植物生理学 第8回講義

オルガネラのゲノムと葉緑体の起源

第8回の講義では、共生によるオルガネラの形成を中心に、植物生理学というよりは、藻類の系統分類学に近い内容の講義を行いました。藻類の写真などは、筑波大学生物科学系植物系統分類学研究室の藻類画像データから使わせていただきました。原始紅藻のデータの一部は埼玉大学の太田にじ先生のものです。


Q:核ゲノムへの遺伝子移行は二段階によって生じていると説明されていたが、なぜ段階を踏まえる必要があったのだろうか。その点を考えてみると、オルガネラゲノムの自律性の欠如が挙げられる。第一段階での共生で、大量のオルガネラゲノムが核ゲノムに移行したことにより、オルガネラは独立した生物としての機能を失うことになる。これは、宿主側の共生細胞に対する一種の防御機構であると考えられる。確かに、進化の過程においてαプロテオなどの原核生物を体内に取り込むことは有効である。しかhし、取り込んだ細胞がいつまでも利益ばかりを提供する確証などなく、むしろよりよく生存するために宿主側の生存を脅かすかもしれない。よって、宿主側としては第一段階での遺伝子移行で共生細胞側から変異、及び進化の可能性を除去する必要があった。この段階は素早く行わなくてはならないので、共生細胞がオルガネラとしてより効果的に作用するために必要な微調節は、第二段階での遺伝子移行に委ねられているものと考えられる。よって、オルガネラゲノムから核ゲノムへの遺伝子移行は二段階必要である。このように、一般的には今回のようなマーグリスによる細胞内共生説が広く浸透しているが、この説にもいくつかうまく説明がつかない箇所がある。例えば、遺伝子移行についても本来、原核細胞と真核細胞の間での不完全な性的接合は非常に起こりにくい現象である。植物、動物の進化過程における分化でのドグマとなりつつある、細胞内共生説の捉え方、また共生も含めて生物にとって「生きる」とはどういうことなのか、植物、動物がそれぞれとった種の保存法の選択性の捉え方などを最終回のトピックスとして、植物と動物を「生きる」という観点で締めくくって欲しいと思います。

A:原核生物が葉緑体になった一次共生と、その後の真核藻類がさらに別の真核生物に共生した二次共生では、同じ共生でも、全く意味合いが違うのでしょう。二次共生については、さまざまなケースが発見されており、比較検討が可能ですが、一次共生に関する情報は、極めて限られています。これから、ミッシング・リンクであった生物が見つかるようなことがあると、共生説もがらっと変わる可能性がなくはありませんね。


Q:真核細胞では、核と葉緑体それぞれにゲノムが存在し、葉緑体蛋白には葉緑体ゲノムから作られるものと、核ゲノムから作られるものがあるということだった。また、お互いは何らかの形で情報交換をして、蛋白合成を制御しているということだったが、葉緑体の進化とその制御には関係があるのかが気になった。
 葉緑体は、現在では共生説が有力であるが、もしそうだとしたらどのようにして葉緑体蛋白の合成を葉緑体ゲノムと核ゲノムとに分担していったのだろう。これは、相互の情報交換と関係ありそうな気がする。また、二段階共生生物については、ヌクレオモルフも以前は蛋白合成に関与していて、三つの蛋白合成系が存在したのだろうか。核ゲノムはイントロンがあるためにスプライシングが行われ、未成熟mRNAが核外に出ることはない。一方、原核型のゲノムはmRNA転写後すぐに翻訳が起こる。どちらもメリット・デメリットがあるので、どちらがより蛋白合成に適しているとは一概には言えないが、大半の蛋白は核ゲノム由来であるということは、独自で合成するより核に任せた方がメリットがあるので少しずつ葉緑体蛋白合成を委託していったのだろう。これに色素体ゲノムから核への移行は関係しているのだろうか。
 あとは情報交換についてであるが、何かフィードバックのようなものが働いて、どちらか一方由来の蛋白が過剰に合成されるとそれがもう一方の転写機構に働きかけて活性を上げたり、あるいは自分の転写を抑えるという形で制御がなされているのではないかと考えた。

A:オルガネラと核の情報交換(このような情報のやりとりをよく「クロストーク」といいます)については、今まさに研究が進展しているところです。タンパク質の量の制御にしても、転写レベルだけでなく、翻訳、場合によっては不必要なものの分解の段階をも含めて、さまざまな制御があるようです。数年するとだいぶ理解が進みそうです。


Q:今回の授業では、葉緑体ゲノムが細胞核へゲノムを移動させて来たのだという事実に興味を持った。
 今までは次のように考えていた。葉緑体内で必要ではあるが葉緑体ゲノム中にコードされていないタンパクは、細胞核中のゲノムから不足したタンパクが翻訳されている。それは、細胞核内に葉緑体内と同種のタンパクが使われており、細胞核ゲノムがその働きを担うことによって葉緑体ゲノムが退化したのだと思っていた。その結果葉緑体のゲノムサイズが小さくなったのだろうと考えていた。
 取り込まれた細胞が拒絶されずに共生に至ったことは不思議だが、葉緑体ゲノムが細胞核へゲノムを移行させたということは、そのような現象を引き起こすタンパクが存在するのだろう。もし、そのような作用をするタンパクを同定できれば、現在行われているプラスミドへ導入する遺伝子組み換え法をせずに、目的遺伝子を真核細胞へ導入し、タンパク発現が可能になるのではないか?

A:現在でも、細胞への遺伝子導入法は色々あります。ゲノムとの組換えが必要ないのでしたら、物理的に細胞に打ち込んでもタンパク質発現は可能になっています。そこに、核へのゲノム移行を助けるような因子が見つかれば、確かに面白いでしょうね。


Q:オルガネラから細胞核への遺伝子移行に興味をひかれた。葉緑体ゲノムについてみると、原始紅藻では葉緑体に残っている遺伝子が多いが、高等植物では少ない。これは何を意味するのだろう。進化的に見れば、高等植物のほうが高位に位置するので、時間とともに遺伝子の移行が起こっていったと考えるのが妥当だ。遺伝子移行は細胞にとってどのような影響をあたえるのだろうか。重複する遺伝子が減り、細胞全体としての遺伝子数が減る。効率化だろうか。しかし、私はオルガネラが自身の持つ遺伝子だけで増殖できたほうが効率がよいと思う。オルガネラは細胞核に比べ寿命が短いので、進化が速く進みやすいと考える。とすると、進化が進んだオルガネラの機構を利用したほうが長い目で見て効率化につながると思う。遺伝子を移行するということは、オルガネラが自立を失うということだ。再び、オルガネラに遺伝子が戻ってくる可能性もあるのだろうか。また、現在は個々の個体として共生しているマメ科の植物と根粒菌などにも遺伝子の移行レべルまで共生が進む可能性があるのだろうか。もし起こるとするならば、楽しみである。

A:一概に、オルガネラの寿命が細胞核の寿命より短いとは言えません。原始紅藻などでは、細胞1つに、核が1つ、葉緑体が1つ、ミトコンドリアが1つ、といった構成のものがあり、この場合は、細胞が分裂する時に葉緑体も同時に分裂します。自立した方がよいのかどうか、というのは微妙な問題でしょうね。世の中には、自立生物もいれば、寄生生物もいますから、これはそれぞれの生存戦略ということで、どちらがよい、ということはないのかも知れません。


Q:今回気になったことは、マラリア原虫についてである。ようは、せっかく手に入れた葉緑体をなぜ手放したのかということである。葉緑体自体、水は殆どの環境で入手できるから無視するとしても、日光と二酸化炭素さえあれば半永久的にエネルギー生成を行える小器官と捉えることができる。普通、人間の観点から行けばそれを手放すことはしないと考えられる。それゆえに、この理由を考察したいと思う。最初に考えられるのは、マラリア原虫の主生息場所である。ここで上記にあげた日光や二酸化炭素の入手が不可能ならば、不要となった葉緑体が退化して消失するのは道理である。マラリア原虫自身、日光が当たる場所を生息地としてないため、これで葉緑体がないのは納得できた。しかし、これは、マラリア原虫自体が生息地を選んだという条件下での考えである。マラリア原虫自身が葉緑体を失ったためにこの生息場所を選んだということも考えられるからである。そうだとするとその失ったことに対する理由として考えられることは何だろうか。一つして考えられるのは、葉緑体の遺伝子を次世代に伝えそこなったというものである。それにより、葉緑体を失ったマラリア原虫の祖先がマラリア原虫になったというものである。また、能動的に失った理由としてマラリア原虫の祖先には葉緑体が十分なエネルギーを供給することができなかったということも考えられる。マラリア原虫の祖先は鞭毛を用いて動き回るタイプだったらしく、他の藻類のようにじっとして日光に当たっているわけではなかった。そうすると、その運動で消費するエネルギーを自ら生産しているよりもその葉緑体を省いてスリムになって他の生物から奪ったほうが効率がよかったということも考えられる。残念ながらマラリア原虫の祖先と今のマラリア原虫をつないでいる生物についての事が分からないので真実がどういうことなのかはこれ以上分からないが上記のいずれかである可能性は十二分にあるのでないかと考えられる。

A:これは、ある意味で「寄生」というものがどのように始まるのか、という問題ですね。いったん寄生してしまえば、その後葉緑体を失うのは、ほとんど必然かも知れませんが、そもそもなぜ最初に寄生するようになったかの説明にはなりません。確かにいろいろな考察が可能で、面白いところでしょう。


Q:今回の講義で一番思ったことは、葉緑体やミトコンドリアがDNAをある程度持ってることを考えたら、ヌクレオモルフという、もとは核だったのではないかというものがいまだにDNAをもっていて、機能している生物が存在しているのではないかと考えた。特に小細菌などの悪環境の下で存在する生物には予備の核のようなものがあったほうが都合がいいのではないかと思ったからである。疑問に思ったことは四重膜の仕組みである。二重膜のようにそれぞれ別れて働いてるのか、それとも四重膜のままいっぺんに機能しているのかということである。膜の働きは濃度勾配やpHの変化であることを考えると、特に四重膜である必要はないと思える。だからユーグレナにみられるような三重膜が形成されるのではないかと思った。ただ四重膜として考えると膜が多いほうが外からの異物の侵入に少しは強いのかもしれないと思ったし、膜の間隔が広ければそれぞれの膜ごとに小器官ができていいのではとも思った。

A:異物の侵入といっても、それが防げるのはあくまで葉緑体の中の話ですから、それが理由ではないように思いますね。やっぱり、膜の数が減る過渡期と考えるのでしょうか。共生した方の核が機能している可能性については、誰かが研究していそうな気がしますが、僕自身はよく知りません。


Q:講義を聞き、改めてオルガネラゲノムに疑問を持った。細胞内共生説を初めて知ったときはすごいことが起こったんだなぁと感動したが、腑に落ちない点が一つあった。それは、共生体ゲノムからホストへ遺伝子の大半が移行したのに、なぜ僅かな遺伝子は移行せずにオルガネラゲノムに残ったのかという点である。今回の講義で高等植物のルビスコは核コードと葉緑体コードのサブユニットから成ることを知った。また、核と葉緑体では使われるリボソームも違うという。これでは翻訳制御が面倒だし、いろいろと非効率的であるように思える。
 細胞内共生説のもう一つの根拠である二重膜の外膜は、残っていても不思議には思わない。外膜とそれにより作られる膜間スペースに機能がありそうだからだ。「細胞の分子生物学」で調べたところ、葉緑体の外膜については透過性が高いとしかなかったが、ミトコンドリアの外膜や膜間スペースにはいくつかの酵素があるということだった。だが、なぜミトコンドリアと葉緑体が不経済ながらも独自の遺伝子系を維持しているのかという問いには、納得のいく答えは見つかっていないらしい。
 ただ、緑色植物の色素体から核への遺伝子移行を表した図では、高等な植物になるにつれて遺伝子が色素体から核へ移行していた。これを見て、もしかしたらホスト(もしくは色素体自身)は色素体に遺伝子を残そうとしたのではなく、核へ遺伝子を移行させたくてもそれができずに、結果としてオルガネラにゲノムが残ったのではないかと思った。遺伝子を移行させたくてもホストの核または細胞質側にそれを受け入れる土壌がなく、植物が進化することではじめて受け入れることができるようになったのではないかと思った。

A:遺伝子が、核にあるのが効率的か、葉緑体にあるのが効率的か、一概には言えないと思います。ただ、一般に高等と思われる生物ほど、オルガネラのゲノムが小さくなっているように見えるので、基本的には、ホストに遺伝子を移す方向に選択圧がかかっているようです。


Q:今回の講義で植物の進化と共生の時期、それを行った種と共生された時期を示す図があった。この図についての考察をしたい。
 まず共生における壁となるものとして、お互いの生成するタンパク質がそれぞれに有害なものでないかどうかということである。有害である場合、もちろん共生は成り立たない。そのタンパク質の有害性が小さい場合、そのまま共生して進化の過程で有害性が解消されるといったことも有り得るが、ほとんどの場合は無害なものが共生できるはずである。ではそのタンパク質が有害であるとは何を示すのか。有害であるということは、ある反応過程が阻害されるということである。その場合特定の三次構造が似ているという可能性が考えられる。似た構造を持つということは、その個体同士が進化的に近い可能性が高い。よって進化樹の一本の枝の中で近い位置に存在するものへの共生は行われにくいはずである。実際にこの図を見るとその枝の中への共生は起こっていない。このことから考えると、逆に共生が行われなかった個体同士は似たタンパク質を扱っていたということである。さらに考えを広げると、葉緑体となったシアノバクテリアは、植物よりもそれを持たない私たち動物に近い性質を持つのかもしれない。

A:非常に面白い考え方ですね。ただし、さらに考えると、重要なものほど、進化の過程で変化しにくいものです。従って、あまり重要でない因子については、このような推定が成り立つかも知れませんが、本当に重要なものについては、逆にあまりにも似ているので有害でない、という全く逆のケースが考えられるのではないでしょうか。そうすると、全体としては、どう解釈したらよいのでしょうね?


Q:今回の授業で細胞内共生説について関心を持った。というのも細胞内共生が2次、3次というように何度も共生を重ねて藻類を進化させていったというところに驚いた。まずシアノバクテリアの共生で葉緑体を持つ灰色植物、紅色植物、緑色植物が生まれ、次の段階でこれらの真核藻類がさらに原生生物に次々と共生を繰り返した。紅藻の共生で生まれた珪藻が繊毛虫類に三次細胞内共生して発生した渦鞭毛藻類もその一例である。このように2次3次共生した藻類のミトコンドリアや核やその他のオルガネラは時間とともに消えてゆき葉緑体の元になってきた。ただ、高次共生の結果として葉緑体の包膜がユーグレナでは3重に、黄金植物では四重膜になっている。このように繰り返し細胞内共生が行われてきた事は、それが生物が生き残るために極めて重要かつありふれた事、ごく自然な行為であることがわかった。その上でこの生命誕生の歴史で大きな飛躍である真核生物の誕生が自然淘汰ではなくて共生という“ありふれた行為”によって得られた結果である事に驚かされた。まさにシアノバクテリアなどが共生される側のエネルギー利用の方法を熟知しており、意思を持って共生しているように思えた。

A:2次、3次共生はどうも「ありふれている」ようですが、1次共生は、今のところ1回だけ、という可能性が強いようです。とすると、地球上の今の生態系は、たった1回の偶然で今のようになったのかも知れません。


Q:今回の授業では光合成についてではなくてオルガネラゲノムや葉緑体の起源についてであり、いつもの授業とは違って興味をそそられるものであった。およそ36億年前に浅瀬の海でシアノバクテリアがすでに酵素を作り出していたという話をふと思い出した。私は、真核生物はオルガネラを持つことで膜面積を増やし、より大きなエネルギーを得たのではないかと思った。たくさんのオルガネラの中でもミトコンドリアや葉緑体は、たまたま細胞に他の細胞が取り込まれたものであり、取り込まれた細胞がその状況に応じてさまざまに変化していったものだときいたが、それはミトコンドリアや葉緑体がその条件に合わせて変化していったのだろうか、また合せざるを得なかったのだろうかと疑問に思った。今後の授業では自分が生物工学科というのもあるので、遺伝子と何か関係した話や、またよく耳にするのですが、あまり知らないので植物ホルモンの話をしてもらいたいと思う。

A:うーむ、「いつもの授業とは違って興味をそそられるものであった」というのは、「いつもの授業はつまらない」ということか知らん?
 それはともかく、シアノバクテリアの起源は、一時36億年前といわれましたが、現在は、また27億年前らしい、ということになっているようです。


Q:今回の講義では膜の共生から見た生物の進化の道筋についての話が面白かった。細胞内で膜構造をもっている細胞内小器官であるミトコンドリアと葉緑体がもともと光合成細菌で、それが共生したものだというのには驚いた。それぞれ核ゲノムとは異なる独自のゲノムをもっているから、かつては別の生物だったのというのは納得できるが、多くの遺伝子が宿主ゲノムに移行しているというのは私には難しかった。共生体にとって自分のゲノムの一部を宿主に渡すということは自らの機能が宿主の支配下に置かれることを意味する。その代償を払ってでもゲノムを移行させたメリットとはなんだろうか。私の一つの考えは核が遺伝子専用の保存場所であるからではないか。自分の遺伝子を安全に保存するにはやはり核内のほうが信頼性は高い。もう一つの考えは、共生体が宿主に払ったいわば宿賃のようなものである。4ゲノム生物のヌクレオモレフに見られるように、宿主は自分にとって不必要な構造体を消してゆく。そこで消されないために自らの有用な遺伝子を核内に移行させて自分の重要性を示した。最後の考えは、核内に共生体の遺伝子と同じ機能を持つ遺伝子が現れたので共生体の遺伝子のほうが必要なくなった、である。核の中と外の両方に同じ機能を持つ遺伝子があったなら、安全性や制御のしやすさから核内の遺伝子を保存すると考えられる。

A:以前だと、「このようなことを考えても、検証不可能なのだから科学になりません」といわれておしまいだったのですが、最近遺伝子を改変するのはもちろん、ゲノムごと生物を改造することさえ夢物語ではなくなりました。このようなさまざまな可能性を、実際に検証するできる日も近いかも知れません。


A:藻類とはどのような細胞群かと聞かれたら、水中で光合成を行って生育する体制の簡単な生物と私は答えていたと思う。しかし、藻類の生育場所は必ずしも限らなく、空中の空中の岩上や土中、または他の生物の体内に生育する藻類もあることがわかった。藻類の系統を理解するに当たって取り上げられる主な形質には同化色素、生殖細胞、細胞壁成分、葉緑体の構造などがあげられる。緑藻類は他の緑色植物と同じように、主要な同化色素としてクロロフィルaとbを含み、また、褐藻類は、クロロフィルaとcのほかにフコキサンチンを、紅藻類はクロロフィルaのほかにフィコエリトリンやフィコシアニンをそれぞれ含むことがわかった。この色のちがいは、それぞれの色を持つ藻類群の光合成の仕組みの違いと対応し、したがって、生産される同化物質や貯蔵物質のちがいとも対応すると考えられる。
 クリプト藻植物は渦鞭藻植物門から分離したと考えられている。これはフィコビリン色素をもつことが主な根拠となっているこたがわかった。このクリプト藻植物の葉緑体は二重チラコイドラメラをもっているが、この二重チラコイドラメラの存在はこのクリプト藻植物のほかに知られていない。このことから、クリプト藻植物は紅藻類と三重チラコイドラメラをもつ藻群の中間の発達段階にある生物といえる。このように植物の進化もまた単純→複雑の順序考えられることがわかった。

Q:藻類の系統分類の場合、光合成色素の種類というのが大きな要因になるのですが、今回の授業では、オルガネラの起源に焦点を当てるため、わざとほとんど話しませんでした。色素に関しても、フィコビリゾームとクロロフィルbの関係など、まだまだ、興味深い謎が多く隠されています。


A:原核生物であるシアノバクテリアは色素としてクロロフィルaとフィコビリゾームを持ち、原核緑藻はクロロフィルaとbを持っているということであった。これらは同じ祖先が起源となり分化した結果誕生した原核生物であると考えられるが、では、その共通の祖先の生物はクロロフィルa、bとフィコビリゾームの両方の色素を持っていたのであろうか。そして、進化の過程でそれぞれクロロフィルb、フィコビリゾームが退化してシアノバクテリア、原核緑藻が誕生したと考えられるであろうか。
 クリプト藻類にはヌクレオモルフという共生した真核生物の核が存在していることを始めて知り、とても興味が持てた。このような生物が存在していることから、共生説は確かなものであると言える思う。また、共生した真核生物の葉緑体やミトコンドリアは退化していることから、遺伝情報をコードするDNAは核に存在する方が有利であることが分かる。クリプト藻類の他にも、共生した真核生物の核が残っているような生物は発見されているのですか。
 最終回の講義では、植物の光合成に関する最新の研究について少し詳しく紹介してほしい。具体的にどのような実験が行われているのか、また、それらの実験でどのようなことが新たに分かってきたのかを知りたい。さらに、遺伝子のレベルから見た植物の光合成の機能についても知ってみたい。

Q:実は、クロロフィルbとフィコビリゾームの関係については、北大の田中先生が、まさにそのような説を唱えていらっしゃいます。田中先生の研究室のホームページも参考にしてみて下さい。