−3日にわたる連続暗黒というのはストレスになりうることが知られています。ただし、この場合は、自然界にあり得ない状況はストレスになりうると解釈するべきなのかも知れません。


Q:今回,植物にとって光は最大のエネルギー源であり最大のストレス源ということであった.そのため,植物は光によるストレス,光阻害を減少させるための光の防御機構が多々あるということだった.自分は,この植物の光防御機構は,光阻害を少しでも減らす,というよりあえて光吸収を抑制する機構であり”植物”という種の保存という目的に寄与しているのではないかと考えた.いつかの講義では,地球の長い歴史のなかでCO2濃度は確実に減少の一途をたどっている,ということであった.これはつまり,観点を変えると植物にとってのエネルギー源,光合成の基質であるCO2濃度が減少しているということであり植物の繁栄にとって好ましい状態ではない.そのため,植物は長い年月を積み重ねるうちに光合成の活性を自ら抑制するような機構を発達させた.それが光の防御機構である.例えば,葉緑体移動については,太古の昔は葉緑体が光に積極的に集合し光合成を活発に行っていた.しかし,CO2濃度が減少するに伴い逃避運動という機構が発達し強光下には葉緑体が集まれなくなるようにしており,集合運動は名残として残っている.という考え方はどうだろうか.ルビスコにも同様なことを考えると現在,反応速度が遅いのも理解しやすい.しかし,植物がどうやって大気中のCO2濃度の変化を感受するかが問題点として残る.自分は,この役割はルビスコが果たしていると考える.この酵素は炭酸固定反応を触媒しているし,何より現在の酵素活性が何かをほのめかしていないだろうか.つまり,ルビスコによって感知されたCO2濃度減少が植物体内における,光吸収及び光合成に対する負のフィードバック機構を様々な器官において形成したという考えである.このような観点でいくと,なぜ葉緑体がグラナ構造を持っているかなどの,植物の疑問点になんらかの推測が与えられるかもしれない.

A:面白い。高等植物ではきちんとした例を知らないのですが、シアノバクテリアでは、ルビスコのオキシゲナーゼ反応(光呼吸)の産物が、転写因子に結合して、遺伝子の発現調節を行なっている例が知られています。オキシゲナーゼ反応は二酸化炭素濃度が低下すると活発になるわけですから、これは、低二酸化炭素濃度のセンシングシステムであることになります。


Q:今回の講義でフィコビリソームの補色順化に興味を持ちました。フィコビリソームは緑色光で培養するとフィコエリトリンに,赤色光で培養するとフィコエリスリンに光合成色素の種類を一部変えます。光合成色素を変える仕組みについて考察します。フィコシアニンかフィコエリスリンになるかは,フィゴリソームの遺伝子の一次転写産物の選択的スプライシングによって決まると考えました。フィゴリソームの遺伝子には,フィコシアニンとフィコエリスリンの遺伝子があります。フィゴリソームの遺伝子の一次転写産物には,フィコシアニンとフィコエリスリンの遺伝子の両方が含まれています。培養中に緑色光が当たると,緑色光がフィコシアニン遺伝子の後にあるポリA付加シグナルでの切断とポリA付加を誘導し,フィコシアニン遺伝子のイントロンとフィコエリスリン遺伝子全体がスプライシングによって除去されます。赤色光が当たると,赤色光がフィコエリスリン遺伝子の後にあるポリA付加シグナルでの切断とポリA付加を誘導し,フィコシアニン遺伝子全体とフィコエリスリン遺伝子のイントロンがスプライシングによって除去されます。当てられる光に応じて遺伝子の再??編成を行ってフィコシアニンかフィコエリスリンを発現するとも考えられますが,これでは環境に適応するのに時間がかかってしまいます。だからスプライシングによって決定されると考えました。

A:面白いのですが、大きな問題点が一つ。ポリAやイントロン・エクソンという構造、そしてスプライシングといった機能は、実は真核生物に特徴的なものなのです。分子生物を教えている先生が動物の先生などだと無視される場合もあるのですが、実は、大腸菌などの原核生物では遺伝子の構造や発現調節機構は真核生物とはだいぶ異なります。シアノバクテリアも原核生物なので、そもそもポリAやスプライシングは働いていないのです。


Q:今回の授業で、光も多すぎるとよくないということに始めて気づかされたように思います。確かに何事も、過不足なくがちょうどよく、いくらいいといわれているものも多すぎると毒となる、ということは知っていたはずなのに、光に関しては、物理的につかみ所のないものなので、いくらあってもいいのかと思っていました。光合成の調節といっても、いかに光を多く手に入れるかの機構(例えばC3やC4植物のように)のことかと思っていたら、過剰な光エネルギーは悪さをするということに驚きました。そして面白かったのが、動画でみた葉緑体の動きで、小学校のときから葉緑体は流動性があって、顕微鏡で見ると動いているのがわかるというのは知っていましたが、何で動いている必要があるのか全く疑問に思いませんでしたし、ただ流れるプールのようにぐるぐる動いているだけだと思っていました。それが、この葉緑体の流動性こそが光合成の調節に関わっているということを知り、だから葉緑体を含む細胞質気質が流動性を持つことすなわち、細胞が生きているということということに納得がいきました。ここまでではレポートというよりただの感想になってしまうのですが、ここで、ひとつ思ったことがあります。授業で見た動画で、一瞬光が当たった場所へ、すでに光がないにもかかわらず葉緑体が近寄っていくのは疑問を感じる。確かに何かシグナルが出ていれば、すでに光がなくてもその場所に行くことはできるだろうと思う。そしてこのシグナルは、何かのホルモンや酸性もしくは塩基性物質ではないかと思う。早送りの映像だったので、どのくらいの速さで反応していたのかわからないが、液体中に浮いている葉緑体がとある場所に集まるのだから走化学性のシグナルが出ているのだと思うからだ。しかし、光合成は光の中の必要な波長を吸収することで行うものではないのか。なのに、既に光がないところに集まって何の意味があるのか。もしかしたらまたそこに光が来るかもしれないという望みをかけて葉緑体が集まるのだろうか。そしたらこの光集合反応はとても効率の悪い機構なのではないのか。この実験では、極端に二時間中一分しか一点に光を照射するということを行ったからとても変に思えるが実際の自然界では、常に一定の光が当たり続けているわけではなく、葉の前で瞬間的に、または一時的に光をさえぎるなにかに対応するために光のあるほうへあるほうへ葉緑体が移動できるほうが有利に働くのかもしれない。

A:前半とりとめがないので心配しましたが、最後に一点きちんと考えましたね。実験条件と自然条件をきちんと比較する習慣というのは、生物学的な「意味」を考える上では極めて重要です。


Q:今回の授業で私は、フィコビリソームの補色順化に興味を持ちました。講義の中では、赤色光で育てた細胞が緑色の細胞になり、緑色光で育てた細胞が赤色の細胞になったとあった。この場合、フィコビリソームは、生育環境に応じて色素の一部を取り換えて、より効率的に光エネルギーを取り込もうと変化したのだ ろう。そして、取り込む光の色が異なる時、エネルギー的には有利、不利があるのかどうかを考えてみた。光エネルギーは
E=hc/λ、h=プランク定数、c=光の速さ、λ=波長
で表わされる。ここから赤色光と緑色光の波長の違いから考えてみると赤色光の方が波長は長い為、緑色光の方が、光エネルギーは大きくなる。よって、この二つのフィコビリソームでは、緑色光を浴びて赤色に変化したものの方が大きなエネルギーを取り込み、自らのエネルギー源として活かすことができると考え た。この赤と緑の関係が、海の中での場合、紅藻とケイ藻の分布を表している。緑色の海藻は、より浅瀬に分布し、赤色の海藻はより深海に分布する。ここで、海藻の進化で考えた場合に、海藻はより多くのエネルギーを得るために深海から浅瀬に近づいてくるように進化を遂げてきたのだろうと考えた。

A:最後で逆になってしまいましたね。何度も繰り返さないといけませんが、緑色の海藻は緑色の光を吸収しないのです。もし、緑色の光を吸収するものの方が大きなエネルギーを取り込むことができると考えるのであれば、むしろ、緑藻は損をすることになります。もっとも、実際には、光合成の効率ははエネルギーで決まるというよりも量子(光子の数)で決まります。ですから、吸収さえできれば何色の光であっても、光合成収率は大きく変化しません。


Q:今回の講義では変動する環境の中で植物がどのように生き延びていくか、その仕組みを光の質(色)と光の量(明るさ)に対する応答をメインに詳しく学びました。その中で最も興味を持ったことは葉緑体の定位運動についてです。葉緑体は光の当たった部分を認識して移動し、同時に光の強弱も認識して光が強すぎれば光を避けるように移動します。葉緑体は原形質流動によって受動的に細胞内を流れているだけだと思っていたので、光を感知して自ら移動していくということに驚きました。ここで葉緑体がどのように定位運動をするのか考察したいと思います。葉緑体は細胞膜の上面、下面、側面に存在するそれぞれ異なる受容体と特異的に結合するリガンドのようなものを持っていて、それらが結合・離脱することで葉緑体の位置が決まるのではないか、と考えました。また、光の強弱によって細胞膜上の受容体が活性化され、そこに特異的に反応するリガンドを持つ葉緑体が結合すれば、光を感知して葉緑体が移動していくことが可能になると思います。光が強すぎる場合は受容体が不活性化されることで葉緑体が結合できないため、光を避けて移動していくように見えたのではないでしょうか。

A:リガンド仮説は面白いのですが、特定の位置への結合に依存するとすると移動自体は拡散によって行なわれることになりますので、葉緑体の大きさを考えるとやや難しいかも知れませんね。


Q:今回の講義から植物がどのようにして上手に環境変化に対応しているかを学んだ。中でも関心をもったのがフィコビリソームについてである。フィコビリソームはその植物がおかれた環境によって変化し、光が強ければ縮小してアンテナを削減したり、おかれた光環境にあったアンテナ系に変化して効率よくエネルギーを得るということを知った。ここで光環境にあったアンテナ系に変化するという点について注目したい。講義プリントより、同じ細胞を赤色光下と緑色光下で培養した場合それぞれが与えられた光を吸収して光合成を行っていることが示されていた。このようにフィコビリソームは環境に適応することができる能力がある。それなのになぜ地上にはもっと緑の光を利用する植物がいないのだろうか。また、どうして中途半端に緑色を吸収できないのか。これらの疑問について、この実験はin vitroでの実験なので完全に他の光がシャットアウトされていたことから生きるために仕方なく変化をしたのではないか。確かに変化しなければ使うことのできない光と少しでも変化せずに既存のものでエネルギーを得られるならわざわざ余計な力をつかって変化しないのかもしれないと考えた。しかし、緑色を吸収することができるようになるなら林床などで生きる植物などでは大きなメリットになるにちがいない。例えそれにより過剰なエネルギーが増えたとしても過剰なエネルギーは熱にしたり活性酸素消去系において消費できるのだからあまり問題ないと考えられる。それなのに利用できないようなアンテナのままであるということは以前でてきたルビスコのように進化によって得られたものが必ずしも効率がよいものではない、たまたま緑色を利用するようなアンテナが普及するまえに他の色を利用するものが現われてそれが一般的になったのかもしれない。ですが何でもかんでも進化の過程で仕方なく、と考えるのはよくないと思う。緑色の光の波長には他と何か違うのかもしれない。

A:この部分は、専門家の間でも議論が分かれるところです。陸上植物の祖先はシアノバクテリアのようで、シアノバクテリアにはフィコビリソームが保存されていますから、陸上植物は、いったん持っていたフィコビリソームを「捨てた」ように見えます。イシクラゲというシアノバクテリアの仲間は芝生などに転がっているのが見られる乾燥耐性のある生物ですが、林床に転がっているシアノバクテリア、というのもあって良さそうですよね。僕はそのようなものは聞いたことがありませんが、なぜなのかはよくわかりません。


Q:今回の植物生理学の講義をきいて、植物はいつ、どのようにフィコビリソームの縮小を行っているのかに興味をもちました。まず、いつ縮小を行うかについて考えてみました。授業では強烈な光が当たった時と聞きましたが、具体的にはどの程度の光が当たった時なのでしょうか。ここで私は活性酸素消去系に注目しま した。もし強すぎる光を受け続け、この消去系の処理に追い付けない程の活性酸素が作られてしまうと、植物がその影響で害を受けてしまうと思われます。このことから、消去系の処理が限界に達したときにフィコビリソームの縮小が起こるのではないかと考えられます。また、どのようにフィコビリソームの縮小を行っているのかについて、二通りのやり方を考えてみました。まず一つ目は、葉緑体の移動のように、強烈な光を受けた時に、シグナル伝達によりフィコビリソームの縮小を行っているというものです。これが正しいならば、強烈な光を当て、それを止めた後にしばらくたって縮小する と考えられます。二つ目は、上記のいつ起こるかの条件より、フィコビリソームの縮小に必要なエネルギーを活性酸素消去系の処理が限界に達するときの光量に設定しておくというものです。そうしておけば、その光量よりも強い光のときは縮小し、弱くなると拡大するという流れが自動で起こると考えられます。これが正しいなら ば、強烈な光を当てるとすぐに縮小し、それを止めた直後に拡大すると考えられます。

A:考えとしては面白いのですが、シグナル伝達の速度は普通速いので、それらの経路が何のシグナルを使っているにせよ、タンパク質の分解や合成といった、より時間のかかるプロセスが律速となってしまい、差が出ない可能性もあるように思います。