植物生理学 第5回講義

酸化還元と電子の伝達

第5回は、電子の伝達反応について紹介しました。やや物理的な内容だったので、なれない人にとっては難しかったかも知れませんね。今回の講義に寄せられた意見の中からいくつかを選び、必要に応じてそれに対するコメントを以下に示します。


Q:今回の授業では、酸素発生の4周期振動とKokの酸素時計のところを特に興味を持った。 この4周期振動は閃光照射回数が多くなれば酸素発生活性(相対値)の山が小さくなっていくことと、4周期ごとそれが現れるものであった。また1回の閃光で2回反応が進むことや、反応が進まない場合がKokの酸素時計にはあると説明があった。ここでは閃光の強弱によってどのように変化してしまうのか考えてみる。
 強い閃光を当てると1回の閃光で2回反応が進む可能性が高くなる。今回のプリントを参照すると閃光照射回数を多くすると、酸素発生活性は約0.25に収束される。このときの条件よりもさらに閃光を強くすると、2回反応が進む確率が高くなり、その分S0→S0の1回転が早く回る(閃光照射回数4回以下)可能性が高くなると予想される。このことから上限はあると思われるが光の強さを強くしていけばいくほど酸素発生活性(相対値)が上昇すると考えられる。逆に弱い光を当てると1回の閃光でも反応が進まない可能性が高くなる。このときの条件よりもさらに閃光を弱くすると、反応が進まない確率が高(途中文字化け)やS3からS1に戻ってしまうことも考えられるため、その分S0→S0の1回転が遅く回る(閃光照射回数4回以上)可能性が高くなると予想される。このことから酸素発生活性(相対値)が下降すると考えられる。

A:なるほど面白い考え方です。S3やS2からS1に戻る可能性がある部分は、閃光の強さだけでなく、閃光の間隔も考えてみると面白いと思います。同じ論理で考えると、だんだん間隔を長くしていくと、その間に戻ってしまいますから、強い閃光を何度あてても酸素が出ない、ということが起きるはずですよね。


Q:今回の講義で興味をもったことは、植物の葉がいかに効率よく光エネルギーを利用しているかについてです。19世紀の中頃から人間も光エネルギーを電気エネルギーに還元して利用しようと試みてきましたが、150年経った今もその効率は30%ほどでしかありません。この効率の悪さを植物のシステムを導入して改善できないのでしょうか。ソーラーパネルはnとp、2種類の半導体が接合されたもので、電子の足りないp側にnの電子が引き寄せられ、電位が生じ、ここに太陽光が当たると電子がはじき出されて+であるp側に引き寄せられます。このようにして電位が発生し発電できます。しかし、このとき太陽光によってはじき出された電子はまたすぐにもとの状態へと引っ張られ戻ってしまうため太陽光発電は30%程度の効率しかあげられません。植物ではこのようなことを阻止するため、電子が元の物質に戻るよりも移動しやすい物質を近くに置くことでほぼすべての電子を利用しています。これを参考にしてnとpの間を少しとり、pのnとは反対側にnよりも電子を引き付けやすい物質を置いていくことによってより効率よくエネルギーを利用できる(以下文字化け)
参考文献:太陽光発電の原理 シャープhttp://www.sharp.co.jp/sunvista/structure/principle.html
京セラ 太陽電池のしくみhttp://www.kyocera.co.jp/prdct/solar/spirit/about_solar/cell.html

A:植物の場合は、タンパク質の足場が、電子伝達体の精密な配置を保証していますが、人間が作るものの場合は、そこが大変でしょうね。ただ、マイクロ技術、ナノ技術は日進月歩ですから・・・


Q:反応中心複合体の電子伝達成分はどれも光合成膜面に垂直に配置されていて、光合成膜面の中での電子の流れを利用することにより、膜の内外にプロトン濃度勾配を作っている。また、これらの電子伝達成分の多くは点対称性をもっており、光化学系ⅡのTyrZとTyrDは対称的な位置にある。光化学系Ⅱの反応中心では片側の電子伝達鎖だけが働いており、TyrDには伝達されない。それに対して、光化学系Ⅰにおいてはどちらの電子伝達鎖が働いているか断定されていない。ここで、何故 光化学系ⅠとⅡで異なるのかと,何故 点対称なのかという二つの疑問が上がる。まず、何故差が出るのかについては、光化学系Ⅰでは生物種によってどちらを使うかが異なるという可能性が考えられ、植物の生活環境や特徴によっていくつかの種類に分けられるはずである。では、点対称なのは何故だろうか。TyrDのように鎖の片側が働かないことを考えると、何かの要因により伝達成分が機能しなくなった際に働く予備であり、そのために構造が類似しているのではないかと考えられる。しかしそうだとすると、何故対称に位置するQAとQBは共に働いているのだろうか。おそらく、プラストキノンはプロトンの伝達に関する機能を有しているため、常に両方共が働いている方が望ましいからではないかと考えられる。
参考文献:”光合成の科学 東京大学光合成教育研究会編” , 東京大学出版会 , p.89.98.99.103-108.

A:最後の部分、「プロトンの伝達に関する機能を有しているため」というのは、何だか理由としてよくわかりませんね。それに、予備として働いているのだとすると、その際にはQBからQAへ逆に電子が流れなくてはいけませんが、これは難しそうです。


Q:今回の講義で興味をもったのは,プラストキノンについてだ。プラストキノンは,ユビキノンに良く似るが、細部の構造が異なっている。光化学系IIからシトクロムb6/f複合体への電子伝達を担う。高等植物の光合成反応において、プラストキノンは自身の酸化還元を通じてプロトン輸送を行っている。講義を聞いていて,プラストキノンが電子伝達において重要であることが分かった。では,プラストキノンの働きを阻害するとどうなるのだろうかと考えてみる。当然,電子伝達は止まってしまい,光合成はできなくなり,栄養を取り込めなくなり枯れてしまう,と考えられる。つまり,プラストキノンの働きを阻害できる物質があれば,不必要な植物だけを枯らすことができるのではないかと思った。調べてみると,プラストキノンに似た外来物質が,光合成を阻害し,除草剤として多数使われていることが分かった。しかし,これらは,光合成を阻害するためには膨大な数の光合成活性中心に除草剤分子が結合しなければならないので,除草剤の消費量は1ヘクタールあたり125~4000gに達するそうだ。もっと効率よくプラストキノンを阻害する方法が発見されれば良いと思う。
参考文献:植物生化学, Hans-Walter Heldt, Ryuji Kanai訳

A:「光合成活性中心に除草剤分子が結合」という部分ですが、これがまさに講義で説明したQB部位のことです。つまり、プラストキノンの代わりに構造の良く似た除草剤がQB部位に結合することによって通常のプラストキノンへの電子伝達を阻害するわけです。


Q:今回の講義では、光合成電子伝達の仕組みとそれに伴うプロトン濃度勾配形成の仕組みなどについて学びました。その中で最も興味を持てたのはQ-サイクルについてです。電子伝達系ではQ-サイクルのおかげで、実際には2つの電子しか流れていないのに4つのプロトンが膜を通過することができます。これは、最初に2つのプロトンが膜を通過するために伝達された2つの電子のエネルギーを使いますが、この電子はまだ2つのプロトンを通過させることができるエネルギーを持っているため光化学系Ⅰには渡さずにb/f複合体で循環させて再利用していると考えました。再利用された2つの電子は光化学系Ⅰに渡され、次に新しく伝達された2つに電子がまた再利用されることでQ-サイクルは成り立っています。また、このQ-サイクルがあるから倍のATP合成が可能となっています。このことから、電子を一回だけ再利用するのではなくずっとQ-サイクルで利用したほうが効率が良いのではないかと考えました。授業内で、サイクルの上り坂を電子が上るエネルギーはb/f複合体のコンフォメーション変化によって供給されている、と説明がありましたがこれを利用すればサイクル内でずっと電子を再利用することは可能なのではないか、と考えました。

A:確かに、コンフォメーション変化によってエネルギーが供給されているわけですが、そのエネルギーは、サイクルに入らずに流れていく電子が供給しているわけです。ですから、「一回だけ再利用するのではなくずっと」というのはやはり不可能ですね。そのような実験事実に基づいた議論だけでなく、そもそも、「ただで得をする」という話があったら疑わなくてはいけません。そうしないと、詐欺商法に引っかかりますよ・・・


Q:今回の講義で,光合成電子伝達鎖の図を見て呼吸鎖と構造がよく似ていると思った。さらに,光合成電子伝達鎖での電子とプロトンの移動が,呼吸鎖でのそれと同じであると分かり両者の類似性に興味を持った。両者の類似性と関係について考察する。光合成電子伝達鎖も呼吸鎖ともにATPをつくる点と,構造が似ている点は,シトクロムなど同じ電子伝達成分を用いているためだと考えられる。また,葉緑体もミトコンドリアも,もともとは原核生物で自らエネルギーをつくっていたためだとも考えられる。しかし,電子の出所が異なる。光合成電子伝達鎖は集光性色素によって集められた光エネルギー励起状態になった反応中心から高エネルギーの電子をえる。一方,呼吸鎖はクエン酸回路から電子をえる。最終生成物は同じであるが,はじめが異なる点は興味深い。これは葉緑体とミトコンドリアが種類の異なる原核生物に由来するためと考えられる。由来する原核生物の時は,酸素の需要と供給という点でつながりがあった。真核生物に共生した後は,光合成電子伝達鎖で生じたATPを葉緑体のストロマでグルコースをつくるのに使い,このグルコースからの解糖系,クエン酸回路,呼吸鎖の過程をへて行われるATP合成という点でつながっている。環境が変わっても,つながり方に違いはあるが,つながっているということは興味深い。

A:確かに高等植物でも、呼吸と光合成は、「光合成産物=呼吸基質」という形でつながっています。このあたりの話は後半の講義で取り上げる予定です。


Q:今回の講義で酸素発生が4周期ということに興味を持ちKokの酸素時計をわかりやすく自分なりに考えた。なぜ植物はわざわざ4周期で酸素を作るようになったのか?おそらく光の密度が関係していると思う。光エネルギーは密度が薄いので光エネルギーを十分集めることで酸素を作り出しているのではないかと思いKokの酸素時計に光エネルギーの関所という考えを付け加えて考えた。S0→S1、S1→S2、S2→S3、S3→S4の位置に酸素を作り出すのに必要なエネルギーを得られるようにハードルが設けられており、最終的にS3→S4のハードルを越えたエネルギーが酸素を作り出すのに使われていると思う。そして各関所でハードルを越えられなかったエネルギーは次のフラッシュ時に与えられたエネルギーと足されハードルを越えて行けると考えた。このように考えれば閃光照射回数と酸素発生活性のグラフがあのようになるのも理解できる。

A:面白そうですが、ちょっとイメージがつかみづらいですね。「ハードルを越えられなかったエネルギーは」という部分の意味がうまくつかめませんでした。


Q:講義の中で電子の移動についてのいくつかの理論を紹介されていましたが,特に興味を持ったのが溶媒効果とマーカス理論です。これは,分子から分子へ一つの電子が移動する電子移動反応過程において酸化還元電位の差が電子の移動速度に依存しないという事です。また,これによると電子の移動速度は電子移動前後の自由エネルギー差が大体0.8程度で最も短くなる事も分かっています。しかし,この理論は電子の弱い相互作用を前提としていて、電子移動を引き起こす相互作用が強い場合には、成り立たなくなることが予想されます。実際,溶媒中の電子自身のエネルギーが高ければ高いほど,移動速度が最短の時の自由エネルギー差は,電子が安定状態の時に比べて大きい値となっている事は講義で理解しました。この事から,電子移動を引き起こす相互作用が強い場合,マーカス理論の予想を遥かに上回る速度で電子移動がおこる可能性があると思います。この予想が仮に正しい場合,光合成を模倣した人工光合成システムの構築における,電化分離後の吸収された光エネルギーのより効率よい化学エネルギーへの変換が可能になるのではないでしょうか?人口光合成システムは現在,電荷分離の後,逆方向の電子移動が起こり,吸収された光のエネルギーは熱になって逃げてしまうという障害があります。もちろんこれ以外にもいくつかの問題点がありますが,この障害が解決すれば人工光合成システムや電子移動を利用した分子素子の実現に近づくと思います。

A:「この事から,電子移動を引き起こす相互作用が強い場合」以下の部分がよくわかりませんでした。溶媒との相互作用が電子伝達において重要な役割を果たしているのは確かですが、ここで述べられている「相互作用の大きさ」というのは、自由エネルギーの変化する大きさという意味なのかな?


Q:シトクロムb6/f複合体タンパクにおいて、β-カロテンやクロロフィルなどの色素が含まれているのかについて考察する。光合成によって発生した電子はフェレドキシンまで運び還元剤などに利用される。しかし、シトクロムb6/f複合体タンパクでは、光化学反応は起こっていない。つまり、ここでのシトクロムb6/f複合体タンパクはエネルギーの授受に関する働きを担っているわけではないということが分かる。それなのにシトクロムb6/f複合体タンパクには色素が含まれている。これはどういうことか。おそらく、安定して電子を運ぶために使われているのではないかと推測される。これはシトクロムb6/f複合体タンパクが光化学反応を起こす光化学反応1、2の間に位置していることからそのように考えられる。あと、シトクロムb6/f複合体タンパクにはヘムが存在しているが、それだけでは酸化還元反応に対応しきれないからβ-カロテンやクロロフィルの色素に補助的な反応を担わせているのではないかと思われる。しかし、このように考えると色素が光化学反応をしないで酸化還元反応に関与するということになる。構造的にそうなるのか、その色素の配置によってそうなるのかは分からない。それでもやはり、安定した電子の運搬に一役買っているのだろうということは推測される。

A:「色素が光化学反応をしないで酸化還元反応に関与する」というのは、例えば光化学系2の電子受容体であるフェオフィチンがそうですね。電子を直接受け取るので、「光化学反応をしない」という言い方が適切かどうかはわかりませんが、少なくともフェオフィチンが吸収した光が反応に使われるわけではありません。なので、そのこと自体は、十分ありうることだと思います。


Q:今回の植物生理学の講義の中で、私は酸素発生の量子収率のグラフがなぜこのような動きをするのかに興味をもちました。波長480nm前後(可視光の緑の辺り)で収率が落ちるのは、その付近の光を葉緑体がほとんど反射させてしまうためであると考えられますが、なぜ波長680nm前後で収率は急激に低下してしまうので しょうか。ここで私はそれぞれの波長の持つエネルギーについて考えてみました。それぞれの波長の持つエネルギーは波長が長くなればなるほど小さく、短くなればなるほど大きくなります。また量子収率のグラフに注目してみると、波長580~680nmにかけて、グラフが波長に関わらず、ほぼ水平となっていることが分かります。これらのことから、植物が利用するエネルギーにはある一定の値があり、それ以下のエネルギーしか持たない光は吸収せず、それ以上のエネルギーはその一定値以上の分は利用していないのではないかと考えました。そこで、グラフの動きから、植物が利用するエネルギーの最低値を計算してみました。光が持つエネルギーE(eV)は 、
E = 1240 / 波長      …(1)  
で計算でき(*1)、また680~720nmにおけるほぼ直線的なグラフの傾きから、収率が0となるのは約718nmと予想できるので、(1)式より光が持つエネルギーが1.73eVを下回った場合、植物はそのエネルギーを吸収しないのではないかと考えられます。また太陽光は300nmよりも短い波長の光をほとんど含まず、また紫外及び紫外よりの光は可視光付近の光よりも量が少ないという事実から、(*1)このグラフの、持っているエネルギーの大きさが大きいにも関わらず400~480nmにかけての収率が580~680nmにかけてのそれよりも悪いのは、その波長の光の量の大小によるもので あると考えられます。これらのことより、エネルギーの総合量(その波長のもつエネルギーに、光子の数をかけたもの)が波長718nmのものを下回った場合、収率は0になると考えられるため、このグラフは300~480nmにかけて山なりのグラフを描き、300nmに到達するより前に収率は0になると予想されます。(本当は太陽光における光子の数を調べてそ の地点を算出してみたかったのですが、見つかりませんでした。不完全なレポートですみません…)
参考文献:(*1) 太陽エネルギーの利用とその限界http://www.d7.dion.ne.jp/~shinri/solar_energy.html

A:いろいろ考察されていて面白いのですが、誤解があるようなので・・・。量子収率というのは、吸収した光子の数あたりの何回反応が起きるか、という数です。これに対して、作用スペクトルというのは、あてた光あたりにどれだけ反応が起きるかをスペクトルにしたものです。この違いはわかりますか?つまり、吸収が少なかったら、それだけでその部分の作用スペクトルは低下することになりますが、量子収率のスペクトルの場合は、吸収が少なくても量子収率が低いとは限りません。逆に量子収率が低いことは、むしろたくさん光を吸収する物質があって、その割には反応が起きない、ということを意味するわけです。


Q:私は、今回の講義で、光合成電子伝達物質に関して、光化学系1、光化学系2、シトクロム/複合体が巨大なタンパク質に囲まれていることに疑問を抱きました。私は、これら3つの物質は、タンパク質を取り除いた色素部分と反応中心の電子伝達部分だけで構成されている方が、効率よく電子伝達ができるのではないかと考えました。それは、タンパク質分子があることで電子の流れとプロトンの輸送に弊害的に影響を与えるのではないかと思ったからです。ここで、逆にタンパク質と結合して複合体を形成することの有意性を考えてみました。まずこれら3つの複合体は、チラコイド膜に貫通しているのだが、このチラコイド膜に存在できるためには、複合体はタンパク質と結合していなくてはいけないのかもしれないと考えました。チラコイド膜は糖脂質を主成分として構成され、フォスファチジルグリセロールというリン脂質も存在する。クロロフィルは親水性の部分 と疎水性の部分をもつが親水性部分の占める割合が大きいので、タンパク質に結合することで安定して脂質の多いチラコイド膜に存在するのかもしれないと思いました。またタンパク質の必要性として、b/f複合体において、コンフォメーション変化によって電子の輸送を行っていることから、タンパク質の立体構造が適用されていることがわかりました。以上、光合成電子伝達物質がタンパク質と結合している利点は、チラコイド膜に安定して存在するため、またタンパク質の立体構造変化を用いてQサイクルをつくりだすためであると考えました。

A:タンパク質の必要性という基本的な部分をきちんと考えていて面白いと思います。ここに書かれていること以外に、一番大きい要因は、必要な成分を一定の位置に配置する、という点が大きいのではないでしょうか。脂質二重層部分はある程度の流動性がありますから、タンパク質がないと一定の相対的な位置に固定することは難しいと思います。