植物生理学 第6回講義

炭酸固定と光合成の産物

今回は、植物が二酸化炭素を固定する仕組みと、固定した光合成産物を転流する仕組みを主に紹介しました。今回の講義に寄せられた意見の中からいくつかを選び、必要に応じてそれに対するコメントを以下に示します。


Q:なぜ炭酸固定の方法や行われる場所などが異なっているのかを考えてみました。C4はトウモロコシ、サトウキビ、ソルガムなど熱帯地方の植物CAMはサボテン、トウダイグサなど乾燥地帯の植物であるということをふまえるとそれぞれ生きている環境に合わせて効率よく光合成できるように進化してきたのかと思われます。CAM型光合成を行う植物は日中に二酸化炭素の取り込みを行わないことにより、1日当たりの光合成速度が大きく制約され、成長も遅くなりますが、CAMの場合は乾燥地方の植物ですから日中に気孔を開くとそこから水分が逃げてしまうためこのような方法になってのでしょう。
 一方C4が生きる環境は普通のC3の生きる環境とCAMのような過酷な環境の中間的な熱帯地域です。C4型光合成がCO2の濃縮、還元を葉肉細胞と維管束鞘細胞と場所を分けて行って、また通常のC3型光合成を行う植物と比べて1日当たりの光合成速度が速く、成長度合いも大きのは、つまりC4はC3とCAMの中間的な能力をそなえているといることです。CO2の濃縮にはより多くのエネルギーが必要ですが、それも熱帯の強い日差しを考えれば納得できるなと思いました。やはり自然の中で生きる植物や動物のメカニズムは納得のいく効率のよい構造でできているのだなと思いました。そして今後の様々な技術にこれら(光合成に限らず)自然から生まれた効率性を生かしていくべきと思いました。

A:C3植物とC4植物がどのような時に有利で、どのような時に不利になるかについては、次回の講義で触れる予定ですが、先取りされてしまいましたね・・・。


Q:自分はシンク・リミットについて興味を持ちました。現在大きな環境問題の一つとして地球の温暖化があり、その要因には二酸化炭素濃度の増大が関係してると言われています。講義中では、二酸化炭素濃度が増大すると、それに伴って糖の合成が促進され糖の濃度が増加する。これによって浸透圧が変わると水が細胞内に貯まり細胞が破裂する危険性があるため、光合成関連遺伝子の発現を抑制することによって糖の濃度の過剰な増加を防ぐと言われてました。 ここで興味深かったのが、糖の許容量の問題を除けば二酸化炭素の濃度がいくら増えたとしても植物の生育には問題がなく光合成が活発になるということです。では、糖の許容量の問題はどうすればいいか?
1、糖の許容量を増やす(肥大化)
2、生育時の糖の消費量を増やす
3、糖の生産量を減らす
の、3点によって許容量の問題は解決でき、また、生産時の二酸化炭素消費量を増やすという計4点の要素を遺伝子組み替えなどで作れば、許容量の問題を解決し、かつ二酸化炭素の増加を食い止める植物が作れると思います。しかし、これだけでは地球の役にたっても人の役にたちません。第一には人が有効活用するためであるのでこれらの要素は副産物としてあればよいと自分は考えました。

A:このうち、2と3は、植物にとっては何の利益にもならないだけでなく、損になりますよね。無駄に糖が消費されたり、糖が生産できなかったりする植物は、地球の役に立っても、他の植物との競争に負けてすぐに絶滅するでしょう。人の役に立つことも重要ですけれども、まずは、その植物にとって役立たないことには、結局何も生み出さないことになってしまいます。


Q:炭素の同位体比で縄文人の食生活がわかるというのはとても面白かった。マンモスなどのように本体が残っている古生物であれば、これの応用と生息地域から大体の食生活が把握できるのだろう。化石しか残っていない古生物についてはどう調べるのか判らないが、しかし古生物の生態を調べる方法の一つを理解できた気がする。マンモスの復元計画なんてものも出現している昨今、古生物の推定される食生活からそういった復元計画に提供できる情報があるかもしれない。
 C4植物はC3よりも効率がよいという話だった。どうやらC4植物が出現したのは白亜紀頃であったらしい。白亜紀と言えば二酸化炭素濃度が現在より遥かに高かった頃で、どうしてそんな時代に出現したのかも不思議に思う。著しく増加したのは二酸化炭素濃度の減少した700万年前頃からのようだが、その頃に新しく登場したならともかく、出現当時は二酸化炭素を効率よく固定するシステムなんてものは不要だったように思う。

A:地球の二酸化炭素濃度の変化とルビスコの関係についても、次回の講義で触れる予定です。


Q:炭酸固定を伴う代謝系の一つであるカルビン−ベンソン回路において、講義「カルビン回路の光制御」のスライドから、この経路では多糖つまりデンプンに変換される系と、再び炭素固定反応に使われる系が存在することがわかる。ここで、このカルビン−ベンソン回路の反応に必要とされる二酸化炭素の量が増えた場合について考えました。しかし、講義でも言っていたように、シンクの大きい植物を除いたほとんどの植物には「シンク・リミット」と言うものがあり、二酸化炭素の量が増えても、糖の濃度が上がりデンプンの生産性は上がらないらしい。よって、二酸化炭素の量が増えても、カルビン−ベンソン回路における、デンプンに変換される系の反応は変化が起こらないと考えられる。つまり、増えた分の二酸化炭素は再び炭素固定反応に使われることになる。そう考えると、カルビン−ベンソン回路は二酸化炭素が増えた分、ぐるぐる回って、無駄にATPやNADPHを消費するだけではないかと思いました。そこでこの場合、再び炭素固定反応に使われる系で、他にも何かの機能があるのではないかと考えました。

A:光合成産物が過剰な条件で、光合成が抑えられる一つのメカニズムは、光合成関連の遺伝子発現が抑えられることによるものです。そのようなメカニズムがあれば、カルビンベンソン回路の反応に関わる酵素群の量も減らすことができますよね。そうすれば、そもそも炭酸固定反応自体が抑えられることになりますから、「無駄にぐるぐる回る」ことはしないですむことになります。


Q:今回の講義にあった、光呼吸の意義として光阻害の回避をしているという説に私は賛成です。ルビスコは現在の環境よりも光合成を行い始めた時代の環境に合わせた酵素だったのではないかと考えています。そこで、光合成が炭素固定による光合成が始まった時代の環境で、ルビスコを用いると有利な点を考察したいと思います。
 先カンブリア時代のシアノバクテリアによるO2を発生する光合成が始まった30億年前ごろの環境を考える。まず、この時代はオゾン層が存在せず、太陽からの直射光が今より強く、光阻害が起こり易かった可能性を考える。しかし、調べてみたところ、先カンブリア時代の太陽は今の70%ほどの光度しかなかったようだ。しかも、オゾン層は紫外線を主に吸収し、他の波長はそれほど吸収していない為、先カンブリア時代と現代では光の強さに大差はないと推察される。よって、光阻害が起こりやすいという可能性は低い。そもそも光阻害は、CO2量に比べて光エネルギーが少ないときの起こる現象なので、CO2量が過剰であった先カンブリア時代では起こりえないことであった。次に大気中のCO2量を考える。この時代のCO2量は現代より格段に多かったため、競合によるルビスコO2触媒は起こらない。また、生物は水中に生息しており、O2を用いることはできないはずである。このことから、先カンブリア時代はルビスコのO2触媒能がほぼ働かない環境であったといえる。しかし、これは光合成にルビスコを用いている理由にはならない。結論として、ルビスコが太古の環境において有利な点を見つけることはできなかった。
 そこで、他の可能性を考える。私が思うに、太古の時代ではルビスコを用いても何も問題がなかったがCO2濃度が下がってきた段階で、ルビスコがO2触媒を有するという問題が生じたのではないだろうか。そして後から光呼吸という炭素固定阻害を防ぐ経路を構築したのではないだろうか。すなわち、太古の光合成生物は光呼吸の経路を持っていなかったことが推測される。もしくは私の最初の考えとは逆の可能性もあげられる。それは、大気の二酸化炭素濃度が下がってきたことによって光阻害が起こる可能性が生じたため、まず光阻害を回避する経路として光呼吸が生じたという考え方である。そして、現在の大気中の二酸化炭素濃度は植物にとって最適な二酸化炭素濃度より格段に低いことを補うために、更にPEPによる二酸化炭素濃縮機構が生まれたと推察される。

A:大気中の二酸化炭素の変化を考えに入れたとしても、ルビスコの回転速度が他の一般的な酵素に比べて低い、という事実は残ります。また、光阻害との関係においても、ルビスコの酵素としての回転速度は、高いにこしたことはないですよね。やはり何か、タンパク質としての限界のようなものがあったのではないでしょうか。


Q:放射性同位体で経路を知ることについて考えてみた。この手法は放射性同位体を取り込ませ、その位置を追うことで流れを特定している。今回の講義にも出て来たカルビンベンソン回路もそれを利用して突き止められた。しかし物質の流れの中に放射性同位体を入れたら、常にその流れの動向が分かるのだろうか。私は可能なんじゃないのか、と思う。放射性同位体は単体で入っていくわけではない。何かの分子に結合することで侵入を果たしている。単体で入ったのならば、非自己として免疫細胞によって殺されるはず。また、細胞の中に入っても、分子として振る舞うので細胞も抗原だと認識できない。つまり放射性同位体の邪魔を出来る機構は無い。そんな理由から、何にも邪魔されることのない放射性同位体はどんな経路でも確認できると考えます。

A:同位体というのは放射性があるなしにかかわらず、化学的な性質は相互にほとんど区別できないのです。生物学的な酵素反応においては、若干の選択性があることは講義の中で紹介しましたが、それ以外は、別に「分子に結合」しなくても、ある元素の同位体は、同位体の関係にある元素と化学的に見分けはつかないのです。別に、元素に何か別の物質が目印につくわけではありませんので。


Q:今回の講義で興味を持ったのは、シンクとソースについてです。中でも師管の流れが方向性が一定ではないということは衝撃でした。このことに注目してシンクとソースをはっきりと分離した場合を考えてみると、それぞれに対応する管が必要となり、植物の幹や葉などが厚くなる。その為、植物体の維持に今まで以上のエネルギーが必要となり光合成をしても吐き出される二酸化炭素の量が増えてしまい、結局は二酸化炭素の総量だけがふえると考えられるため。シンクとソースを一つの管で行うのは。エネルギー的な観点からみても合理的だと考えられる。

A:確かに、ヒトの動脈と静脈の印象が強いと、場合によって流れる方向の違う管というのは、何となく不合理に思えるかも知れませんね。でも、人間の場合、成長しても胴と手足の関係は変わりませんが、植物の場合は、冷酷かつ優秀な社長に率いられた効率的な会社のようなもので、元は中心にあった部分でも、稼ぎが悪ければあっさり見捨てられます。そのようにして、部分部分の相対的な関係が常に変化しますから、流れも変わった方が合理的なのでしょう。


Q:今回の講義に、同位体比で縄文人の食生活がわかるというスライドがありました。このスライドの図について考察したいと思います。この図は縄文人のコラーゲンの同位体比を比較することによって、特定の地域に住む縄文人がどんなものを食べているか分かるというもので、それに関して講義では、向台(千葉・縄文後期)の人々の中に保地(長野・縄文後期)の人々に近いコラーゲンの同位体比をもつ人がいて、その理由は山のほうから嫁ぎに来た女性であると考えることができるという話がありました。私はこのことについて疑問を感じました。人の体内にあるコラーゲンの同位体比が、成長するにしたがって変化しないかと思ったからです。例えば若いうちに嫁いだ場合、亡くなったときのコラーゲンの同位体比は嫁いだ先のものになるのではないか、というものです。この考えによれば今回の人物が山の方からきた女性とはいえないと思いました。

A:実は、このデータだけで強いことが言えない、というのはその通りです。良いところに目をつけましたね。しかし、そのことを証明する手段はあります。例えば、骨と歯では代謝回転が異なりますから、どれだけの食生活を反映するか、という時間スケールも異なります。つまり、骨の同位体比と葉の同位体比を比べてもし、異なっていれば、途中で食生活が変化した、ということを証明することができるわけです。実際には、そのような実験はまだ行われていないようですが、どのような結果が出るか楽しみです。


Q:もし、C4植物でルビスコを使わないような植物を人工的に作ることが出来き、それを特定の閉鎖空間内で大量に育てることが出来たら、地球温暖化に効果があるのではないだろうか。もしそのような、大規模な植物が出来たら、その植物に二酸化炭素を送り続けることが出来る機械をつくり、植物と機械のハイブリットのようなものが出来たりしないだろうか。動物と機械のハイブリットはなかなか難しいと思うが、植物ならばそんなに難しくは無いはずである。完全に共生ではなく、たとえばパイプを植物内に取り込ませ、直接二酸化炭素を送り込むとかそんなレベルでいいとおもう。直接二酸化炭素を送り込んで吸収してくれるかわからないが、何割かでも吸収してくれて、光の明暗周期を人工的に管理すれば、自然界でやるそれよりも、効率が良い光合成の形があるように思う。

A:ぱっと考えると、なんとなく良いようですが、そのような時は一度止まって考えてみてください。なぜ、C4植物が効率がよいかというと、現在の大気の「薄い」二酸化炭素濃度でも、濃縮機構があるために高い光合成を実現できることによります。つまり、C4植物とは、「二酸化炭素を送り続ける」ことをしなくても十分光合成ができる植物のことなのです。というわけで、高い二酸化炭素の処理施設としてのC4植物というのは、あまりお勧めできません。


Q:C4植物はC3植物に比べて,Rubiscoによる光呼吸がない分,炭素固定を効率よく行う。炭素固定の点では,C3植物はC4植物に比べて劣っている。もしC4植物とC3植物が競争になればC3植物は駆逐されるはずだが,実際はC4植物の方がかなり少ない。C4植物が広がらない理由について考察した。C4植物は光合成をする細胞が少ないことが弱点になっていると考えた。C3植物はすべての葉肉細胞でカルビンベンソン回路が存在,機能しているが,C4植物は維管束鞘細胞しかカルビンベンソン回路は存在しない。数は葉肉細胞より維管束鞘細胞のほうが少ない。カルビンベンソン回路に炭素が効率よく供給される状態ならば,デンプンを合成できる細胞の数の差からC3植物が有利になると考えられる。そのような状態になるのはRubiscoの活性が上がるとき,すなわち,温度が高いときである。しかし,文献によると,C4植物は光呼吸がないため量子収率が変化しないが,C3植物は高温になると光呼吸が促進されエネルギーを消費するそうだ。(L.テイツ,E.ザイカー編”植物生理学第3版”,p186)細胞の数よりも光呼吸の効果のほうが大きいようだ。温度によってC3植物が有利になったり,C4植物が有利になったりするため,どちらか一方が駆逐されることにはなっていないようだ。

A:実は、僕自身、細胞の数の影響はないのだろうかと自問していました。実際にカルビン回路によって最終的に二酸化炭素を固定する細胞の数は、C4植物の方が少なくなる気がします。その差が何らかの形で反映されないのか、と考えてみたのですが、あまりぴったりとした結論を得ることができませんでした。


Q:ルビスコは糖化合物に二酸化炭素を結合する能力を持つ一方で酸素結合能も併せ持つというが、ルビスコから酸素結合能を除去出来れば、植物の酸素発生と澱粉合成(以下生産性)を促進し、環境と食糧に望ましい植物を生み出せるのではないだろうか。こう考えたのは糖化合物への酸素の結合は二酸化炭素の結合を阻害することに加え、植物の生産性を抑制するからである。 ここで私は枯草菌に存在するというルビスコ様蛋白質RLPとルビスコ各々の遺伝子と蛋白質の構造と機能をより詳細に分析し、遺伝子組み替えによって生産性の高い新しい植物を生みだすことを発想した。そこでRLPについてより詳しく調べてみた。
 奈良先端科学技術大学院大学の横田明穂教授の報告によると枯草菌のゲノムDNAはすでに解読されていたらしい。枯草菌の多くの遺伝子は機能が関連する遺伝子同士が1セット、すなわちオペロンになってゲノム上に存在するために、機能未知の遺伝子の機能を探るには最適な細菌だという。RLPと同一オペロンに存在する未知遺伝子や、このオペロンの近傍のオペロン内の未知遺伝子から、大腸菌を使って蛋白質に変換し、これらの機能や構造が一つずつ決められていった。
 授業で扱った硫黄代謝機能とRLPとルビスコの置換実験についてより詳しい情報が得られた。触媒部位アミノ酸の一致性だけでなくそのアミノ酸は構造上でもまったく同じ場所である上半分に存在していた。このことからルビスコとRLPの機能の類似性がますます予想される。さらにRLPはメチオニン再生経路でルビスコが二酸化炭素を固定するのに利用している糖化合物と化学構造がよく似た化合物のエノラーゼ反応を触媒しており、さらにこのエノラーゼ反応の様式はルビスコが炭酸ガスを結合するために使う糖化合物を予め二酸化炭素受容形に構造変化させるエノラーゼ反応に酷似しているという。
 これらのことから私の発想である、遺伝子組み替え新植物の開発はもう既に一歩手前まで来ているのではないかと思った。ルビスコとRLPは蛋白質の構造と機能が驚くほど似ている。あとはルビスコの酸素結合に関わる遺伝子、またはオペロン単位、構造と機能を、核磁気スペクトル解析や大腸菌を用いた遺伝子解析によって明らかにしていくことが課題ではないかと考えられる。

A:よく調べていますし、調べた結果をきちんと理解していることがうかがわれるレポートです。欲を言うと、最後の「発想」の部分がやや問題かと。ルビスコの場合、二酸化炭素との反応を触媒するのと全く同じ部位で酸素と反応するわけですから、そこを見分ける能力に関してRLPからの情報が利用できるかというと、なかなか難しと思います。それこそ、新たな「発想」が必要なように思います。