植物生理学 第6回講義

炭酸固定・光呼吸

第6回は、植物の二酸化炭素の固定様式について、カルビン回路、C4回路、CAMを含めて解説しました。また、光合成における一種の副作用とも考えられる光呼吸についても触れました。今回の講義に寄せられた意見の中からいくつかを選び、必要に応じてそれに対するコメントを以下に示します。


Q:今回の講義で興味深かったのは圧流説についてです。導管の流れは一定の方向なのに対して師管の流れが場合によって変わると言うのが面白いと思いました。光合成によって合成された糖、デンプンはソースからシンクへ移動し、デンプン等を必要とする組織があらわれた場合に師管液の流れが変わるのかと思いましたが、それなら水分を必要とする組織に対しても同じように導管の流れを変えて水分をその組織に供給すべきではないのかと思いました。たぶん光合成は日光があるときにしか出来ないのに対して水分はいつでも地面から吸い上げることが出来るので、流れを変えてまで供給する必要がないのだろう思いました。あと水はデンプンなどの栄養分と違い、そこまで貯蔵されないのも関係あるかと思いました。

A:確かに、もし水を貯蔵する器官を持つ植物がいたら、その器官とのやり取りでは流れが変わってもよさそうですね。広い世界には、そのような植物がいてもおかしくはない気がしますが、少なくとも僕には具体例が思いつきません。


Q:今回の講義で、光呼吸に興味を持ちました。なんのために行われているのか、生理的意義がよくわかっていないというところも面白いなと思いました。私は光呼吸の意義はやはり2‐ホスホグリコール酸をPGAに持っていくことだと思いました。オキシゲナーゼ反応により出来てしまった2‐ホスホグリコール酸をどうにか処理しないといけないと思ったからです。光呼吸は一個の炭素を無機物に換え、ATPを減らし、還元力を使ってしまうので損ばかりだ。というお話でしたが、2‐ホスホグリコール酸をそのままにしておくのと仕方なくでも光呼吸をするのでは、植物にとってどちらがましなのでしょうか。調べてみたところ、イネでは光合成による全炭酸固定量のおよそ3分の1が光呼吸で放出されて、光合成消費するエネルギーの25~30%に相当するエネルギーを光呼吸が消費しているそうです。これは大きな数字なので、ただ単にエネルギーを消費しているだけではとても植物にとって得だとは思えません。なのでこれらは光防御に一役買っているのは想像できます。しかし、高二酸化炭素条件でも正常に生育すること、 C4植物はほとんど光呼吸をしないことなどを考えると、光防御はあくまで補助的なもので、もったいないから利用しようというぐらいで、主な働きはやはり出来てしまった2‐ホスホグリコール酸をPGAに持っていくことだと思いました。

A:確かに、二酸化炭素になれば、もう一度、カルビンサイクルで固定することができますが、2-ホスホグリコール酸がたくさんあっても使い道がないかも知れませんね。そして、生き物というのは、単に一つの反応を一つの目的だけに使うのではなく、得になりそうなことならいろいろ使い回すことを常にしているようですから、メインの目的の他に、他の目的をいくつも持っていることもあるでしょう。


Q:今回の講義では、ルビスコについて興味を持ちました。まず、ルビスコが地球上で最も量の多い酵素だということに驚きました。最も量が多いくらいなんだからとても優れた性質を持っているんだろうと思っていたのに、効率が悪いと聞いてさらに驚きました。効率が悪いうえに、分子量544000もの巨大分子がどうして進化の過程における選択で消去されなかったのか不思議に思いました。効率の悪さをカバーできるような、生物にとって必要不可欠な働きをしているのだろうかと考えました。しかし、ルビスコの2種類の反応を見てみても、CO2がたくさんある状態では炭素固定の役目を果たしていますが、現在はCO2がO2よりも少ないので、O2存在下での反応が進むとなると、あまりその役目を果たしていないように思われます。それでも、保持され続けている「ルビスコ」。いったいどんな働きをしているのか気になりました。

A:もしかしたら誤解を招いたかも知れませんが、現在の酸素21%、二酸化炭素0.038%という大気組成の中でも、ルビスコが触媒する反応は炭酸固定が主で、光呼吸は従です。これは、元の濃度が500倍違っていることを考えると、案外良くやっている、と言えるのかも知れません。ただ、反応速度が遅いのは紛れもない事実です。


Q:光合成の中間産物である有機酸の炭素数の違いにより高等植物はC3植物,C4植物,CAM植物の3種類に分類されること。C3植物は弱い光でも光合成効率が悪くない反面、強くなっても効率が上がらないこと。C4植物は苛酷な条件下でも光エネルギーさえあれば二酸化炭素を効率よく吸収し、エネルギー生成を行なえること。C4植物はC3植物に比べ光合成適温が高く耐乾性が強いこと。またカルビン・ベンソン回路の放射線同位体を用いた研究が戦争の産物であったというところも印象に残りました。やはり科学も時代に左右されるのだと感じました。C3植物とC4植物、CAM植物についてでは、環境やストレスによって代謝経路が変化するという話が面白かったです。イネをC4化することで生産性が上がるという研究が紹介されていましたが、イネをC4化するというのは育種・品種改良と比べてそんなにもメリットがあるものなのでしょうか?

A:イネをC4化すると、本当に生産性が上がるかどうかはやってみなくてはわかりません。ただ、単にC3植物の枠組みの中で品種改良をするのに比べて、全くレベルが違う結果が得られる可能性がありますし、実際にそのようなことが可能か、という学問的興味もありますから、少なくとも研究する価値はありそうに思います。


Q:今回、講義の中でC3とC4植物を行き来する植物があるということであったが、これはやはり「C4の酵素の方がCO2固定能が高いからRubiscoより一方的に良い酵素である」というわけではないということを示していると思う。だから進化的に考えれば、硫黄代謝が先でCO2固定は後であるはずなのに、あえて枯草菌のRLPに似ているRubiscoを使っているのではないだろうか?もちろん、それ以外の理由として昔はCO2濃度がO2濃度より高かったため、CO2固定能がそれほど高くなくても問題はなかったということも考えられるだろう。しかしそれ以上に、植物の構成成分の大部分を占めているという点から、植物の体におけるあらゆる安定性を保つ働きにも貢献している(触媒などの他にも、緩衝剤的な働きも)可能性も考えられる。そのため、CO2が得がたい状況ではC4の形をとり、通常ではC3の形を好むということかもしれない。これを明らかにするためにも、単にRubiscoを単離して個別に酵素活性などの性質を調べるだけでなく、植物の体内での実際の働きも関連付けて調べる必要があると思う。

A:C4の方が「あらゆる面でよい」わけではないことは確かですね。もしそうなら、地球上からC3植物は駆逐されるはずですが、実際にはC3植物の方が種数としてはずっと多くなっています。状況によってどちらがよいかが変わるところがミソで、生物学としてはそのような微妙なバランスが存在するところが面白い、という見方ができるでしょう。


Q:芋のように多くの光合成産物を保存できる組織を所有する植物はシンクリミットを突破して二酸化炭素濃度の上昇に伴って生産性が上がるらしい。過剰な光合成産物を芋へと送ることで光合成の抑制をせずに済んでいるのだろう。これを利用して農作物の収穫を高めることができるだろうが、こういった植物は二酸化炭素濃度がとても高い状態に長期間さらされるとどうなるのだろう。1.高濃度・長時間では他の植物のように光合成関連遺伝子の発現を抑制する。2.師管が発達するように形成層で各種遺伝子を発現し、光合成産物の転流の効率を上げて、多くの光合成産物を芋に送り続ける。 3.芋の数、すなわち光合成産物の貯蔵場所が増えるように遺伝子を発現する。実際に実験して、2や3の結果が得られると農家や環境に僅かながらよい影響がもたらされるだろう。

A:高い二酸化炭素濃度にさらされた時の植物の応答は、地球温暖化などの環境問題も絡んで、極めて活発に研究が進んできます。イモもそうですし、その他の光合成産物を蓄積するタイプの植物の研究は、バイマス利用などにも関連しますから、面白いところですね。


Q:今回の授業ではCAM植物に興味を持った。CAM植物は,昼には気孔を閉じることで蒸発を抑制し光合成を行い,夜には気孔を開いて二酸化酸素を取り入れる。夜に取り入れた二酸化酸素はリンゴ酸として蓄え,昼にまた二酸化炭素に変換する。昼と夜で作業を変える事で,砂漠でも生存できる。ここでCAM植物はどのようにして昼と夜をわけるのか,ということに疑問をもった。昼と夜との大きな違いとしてあげられるのは,やはり光であろう。私はCAM植物には光を感知するものがあり,それがシグナルをだすことで気孔が開くのだと思う。前回の講義で,私は葉に光を感知するものがあり,それが葉緑体に信号を送り移動させ,また遺伝子にも信号を送り閾値を越えるとクロロフィルの転写を促進・抑制させるのでは,と考えた。ここでCAM植物では過酷な環境で生存するため,この光を感知するものが気孔を開閉するシグナルをだすように変化したのでは,と思った。しかしいまだに光を感知するものがわからないということは,それはないということなのだろうか。光を感知するものがわかれば食物など育てるときに利用できると容易に予想できるからだ。 光を感知するものがなかったとしても,CAM植物と葉緑体の移動やクロロフィルの濃度変化にはなにか関係があると思う。

A:講義の中では触れませんでしたが、CAM植物の多くは、昼間に液胞の有機酸を使い果たしてしまうと、普通のC3光合成と同じような光合成を始めます。つまり、CAMというのは、絶対的にC3と異なるものではなく、有機酸を夜の間に貯めるシステムをくっつけたC3回路という感じです。安価な夜間電力を使って蓄熱しておいて、昼間にそれを使うシステムがありますが、その場合も、蓄熱が切れたら何も動かないのではなくて、普通に昼間の電力を使うように切り替わります。ちょうどそれと同じイメージかと思います。


Q:光呼吸の生理的意義について学んだが、私は光呼吸によって水が生成される点に注目した。光呼吸は水の供給が不十分な条件下でもカルビン回路を回すために有効であると考えたのだ。ATP合成のための呼吸でも水は生成されるが、PGAが同時に生成されるという点で光呼吸がより有効であろう。光呼吸において水が生成することの重要性を示す実験方法を私なりに考えてみた。 2つの植物体を、大気の循環が起こらない密閉状態、十分な光という共通条件の下、一方は十分な水を与え、他方は全く水を与えずに6~12時間程放置する。その後、それぞれの大気中の酸素濃度と二酸化炭素濃度を測定し実験前と比べる、というものだ。あらかじめ葉にほとんどデンプンが含まれていないような状態にするための処理をし、放置後にヨウ素デンプン反応を行うというのも考えた。もし、水を与えない方で光合成が行われなかった場合、呼吸のみが行われるので酸素濃度の減少がみられるはずだ。しかしそれがみられなければ、植物内で水を生成するような反応によって光合成が引き起こされるということが示せると考えられる。 しかし、ATP合成のための呼吸によっても水は生成されるので、酸素濃度の著しい低下が実験結果としてみられなくても、それが光呼吸由来の水なのか、また、どの程度光呼吸が影響したのか等を吟味することができないのがこの実験の問題である。

A:面白いですね。その意味では、光合成の電子伝達では、光化学系IIで水が分解されます。水については、第8回の講義で触れる予定ですが、反応の基質となる水の量は、蒸散などで失われる水の量に比べると極めてわずかなのです。これについては、第8回の講義を聴いてください。