植物生理学 第8回講義

植物と水

第8回は、植物と水の関係を、膨圧、雨、道管という3つの切り口から説明しました。


Q:今回の講義で、植物の根本的な事柄を考えてしまいました。動物の器官などの組織は可動性を持っているが、植物にそれはない。しかし生物である以上物質の運搬など必ず必要である。そこで植物は物理的な方法を多様に用いていると知った。なぜ植物は根からしか水分を吸収しないのであろうか。効率は悪いが葉などからの吸収量を高めるなどしたら重力に逆らわずにすむと思います。あと植物には導管のほかに師管という生細胞でできたものもあったとおもうが、師管は葉などで作った養分を運んでいるので、重力に逆らう必要はなく導管のようなしくみはないと思われる。

A:師管における輸送の仕組みは第6回の講義で説明しましたが・・・


Q:今回はエンボリズムについて疑問に感じた点を書きたいと思います。導管が細いほど凝集力は強くなり高いところまで水を吸い上げることができ、また、導管が細いほどエンボリズムは起こりにくい。だから寒冷地の植物は導管の細いものが多い。しかし導管が細いと単位面積当たりの通導性が下がり、生産性も下がってしまう。なぜ寒冷地の植物は背を低くしなかったのだろうか。背を低くすればエンボリズムの危険性は避けられ、導管を細くせずに済み生産性も上がる。光に対する競争で負けてしまうという問題が生じてくるが、からだを小さくすることでエネルギーの必要量も下がるので問題を解決できるのではないだろうか。

A:道管の通導性が下がると光合成を盛んにできない、ということが問題なわけですよね。ということは、光に対する競争に負けて、体を小さくして細々生きている植物にとっては、道管を太くする意味がそもそもないのでは?


Q:今回の授業で最も関心を持ったのは、導管の話でした。寒冷地の木は導管内の水が凍結してしまっても、エンボリズムが起きないように、導管径を小さくしているということでした。しかし、導管径を小さくすると、気孔が少ない針葉樹になることが多いということでした。しかしやはり、針葉樹よりは広葉樹のほうが光合成を多くすることができ、有利だと考えられます。
 では、どのようにしたら寒冷地で広葉樹を生育させることができるのでしょうか。まず、椿のように、広葉樹でも導管径の小さいものを開発する。もしくは、植物内の水に不純物を増やし、凝固点を下げることができるのではないでしょうか。根から吸収される水分の中に植物には無害の物質を溶かしておき、吸収させることにより、植物内の水分を凍結しにくくさせることはできないでしょうか。もしできたなら、現在は寒冷地で育てることのできない広葉樹を生育できるようになると、考えられないでしょうか。

A:無害の物質を溶かす、というところまでは可能だと思うのですが、葉で水が蒸散した後、その物質を再び根に持って行かなくてはなりませんよね?それは難しいのでは?


Q:今回の授業で植物における雨の影響が興味深かった。葉の濡れだけの条件を変えて残りの条件を同じにしたところルビスコの量が減っていたことがわかった。そしてそれは低二酸化炭素ストレスの影響がありまたまたほかにもあることがわかった。しかし雨チェンバーでは自然光が当たるので実際の環境とは異なるものであった。
 このような環境でルビスコ量が低下したのは低二酸化炭素ストレスと他に何があるのだろうか。葉が濡れたとき、葉の表面にある水の膜がレンズのような役割をして光が当たった時葉の小さな部分で光が集まり、エネルギーが高くなってルビスコを壊したのではないかと考えたこれを証明する実験は水の膜に集められる光の量と同量の光を葉に当ててルビスコ量が減っているかを確かめればよいと考えた。

A:このように、ある仮説を立てて、それを証明するような実験系を考える、というのが実際の研究で大切なところです。「レンズ説」だと、むしろ葉が水をはじくような材質で水が葉の表面で球になるような場合の方が、阻害が大きくなりそうですね。


Q:授業では、植物は強い光の下では、葉に水がつくとルビスコの量が半分近くまで分解されてしまい、光合成量が減ってしまうが、光が弱い時には葉に水がついても光合成量にはあまり変化がないとやった。これを聞いて、自分自身の生活(経験)の中で、ピンときた事があった。今まで理由は良く知らなかったのだが、母や祖母から、昼間(特に夏の)、花に水をあげると枯れてしまうから駄目だと教えられていた事だ。さらに「もし昼間水をあげるなら、葉にかからないように根元からあげるんだよ。」とも言われていた。母達も理由は良く分からないようだったが、事実として、枯れてしまうことが多いからやめなさいと言われていた。もしかしたら今日授業でやったようなことが起こるからなのかもしれないと思った。
 もちろん花に水をやる時は、今回授業でやった実験のように24時間も水をあげ続けるわけではないし、もっと別の理由があるのかも知れない。また、もしかしたら全然別の理由(昼間水をあげると、葉の上でその水が蒸発するから・・・とか、水が熱せらたり、水滴がレンズのように働いて葉が焼けてしまうからなど・・・)によるのかもしれない。実際はどうなっているのかは分からないが、光の下で水を噴射すると光合成量が減ってしまうという事実がまったく無関係ではないような気がした。

A:夏場の日中に水をやるとよくない理由はいくつかあるようです。レンズ説もその1つですし、また、土壌中で水が熱せられると根によくないという話もあります。それこそ、理由をきちんと解析しようとすると、実験条件を考えなくてはなりませんね。


Q:今回は、前回に引き続き実験の方法論を交えた講義だった。実験をするために、どのような観点から結果を見つめるか、そしてその結果からどのような考察をし、そしてそこから生じる疑問をどのような実験で解決していくかという過程が良くわかった。
 今回の講義で植物というのは水からメリットばかり与えられるのではなく、デメリットも受けているのだと言う事が良くわかった。日常生活では、植物を育てる際に水をあげすぎるのは良くないというのは知っていたが、水による阻害を科学的な知識として知るのは初めてだった。ところで今回の講義と関係ないのだが、気孔は葉の裏に多いと小学生の時から知っているが、何故裏に多いのだろうと今日、疑問に思った。
後、大気圧が1気圧なのに何で10mを大きく超えるような木の葉の隅々まで水が行くのかと言うのは分かったのだが、根はどうやって吸水しているのかが疑問に残った。根に水が入って行く時は水分子の凝集力が必要なのだろうか?もしくは、導管と違って能動的な作用でくみ上げているのかが疑問に思った。

A:今回の話の中で、雨が当たると気孔が閉じてしまうわけですから、気孔が葉の裏にあった方が得なわけは想像つきませんか?
 根が水を吸い上げる一番の力は浸透圧です。植物の中の水には、いろいろなものが溶けていますから。


Q:今回の講義では雨が降ると植物はどうなるのかといった素朴で曖昧な疑問から科学的な研究を行うというのが興味深かったです。光が当たった状態で葉が濡れると植物に大きな影響が出るということは、植物が陸上で進化した時代には晴れているのに雨が降っているといった気候はあまりなかったのだと考えられます。しかし水中に存在している植物はどうなのでしょうか。生命は海から誕生したので、もともとの植物の葉は濡れるということに対して影響を受けていない、もしくはその影響を回避するメカニズムを備えていたと考えられます。植物が陸に進出した時点で何らかの変化があったのかもしれません。また、スプリンクラーなどで人工的に葉を濡らすということに対して植物があまり影響を受けていないのは、葉が濡れている時間も関係しているのではないかと思いました。

A:水もしくは二酸化炭素に対する植物の反応、という意味では、水中の植物と陸上植物では極めて大きなギャップがあります。水の失われやすさが違うのはすぐわかりますが、水は二酸化炭素を比較的よく溶かすので、二酸化炭素に対する反応も大きく違うのです。


Q:今回の講義を聞いて私が最も興味をもったのは、植物への雨ストレスのお話でした。前回の低温というのは、感覚的にストレスにつながりやすかったのですが、今回の雨による悪影響ははじめから考えづらかったです。私の植物に対する考えの根本には光合成があり、光合成をするためには水、二酸化炭素、太陽光が必要であり、それらは必ずプラスの影響をもたらすと盲目的に信じていたからです。そこで考えたのは、この光合成に必要だと考えられている三要素のうち過剰な水がストレスとなったのならば、過剰な二酸化炭素や太陽光がストレスとなる植物は存在するのかということです。また、これは自然界においてはあまり意味のない研究だとおっしゃっていましたが、前回の講義でも感じたことですが、植物というのは自らの欠点を補って進化してきたという点では、動物と同じような原則に従って進化をしてきているのだなと感じました。

A:最適条件では光はあまりストレスになりませんが、例えば温度が低い、乾燥している、などの他のストレスがある条件では、過剰な光はストレスになります。二酸化炭素の場合、濃度が過剰になっても直接の阻害要因にはならないようですが、光合成関係の遺伝子の発現が抑えられるなどして、長期的には光合成が抑えられるようです。


Q:広葉樹と針葉樹は生育する環境に適した導管をもち、エンボリズムの危険性を避けている。広葉樹は導管径を大きくし、針葉樹は小さくすることで、それぞれ適した時期に生産性を上げたり耐性を持たせたりしている。ここでは広葉樹と針葉樹という分類で導管径の違いに目を向けたが、それならば植物の導管には茎の中での分布が単子葉類と双子葉類で異なることにも意味があるのではと思った。幹や茎の断面を見ると、単子葉類では分散してあり、双子葉類は円周上に一定間隔に存在にする。導管は維管束として束になっているが、双子葉類では束の中に導管と師管にはっきりとした分かれ目がある。これにも何か理由があるのではと思った。そもそも単子葉類と双子葉類では双子葉類の方が進化している。植物は水の中から、進化をしてより水の手に入れにくい場所へと進出していった。その過程からこの導管の分布の違いができたのだから、分布の仕方にも水を吸収し易さが関係していると考えた。具体的な物理的要因を考え付くことはできないが、導管の分布にもそれなりの理由があると考えた。

A:面白い考察ですね。実際に双子葉類と単子葉類を比較する形で道管の形態の意味を突き止めるには、どのような実験をしたらよいのかということを考えてみるのも面白いかと思います。


Q:今回の講義で、植物の導管の違いについて興味をもった。水分子の凝集力によって高い木でも水を吸い上げることができる。そして、導管を細くすることによって寒い冬に起きやすいエンボリズムを回避できるということを知った。
 陸上植物はシダ植物やコケ植物から進化してきたということを以前聞いたことがある。そこで導管の進化について考えてみた。シダ植物やコケ植物は広葉樹や針葉樹に比べて高さが低い。ということは、水を吸い上げる力が弱くても植物全体に水をいきわたらせることができるので、導管が太かったと考えられる。縦方向に進化して葉をたくさんつけることで光合成量をあげることができるが、水を吸い上げる力を強くするために管がだんだんに細くなった。すると、冬のエンボリズムにも対応できる細さになった木が寒い地方に分布していった。
 この考え方はどうでしょう。

A:実は、本当の意味での道管は被子植物になってから獲得され、裸子植物、シダ植物などでは、仮道管しかありません。道管と仮道管は太さだけでなく物理的な形状も違うので、なかなか一緒に考えることは難しいですね。そのあたりは最新の研究テーマになり得るかも知れません。


Q:今回の授業で興味を持ったのはオジギソウです。オジギソウはその葉に触れると葉が閉じたり、枝の根元から折れたりします。これは膨圧運動によるものです。枝の根元の部分が折れるのは、その下の部分の細胞の膨圧が減少するから折れるということですが、もし植物を逆さまにしたら上向きに折れるのでしょうか。また、膨圧の変化と細胞骨格を維持している蛋白質に何らかの関係があって、このような運動を引き起こしていたりはしないのでしょうか。そして、なぜ葉を触ることで葉が閉じるだけでなく枝が折れるのでしょうか。私の経験では、葉を触るときの強さや葉の場所によって、葉が閉じたり枝が折れたりするように思います。接触が何らかのシグナルとなって細胞に伝えられ、その膨圧を変化させていると考えられます。この時に細胞骨格を維持している蛋白質が変形することで、膨圧が変化しているとも考えられます。これは、動物でいう神経伝達のようなものかもしれません。この時のシグナル伝達の経路の違いから葉が閉じたり枝が折れたりするのだと考えます。
 これはあくまで私の勝手な想像ですが、葉が閉じるのはオジギソウが食虫植物から進化したのではないかと思います。栄養を補給するために虫を捕る仕組みを持っていたオジギソウが、虫を捕らなくても栄養を確保できるようになった結果、その捕獲の仕組みが残り、ハエトリグサのような葉が退化して現在の葉になったと想像します。

A:細胞骨格の変化は、おそらくかなり時間がかかるでしょうから、オジギソウの運動のような速い運動の原因として考えるのは難しいかと思います。また、膨圧が減少して起こる動きは、ある意味で「しなびる」のと同じですから、逆さまにしても「上へ」曲がることはないでしょうね。食虫植物から進化したというのは面白い考え方ですが、何か得になることがないと、運動のようなエネルギーを必要とする仕組みは残らないと思うのですが。なぜオジギソウが動くのかは謎ですね。


Q:今回の講義では植物と水の関係を学び、特に針葉樹と広葉樹の分布とエンボリズムの関係などの生育環境によって損得勘定がうまく調節されているのが興味深く感じました。寒冷地に分布する針葉樹は導管径が細くエンボリズムを回避できるが、通導性が小さいので温帯では生産能力に劣り、対する広葉樹は導管径が太く通導性が大きいので生産能力は高いが、寒帯ではエンボリズムによる水ストレスが大きいので生育には適していないとのことでした。講義を聞いていて思うのですが、植物の持つある機構・特性がその生育環境に適している、という話や、植物がある回路や機構を持つことは生育に有利に働くが、そのエネルギー効率を考慮すると不利である、という話は合理的に思えるのですが実際のエネルギー計算に基づいてそう言えるのか、それだとあらゆる要因を考慮しなければいけないので複雑になりすぎるような気もします。それとも効率のよさそうな機構を想像してみるものの、実在する植物の生態からそのような機構は結局エネルギーの損得を考えるとあまり効率がよくないのだろう、と判断するのか。理学の場合、どのように考えるのかを知りたいです。

A:今回の話の内容だと、損得勘定(専門的にはコスト・ベネフィットといいます)といっても定性的なものにとどまりますが、生態学にはモデル生態学という分野があって、必要なエネルギーなどについてモデルを構築して計算式で表し、その最適値などが環境によって、もしくは植物種によってどのように変動すするかを計算します。ただ、モデルを作るためには、いろいろなデータが必要であり、複雑な現象になればなるほど、実際の計算は難しくなります。


Q:今回の講義を聞いて、気孔の開閉について興味を持った。高校までの生物学では、気孔の開閉は、気温、根からの水分吸収、外気の二酸化炭素濃度などの変化に対応するために、孔辺細胞の浸透圧を調整することで行われるというように学習した。今回の講義では新たに「葉の濡れ」によって気孔が閉鎖し、光合成阻害が起こるという条件が存在することを知った。しかし、一体どのようなメカニズムによって葉が濡れると気孔が閉じるのだろうか?孔辺細胞は気孔側の細胞壁が厚く、反対の表皮細胞に接した外側の細胞壁は薄い。そこで孔辺細胞が吸水し膨圧が高くなると、外側の薄い細胞壁が内側よりも伸長し、気孔が開く。よって孔辺細胞が葉の表面の水を吸収することは気孔を閉鎖することにはつながらないだろう。そのため、孔辺細胞自体または孔辺細胞の周囲の細胞が葉の濡れを感知しアブシジン酸を分泌することで気孔を閉鎖するメカニズムが存在するほうが自然であると考えた。

A:濡れによる気孔閉鎖のメカニズムは結局解明できませんでした。どうやったら解析できるのか、その実験系をうまく考えつかなかったので。いい案があれば募集します。