植物生理学 第6回講義

炭酸固定・光呼吸・呼吸

第6回は、植物が実際にどのように二酸化炭素を固定するかを解説しました。一口に炭酸固定といっても、C3,C4,CAMなど、いろいろなタイプがあります。最後に植物では見落とされがちな呼吸についても解説しましたが、これは最後少し時間が少なくなって不消化になったかも知れません。


Q:ルビスコはRuBPと酸素の反応を触媒するオキシゲナーゼ活性を持ち、その反応である、光呼吸の意義として、光阻害の回避が最も有力な説である、ということでした。では、C4植物やCAM植物のルビスコもやはりオキシゲナーゼ活性を持っているのでしょうか。C4植物やCAM植物の場合、CO2を一度固定したあとに、再度カルビン回路に供給されるので、高二酸化炭素状態であるということができると思います。そうすると、酸素の割合が通常の空気中よりも低いので、オキシゲナーゼとしては働かないのではないかと考えられます。しかし、C4植物やCAM植物は強光状態でも生育できるといわれています。そのように考えると、ルビスコのオキシゲナーゼ活性の意義は光阻害の回避ではないと考えられます。もしくはC4植物やCAM植物はまた別の光阻害の回避機構を獲得しているのでしょうか。

A:これは鋭い!なかなかすばらしい着眼点です。もう一つの解釈は、二酸化炭素濃度を上げること自体が、光阻害の回避に役立っている、という考え方です。「光が過剰である」ということは、二酸化炭素の固定能力を上回る光が当たっている、ということですから、二酸化炭素の固定能力自体を上昇させることができれば、相対的に、過剰になる光は減少します。二酸化炭素を濃縮することによって、二酸化炭素の固定能力が上がれば、それが一種の光阻害回避策になるわけです。


Q:今回の授業では、ルビスコという酵素に興味をもちました。量が多いのは効率が悪いからだと聞きましたが、なぜそんなに効率の悪い酵素を使うのだろうか疑問に思いました。もっと一般的な酵素のように少なくても効率よく働く酵素を使えばよいと考えました。しかし、授業が進むうちに進化の過程で獲得されたために、これ以上の活性をもつことができなかったことが分かりました。このようにその物質ができた当時の環境というのはその後も物質の特徴においてずっと影響していくものなんだということを感じました。しかし、進化で獲得したものなのだからこそ、時間がたてばさらに進化してもっと酵素活性が得られることはないのかと考えました。

A:今回紹介し忘れましたが、奈良先端大の横田先生のグループの研究によると、ルビスコは、二酸化炭素固定とは異なる働きを持った酵素から進化した、ということです。もしかしたら、土台が悪かったので、それ以上改善の仕様がなくなったのかも知れませんね。


Q:今回の講義を聞いて、CAM植物の合理的な生き方に興味を持ちました。昼間は気孔を閉じて水の蒸散を抑えつつ、貯めておいた酸プールから二酸化炭素を使ってC3経路を回し、夜は気孔を開けて二酸化炭素を取り込みつつ、C4経路を回しリンゴ酸を貯めるという、切り返しのよさが植物でできるとは驚きました。
 ここで疑問に思ったのは、なぜリンゴ酸かというところです。C4の有機酸でカルビン回路に関与しているものなら、コハク酸、フマル酸等でもよいのではないかと思いました。
 また余談ですが、私は昔サボテンは水がなくても育つと教えられて、水をやらずに栽培していました。当然のことながら、結局枯れてしまったのですが、ずいぶん長い期間水無しで生きていたように記憶しています。この間、C3回路の進行の方が勝っていて生きていられたのか、それともC3回路C4回路の進行状況とは関係なく、ただ体内の水分量が尽きて枯れてしまったのか疑問です。

A:なぜリンゴ酸か、という質問に対する答えは僕も知りません。ただ、貯蔵物質としては、一般に他の物質との反応性が低いものが選ばれます。液胞にはいろいろな物質があるわけですが、おそらくそれらの物質との反応性が一番低いのがリンゴ酸だったのではないでしょうか。
 サボテンは、やはり単に水がつきて枯れたのでは・・・


Q:今まで糖と聞いたときと、デンプンと聞いたときでは同じものとしてとらえていました。糖でもデンプンでもC6126をイメージし、糖が余ってたらデンプンを作って、足りなかったら分解するといった具合です。つまりとりあえずは糖を合成しその後に使うか使わないかを決定するということです。しかし今回の講義では違っていて、糖になってからではなく、どちらかといえばデンプンにしてから、必要に応じて糖を合成していました。糖の需要に応じてSPSが制御しているということでした。その点では効率よくできていると思いますが、なぜ両者は葉緑体中と細胞質中とで存在場所を隔てているのですか。私には葉緑体の中にデンプンがあってはその後からのデンプン合成の邪魔をしてしまうのではないかと思えます。
 さらに転流の仕組みについてですが、私がここで思い出したことは、中学の師管と道管のことでした。今回の授業では師管と道管の違いは輸送の方向が一方向か双方向かということでした。私が師管と道管について知ってることは師管は生細胞からなり道管は死細胞からなるということでした。この違いが輸送の違いに関係があるのですか。

A:糖の場合は、あまりたまるとそれ以上合成する反応が止まりますが、デンプンの場合は重合反応なので、どんどん作っても、デンプンの分子数はそれほど増えません。ですから、産物がたまりすぎて反応が止まる、というフィードバック制御はあまり効かないはずです。そのあたりがデンプンを使う利点でしょう。
 生細胞か、死細胞かが本当に差を生み出しているかどうかは知りませんが、師管の方が導管より、流れを作るために多くのポンプなどの機構が必要にはなると思います。


Q:今回の講義で驚いたことは、地球上で最も多い蛋白質がルビスコだということでした。今まで生物を学んできたのに初めて知ったことでした。これほど多量に存在するということはルビスコは植物にとって非常に重要であり、性能の優れたものなのであろう。しかし講義では「効率が悪い酵素」、つまり「反応速度が遅い酵素」と習いました。なぜ性能の悪いものが未だに進化せずに残っているのか、そこには大きな理由があると思われる。その理由の一つとして前回の講義で学んだ「過剰な光に対する防御」に関わっていることが考えられる。葉緑体は強すぎる光を受けると活性酸素などの障害が生じてしまう。故に急激に強い光を受けても大丈夫なようにわざと効率を落としていると考えられる。おそらくは現在のルビスコより性能の優れたものが進化の過程で登場したこともあったのであろうが、環境の何らかの影響を受け生き残れず、現在のルビスコが淘汰の末に残ったと考えられる。

A:なるほど。前回の講義と結びつけて考えたわけですね。確かに、場合によって光合成速度を抑える必要があるのは確かですが、その場合でも、性能は向上させておいてその分量を減らした方が、タンパク質を作るコストを考えると得でしょう。そこがこの仮説の問題点ですね。


Q:今回の講義でC3にリンがついたTriose-Pから葉緑体の中でデンプンが合成され、細胞質ではショ糖が合成されることに興味を持った。SPS活性がショ糖として転流していく速度に比例しているということは、SPS活性で生じる無機リン酸がTriose-Pを細胞質に出すときに必要なことを意味している。いくらSPS活性が強い植物でも光合成の過程でCO2を固定し、カルビンベンソン回路でTriose-Pが産生される速さに追いつかなくなることがあるのではないだろうか。ショ糖として転流できなかったのは葉内にデンプンとして蓄えられる。つまりSPS活性の程度が同じ植物同士の葉内のデンプン量を測ることができれば、ショ糖として転流できなかったTriose-Pの量がわかり、CO2の固定効率を比較することができるのではないだろうか。蓄えられたデンプンは夜になるとTriose-Pとなり細胞質側にでてしまうので、この測定は夜は適していないと考えた。また、講義でC3植物とC4植物の比較に興味を持った。 C3植物では同位体12CからできてるCO2を多く消費し、C4ではあまり消費されない。このことは光もCO2も多い環境ではC4植物が有利だということに関係しているのだろうか。

A:確かに、SPS活性が同じ植物で比較すればデンプン量は炭酸固定量によい相関を示すかも知れませんね。同位体の選択性自体は、C3,C4の有利不利には関係ありません。12Cと13Cは化学的にはほとんど区別がつきませんから。


Q:スイレン、ザゼンソウ、セイタカダイオウは光合成、呼吸を通して発熱するとの事なのですが、実際その発熱は触れる事でわかるくらいの熱さなのですか?この発熱とは人間が食事をした後に体温が高くなるのと同じような事なのですか?スイレンを触る事は普通ないので仕方ないのですが、スイレンなどという割と身近な植物にこのような発熱性があった事に驚きました。

A:セイタカダイオウは保温であって発熱ではありません。ザゼンソウなどは外気温が0度近くなっても20度ぐらいに温度が保たれるそうですから、触れば十分わかるでしょうね。


Q:今回の講義では、呼吸速度を決める要因が印象に残りました。陰性植物ではその要因がATPの量であることから、陰性植物は無駄な呼吸はせずに、必要最低限の呼吸数を維持すると考えられます。このことは、あまり日の当たらない場所での生きていくための性質である、と思いました。陰性植物でも背の高い陰性植物の(日のあたる)上の方では陽性植物のような光—光合成曲線を描くといういう事を聞いたことがあります。このことから比較的簡単に、陰性植物から陽性植物への転換ができるのではないか、と考えられます。逆に、大きく育った陽性植物の内側の葉では、陰性植物のような光—光合成曲線を描くようなことが起こりえるのでしょうか。光合成自体の機構は変わらないのだから、陽樹、陰樹として出てくる性質として考えれば、十分あり得る事だと私は考えます。

A:陽生殖物と陰生殖物の間の転換がどこまで可能か、という実験も行われています。植物の種によっても違うようですね。また、ご指摘のように同じ木でも陽生殖物的な葉と陰生殖物的な葉をつけることはよくあり、陽葉、陰葉と呼ばれます。


Q:C4植物の起源について不思議に思った。いろいろな科の植物がC4の方法を得ているけれど、C4植物のタイプは3タイプに分けられるのが意外だった。C4植物にはタデ科やムラサキ科などいろいろな種類があり、違う種類の植物ならそれぞれ違ったようにC4の方法を獲得していろいろなタイプができるのではないかと思ったからだ。授業では、地球の環境変化により適応のため、いろいろな種類の植物がC4の方法を獲得していっただろうということだった。ここで、他に植物に寄生するウイルスの仕業というのものを考えついた。どういうことかというと、はじめにできたC4植物にウイルスが寄生し、たまたまC4の遺伝子がウイルスのゲノムの中に入ってしまう。そしてその変異したウイルスが他の種類のC3植物に寄生し、また何らかのかたちでそのC4の遺伝子が宿主に取り込まれる。このようにして同じ遺伝子が他の種類の植物に移り、C4は単一の起源がはっきりしていなくて、3タイプしかないのかもしれない。もしC4の遺伝子を持つようなウイルスが見つかるなら、そのようなこともあったかもしれないと思った。

A:本当にこのようなウイルスを見つけたら、それを感染させるとイネもC4化できるわけですから、ノーベル賞ものでしょうね。C4の起源がばらばらなのに3つのタイプに分類されるのは、ある意味でそのようなシステムを作ろうとした時にやり方が限られてしまう、ということを意味しているのでしょう。全ての光合成生物がクロロフィルまたはバクテリオクロロフィルを色素として使っているように、ある機能をフルに発揮させるためのメカニズムというのは案外柔軟性がないのかも知れません。


Q:今回の講義の中で、ルビスコという酵素に興味を持ちました。すべての動物(従属栄養生物)はこのルビスコというたった一種類の酵素によって生かされている、という事が納得のいくような、いかないような気がしました。ルビスコについて、インターネットで検索したところ、ルビスコの遺伝子によく似た遺伝子が枯草菌に見つかったというトピックスを見つけました。枯草菌は従属栄養生物で、もちろん光合成もできないのに、そんななかにある遺伝子がルビスコの遺伝子と似ている、つまり進化した(?)という事がすごく面白かったです。この遺伝子の進化がなければ今のC3植物はなく、そうすると今の生態系つまり植物によって動物が生かされているという事もなかった、という事が、まあ簡単に言えば生命の不思議だな、と感じました。
 また、ルビスコは「効率の悪い」酵素だというお話もありましたが、なぜそんな酵素のままなのですか? 普通、もっと進化して、効率の良い物になっていくのではないのですか? どこが少し謎です。空気中の二酸化炭素濃度が低くなるとC4植物にシフトしていく、というお話もありましたが、それと関連付けて考えると、ルビスコの二酸化炭素固定の効率が良いと酸素ばかりができて二酸化炭素が足りなくなるから、ルビスコの効率の悪さはそれでいい、という考え方もありなのでしょうか。
今回のレポートで参考にしたホームページ
http://www2.accsnet.ne.jp/~yyoshi/nitrogen.html
http://bsw3.aist-nara.ac.jp/yokota/research/kenkyu/page_3.htm

A:上にも書きましたが、ルビスコが、二酸化炭素固定の反応とは違う反応を触媒する酵素から進化したということ自体が、もしかしたら効率の限界を決めているのかも知れませんね。


Q:今回の授業で興味を持ったことはCAM植物である。CAM植物は時間帯によって植物の作業が異なっている。夜は気孔を開いて二酸化炭素を取り込み取り込み、これをリンゴ酸に変えて蓄える。昼には気孔を閉じて蒸散を抑制して蓄えたリンゴ酸を二酸化炭素に戻して光合成を行う。
 このCAM植物はどのようにして昼と夜での機能を分けているのだろうか。昼と夜の違いを分ける要因として日光が挙げられるので日照が刺激になって機能を分けるスイッチになっていると思う。日光を受容するのは葉緑体にあるクロロフィルなどであるからクロロフィルなどであるからクロロフィルから光を受けた後に何らかのシグナルを出しているのだろうと思われる。または葉の別の部分に光を感知する物質があってそこから何らかのシグナルが出されているのだろうか。

A:確かに、夜と昼とで光合成のしくみを切り替えるのであれば、何らかのシグナルが必要でしょうね。すばらしい着眼点です。CAM植物の場合にどうなっているのか、ちゃんとは知りませんが、通常の植物では、気孔の開閉は、植物ホルモン、光、体内時計、など複数のシグナルによって複雑に制御されていることがわかっています。


Q:今回の講義から、C3植物からC4植物への進化は植物にとって珍しくないということに驚きました。光の強い場所では生体内でCO2濃度を上昇させてカルビンベンソン回路を効率よくまわすC4植物のしくみは、遺伝子工学に応用できそうです。また砂漠などでも生息できるようCAM植物化も砂漠化解消の足掛かりに利用できそうです。水中ではC3植物の方が便利ですが、地上で光のあたるところなら、C4植物の方が効率がいいです。だから、人工的に、C4植物的な空間を作れば、(CO2濃度を上昇させるなど)植物の光合成の効率が増加し、大量の糖がシンクに流れ、より栄養価の高い植物が作れると思いました。この時同時に、光を人工的に調整して、紫外線など有害な波長のものを取りのぞけば、光呼吸が少なくなり、転流速度が大きくなると思いました。植物は最も環境に適するように進化しているので、人工的な手法を加えずに現在あるさまざまな種への変化は本当にすごいと思いました。

A:実は、「大量の糖がシンクに流れ」というところが重要なのです。温室や野外で、実際に二酸化炭素濃度を上げて植物の生育を見た実験はいくつかあるのですが、長期的に見ると、実はあまり光合成が挙がらないことがわかっています。例外は、大きな芋などを作るタイプの植物で、要は、大きなシンクがある場合は、二酸化炭素濃度の上昇によって光合成能が上がるが、そうでない場合は、光合成産物がたまってフィードバック制御がかかって、光合成能が抑えられてしまう、ということにようです。


Q:今回の講義では炭酸固定の様々な経路を学び、特にSPSによる転流調節機構が興味深く感じました。葉緑体で合成されたトリオースリン酸は昼間はデンプンとして貯蔵され、夜間にトリオースリン酸まで戻されてから葉緑体膜上のアンチポートを無機リンと共役して通り細胞質でSPSによってショ糖へと合成される。このような機構のため転流を促すためにリンを肥料として外部から与えてやるとよいというのも理解できました。興味を持ったのがSPSの活性化、不活性化についてで、それはリン酸化、脱リン酸化のような形で調節を受けているとして、その調節の機構を考察してみました。基質の量によって調節を受けていると考えると、デンプン量によるものだとすると、葉緑体内に一定量以上のデンプンが蓄積されるとSPSが活性化されることになり、ショ糖の量だとすると逆に一定量以上のショ糖の蓄積によりSPSの不活性化が起きることになります。こう考えると葉緑体にデンプン蓄積もしくは細胞にショ糖蓄積、SPSを活性化、不活性化して、蓄積した基質を一度にまとめて転流することになります。SUTによるローディングの仕組みが分からないので想像になりますが、これだと獅子脅しみたいなモデルができて流動的でなく効率がいいように思えません。シンク側で糖量を感知してホルモン調節するというのも考えましたがこれだと迅速な切り替えができないと思いました。SPSは常に活性化状態にあると考え、あまり効率がよくないとすると昼間はトリオースリン酸が大量に作られるので転流速度がトリオースリン酸合成速度を下回り、余ったトリオースリン酸はデンプンとして貯蔵され、夜に分解される。このモデルだとSPSの効率をもう少し上げられないものかと考えてしまいます。実際にはどのようなメカニズムになっているのか知りたいです。

A:このような考察はすばらしいですね。実際には、デンプンの「量」をモニターするのは難しいと思います。デンプンは糖の重合体なので、「濃度」としては測定できませんから。また、講義の中で示したSPSの活性と転流の速度の相関図は、いろいろな植物の間での関係を示したもので、1つの植物がSPSの活性を調節していることを示したものではありません。葉緑体のデンプンの量を見ると、夕方に増えて明け方に最低になりますから、基本的には1日のサイクルで動く「獅子脅し型」ということになりますね。


Q:今回の講義では光−光合成曲線の図に興味を持った。特に陽生植物は陰生植物に比べて光合成量が多いというところだ。陰生植物とは少ない光で光合成ができる、どちらかといえば陽生植物より光合成の能力に優れている植物だと思っていた。これは光の量が少ないときには陰生植物のほうが光合成量が多くなっているので間違ってはいないと思う。しかし、なぜ光の量が多くなると陽生植物のほうが光合成量が大きくなるのだろうか?陰生植物が少ない量の光で光合成のできる植物ならば、光の量が増えてもなお陽生植物よりも光合成量が多いままであるように感じる。しかし、実際は光の量が増加すると逆転する。これはなぜだろうか?私は以下のように考えた。
 陰生植物は成長速度が遅いために呼吸速度が遅くてよい。それに対し、陽生植物は成長速度が速いために呼吸速度が速くなくてはならない。呼吸では二酸化炭素を取り込むことができ、植物はその二酸化炭素を光合成により固定している。要するに、呼吸速度の遅い陰生植物は遅い呼吸によって取り入れた少ない二酸化炭素だけを固定すればいいので、光の量が多くなっても光合成量を増やす必要はない。それに対し、陽生植物は早く成長をするため速く呼吸をし、それにあわせて光合成量を増やす必要がある。よって、呼吸速度が速い陽性植物は陰性植物より光合成量を増やす必要があるため、光が増加すると陰生植物より光合成量が増えるのだろう。呼吸速度にあわせて光合成量を増やしているのは、ある点で光合成量がほぼ一定になっていることからわかる。呼吸速度には限界があり、取り入れられる二酸化炭素もある値で落ち着き、それにあわせて光合成量を調節しているのだろう。

A:非常にユニークな議論ですが、光合成の速度と呼吸の速度には、だいぶ差があります。というか、差があるからこそ有機物を貯めて自分の体を作っていけるわけですよね。とすると、呼吸速度で光合成が律速されているという説はそのままでは成り立ちませんね。


Q:今回の講義では、葉肉細胞と維管束鞘細胞の機能をうまく分化させているC4植物や、昼と夜で機能分化し過酷な環境に耐えうるCAM植物のカルビン-ベンソン回路にCO2を供給するまでの反応機構を知り、とても関心させられました。その中で、イネのC4化の話を聞いて一つ思うことがありました。植物が過酷な条件下で生育するために獲得したであろうC4植物の機能を、C3植物の機能だけで十分生育可能な人間の手がかかった快適な条件下で実現することがそもそも可能なことなのか、ということです。イネのC4化が、イネの生育に適さない地域でイネを栽培することが目的ならば実現の可能性を見出すことが出来ますが、もし収穫量を上げることが目的ならば大きな矛盾の壁があるように感じます。それは、前回の講義で紹介された、一見強光に強いように見えた変異株が実は連続強光に弱かった、という実験により、研究室内の変異株よりも長い歴史の中で自然淘汰されてきた野生株の方がトータル的な機能は上であることを実感したせいであると思います。しかし、前回の例とは違い、今回のイネのC4化は「過酷な条件下で得た効率的な機能の快適な条件下での維持」なので同じ土俵で考えるべきではないのかもしれない気もしました。

A:確かに、C4化したら収量が上がる保証があるか、というと難しい問題もあるかも知れません。上の方でも書きましたが、シンクの大きさというのは、植物の光合成にとって大きな意味を持ちます。イネの場合は、お米の粒をシンクと考えるべきでしょうから、形態的に粒が増えないことにはしょうがないかも知れません。


ザゼンソウQ:今回の授業で興味を引かれたのは、座禅草です。去年、長万部での生活で初めて目にしたことを思い出しました。時期が水芭蕉の時期とほとんど一緒だったことを覚えています。常に20℃付近の温度を保っているために、座禅草の周りの雪だけが溶けるという話も聞きました。本来ATPとなるはずのエネルギーが、熱エネルギーとなるために発熱します。この発熱によって、また、座禅草から臭う腐臭のような臭いによって虫をおびき寄せて受粉の媒介をさせるのです。しかし、いつどのようなシグナルによって発熱が開始されるのでしょうか。また、外気温度が20℃より低い場合でも高い場合でも発熱は行われているのでしょうか。
 発熱は開花している時にしか起らない現象です。だから、座禅草が開花する早春はまだ外気温度が20℃付近より高くなっていることはなく、外気温度に発熱が作用されることはありません。しかし、開花自体が外気温度に作用されているのなら、その発熱も外気温度に作用されていると考えて良いと思います。外気温度が関係ないとすると、開花するということ自体がシグナルとなって発熱サイクルのスイッチをオンにしていると想像することもできます。
 レポートはこれで終わりです。去年北海道で撮った写真を添付します。

A:そうか。理科大生は北海道のキャンパスで1年過ごすんでしたっけね。発熱現象自体は、やはり開花と関連づけられているのでしょうね。発熱に関わるアンカップリングプロテインというタンパク質の発現が、局所的に見られることがわかっています。また、ザゼンソウの発熱の場合は、一種のサーモスタットが効いているようです。外気温が変化しても、発熱箇所の温度はかなり一定に保たれます。