植物生理学 第5回講義

過剰な光からの防御

第五回は、色素で吸収した光が過剰になった場合に、どのような害があるか、それを避けるためにはどのような手段があるかについてお話ししました。講義で用いたビデオは、都立大の和田先生(現都立大)と加川先生(現筑波大)の研究成果です。一つ講義で重要なことを言い落としていました。シロイヌナズナのフォトトロピンは純粋な青色光受容体のなのですが、ホウライシダのフォトトロピンはN末端にフィトクローム様の構造を持っていて赤色光も受容できます。配った資料にはちょっと触れてあるのですが、言い落としたので誤解を招いたかも知れません。


Q:過剰な光合成は植物の生育を阻害することに興味を持った。植物は強光下では葉緑体を光が当たりにくいように細胞の端に移動させたり、アンテナを減らしたりして過剰な光合成反応を避ける。ここで自分が思ったことは日中、強光に常にさらされているサボテンは光合成活性が極端に低いまたは光合成能自体が低いのではということだ。
 強光にさらされるとアンテナを減らすということから考えると、サボテンの葉緑体のアンテナは極端に光受容能が低くなっているのでは。光受容能が低ければ強光下であっても適度に光を受容できるのではないだろうか。または、葉緑体の光受容能はある程度そのままで、葉緑体のある細胞の外側にフィルターとなるような組織を持っているのではないだろうか。フィルターである程度光の量を調節できれば普通の植物と同じように光合成ができるのではないか。
 サボテンの生育環境を考えると、極端に生物が少なく水も少ない。生物が少ないということは二酸化炭素の量も少ないのではないだろうか。となると、光合成の材料自体が少ない。ゆえに、光合成を大量にしたくとも出来ないのではないだろうか。そうなると、光合成量を自ら調整しなくとも良いのではないだろうか。
いずれにしてもサボテンは光合成を抑えることで砂漠の環境に適応して生きているのであろう。

A:サボテンの仲間には、周りに白い毛をたくさん生やしたものがいますよね。あれなどは一種のフィルターと考えてよいかも知れません。できれば水との関わりも考えられるといいですね。サボテンの仲間の光合成に関しては、次回の講義で説明します。


Q:今回の講義で興味をもったのは野生株と変異株の内容である。これから私たちが実験や研究対象としていくであろう「遺伝子組み換え植物」について考察する。単純に考えて変異が起こった遺伝子と育つ条件によっては、変異株の方がよく育つ場合もある。しかし、自然の中で育ってきた野生株は長い時間をかけて、生き延びてゆくための有利な進化をしてきたはずである。それを人が簡単に組み替えてしまい、非常に限定された環境でしか生きていけないという植物は問題がない方がおかしい気がする。改めて「遺伝子組み換え」問題を考えさせられた。これからも組み替え植物や食品は開発されていくであろうが、その際どこまで育つ環境を限定されたものとしてよいのかや、組み換えを行うことでの「メリット」だけでなく、環境が変わってしまえば出るかもしれない「デメリット」にも目を向けなければならないと思う。
 もう1つ興味を持ったのは、「植物も活性酸素が溜まる」ということである。最近よくTV等で「活性酸素除去効果」があるという食品の話題を聞く。ポリフェノールなどは効果があるらしいが、植物にも肥料にまぜたりして与えてみれば、成長に影響を及ぼさないだろうか?と思った。

A:講義で紹介した話の流れの中での「デメリット」というのは、植物にとってのデメリットですよね。ですから、それ自体が、遺伝子改変植物が野生の植物と競争した場合には不利に働いて、むやみに広がるのを抑えてくれるかも知れません。僕自身は、遺伝子改変植物が、人間にとって悪い、ということはあまりあり得ないと思います。一方で、種の多様性という面から見た場合は、問題がなくはありません。しかし、種の多様性を問題にしてしまうと、荒れ地を切り開いて畑にして1つの作物だけを植えるのも問題になってしまいますから、農業自体を否定することになってしまいかねません。どこまで許せるか、という問題なのでしょうね。


Q:今回の授業で興味を持った点は、葉緑体が光の当たった部分を認識して移動し、同時に光の強さも認識して、光が強すぎれば光を避けるように移動するということだ。これまでは植物細胞は不活発な細胞だとしか思っていなかったので、葉緑体は原形質流動によって受動的に動いているだけだと考えていたので、葉緑体が光をより有効に使えるように移動しているというのは意外だった。しかしここで一つ疑問に思ったことは、葉緑体は細胞内でどうやって指向性を持って移動しているのかということだ。葉緑体が原形質流動によって細胞内を移動しているということは知っていたが、これだけでは光の強さに合わせて場所を移動することはできないと考えられる。そこで可能性の一つとして考えられるのが、動物細胞と同様に細胞内に張り巡らされた細胞骨格上を分子モーターによって移動するというものである。もう一つの可能性としては、光が当たった部分でシグナルが発生し、葉緑体がそれを感知して自ら移動していくというものである。
 どちらにしても、植物はその細胞内においても、植物体全体においても光を有効に利用するためにさまざまな活動をしており、思っていたよりもずっと活発に動いているということがよくわかった。

A:葉緑体移動のメカニズムは完全にわかったとは言えませんが、細胞骨格上を分子モーターによって移動する、というのは大筋において正しいと思います。実はそれよりも全くわかっていないのは、光のシグナルがどのように伝わるかです。ビデオを見て気がついたと思いますが、葉緑体に光が当たるわけではありません。光が当たったところに葉緑体が動くのです。しかも、光が切れたあとも、その光が当たっていたところを目指して葉緑体は動いていきます。そのようなメカニズムというのはなかなか一筋縄ではいきません。


Q:限界はあるものの光の強さに比例して光合成速度が上昇するため、光が強いほど植物にとって良いと思っていたので過剰な光に対する防御反応をするというのは意外だった。光が強すぎると有害な活性酸素が発生するなど光合成は完全なものではないようである。以前レポートになぜ動物に葉緑体が存在しないのか疑問に思ったことを書いたが、このことも理由の一つではないだろうか。動物が移動し、ある程度の環境適応能力持てるように光などの環境要因に左右されないようにするため葉緑体を持たないのだ。もっといえば、おそらく植物は光合成のときのみに活性酸素が生じるのに対して動物は食物を分解する時に活性酸素が生じる。もともと動物にも植物にも活性酸素を除去する酵素を持っているが、もし動物細胞が葉緑体を持っていればその分活性酸素の負担が増えてしまう。活性酸素について調べたところ、細胞を酸化して老化させているとあった。なので、それだけ寿命も縮まってしまうだろう。また、酸素は無くてはならない存在だが、逆に有害でもあるというのは面白い話である。

A:「運動は体に悪いから僕は運動をしない」とうそぶいていた人がいますが、全く見当はずれ、というわけではありませんね。普段運動をしない人が急に激しい運動をしたら、それは活性酸素の上昇につながって体に悪いでしょう。植物にとっては、光強度の急激な変化がそれに相当するのだと思います。


Q:長期間過剰な光環境が続くとき、進化のひとつとして光化学系を減らすとあったが、(それをMAXの発現量ラインを低くすることと受け取ったのだが)そうするまでにただ機能しないようフタというか眠らせておくようなことをしていたのではないだろうか?切り捨てることは再び作ることより労力はかからないだろうから、とりあえずとっておいて本当にいらなかったら捨てるということだ。何かしら発現量をコントロールする遺伝子に修飾をしておいて、一定期間をすぎたら活性化し完全にラインを下げるハタラキをもつというような感じで。また植物が過剰な光を避けるようにしているなら、同じ植物をはじめからひとつは強光下、もうひとつは弱光下で育てたとき葉の大きさ自体を変える事はないのか?単純に葉を小さくすれば光の入る量は減る。他にも光透過を減らすような物質を作り表面にコーティングするなどの方法をとる植物がいたりしないのだろうか?
 話は変わるが実際の実験についてのところで、長い時間をかけてデータを集め、最終的にでてきた答えが“働きすぎはよくない”だとは。一時的にみれば得でも、見合った以上のことを続けるのはつらいし、いつかはその反発が返ってきて逆に損となるパターンは私も含め誰もが経験していることだと思うが、植物でも変わらないのだなぁとつくづく感じた。ただしこれは“生きる”ということを前提としたときに成り立つことだと思う。野生型はやはり一番に種の保存を優先するはずたから常に変化する環境へ柔軟な対応、幅をもった生き方ができなければならない。生きていくために様々な術を備え微妙にコントロールしているはずだ。この中から私たちの生活に有効そうな機能だけを(たとえそれが偶然の発見だとしても)ピックアップしてきて、フルに力を発揮できるようプロデュースできるかが、研究者としての手腕が問われるところなのだと強く感じた。

A:実は光環境に応じて、葉の形態は変化します。一般に、暗いところでは薄くて広い葉を広げ、明るいところでは厚みのある葉になります。また、実際に、ステート変化という光環境に迅速に応答する反応系が、しばらく強光にした時に初めて機能するようになる、という例があります。つまり、常に弱い光環境にある時は急に強光が来ても対応できないが、強い光が来たり来なかったり、という環境になると、調節が働き始める、ということです。なかなかうまくできているでしょう。


Q:今回の講義での、光という点からの、野生株と変異株とでの比較解析について、とても興味深く感じました。この解析から分かったこととして、「光合成活性を強光下で抑えることが重要」と分かり、また、ここから、野生株と遺伝子改変についてもさまざまなことが分かりました。
 ここで、「野生株は、変動する自然環境の中で生活しており、環境応答の能力が重要。」という点と、「実験室内・栽培条件などでは、環境応答の必要がない。」つまり、実験室内等では、人間が環境をコントロールできる、という点より、「スーパー変異株を作ることができる場合もある。」とありましたが、ここから、人間が作る環境として、宇宙での特定の惑星、また衛星などを考えた環境設定を行い、その環境下で「適者」として生育することが可能な、スーパー変異体としての植物などを作れないのか?と考えました。将来、月や火星などに人類が住むことができるようにするためには、植物の存在は不可欠であり、上に述べたようなものを利用して、人が住むことが可能な環境の土台作りができるのではと思いました。その際、やはり、今回の講義での光に関しては、重要な条件であり、地球と宇宙での、さまざまな放射線の種類、割合などの違いを考慮した、変異体が重要になるなとも感じました。

A:当然地球と異なる環境では、適者も地球とは異なるでしょうから、地球本来の生物とは異なる生物が優占するはずですね。そのようなアイデアを使ったSFとして、「環境エンジニア」が主人公の「タフの箱船」 (ジョージ・R・R・マーティン著)というのが早川文庫から出ています。


Q:今回の講義で興味を引かれたのは、暗順応したシダの葉緑体の移動野生株と変異株の実験です。全てについて書くと長文になるので今回は葉緑体の移動について書きたいと思い ます。
 葉緑体の移動は何時間かかけて、行われていましたが、これを短時間で行うようにできる方法を見つけたら、より植物を成長させやすく出来るのではないかと思います。また、葉緑体を任意の場所に固定する技術を確立させることにより、授業で取り扱ったように、葉に字を長時間残すことが可能になると思われます。これは植物を使った新たな商業に有効なものであると思います。加えて、逆に文字の部分だけに葉緑体を集めたりすることが可能です。これを行う方法の一つとして、任意の文字形成を行った後の走化性因子の停止やレセプターを停めるということがあげられます。もう一つの案として、生きた植物の光受容体を何かしらのレセプターに置き換える遺伝子操作をすることであります。これをすることで将来はメッセージの書き換えも可能かもしれません。

A:「短時間で行うようにできる方法を見つけたら、より植物を成長させやすく出来る」という部分は、どうでしょうね。実際に光環境がどの程度の時間スケールで変動するかが問題でしょう。林床のサンフレックなどの場合は、秒単位で光強度が変動しますが、曇りか晴れかという場合には時間単位でしょう。もし、後者が主だった場合に、葉緑体を秒単位で動かしても意味がありませんよね。


Q:講義で見た,葉緑体の移動の映像はとても興味深いものでした。一瞬しか光が当たっていないのにその部分に葉緑体が集まってくることや,逆に強い光だとその場所を避けるような移動をするという,自分の植物に対して持っていた静的なイメージとはかなり異なっており,驚きました。一瞬しか光が当たっていなくても周辺から集まるのであれば,細胞内に葉緑体以外の,なにか光を感知し,それを周りに伝達する機能のある小器官や物質があるのだろうかと思いました。
 そこで気になったことは,光に反応して移動するのは葉緑体だけか,ということです。過剰なエネルギーの生産や活性酸素の産生を抑えるために葉緑体が移動する,これは理屈でもわかりやすいですし,なにより簡単に観察できます。しかし,自然界の強い光であればまず必ず紫外線を含むので,核のようなDNAを含む小器官も移動したほうがいいのではないかと思います。もちろんそれは動物細胞にも言えることなのですが,気になりました。

A:前半はまさにその通りです。紫外線の方は、確かにDNAを含む器官を動かした方が傷害は減るような気がします。でも、本当に有害な部分はオゾン層でかなり遮られていますから。地表には波長の短いUV-CやUV-Bはほとんど届きませんし、細胞内にはいるとさらに減衰すると思います。


Q:過度の光に対する防御機構、あるいはその過度の光を受けても何ら影響はなくてすむという植物の防御機構には、様々なものがあるのにまず驚いた。様々な立地条件化で生育するそれぞれの植物は、それぞれ独特な防御機構を持つ。
 ある植物が光の強さの違う場所に分布していたとすると、その植物の成長具合はその光の量などによって違ってくる。今日多種多様に進化した植物の大本は、直射日光のもとで光合成を行い生育するものだったとしたら、日陰でも元気に生育できる植物は、何らかの正常遺伝子の突然変異によって、ある機能を失う代わりにその立地条件にあった機能を持ちえたものが生き残り、あとのものはその立地に優位なものにその場所を譲ることで、新たな種が誕生してきたのだと考える。よって、地球がもし平たんで、土と栄養分しかないような大地であったら、植物の多様性は生まれなかっただろう。海があり、山があった地球だからこそ、偶然に生まれた生命はまた新しい種を生み出して、それが生まれたことでまた新しい生物が生まれてくるというのは、とても興味深い事だと思った。

A:生物の多様性が環境の多様性によって生まれるというのは重要な考え方です。生態学では「ニッチ」(強いて訳せば「くぼみ」でしょうか)という言葉があり、環境全体を一つの曲線または局面で考えた時に、そのくぼみごとに種が分化するという考え方があります。