植物生理学 第4回講義

光の吸収と電子の伝達

第4回は、光合成の基本である、色素による光エネルギーの吸収と、反応中心複合体の中、および間での電子伝達反応を取り上げました。今回の講義に寄せられた意見の中からいくつかを選び、必要に応じてそれに対するコメントを以下に示します。


Q:今回の授業を聞いて印象に残ったことは、目に見える色と吸収する色とは逆の関係にあるということです。たとえばクロロフィルは赤色の色をよく吸収するので、緑色に見えている。では、なぜクロロフィルは緑色ではなくて、赤色の色をよく吸収するのか?それはヒトが生まれてくるよりずっと前の時代の植物が出来た頃、波長が長くて地上まで届きやすく得やすい赤外線を吸収するためにクロロフィルは赤色のものを吸収するように進化したと思う。 クロロフィルは、美顔などの化粧品などでよく用いられているが、これはクロロフィルを含んだ化粧品を顔に塗れば、クロロフィルが赤外線と紫外線を吸収してくれるからだと考えた。ということは、日焼け止め効果がクロロフィルにはあると思われる。

A:美顔にクロロフィル、というのは知りませんでした。顔が緑色になる化粧品が売れる気はしませんが、色が見えない程度だったら効果もないような気がします。昔、栄養食品としてクロロフィルをたくさん含むものが売られて、それを大量に摂取したら、日光アレルギーになったという話がありました。色素は光を吸収すると、そのエネルギーは害をもたらす反応にも使われます。ですから、日焼け止めのクリームなども、光を吸収するよりもなるべく反射・散乱させるようになっているはずです。僕だったらあまりつける気はしませんが・・・。


Q:今回の講義でクロロフィルの構造式がでてきたが、この構造について考察してみた。この構造はヘムと似た構造をとっている。葉緑体は共生によって後から植物の祖先となるものに入ってきたのでヘムと葉緑体は進化の過程で少なくとも30億年のギャップがある。このことからポルフィリン環の構造には細胞がエネルギーを獲得するという点で少しは意味を持っていると考えた。ここでヘム蛋白の場合、一つのヘムに酸素が結合するとタンパク質の立体構造が変化し、他のヘムにも酸素が結合しやすくなる。この性質はポルフィリン環の構造が関連している。よってこのことからクロロフィルのポルフィリン環には光エネルギーを細胞に平均的に分配するという意味があると考えた。もしこれが正しければアンテナが光を集める作用に二重に作用し負担を軽くしていると考えられる。 次にポルフィリン環の中央部分について考察してみた。クロロフィルのポルフィリン環の中央のMgは鉱山跡地に住む生物では酸性化に置かれることでMgとZnが入れ替わってしまうということでした。さらにドラゴンフィッシュと呼ばれる深海魚はクロロフィルに似た構造物質を持ち、赤外線の感知システムを持つというクロロフィルに似た性質を持つが、その構造の中央金属はない。これはフィコビリンの構造についてもいえることです。これらのことからもしこの中心金属に意味があるとすれば、中心金属が配位結合であることからクロロフィルの安定化、また金属の周りをポルフィリンが取り囲むことにことから、金属イオンの半径が中心金属を決定していると考えられる。イオン半径をサイト(引用:http://supercon.nims.go.jp/matprop/radion.html)で調べてみると2価CN4のMgとZnの半径はほとんど変わらない。これはそのことを裏付けている。このことは逆に言えばイオン半径や電荷を満たせば中心金属は他の金属でも成り立つということだ。中心金属がMgであることから緑色の色素であると聞いたことがある。もしこのMg

A:最後の1行ちょっとが文字化けしていました・・・。MgとZnはイオン半径が似ていて、置き換わりうることは化学の面からは常識だったようですね。ただ、生物学の観点からすると、わざわざMgを入れるのに、Mgキラターゼという酵素を使うので、酵素の基質特異性を考えるとZnが入ることは考えられなかったようです。Znクロロフィルを持つ生物の場合も、実は、このMgキラターゼを持っていて、生合成の過程で一度Mgが入るのだけれども、酸性環境でMgがはずれて、そこへ非酵素的にZnが入る、というのが現時点における考え方です。


Q:今回の講義でクロロフィルdにとても興味を持った。授業で例にあがったホヤに共生しているシアノバクテリアは,他にホヤに共生しているものにとられない光を吸収するようになったという。 ところで,花びらは一番太陽の当たる所にあり,たくさんの光を吸収できるのに,なぜ光合成をしないのであろうか。ここで光合成ができればかなりのエネルギーを得られると思う。しかし,花びらにクロロフィルがあるとなると,花びらは緑になる。花びらの役目は受粉のため,虫をひきつけるためなので,華やかで目立つ必要がある。これは閉花受精の花に緑色でクロロフィルを持つものが多いことからも確かだと言える。ここで,クロロフィルdとクロロフィルaで花と葉ができていたならばどうであろうか。200nmの差があるというので葉と花で違うクロロフィルをもっていたら多少は花が目立つことができるのではないか。御衣黄という桜は薄黄緑色をしていて,クロロフィルをもち光合成をしているという。もしかしたら他にも,緑っぽい黄色の花もクロロフィルを持っていて,光合成をしているかもしれない。しかし葉と花は元は同じものなので自然と違うクロロフィルを持つことはないか。もし人工的にクロロフィルの異なる葉と花の植物をつくれたら,よりエネルギーを得ることができ,何か農業に役立つのではないか,と考えた。

A:虫を引きつけるためには葉と違う色を持つ必要があるが、クロロフィルdならば色が違いつつ、光合成もできる、という考え方は面白いですね。ただ、人間の目には、クロロフィルdはクロロフィルaの色が薄くなったぐらいにしか見えません。赤外線を見ることができる虫がいれば、効果があるかも知れませんけど。


Q:今回の講義で興味を持ったところは、光合成色素の持つ「アンテナ」というしくみについてです。講義で聞くまで、アンテナというしくみがあるなんて知りませんでした。クロロフィルが吸収した光を直接利用しているものだと思っていました。しかし実際は、そのような単純なしくみではなく、反応中心の周りには様々な種類の光合成色素があり、それらが順々に反応中心へと伝えていくという方法をとっていました。また、アンテナにはshallowタイプとdeepタイプの2種類があると聞きましたが、ここで私はdeepタイプについて疑問を抱きました。エネルギーの低い波長を吸収する光合成色素から徐々にエネルギーの高い光合成色素へ伝達する際には、エネルギーを要するのではないんですか?だから、このようなことを繰り返して反応中心にまで伝達するのには、結局大きなエネルギーを必要としてしまうと思います。とすると、「アンテナ」という仕組み自体不利益な感じがしてしまいました。

A:deep trapのアンテナの場合は、エネルギー的に高い(短波長の光を吸収する)色素から低い(長波長の光を吸収する)色素へとエネルギーが渡されます。フィコビリゾームの図のフィコエリスリンとフィコシアニンの位置と、光合成色素の吸収スペクトルの図の中の吸収帯の位置を比べるとわかると思います。


Q:人間が赤外線を見ることのできない理由を考えてみた。赤外線は水に吸収され、水分子を振動させる。このことで熱が生まれる。一方熱を持っているものは必ず赤外線を放射している。この関係には「ウィーンの変位則」と呼ばれる公式があり、波長(μm)は〔2897÷絶対温度〕で導ける。例えば36度は9400 nmであり、人間は約9400 nm;の赤外線を放射していることになる。可視光の波長領域が360~830 nmであることを考えると、もし人間の眼が赤外線を見ることができたとしても、眼にも体温があるため自分自身の赤外線しか見えないことになってしまうのだろう。蛇では眼と別に唇付近にピットとよばれる赤外線探知器官があり、赤外線を見ることができる。これは、蛇が変温動物であるため自身の赤外線を感知しにくいため可能であるか、もしくはこの器官には自身の赤外線を感知しない仕組みがあるからだと思われる。だとすると多分気温が上昇すると感度も鈍くなるはずだ。一般に蛇は眼が退化していると言われているが、一体物がどのように見えるのだろうか。

A:確かに自分が光っていたら、ものは見づらいでしょうからねえ。ウィーンの変位則が、初回の講義で触れた黒体放射のスペクトルのピークを導く式であるわけです。


Q:今回の講義を聞いて、私は初めて赤外線が暖かい理由がわかりました。水は赤外線を吸収する、生体はほぼ水のようなものだから赤外線を吸収し、そのエネルギーが熱となる、というお話だったと思います。それならば、赤外線より波長が短く高エネルギーの紫外線を吸収するような素材で服などを作ったらかなり暖かいのではないか、と考えました。紫外線吸収剤は紫外線を吸収し、熱や赤外線などのエネルギーに変換して放出するものだそうです。中にはジターシャリーブチルフェノールのように毒性を持つものもあるようですが、毒性の無いものを選び、例えばポリエステルの中に練りこんでセーターを作ることは出来ると思います。また、紫外線のエネルギーを熱から電気に換えることが出来たら、夏場の強い紫外線を利用してソーラーパネルのように紫外線吸収パネルを屋根などに取り付けたらいいのではないでしょうか。

A:紫外線は確かにエネルギーが高いのですが、講義の中で触れたように、光子1個の持つエネルギーと、光の持つエネルギーの総量は必ずしも比例しません。光子の数が違えばあたりまえですよね。太陽光の放射スペクトルは500 nm付近に極大がありますし、紫外線は大気によっても吸収されますから、エネルギーとして使おうと思ったら紫外線より可視光の方が良いのです。だからこそ、光合成は可視光を使うのでしょう。その意味では、黒いセーターというのは、立派な機能素材と言えるでしょう。


Q:今回の授業では、チラコイド膜について興味を持ちました。葉緑体の中にあるチラコイド膜内では、光エネルギーによりクロロフィルが水を分解し、プロトンや酸素、電子を作ります。この時できた電子から、NADPHをつくり、チラコイド膜の内外のプロトン濃度勾配を利用してアデノシン三リン酸が作られます。このアデノシン三リン酸はATP(エネルギー)として使われます。なぜ何重もの層が必要なのか、この層を作ることの有利な点は何なのか、疑問を持ちました。人間や植物など生物にとって、もっとも大切なことは自身が生き延びるための栄養源や、エネルギーが十分にあることだと思います。チラコイド内外のプロトン濃度の違いからエネルギーを作るには、内外をつなぐ複合体を介しています。この複合体の量が多いほど、多くのプロトンを運搬することができるのではないかと思います。チラコイド膜が何層もあったほうがこの複合体の数が多いので、多くのエネルギーを得ることができます。そのためチラコイド膜は何層にも重なっているのではないかなと考えました。また、チラコイド膜は層状に重なったグラナという構造を作っています。 この積み重なりの構造はマグネシウムによって維持されているそうです。わざわざマグネシウムを使ってこの層状構造を維持している事には、何か理由があるのではないかと思います。私は、この層状の構造がエネルギー生成の活性化に関係しているのではないかなと思います。上層で活性化されたエネルギー生成の活性化がその情報をより早く下流へも伝達するため、このような構造になっているのかなと思いました。

A:膜を折りたたんでいる理由は、考察しているとおり、膜の表面積を増やすためでしょう。ただ、グラナ構造を作る理由については、いまだに謎のまま残されています。僕も不思議でしょうがないのですが。


Q:今回の講義でシアノバクテリアのアンテナの形態とそれを構成する光合成色素の組み合わせが印象的でした。放射状になっている先端から様々な方向からの光を受け取ることができ、中心部に向かって吸収するエネルギーが高い色素から順に低くなっていくように並んでいる。このシアノバクテリアの場合はフィコエリスリン、フィコシアニン、アロフィコシアニンと順に並んでいる。そのときはエネルギーの勾配を利用してうまく中心部にエネルギーを集めているのだ。と理解して納得していたが、少し考えてみると疑問になったことがある。異なる色素にエネルギーを伝達するとはどういった状態になっているのか。吸収する光自体がもともと持っているエネルギーの大きさは反応中心にいたるまでの経路で利用されて結局合成されるATPの量には直接的な関係はないと考えられる。 水は赤外線を吸収することができるから温まった水分によってひとは暖かいと感じると言っていたが、では赤外線に近い領域の光を吸収するホヤは温かいのだろうか。

A:実は、最後の部分が案外重要なのです。ホヤに共生しているシアノバクテリアは赤外線を吸収するわけですが、それを光合成に使う場合には、そのエネルギーはATPになって、すぐには熱になりません。ですから、ホヤは「温かくない」というのが答えでしょう。吸収したエネルギーのうち、使えなかった部分が熱になるわけです。もっとも、光合成によりATPが作られた場合も、それが何らかの化学反応に使われれば、最終的には熱になります。その意味では、非常に長い時間スケールで見れば「温かい」のかも知れません。


Q:今回の講義で私が最も興味を持ったのはクロロフィルを持つ魚として紹介されていたMalacosteus Niger の眼のシステムです。動物にも関わらず,赤外線照射装置と赤外線感知システムを持っているということに大変驚きました。深海に住んでいるということは,光はほとんど届かない海の底ということで普通の眼では全く周囲が見えないであろうことから,赤外線照射システムと感知システムがあることで餌の獲得や,天敵から身を守ることが可能になるだろうと考察しました。 実際に調べてみたところ,深海では波長の短い光しか届かないために,深海魚の多くは大きな眼を持っていても赤い光を感知できないそうです。そこで,Malacosteus Nigerは他の魚が感知できない赤い光を周囲に照射して餌を捕食し,さらに発光バクテリアなどの青白い光も薄い筋肉膜を発光器の上にかけることによって赤い光に変換できるそうです。それでは次にどのようにしてMalacosteus Nigerはこのような赤外線照射装置と感知システムを獲得したのだろうかという疑問が湧いていました。そこで次のような仮説を立てました。赤外線吸収を吸収しているのは,クロロフィルに似たような構造であることから,クロロフィルを持つ細菌と特殊な発光バクテリアのようなものが共生することで赤外線感知システムと照射システムを獲得したのではないか,と。本当ならば,もっと深く調べたかったのですが,私が日本語のサイトを調べた限りではここまでしかわかりませんでした。深海魚のためにあまり全貌が明らかにされていないのかもしれないと思いました。

A:赤外線感知システムの共生起源説というのは初めてですね。ユニークな発想は大事です。ただ、三者の共生というのは難しそうですが・・・。


Q:光合成色素の種類によって光合成に利用できる光の波長に差があることについて。高等植物では光合成色素はみなクロロフィルやβ-カロテンを持つとのことですが,日なたでしか生育することができない陽樹と,日陰でも生育できる陰樹とでは差があるのではないかと思いました。陰樹は日なたでも生育できるように,また葉と葉の間から森林内部に差し込んでくる白色光を利用できるように陽樹と共通した光合成色素を持つ他に,陽樹の葉から森林内部へ透過してきた波長の光も吸収できるような長さの共役二重結合のある,別の光合成色素も持っているのではないでしょうか。

A:確かに、群落の中では光の質が違うわけですが、水中の生物と異なり、別の光合成色素を持つ例は知りません。これは、陸上では光以外の要因が光合成を律速しがちであることによるのかも知れませんね。


Q:今回の講義の中でクロロフィルについて学んだ。クロロフィルは、チラコイド膜上でパラボナアンテナ状の構造を形成し、光のエネルギーを効率よく集められる仕組みになっていて、クロロフィルが利用できない波長域の光を吸収できるのがカロチノイドということであった。また、クロロフィルにも様々な種類が存在していて、それぞれが各機能をもっているということであった。そこで、この集光アンテナの構成成分であるクロロフィルが植物の性質にどのような影響を与えるのか考察してみる。まず、アンテナ状の集光色素郡の構造であるが、反応中心にクロロフィルaの二量体が存在し、集光装置の周辺部にクロロフィルbが存在して集光の役割を担っている。この構造から推測されることは、このクロロフィルaとbの比率を変化させることで、植物の生育環境そのものが変化するのではないかということである。この仮定の主な根拠はクロロフィルbにあるのだが、つまり、集光の役割を担うクロロフィルbの割合が大きくなると、アンテナの集光装置が大きくなって、より多くの光を集めることができるようになるのではないか。 つまり、クロロフィルbを多く持つ植物は陰生植物であると考えられる。逆にクロロフィルbがあまり多くない植物は陽生植物である。そして、両者の違いが出てきたのは、種を増やし生育の環境上やむを得ず日陰で生活せざるをえなくなった結果、陽生植物がクロロフィルbを増やし、陰生植物になった結果だと思われる。

A:光の量と質に対する応答の話は、次回の講義で行ないますので、乞うご期待。


Q:今回の講義を聞いて、なぜ共役二重結合系を多く持つと吸収帯が長波長側にずれるのかを自分なりに考察した。共役によってπ電子の非局在化が起こり、電子は安定に存在可能となる。共役二重結合が増えるとπ電子の存在可能な領域が広がるためにさらにπ電子は安定化されるのであろう。これによって電子の励起エネルギーは低下し、エネルギーの低い長波長の光のエネルギーでも電子が励起状態に変化できるのであろう。クロロフィルaはポルフィリン環の側鎖にアルデヒド基を持っているので、このπ電子がクロロフィルbとの吸収ピークの差を生み出しているのではないだろうか。しかし、これではなぜクロロフィルbの吸収ピークがaよりも低エネルギーであるはずの長波長側にあるのかが説明できない。これは各クロロフィルの使用するエネルギー比率によると私は考えた。いかに例を示して説明する。仮に、クロロフィルaとbが同量のエネルギー1を持つ光を得たとする。クロロフィルaはこのうちの0.2を青色帯の吸収に、0.8を赤色帯のために使用したとする。クロロフィルaとbの吸収スペクトルを比べると、 クロロフィルbでは青色域でより高エネルギーの波長の光を吸収している。なので、青色帯の吸収に0.3使用するとしてみる。すると、自動的に赤色帯の吸収には0.7のエネルギーしか使用できないことになる。これはクロロフィルaの0.8に比べて小さい。すなわち、赤色域でより低エネルギーである長波長の光しか吸収できないことになる。これは吸収スペクトルの図とよく一致する。このようにして、クロロフィルは得た光をより効率よく使用するために進化してきたのだろうと推測できる。

A:うーむ、もう一息わかりませんが・・・。でも、最初の共役二重結合のところはだいたい良いと思います。