植物生理学 第4回講義

光合成色素と光の吸収

第4回は、光合成の反応の出発点となる光合成色素による光の吸収について紹介しました。今回の講義に寄せられた意見の中からいくつかを選び、必要に応じてそれに対するコメントを以下に示します。


Q:植物の葉の色が緑に見えるのは葉が緑色の補色となるような青や赤寄りの波長を吸収して緑の波長が反射されているからであり、葉で光を吸収しているものはさまざまな種類のクロロフィルなどであった。そしてそれらのクロロフィルは光のエネルギーを得るために反応中心を中心に置いた環状のアンテナという立体構造をとっていた。そしてなぜこのような環状構造になるのかを考えてみた。まず光を集める効率について考えてみた。しかし一本の紐を環状につないでも、四角につないでも紐の表面積は変わらないように、クロロフィルがどんな形になろうとも構成分子の数が同じならば光を受け止める部分の面積は変わらない。次に考えられるのは反応中心へのエネルギーの伝達のしやすさについて考えた。この点から考えると、環状なら反応中心までの距離がどこも同じであり、エネルギーの偏りも少ないと考えられ構造的にも安定するのではないかと考えた。しかし、四角の場合は反応中心への距離にむらがあり、中心へのエネルギーの伝達効率が悪く、エネルギーの偏りも生じやすく構造的にも不安定なのではないかと考えた。この点からクロロフィルは環状構造をとるのではないかと思った。

A:面白い目の付け所です。ただ、クロロフィルの中心にあるのは、マグネシウムという中心金属ですが、これと、光合成の反応中心というのは別物です。反応中心については、次回の講義で取り扱いますが、特別な状態のクロロフィルであるので、いわば、クロロフィル全体が反応中心であることになります。


Q:今回の講義では「葉の構造」について興味を持ちました。葉には細胞が密集している柵状組織と細胞が密集していない海綿状組織がある。そのほかにも葉には気孔があり、光合成や呼吸などによる外部と内部の気体の交換をする役割をもつ。webによると「通常は気孔は裏に多く存在する」と書かれていたことに興味を持ったのでこのことについてまとめてみる。どうして表には気孔が少ないかを考えてみる。まず表に気孔があると、雨による水滴で気孔がふさがれてしまうことが考えられる。なぜなら柵状組織は細胞が密集している構造をとっていることから、表皮細胞と柵状組織の間に水が溜まり気孔がふさがれると考えられる。このことから気孔がふさがれてしまうと気体の交換の能率が悪くなるので非常に不都合になってしまうと思われる。また、柵状組織の細胞と細胞の間は密になっているが、僅かであるが隙間はあると考えられるため、表の気孔から入った水滴が柵状組織の細胞間を通り海綿状組織に溜まる。そして屈折率が変化して葉の表と裏の違いがなくなってしまう。これを防ぐためにもこのような構造になっていると考えられる。

A:気孔については「植物と水」の講義の回で詳しく説明します。「雨の影響を避けるために」ということも十分考えられると思いますが、一方で、講義の中で紹介した柵状組織のきちんとした整列構造を乱さないため、という考え方もできるかも知れません。


Q:今回の講義で、紅葉の赤い葉はアントシアンという物質の影響であるという説明があった。しかし、葉は紅葉をする前は、クロロフィル由来の緑色をしているものである。では、紅葉し始めてから落葉までにアントシアンとクロロフィルはどのような関係となっているのだろうか。葉が木についているということは、その葉が仕事をしているということであり、その葉はまだ光合成をする能力を保持しているのだと考えられる。仕事をしないものをつけているのは木にとってマイナスであるだろう。つまり、たとえ紅葉した赤い葉であってもまだ、クロロフィルは存在し働いているのではないだろうか。クロロフィルの量が少なくなっているために緑の色が弱くなり、赤い色が主となっているのだと思われる。紅葉が進むにつれ、だんだんとクロロフィルの量が減っていき、反対にアントシアンの量は増えていく。そして、ついにクロロフィルがなくなり、光合成をする能力がなくなって自分で栄養を作れなくなったときに、葉は木から外れて落ちていくのではないだろうか。

A:実際の紅葉の状態については、このサイトの中の「赤い葉っぱの光合成」で詳しく解説されています。


Q:生葉と抽出液の吸収率の比較の図において、500~600nmの波長では抽出液の方が生葉よりも吸収率が低い。これにより葉の構造が光の吸収を助けていることが分かる。しかし、400~500nmと650nm付近の波長の光では、少しではあるが、抽出液の方が生葉よりも光の吸収率が高くなっている。葉の構造によって吸収力は促進されるはずであるのに、なぜだろうか。このことについて考えてみた。このようになる原因として、クロロフィルの拡散の度合いが挙げられると思う。クロロフィルは青色と赤色の光はよく吸収する。また、生葉ではクロロフィルは柵状組織や海綿状組織などの決まった場所に集中して存在するが、抽出液ではクロロフィルは拡散している。集中しているものより拡散しているものの方が、クロロフィルがより光に当たりやすくなり、青色と赤色の光の場合は、抽出液の方が生葉より良く吸収すると考えられる。よって、生葉より抽出液の方が400~500nmと650nm付近の波長の光をより吸収するのだと思う。

A:すばらしい!このような、実験結果の細かい差異に気づくかどうかが、研究者としての資質としては非常に重要です。色素が決まった場所に集中して存在することにより吸収が減少するという現象は「篩(ふるい)効果」として知られています。


Q:今回の講義では光合成色素と光の吸収について詳しく学びました。その中で最も印象に残っているのが葉の構造と緑色に見える関係です。葉の構造は表が柵状組織で裏が海綿状組織になっており、細長い細胞が密に詰まっている柵状組織では中へ中へと光が導かれるため緑が濃いのに対し、不規則で大きい細胞がまばらに並んで細胞間に隙間が多い海綿状組織では光が反射してあちこちに行くため緑がうすく見える、という説明にとても納得できました。また、葉が緑色なのは光合成色素のクロロフィルが緑色の波長をあまり吸収しないためであるということもわかりました。このことから、なぜ古くなった葉は白っぽくなるのかを考察します。まず一つ目に葉緑体自体が少なくなってクロロフィルが吸収する光量が減ってしまうことがあげられると思います。二つ目は柵状組織の細胞が古くなると数が減少していき海綿状組織のようになってしまう、と考えました。理由はこれにより葉の両面が海綿状組織のようにまだらに細胞が並んだ状態となり、すぐに反射されてしまうことによりクロロフィルに吸収される光量が格段に減ってしまい緑色がうすくなっていくのではないか、と思ったからです。

A:面白い目の付け所ですが、あと一歩ですね。2つの予想を考えたところで止まらずに、さらに考察できるといいですね。メカニズムとしては、どちらの予想でも緑色が薄くなることを説明できます。それでは、「なぜ」、つまり、そもそも葉が古くなると何のために緑を薄くしなければならないのか、という疑問に対して答えようと思った時には、2つの予想のどちらかがよりもっともらしい、ということになれば、予想を1つに絞ることができます。そうすれば、完璧なレポートです。


Q:今回はクロロフィルがテーマでありましたが、個人的に関心があったのは光の波長の話でした。紫色の光は短波で赤色の光は長波だということはすでに知っていました。しかし赤外線がどうして暖かく感じられるのかについては今回の講義を聞いて理由を初めて知りました。水分子の吸収波長が赤外線の波長のところにあるかららしいです。吸収されるから光のもつエネルギーが熱エネルギーに変換されます。もっと高いエネルギーをもつ赤色光や青色光が暖かく感じられないのは水分子の吸収波長と離れているかららしいです。ここで疑問に思ったことは、なぜこたつの中は赤色なのでしょうか?赤外線は目に見えないのではないのでしょうか?

A:これだけだと、ただの疑問で、レポートではありませんね。疑問を出発点に、調べて考察することにより始めてレポートになります。さて、疑問に対する答えですが・・・。一般に、あるものに違う名前を付けると、それだけで何となく完全に別ものという印象を与えるものです。しかし、実際には、多くのものは連続的に変化していて、明確な区切りがないものです。光もそうで、赤い光の次に、突然見えない赤外線が来るわけではありません。波長を長くして行くに連れて、赤い光がだんだん見えなくなっていくわけです。これは、光を出す装置でも同じです。レーザーなどは別ですが、一般的なランプでは、ある波長の光だけを純粋に放射しているわけではありません。つまり、赤外線を放射するといっても、赤外線を中心に放射しているということであって、その近くの波長の光は全く放射しない、というランプを作ることは至難の業です。この2つの要因が共に働いて、こたつの中は赤いのです。


Q:光エネルギー吸収を行っているアンテナの構造について考える。アンテナには shallow trap と deep trap と二種類存在するが、両者共に同じ色素を持つ層を形成していて、前者は広がった構造が一層だけで、後者は色素の違う層が重なっている構造をしている。両者に共通しているのは、同一層には自由にエネルギーを行き来させることができる点であるが、なぜこのような構造をとっているのかについて考察する。同一層内で自由にエネルギーを行き来させることは非効率的であるように思われる。同一層内でエネルギーを行き来させれば、どこかで必ずエネルギーの放出が起こり、獲得したエネルギーの一部を損出することに繋がる。そこまでして、同一層内にエネルギーを行き来させるということは何らかの機能があると考えられる。おそらく反応中心にエネルギーを送るだけでなく、その周りの色素にエネルギーをある程度与える、もしくは貯蔵させることで光の吸収やエネルギーの運搬に影響を与えているのではないかと推測される。ただ、納得いかないのがクロロフィルの構造において、なぜ反応中心の周りには空間があるのか。そこに色素を置いてもっと光の吸収量を上げればいいのではないかと思う。エネルギーを反応中心に送る際に何もない空間を通過するほうが効率がいいのだろうか。それに立体構造的に光を吸収するには適してない気がする。空間=光を吸収しない場所ではないのか。密になっているほうが光の吸収量が上がるという考え方が間違っているのでしょうか。

A:後半の質問には、僕も明確な回答を持ち合わせていません。ただ、現実問題として、クロロフィルが1個の光子を吸収した時に、結果として反応中心で反応が開始する確率を測定すると、ほぼ1になります。つまり、効率はほぼ100%ということです。そこから判断する限りにおいては、反応中心と外側のアンテナの間にある程度の空間があっても、全く問題なくエネルギーは届くことになりますし、前半のアンテナ間のエネルギー移動にしても、エネルギーの無駄にはつながっていないことになります。一般に、可逆的な反応はエネルギーの損失を招かない(というかエネルギーの損失を招かない反応は可逆的である)ので、同じエネルギー準位の間のエネルギー移動では、損失がほとんどない、という側面もあります。


Q:今回の講義より、植物の葉の緑は太陽光の緑以外の色を吸収するためその色を呈するとことを学びました。このことから、ポインセチアの赤い葉(苞)について考察してみたいと思います。まず赤い色であることからアントシアンが含まれていると考えられますが光合成をしているかどうかは定かではありません。次に、ポインセチアは短日条件におかないと苞ができず、苞は花芽の形成と時期がかぶることから両者には関わりがあると考えられます。また、花自体が地味であるのに対し、苞が目立つことから受粉効率を上げることに役立っていると思われます。前者について、これを確かめるにはポインセチアの緑の葉を全て取り去って短日条件下で育ててみて、赤い葉だけでも木が育てば赤い葉が光合成をしていることがわかると思います。もし、育たなかった場合、赤い葉は光合成の無関係であることがわかり、その役割は主に後者にあると考えられます。後者より、赤い葉にはフロリゲン(花成ホルモン)の分泌が行われているのではないでしょうか。ですが、ポインセチアには赤と緑以外に白と緑の組み合わせも存在するため、フロリゲンと赤い色については関係がないと考えられます。なぜ赤い色になったのかまでは考えつきませんが、アントシアンという色素の中でも鮮赤を示すものがより効率よく子孫を残すことができたためではないでしょうか。

A:きちんと考察をしていますし、実験系も考えていますので、レポートとしては合格でしょう。あと、このような場合に重要なのは、見た目の色ではなく、どのような色素が含まれているのか、という点です。赤い葉に赤い色素が含まれているだろう(アントシアンだろう)、というのは、まあ、良いと思いますが、赤い葉に緑色の色素が含まれているかどうか、というのは、「赤い」といった漠然とした言葉を使っている限りにおいてはわかりません。クロロフィルを葉から抽出するという実験は高校でもやる簡単な実験なので、そのあたりも取り入れるとよいかと思います。


Q:私は今回の講義中、「光」とは何なのかが、よくわからず考えさせられた。講義後、先生に、そもそも「光を吸収する」とはどのようなことなのかを質問して自分なりに解釈してみた。光とは、光子であり、例えば皮膚に紫外線が吸収される例を考えてみると、紫外線の光子は、皮膚の中に、光子自身が持っていたエネルギーを与えて消滅する。そのエネルギーは、皮膚を構成するタンパク質、またタンパク質を構成するDNAに与えられ、局所的にチミンダイマーを作り出しDNAの損傷を招く。このように光子が自身の持っているエネルギーを自分以外の物質に与えて、光子自身は消滅する一連のエネルギーの授受を「光の吸収」というのだろうと考えた。そして先生は、光子ができる時もあると言った。それについても自分なりに考えてみた。光がある物質を突き抜けたと表現する際、まず光子はその物質にエネルギーを与えて消滅し、エネルギーを受け取った物質は、必要な分のエネルギーを使うが、余りのエネルギーが生じてしまう。余りのエネルギーは光子となる。(光子が生まれる。)またはエネルギーを受け取った物質が、その受け取ったエネルギーをすべて消費して新たにエネルギーを作り出し、新生エネルギーが光子となる。自分の中で、光の吸収や光子の新生について、考えてみたのだが、奇麗な理解には至りませんでした。そして、光について考えていて、エネルギーとはなんなのかを疑問に思い始めました。私は、生物を学んでいて、ATPやGTP=エネルギーというイメージがあるので、エネルギーは分子(または原子)であると考えています。さらに今回、エネルギー=光(光子)=分子(原子)という考えに結びつきました。このように疑問に感じた部分から根本的に追究して自分なりに考えてみると、全てのことが原子から始まった結果なのだなと思いました。よって、現時点では、光(光子)は原子ではないかという考えにたどり着きました。

A:植物生理学の講義の中では、なかなか「光子とは何か」という疑問までは解説し切れませんが、参考書を挙げておくことにします。古いところでは、ドゥ・ブロイの「物質と光」(岩波文庫)が有名です。絶版ですが、Amazon等で買えるでしょう。文庫としては厚みもあるし、ちょっと取っつきにくいかも知れませんが、わかりやすく解説されていると思います。もう少し取っつきやすいのが、 ファインマンの「光と物質の不思議な理論 私の量子電磁力学」(岩波現代文庫)で、光と電子(物質)の相互作用が、平易な言葉で解説されています。


Q:今回の植物生理学の講義をきいて、私はMalacosteus nigerはどのようにして赤外線を感知しているかに興味を持ちました。講義プリントより、深海では青~緑色の光しか届かず、それゆえにほとんどの深海魚はその辺りの光しか感知できないように進化してきたようです。(*1)Malacosteus nigerも同様の進化をとげてきたと考えられるのに、どうして赤い光よりも波長が長い赤外線をとらえることができるのでしょうか。ここで私は、Malacosteus nigerが持っているクロロフィルは、体のどこに存在し、またどのような働きをしているのかを調べてみました。Malacosteus nigerはバクテリオクロロフィルを目に持ち、赤い光を青緑の光に変換する働きをしているそうです。(*1)このことから、Malacosteus nigerは目に存在するクロロフィルの働きにより、そのままでは感知できない赤外線の光を自分が感知できる青緑の光に変換することができるため、赤外線を感知できるのだと考えられます。ではクロロフィルはどのようにして赤外線を青緑の光に変換しているのでしょうか。ここで私は、ヘムとクロロフィルの構造が非常によく似ていることに注目しました。この2つのフレームの構造はほぼ同じで、中心の金属イオンが鉄イオンかマグネシウムイオンかという差程度で、それでいて色素は緑と赤という差があります。また、Malacosteus nigerの持つクロロフィルは中心金属イオンが無く、金属イオンが入り込み、構造変化が起こりやすいと考えられます。以上より、赤外線を感知できるクロロフィルが赤外線を受けると、中心に鉄イオンが入り込み構造変化を起こし、ヘムのような働きをするようになるのならば、赤外線を青緑の光に変換できるのではないかと考えました。これが正しいかどうかを調べる方法として、まずはMalacosteus nigerが鉄イオンを持っているかどうかを調べます。持っているのならば、Malacosteus nigerのクロロフィルに鉄イオンが入るか、また入るならば色が青~緑色になるかどうかを調べれば良いと思われます。
参考文献:(*1)BBC - Science & Nature ? Sea Life www.bbc.co.uk/nature/blueplanet/factfiles/fish/malacosteus_bg.shtml

A:面白いですね。講義でも話しましたが、赤い光は青い光に比べて光子1つあたりのエネルギーは小さくなします。ですから、青い光を赤い光に変換するのはやろうと思えばできるのですが、その逆は案外大変です。僕も、ちらっと調べてみましたが、実際のメカニズムはまだわかっていないのかも知れません。


Q:今回の授業で私が興味をもったのは,光の波長による光合成効率の違いについてである。もしも単色(単波長)の光のみを植物に当てたら,光合成の効率はどうなるのだろうか。一般的な高等植物なら,クロロフィルaが吸収する青色や赤色の波長で光合成効率が最もよくなり,緑色の光では最も悪くなるだろう。しかし,青色のみ(もしくは赤色のみ)の光と,全波長を含む太陽光では,どちらの方が光合成の効率はよいのだろうか。実際に調べてみると,植物工場などでは,赤や青のLEDを当てて生育効率をよくしているらしい。したがって,太陽光よりも,その植物のもつクロロフィルが吸収する光だけを当てた方が,光合成効率はよいと思われる。また,このことから,自然界の植物は連続スペクトルをもつ太陽光を用いるので,すべての波長の光を効率よく利用するために,複数の光合成色素を併せ持っているのだと考えられる。

A:光の波長と光合成の効率の話は、ちょうど次回の講義で行なう予定にしています。