植物生理学 第4回講義

過剰な光からの防御

第4回の講義では、光が強すぎた時に、植物がどのように対処しているのかを中心にお話ししました。また、後半では、実際の研究例として、一時的な強光に強くなったシアノバクテリアの変異株の研究例を紹介しました。葉緑体移動に関する話題は、基生研で和田正三さんのもとでお仕事をなさっていて、現在筑波大に移られた加川貴俊さんのお仕事です。レポートでも大人気ですね。シアノバクテリアの変異株(pmgA変異株)の仕事は、埼玉大学の日原由香子さんとの共同研究です。以下に寄せられたレポートの一部と、それに対するコメントを載せておきます。


Q:今回の講義で印象に残ったことは、葉緑体の移動でした。暗順応したホウライシダの葉緑体に弱い光を短時間照射したところ、光の照射後に葉緑体が光の照射されていた部位に集まっていくというものでした。不思議なのは同じく暗順応したホウライシダに、強い光を長時間照射し続けると、光の照射部のまわりには葉緑体が集まるのに関わらず、光の照射部には葉緑体が入ることができずにきれいに丸く輪を作っている点でした。私はその現象について考察してみることにしました。これは光の受容体が膜にあり、受容体に光が当たると、サイトカインのような葉緑体遊走因子のようなものが放出され、それに遊走されて葉緑体は光の照射部に集まるのではないでしょうか。しかし、それだと強い光を当てた場合に葉緑体が光を避ける理由は説明できません。そこで葉緑体遊走因子が強い光をあびると構造を変えて遊走させる力を失う。または強い光をあびると遊走因子の分解酵素なんかが活性化すると仮定すると一応つじつまがあいます。

A:講義でも触れましたが、実際には、phot1, phot2という2つの光受容体が、共に葉緑体集合運動に働き、さらにphot2のみが葉緑体の逃避運動にも働いているようです。


Q:葉緑体が光を受けて移動する映像は、あたかも光というエサを求めた葉緑体が独立して自発的に集まってくるようで面白かった。細胞内は動的な空間だとはいろいろな講義でよく言われていて、自分でもそのことはわかっているつもりなのだが、無意識のうちでは細胞を静的な空間ととらえがちだったりする。なので、あのような映像はとてもありがたいです。映像中の葉緑体の移動は、葉緑体の祖先が昔は独立して生活していたことを思い起こさせる。しかし、葉緑体の祖先である光合成細菌は、光を求めるための移動能をあまり持っていなかったのではないかと思う。少なくとも今の植物が持つ光受容体は葉緑体自身が生産していないからだ。ただ、もしかしたら、光受容体合成能を昔は葉緑体が持っていたが、それが本体の核に移ったとも考えられる。だが、もし光受容体を光合成細菌自身が持っていたとしても、それでは光のある場所を求めて移動することはできないことは明白だろう。ただ、光受容体を持っていたとすれば、過剰な光を避けるための移動はあったかも知れない。しかし、これも光合成細菌が広い海のなかで独立して生活していたとすると、過剰な光から逃げ込む場所も少ないので効率的とは思えない。光合成細菌がお互いに協力しあって生活していたと考えると話は別だが。細胞内共生は宿主となった真核細胞ばかりが得をして、葉緑体にはあまりメリットがないように思っていたが、光を求めたり避けたりする点では葉緑体も共生による利益を享受しているようだ。

A:葉緑体の直接の祖先と考えられるシアノバクテリアは、一般に「光合成細菌」とは呼ばないようです。そして、シアノバクテリアは走光性を持つことがよく知られていて、光受容体などについても研究がなされています。ただ、移動のメカニズムは葉緑体とは違いますけれども。


Q:今回の講義で興味を持ったのは、葉緑体の移動についてである。赤色光を当てたときはその光が当たった場所へ葉緑体が集まっていったが、青色光を長時間当てたとき、光が当たっている間はその周りに集まり、光が消えたときに光が当たっていた場所へ集まった。これから考えられることは、葉緑体の逃避行動と集合行動はそれぞれ別々メカニズムが働いているのではないかということである。光が当たったときに何らかの形で情報が伝えられ、光の強さにかかわらず葉緑体の集合を促す。ただ、光の強さを感じるセンサーのようなものが別に働いていて、光が強すぎるときには逃避行動をさせる、あるいは集合行動のストッパーの役割をするのではないか。もし逃避行動と集合行動が同じシステムによって管理されているなら、弱光のときだけ集まるようにすればいいからである。
また、葉緑体の移動に関わる運動メカニズムがどうなっているのかが疑問に残った。光がきたという情報がどのように伝えられ、それが葉緑体の移動にどうつながっていくのかなどである。

A:運動と情報シグナル伝達のメカニズムは、完全には解明されていません。今、まさにホットな話題になっているところだと思います。


Q:葉緑体が細胞内で動くというと、原形質流動のように細胞内に張り巡らされている微小繊維にそって、粒子についたミオシンがすべり運動することによって細胞小器官が一定方向に流動する現象を思い浮かべたが、暗所や弱光、強光下によっての移動の仕方をみると一定方向でないどころかその時その時に適応し、有利なように移動しているようにみえる。まさか光によって細胞内にそこまで大きな変化をもたらすとは思っていなかっため驚いた。
暗順応したホウライシダの葉緑体に極短時間の赤色光の照射によって葉緑体がその部分に集まり、逆に青色光を長時間当てることで葉緑体をそれ以外の部分に除けることもできるということだが、葉に文字をかくということをするには青色光のあたる細胞の内部にある葉緑体は完全に除けることは不可能だろうから、どうなっているのかが不思議である。そして赤色光も青色光も光合成効率がよい波長であるため極短時間青色光をあてたり、長時間赤色光をあてたとしても結果としてはかわらないのではないかとも思ったため、Phototropin1によって集合もPhototropin2によって逃避もすることは考えられるが、赤色光の場合はどうなっているのかが気になる。

A:葉に字を書くのに、葉緑体が完全になくなる必要はありません。例えば、葉緑体が2つならぶ面積があったとして、1つの葉緑体を通ると光の強さが半分になるとします。2つ横に並んでいればどちらの部分を通っても光は半分ですから、全体でも光は 0.5 になります。一方、片側に縦に葉緑体が並び、もう片側には葉緑体がなくなれば、ならんだ側は光が半分の半分で 0.25 になり、もう一方では光がそのまま通りますから1の光となります。そうすると平均的には (0.25+1)/2=0.625 になります。つまり葉緑体が縦に並ぶと通る光の量が増える、つまり色が薄くなるわけです。


Q:現在、私たちが食べている食品の多くは品種改良が繰り返されたいわば変異型である。確かに収穫量は上がり、虫にも強くなり、味もよくなるなど、私たちのニーズには応えている。しかし、野生型にはなかった予想できない性質が生まれる可能性もあるのだ。pmgA変異株において優先する条件は、狭い範囲である。弱光条件下ではもちろん、長期間の強光でも生育障害を受ける。つまり、変異株の強光条件下でもクロロフィルが減少しないという性質が求められたが、結局長期間の強光には弱いというマイナスの性質が現れたのだ。野生株は長い時間をかけて環境に適応するように進化してきたが、人間はそれをほんの一瞬で変異させてしまった。また、ある性質に追求した結果偏った性質を持つことにより、急激な環境変化が起きると絶滅してしまう可能性がある。私はそれがおそろしい。

A:そうですね。ある特別な環境条件に適応すると、どうしてもそれ以外の環境条件での生育は悪くなるようです。同じことは、生態系全体についても言えます。いろいろな生物種がいれば、環境が変化しても生き延びることができる場合でも、特定の生物種しかいないような生態系では、何かのきっかけで生物が絶滅する場合が考えられます。その辺にも生物多様性の重要性があります。


Q:今回の講義に於いて最も興味を引かれたのは、植物の強光時における光合成制御の機構である。自分は今まで、光合成は光が強ければ強いほど効率の上がるものだと思っていたので、このような機構が存在すること自体まず驚きであった。しかし葉緑体逃避運動における光受容体であるNPL1が青色光受容体であるのは何故なのだろうか?光合成速度に影響するのは、光の波長ではなく光子の数であるとおっしゃっていたが、そうであるならば赤色光に対しても葉緑体逃避運動を起こさなければ活性酸素が過剰に生じてしまうのではないのだろうか?それとも青色光で励起されたクロロフィルと、赤色光で励起されたクロロフィルとでは、反応中心に渡すエネルギーは同じであったとしても、活性酸素を生じる反応においては、青色光で励起されたクロロフィルのほうがより多くの活性酸素を生じ危険であるため、青色光に於いてのみ葉緑体逃避運動が発達したのだろうか?
 今回の講義では後半部分に最新の研究内容に入ったが、自分としてはもう少しゆっくり説明していただけるとありがたかった。内容は興味深く、面白いのだが、研究の手法が理解しづらかった。

A:自然界では、青だけの光や赤だけの光が当たることは滅多にありません。ですから、別に両方の光を検知しなくとも、片方の光を検知すればよいのだと思います。
 後半は、実際に研究をしていない人には難しかったかも知れませんね。研究例の紹介の際には、もっとゆっくり話すようにします。


Q:人工的に突然変異を起こさせてスーパー変異体を作ることもできる。しかし、それは一定のある限られた範囲の環境下において、その能力が野生株と比べて優れているのだと言え、自然界で野生株よりも優れた形質を持つ変異体を作成することは困難であるようだ。しかし、突然変異体の作成ではなく、遺伝子導入による組み換え体植物の作成であれば、自然界においても野生株よりも優れた形質を持つ植物を作ることは可能であろう。例えば、害虫耐性な遺伝子を組み込んだ植物体を作成した場合、誤って、その種が実験室内から外界へと放たれるようなことがあったとすれば、組み換え体は野生株よりも害虫に強く自然界では有利に働く。そうすると適者生存で野生株の種が絶滅していまい、組み換え体に占有されてしまうだろう。こう考えると、組み換え実験は生態系にとてつもない影響を与える可能性があり、厳重に管理されなければならない研究なんだと感じた。

A:一般論としては、その通りでしょう。ただ、実際には、人間が作っている作物の多くは、過去の育種によって既に野生株からは大きく異なっています。また、畑や田んぼでは通常1つの作物しか栽培されません。その意味では、林や原っぱを切り開いて畑や田んぼを作ること自体が一番生態系に影響を与えるわけです。基本的には、人間が生きていくこと自体が生態系に影響を与えている、という認識が必要かも知れません。


Q:光は光合成反応のエネルギー源であるにも係わらず,光合成生物は強光により光傷害を起こし光合成機能が低下することが知られている。光を与えれば与えるほど、光合成機能は増加するように思われるが、光合成活性を強光下で抑えることは重要なことである。そこで、強光下で光合成活性を抑える意義について考察する。
 光合成には光化学系Iと光化学系IIが存在し、共に光エネルギーを使いクロロフィルを活性化し、電子の移動を行なっている。強光を受けると光エネルギーを使う光化学系I、光化学系IIの反応のみが著しく進行し、光を必要としない反応系が追いつかなくなる。そのため、強光を受けると光合成活性を抑え、バランスをとっている。また、クロロフィルは光エネルギーを受けると活性化し励起状態となるが、励起状態は不安定なため、強光下において多くのクロロフィルが励起されると、細胞全体としても不安定な状態になる。そのため、細胞の安定化という意味でも強光下で光合成活性を抑えることは重要である。

A:確かに励起状態というのは、余分なエネルギーを抱えた状態ですから、非常に危ない状態です。分子が過剰なエネルギーを持っていれば、いろいろな不都合な分子との反応も起こるでしょう。ですから、光を必要としない反応とのバランスが重要になるわけですね。その通りだと思います。


Q:今回の講義を聞いて、いくつか疑問に思ったことがあります。まず疑問に思ったのは水生植物の光防御機構はどうなっているのかです。水生植物も講義で話していた防御機構と考えていいのでしょうか。
 私の勝手な考えですが、水生植物が過剰な光を受ければ、水温は上昇し周りの環境が変化する。生物は環境変化に対して、いつも何らかの対応をしてきました。なのでこの水温上昇に対し、陸上植物とは違う何らかの機構が作用するのではないかと思いました。また水中に入ってきた光は屈折をして、植物は至る所から光を吸収するように思えます。この場合、葉緑体の動きや位置はどうなるのでしょうか。ちょっと想像がつきません。
 次は熱帯地区や砂漠の植物たちの光防御機構です。過剰な光といって想像するのはやはりアフリカや熱帯地域でした。特にサボテンについて興味があります。前回やった葉の構造のところで形にも意味があると知りましたが、あのサボテンの形状がどうして厳しい砂漠の環境に耐えられるのか理解しがたいです。藤の葉のように強光条件では折りたたむという防御がありましたが、あの形状ではそのような我々に見える防御はできないと思います。そうなると光エネルギーは授業で紹介された機構で消化されているのでしょうか。他に気候に合った光防御機構はあるのでしょうか。

A:まず、水というのは比熱が大きい物質です。つまり、空気に比べて同じ熱を加えても熱くなりにくいわけです。ですから、水の中の植物の場合は、陸上植物に比べて温度上昇の効果はあまり考えなくてもよいかと思います。
 サボテンの形については、次回の炭酸固定のところで、触れてみたいと思います。


Q:今回の講義で一番興味を持ったところは、pmg変異株が連続強光で生育阻害を受けるということである。ではなぜ連続強光下で野生株は生育阻害を受けないのに、変異株は阻害を受けるのだろうか?そこでエネルギー合成経路の反応の仕組みか考えてみた。まず光合成では、光化学系Iと光化学系IIによって膜内外で電気化学的勾配を作り出し、それを利用してNADPHを作り出す。変異株では、光合成速度が著しく速いため、NADPHが急速に作り出される。その一方で、NADPHの原料となるNADP+が減少しNADPHが作り出せなくなるために、生育阻害を受けるのだろうと考えた。光合成阻害剤であるDCMUを加えた場合、光合成の進む効率は悪くなるが、成長阻害を受けなくなる。これはDCMUを加えたことでNADP+の不足という現象が起こりにくくなったためであるということが予想できる。このような理由よりNADP+の不足によることが、変異株の生育阻害の原因であると自分なりに結論付けてみた。

A:電子伝達はそのほかに、ATP合成と共役しています。ですから、同様にATPが強光下でどんどんできると原料のADPと無機リン酸が足りなくなるはずです。pmgA変異株の場合はわかりませんが、植物では現実にリン酸律速といってリン酸が足りなくなって生育が阻害される現象が知られています。


Q:今回の講義で、植物の環境適応のすごさを改めて知った。過剰な光からの防御の仕組みとして、葉緑体の移動に興味がわいた。その仕組みとしてどんなことが考えられるのか。自分の考えを述べてみる。まず、葉緑体が細胞膜周辺に位置する理由として、この2つがレセプターとリガンドの関係にあるのではないだろうか。葉緑体は、細胞内で細胞質流動によって動き回っている。葉緑体には細胞膜にあるレセプターと特異的に結合するリガンドとなるようなもの発現しており、それら同士が結合したり離れたりすることで葉緑体の位置が決まる。さらに、細胞膜の各面(上側、下側、側面)にそれぞれ違ったレセプターがあり、それぞれに対応したものが葉緑体にもある。そして、光の強弱によって細胞膜上のレセプターが活性化され、葉緑体と結合できるようになる。たとえば、強光時には側面のレセプターしか活性化されないので、葉緑体は側面にしか結合できない。 このようには考えられないだろうか。
 また、研究の紹介はおもしろかった。

A:面白い考え方ですね。つまり、動き自体はランダムだけれども、特定の場所との親和性が変化することで、葉緑体の位置が決まると考えるわけですね。なるほど。こういう考え方は貴重だと思います。


Q:今回の授業で光屈性で植物が光の方向に向くときには必ず植物体の成長を伴っているということを知って驚いた。私たちは(筋肉の伸び縮みなどの可逆的な変化はあるが)体の組織が変化しなくても動くことが可能である。ここもまた植物との違いなんだなと新たな発見があった。
 また光合成において光エネルギーが過剰なとき、電子が流れるだけで、結果的には物質の変化を伴わない反応が起こるということを知った。この反応での植物にとっての第一の目的は、必要以上の還元力を安全になくすということだったが、せっかくエネルギーを作るもとがあるのにもったいないような気がする。このような反応をするなら、まず初めに必要以上の光エネルギーを光合成反応をもっと早めることができるようになにか簡単な反応でエネルギーに置き換えるなどといったことができるようになれば、植物にとって有利になるのではないかと思った。しかし実際植物がこのようなことを行わないのは、実状ではここまでが精いっぱいであるからなのだろうか?それとも短時間に大量のエネルギーは必要としないからなのだろうか?

A:「電子が流れるだけで、結果的には物質の変化を伴わない反応」にはWater-Water cycleという名前が付いています。これは、片側で水ができて片側で水が消費される反応だからです。もし、強い光を受けた時にでも充分自分の使えるエネルギーに変換できるようなシステムを作ったとすると、強い光の時には有利になりますが、もし、光が弱くなると、余計なシステムを維持するためにエネルギーが必要となり、返って損になります。このばあいも、特定の環境条件にだけ適応することは可能だけれども、環境が変動する場合全てに対応することは難しい、ということの例になるかと思います。


Q:シアノバクテリアの変異と代謝系の関連に関して考察する。変異部位pmgAから、代謝関連酵素を特定することは出来ないだろうか。変異株は、短期間での生育の早さ、強光での生育耐性を獲得しおり、光化学系Iの抑制調節に関する抵抗性を示していることから、pmgAは光化学系Iのカスケードに関わる酵素をコードする遺伝子と考えられる。講義ではpmgAと、代謝の関連については、詳しく触れられていなかったがこの研究から分かった遺伝子の挙動があるのだと思う。熱ショックタンパク質やSOSファンクションに似た、DNAレベルの反応系がこの実験結果から展開できると思う。シアノバクテリア研究室内での進化、栽培条件の違いによる環境応答をゲノムレベルで解明することが可能で、それが分かれば太古の光合成植物の環境適応を探って、進化の方向性までことが出来ると思う。なぜ、どのように葉緑体を持つ生物が生まれたかとても興味がある。

A:実は、pmgA遺伝子が、どのように光化学系Iを制御しているのかを一所懸命調べているのですが、いまだによくわかりません。本当にその辺が知りたいのですけれどもね。


Q:今回の授業で興味を持った活性酸素と植物についての考察をしたいと思います。
 植物の中では活性酸素は吸収しすぎた光エネルギーの消費経路とされています。活性酸素とは本来生体内において害を成す存在であり、それを活用するというのは危険なのではないかということです。活性酸素が生体内で危険視されるのは活性酸素が体内に過剰供給されたエネルギーを吸収し、無作為の個所にそのエネルギーを分子結合破壊という形で放出するためです。植物がこの過程を光合成に盛り込むということは自ら葉緑体内部を破壊しかねないということが考えられるからです。この経路は強光を受けたりして光化学系Iが過剰にエネルギーを吸収したときに動きますが、その処理を専用に行う酵素群を保持しているとはいえ危険なことにはかわりありません。
 特に、ハイドロキシラジカルは、葉緑体で重要なマグネシウムと反応することは容易に予想がつきます。これでは葉緑体がどんどん壊れてしまい、処理能力が時間とともに低下してしまうのではないかと考えられるのです。しかし、この活性酸素によるエネルギーの消費というのは、葉緑体という細胞の中でも半独立的で増殖も可能な小器官だからこそ実行可能であるとも考えられます。
それは、葉緑体がこわれても細胞自体は複製命令を出すがけであり、エネルギーを吸収するという危険な作業は一箇所に危険性とともに閉じ込められるという利点も考えられるからです。これについて最適な方法が活性酸素の利用ということのだったと考えれるからです。活性酸素の処理系は、生物が酸素呼吸を始めてからずっとついてまわっていて、安全性が高く安定もしていると推測されるからです。
では、活性酸素という危険な処理を経由させずにより安全なエネルギー処理系を遺伝子レベルで埋め込むことは可能かということが考えられます。葉緑体が一定空間を保持して植物細胞内に存在しているのは、ある意味リソソームなんかと同じくらい危険なものを葉緑体が保持しているための植物細胞自体の安全機構だと考えたからです。
 たとえば、蛍や蛍烏賊が持っているような発光(蛍光)酵素と一連の処理系を余剰エネルギーの処理系として導入することが出来たなら、より安全であろうし、細胞内でも葉緑体が複雑に重なり合うことになっても、蛍光を基にエネルギーの吸収が可能とも考えられるからです。

A:おお、これはユニークな考え方ですね。たしかに、葉緑体のように活性酸素の生じる可能性のある部分を、細胞内小器官に閉じこめておくことは重要かも知れません。ただ、そうすると、シアノバクテリアのように、細胞内小器官を持たず、光合成をするチラコイド膜を細胞内にむき出しに持つ原核生物は、植物より活性酸素に弱いはずですね。実際には、全く違う生物種で、活性酸素の害を比較することは困難でしょうけれども、考えてみる分には面白いですね。また、過剰なエネルギーの消去系として発光を使うという発想もユニークです。すばらしいレポートだと思います。


Q:今回の講義で面白いなと思ったのは、光の状態によって植物がマクロにもミクロにも動くというところです。植物が、より多くの光を得るために、太陽の動きにあわせて葉の向きを変えるという事実は知っていました。しかし、光を受かる量を減らすために葉を閉じたりとか、暗所でより多くの光を受けるために葉緑体を表面に並べたり、また、光が当たりすぎているところには葉緑体が寄り付かないなど、私にとって新しい知識が多かったです。雨に洗われた葉の色が青々として綺麗です、などと6月の手紙に時候の挨拶として書くことがありますが、これは、葉の上に降り積もったゴミが洗い流されるからという理由だけでなく、今回の講義でおっしゃっていた暗所における葉緑体の移動も理由の一つなのかもしれないと思いました。

A:葉緑体移動は、比較的短い時間での応答なので、6月の葉の美しさの説明としては若干苦しいかも知れません。ただ、木の葉の新緑がきれいなことには理由があります。これは、木の葉の場合、草の葉に比べしっかりした構造を作らなくてはならないので、まず構造を作ってから中身を詰めていく形になる場合が多いことによります。つまり、出始めの木の葉はまだ、クロロフィルの量が少ないので、鮮やかな色をしているわけです。時間と共にクロロフィルが充分蓄積すると、暗緑色になります。一方、通常、草の葉の場合は、葉は薄い構造をしており最初からクロロフィル(葉緑体)がほぼ完成されているので、特に新緑の時期というのはありません。


Q:今回の講義では、今生きている野生の植物が成長や物質合成などの目先の効率のよさより環境変動に対する適応能力を重視して進化してきたことを学んだ。また、人間が自分たちの都合のよいように改良した植物は、人間が世話をしない外の環境では適応できず繁栄しないであろうということがわかった。野生の植物は強すぎる光を受けると光合成活性が落ちるが、この反応に関する遺伝子が変異していると光合成活性は落ちない。一見変異株のほうが優れているようだけれど、変異株は長期間強光にさらされると著しく成長が遅くなってしまうが、野生株は影響なく通常通りに生育できる。材料があるからといってフルパワーで働くとガス欠になってしまうから一定をペースを保って淡々と仕事をする、まるで機械のような一面を持ちながら環境に対する柔軟性を持つ、植物は本当に不思議な生物だなと思った。もう一つ感心したのは、この事実の証明実験の発想である。変異株は強光を受けても光合成活性が落ちないことと、連続強光による生育阻害が大きいという野生株との2つの違いから、「野生株の強光による光合成活性低下が実は重要な応答なのではないか」と予想して光合成阻害剤を用いた実験にもって行けるところがすごい。植物に限らず生物の反応には必ず何かしらの意味があるはずで、それを論理的に考えて予想し証明できる能力が研究には必要だなと痛感した。

A:そうですね。なぜかな?と考えて、論理的な予想を立て、それを証明する実験を組む、というのが研究の進め方の王道です。ただし、実際には、予想が外れた時の方が大きな発見につながる場合があります。つまり、人間が考えることなど、たいしたことはないのですが、自然が行っていることは、思っても見ない見事なことである場合が多い、ということです。


Q:今回の講義より、活性酸素消去系と適者生存について考察していく。
 なぜ、植物に活性酸素消去系が存在するようになったか。これは、地球が存在してからいままでの歴史と関係していると考えられる。つまり、地球が誕生してから45億年が経つといわれているが原始の地球では炭酸ガスでにおおわれており、もちろん酸素というものはなかったと考えられる。そして、海ができ水中に微生物が出現した。この時代、まだ酸素が存在していないため、嫌気性微生物が多数存在したと考えられる。その後、海水中にシアノバクテリアが存在しはじめることによって海水中の炭酸ガスを栄養分として繁殖し、その副産物として光合成により酸素を放出するようになった。これにより、いままで酸素に触れたことのない嫌気性生物にとっては酸素は非常に有害なものであった。これにより、適者生存の原理にもとずき、嫌気性植物の多くは滅びたと考えられる。また、この酸素の発生により植物は生きていくために活性酸素消去系が発達したと考えられる。

A:と、誰しも考えると思うのですが、実際に活性酸素消去系の酵素の起源を考えると、どうもシアノバクテリアによる酸素の蓄積より前だったようです。では、何に働いていたのか、ということですが、水分子に強力な紫外線・放射線があたると一部が分解されて酸素分子になる場合があり、そのような酸素分子に対する防御機構だったのかも知れません。ただ、このようなことは実験的に証明するのは難しいですね。


Q:活性酸素を自ら進んで生成するSFという酵素の存在に興味を持ちました。その後に活性酸素を無毒化していく酵素群があり、光化学系IIを含めた全体の反応で、電子だけを移動させて物質的には何の変化も起こさないというサイクルの有用性は理解できます。しかし、一つ間違えば自身のDNAを傷つけるのではないかと思いました。その結果、葉緑体が機能しなくなるということがあれば、それはその個体だけでなく、子孫においても致命的になるのではないかでしょうか。また、変異型の光合成細菌がグルコース(+)の培地で培養できない理由がよくわかりませんでした。授業中、実験ではコンタミを減らすためにグルコース(−)で行うため、それに適応したと言っていたと思いますが、グルコースがどういう毒性を持つのかを教えてください。

A:SFというのは stromal factor の略として書いたもので、ストロマにある何らかの因子、ということで酵素の名前ではありません。確かに活性酸素を利用してエネルギーを消去する方法は、一歩間違えば致命的だと思います。
 変異株のグルコース感受性の理由は、実はまだわかっていません。光合成をしない状態ではグルコースを入れても平気なので、光合成とグルコースが両方ある時にだけ毒性を持つようです。グルコースは分解されて還元力を生じますから、光合成からの還元力も合わさって還元力が過剰になることが細胞にとって悪いのかも知れません。