植物生理学 第1回講義

植物生理学の内容と光合成の意義

初回は講義の全体像をつかむため、光合成が地球環境、生態系、あるいは人間の文明にどのようなインパクトを持つのか、また過去の光合成研究の歴史と、今後の光合成研究の方向性について概説しました。今回の講義に寄せられた意見の中からいくつかを選び、必要に応じてそれに対するコメントを以下に示します。


Q:今回の授業で最も興味を持った内容は「高等な動物が光合成をしないのはなぜか?」という箇所である。この講義を聞き、ミトコンドリアは全ての真核生物が持つのに、葉緑体を持つのは何故植物と藻類のみであるのか?葉緑体を全ての真核生物が受け入れることのできない理由はあるのだろうか?という疑問がわいた。なぜ無尽蔵の太陽光線をそのエネルギー源として使えるような光合成の機能を持った生物が、全ての真核細胞について広まらなかったのは進化の上から考えても疑問である。これは、一つの憶測ですが、葉緑体を得なかった真核生物は最後の最後までその必要性に駆られなかった生物達なのではないかと考えている。例えば、動物細胞で考えるとライオンは有機物を取るために高い運動能力を持ち合わせる。一方で、運動性の高さを持ち合わせることのなかった生物は、動かずにしてエネルギー源となる物を得なければならない。そう、生き延びるために環境に適応した葉緑体という機能が進化の上で誕生したのだ。このように考えると、高い運動能力を持ち合わせた我々人間を始めとした葉緑体を持ち得なかった生物がさらに葉緑体という機能を招きいれる必要性は今の所なかったのである。講義では、高等な動物が光合成をしない理由について推論を立ててるが、できれば葉緑体を獲得しなかったのはなぜか?という所まで突き詰めて推論をして欲しかった。(しかし、エネルギーとしての光は密度が薄いという事実は初めて知ったので、この推論:「高等動物が広い面積を持って移動するのは効率的でない」はかなり衝撃的なものでした。)

A:「動物の光合成」の話は、いろいろな推論が可能だと思います。そして、講義を聴いてから自分で考えてみることが重要でしょう。今回のレポートでも、かなり多くの人がこのポイントを議論していました。その意味で、講義の中で「突き詰めて議論」してしまうと、かえってそういう自由な推論を縛ることになるので、あまりよくないかと思います。講義が、単なる知識の伝達でなく、「考えるきっかけ」になって欲しいと思います。


Q:光合成に関与する物質は、酸素、二酸化炭素、水、グルコースなど限られたものしか考えていませんでした。講義でその他にも様々な因子があると知りました。特に、鉄については驚きました。太平洋では鉄が光合成の律速因子になっていることを確かめた実験について、私は季節を考慮すればさらにおもしろい結果が出ると思います。海洋に鉄が増える要因として人間の活動、海底からの噴出、生物の死骸などが考えられます。実験が行われた場所を考えると、近くに大きな先進国がないことから人間の活動がその地域の鉄の量を制限していると考えられます。ただ海流に乗って移動してくる可能性はあります。いずれにしても、クロロフィル濃度は季節変動するということは、鉄の量も季節によって異なることを意味します。1年中鉄が律速因子になっているのかを確かめるためにも、実験を1年を通して行う必要があると思います。季節についての結果がありましたらぜひ聞きたかったです。

A:確かに季節変化を調べることにより、鉄律速説の妥当性を検証できるでしょうね。すばらしいアイデアです。その辺をきちんと調べた例があるかどうかはよく知りません。なお、海洋中の鉄の供給源として、今、主に考えられているのは、河川による土砂の流入によるものと、船などの人間活動から溶け出すものです。前者については、黄河や揚子江の河口付近の鉄濃度が高いことなどによって実際に示されています。


Q:ATP合成酵素の話の分子モーターという言葉に興味を引いたので調べてみた。細胞の中では、何百万というモーターが、昼も夜も、毎秒100回転で回っている。このモーターが止まるとき、生命も止まる。ATPがなければ動力がないのと同じことなのでそのとおりであると思う。しかし、このモーターの数、そして回転数に驚いた。細胞というミクロな世界であまりにも精巧すぎる機能であるからだ。エネルギー問題が世間でよく騒がれている。エネルギーを発生させるためには何かしらを消耗し、磨耗、酸化等により一定の利用期間を経ると、正常に動作しなくなってしまう。そのうち枯渇すると予測しているからである。しかし、この分子モーターはイオン濃度によってエネルギーをえる。いわば無尽蔵にエネルギーを生成することができるのではなかろうか。分子モーターの発展をミクロな世界への使い道からマクロな世界へ広げてみると面白いと思った。私はどんなことでも最先端の話題が好きであり役立つと考えているので是非この講義でも最先端の話題を多く取り入れてほしいと思っています。お願いします。

A:ATP合成酵素については、第2回講義で取り上げます。実際の研究例と教科書的な基礎知識のどちらを教えて欲しいか、という点については、「研究例を」という人の方が多かったのですが、最先端の話題を理解するには、基礎知識が必要なので、前半は基礎部分、後半は応用部分としたいと思います。ただ、基礎部分についてもなるべく最先端の話題をはさんで説明したいと思います。


Q:植物が生育し、増殖する律速因子となっているものを調べることにより、より効率的に植物を生育する方法を知ることができる。また、ある植物がその生育する環境において、生育、増殖する際の律速因子となっている因子を遺伝子組換えによって取り除くことによって、その植物が生存に適さないような環境においても植物を生育、増殖することができる。以上のようなことから、生育、増殖の律速因子について考察することは重要である。
 植物の増殖を最も妨げているものは、人間による熱帯雨林の伐採、焼畑、開発などである。これらは重要な律速因子となりうるが、ここではより科学的な因子を扱う。植物の生育(光合成)において重要な因子は、水、二酸化炭素、光、気温である。現在の地球環境を考えると、二酸化炭素の不足、光の不足は除外できる。問題なのは、水分不足と気温である。水分が不足する砂漠地帯に作物は育たないし、季節変化によって植物の分布が変化するように、植物には生育するのに適した気温がある。水の不足については、光合成に使う水の量は決まっているので、どれだけ多くの水分を植物体内に蓄積できるかによって生存率が決まる。また、気温については、低温になると光合成能力低下、植物体内の水分の凍結などが起こり、植物は生存できなくなる。これに対しては、光合成能力の高い株、水の凝固点を下げる物質を生成することができる株の開発を行うことにより、植物の生存範囲は著しく広がるが、技術の進歩や遺伝子組換え植物に対する倫理的な問題がある。

A:なかなかきちんと理解していますね。ただ、「水の不足については、光合成に使う水の量は決まっているので」という部分ですが、実際には、植物が必要とする水のうち、光合成で分解する水はほんのわずかで、残りは、気孔から蒸発させてしまいます(蒸散といいます)。これは一見無駄なようですが、葉から蒸散が起こることにより、水が根から葉へと流れ、その流れによっていろいろな物質を運ぶのです。植物にとっては、体を通り抜けるだけの水ですが、それでも必要不可欠なのです。


Q:今回の授業では、植物が光合成をしているからこそ、地球が存在できるのだということを学んだ。
 植物が太陽のエネルギーを取り込んで光合成し、酸素と糖を作り出し、それらを動物が消費し、二酸化炭素と水へ分解する。この循環システムが、地球が継続できる条件であるとするならば、植物の減少による光合成が地球維持に必要な量以下となれば、地球はどうなってしまうのだろう?
 現在、地球上では、過去そして今行われている未開発領域の開拓などによって、二酸化炭素濃度上昇、それによる温暖化現象、そしてオゾン層破壊と様々な重大問題が取り上げられているが、それらは解決の一途もなく、開発のみが続けられている感じがする。
 伐採による植物減少の対策として、植林があるみたいだが、この方法は、環境改善への効果が期待されうる方法なのだろうか?植林だけでは到底間に合わない気がするが…。陸地で不足が改善されないようなら、次は海洋に目を向ければ何か解決策が生まれるかもしれない。植物の生態を研究し、海洋中で光合成が行えやすい環境にしてしまうとか、光合成効率の高い植物を作り出してしまうなど。
 マクロ的視野で地球を眺め、研究することで、問題解決の手段が見いだされたらと思う。現在行われている様々な研究がどのようなものなのか教えていただきたい。

A:講義の中で触れましたが、光合成で二酸化炭素が固定されても、植物が枯れて腐るときには、同じ量の二酸化炭素が放出されます。従って、吸収された炭素がどこかに固定されない限りは二酸化炭素濃度に影響しないのです。植林の場合、小さな木が大きくなるときには、幹などのセルロース量が増大しますから、二酸化炭素を吸収しますが、いったん木が大きくなって森が成熟してしまうと成長と分解のバランスが取れて二酸化炭素の吸収効果はほとんどなくなります。悲観的な見方かも知れませんが、地球環境を科学の力で若干改善しても、政治的・経済的な要因で環境破壊が行なわれれば、わずかな改善は一度に吹き飛んでしまいます。難しいですね。


Q:暗い所で発育させたもやしは周りを他の植物に覆われていると勘違いをして、光を求めて早く大きくなろうとする。そのためにもやしの形態は細長くなる。ではもやしが勘違いをしなければ、その形態はまた異なったものになるのだろうか。ここでいう勘違いとは一体何であるのかがとても気になった。あまり知識ないが自分なりに考えてみた。
 もやしには形態を細長くするという遺伝子があり、ある程度の光量ではこの遺伝子は発現する。しかし光が少なすぎると遺伝子は活発に発現されるのではないかと考えた。または逆にもやしは形態を短く太くするというような遺伝子があり、暗い環境ではこの遺伝子の発現が抑制されるのではないかと考えた。つまりもやしの勘違いや形態形成は光量の変化に対応した遺伝子の発現または発現抑制によるものでないかと思った。

A:基本的には、正しい推測だと思います。それでは、何が光を感じて遺伝子の発現を変えるのでしょうか?答えは、フィトクロームという色素です。フィトクロームと植物の光形態形成については、岩波ジュニア新書に古谷雅樹先生がお書きになった「植物は何を見ているか」という本に詳しく載っています。内容がきちんとしているのに安い(780円)のでおすすめです。


Q:最大吸収波長と色について興味深く感じた。ガスの種類により吸収する波長が違うというのだから、今見ている空の色は遙か昔、生命が光合成する以前とは違うのだろう。空の色まで変えるなんて生命とはすごいものだなと感じた。植物の葉の色については、いままではなぜ緑色をしているのかわからなかったが、この講議によって知ることができた。フォトンのエネルギーとしては可視光線より紫外線などの方が大きいが、太陽の輻射で一番放出されているのが可視光線であるので、それを吸収するようにした方が効率がいいのだ。また紫外線などはオゾン層によって吸収されてしまい地表にはほとんど届かないのも理由だろう。植物のほとんどが緑色であることについては、緑の補色が地表に降り注ぐ可視光線の中で一番大量であるからだろう。
 この講義について。光合成の研究をすることによって何ができるのか、どんなことの役にたつのかを学べたら良いと思います。

A:共立出版から出ている「光環境と生物の進化」という本に、地球の昔の空の色をシミュレートした写真が載っています。それによると、大昔の空はオレンジ色だったようですね。大気圧が高かったこと、二酸化炭素濃度が高かったことが原因のようです。
 研究は、役に立つにこしたことはありませんが、僕自身は、理学部出身のせいか、生命の働きを理解したいという好奇心から研究をしています。それで、役にも立てば一挙両得でしょう。


Q:地球に届く光の話で、実際地表面に届くのは可視光線と赤外線ということだったが、植物が一番よく吸収するのはどの波長の光なのだろうか。生物が可視光線を一番よく見えるように進化したから“可視”光線と言うのなら、やはり植物も可視光線を一番よく吸収するように進化したのであろうか。
 光を吸収するのはクロロフィルであり、クロロフィルは緑色であるから、緑色の光は吸収せずに他の色の光を吸収するのだということはわかる。クロロフィルの種類によって吸収する光の波長は異なるわけであるが、この色(波長)の違いによって何に影響を与えるのだろうか。波長が異なると全く吸収しないのか、それとも吸収はするがそこで働く酵素が励起されないのか。紫外線が突然変異の原因となるように、吸収するべき光とは異なる波長の光が当たったとき何らかの影響を与えるのであろうか。波長が異なれば励起されるエネルギーや、分子の状態が異なるわけであるから、何かしらの影響はあるように思われる。
 最後に、人間の活動が光合成に影響を及ぼしているという話で、それは環境問題にもつながるわけであるから、植物を通しての人間活動の環境への影響について取り上げてもらえばと思う。

A:植物が一番よく吸収するのも、やはり可視光線です。ただ、光合成細菌の中には赤外光を吸収するものもいます。光のスペクトルと光合成色素については、たぶん第3回の講義あたりで紹介できると思います。


Q:今回の講義を聞いて植物の存在意義について興味を持った。植物は、光を用いて光合成をすることで酸素を放出する。これにより、地球は熱的バランスを維持している。
 地球生命のシステムは、植物が光合成をすることで酸素と糖を作り、その生産物を人間が用いて活動を行う。活動をすることで二酸化炭素と水が生まれ、またそれらを植物が光合成に用いるというものである。現在では、人間が酸素を使いすぎることでこのシステムのバランスが崩れ、植物の酸素の生産が追いついていない状態である。これにより、温暖化などの環境問題へと発展しているのが現状である。つまり、人間と植物のバランスが保たれているかどうかによって地球の環境が維持できるかが決まってくる。
 では、人間がこの地球上にまったく存在しないと仮定したら地球はどのように変化していくだろうか?
 まず、人間がいないことで酸素の消費量は格段と減るため、大気中の酸素濃度は上がると考えられる。しかし、魚類や微生物の世界では酸性の状態での生活空間は非常にすみにくいといわれているため、増殖は考えにくい。このように地球上が酸性化になりすぎるのもあまりよいこととは考えにくい。しかし、オゾンの再生や酸性雨などの被害はなくなる。
 最後に今回の講義を聞いて、人間の酸素の需要量と植物の光合成による酸素の供給量のバランスを頭の中に入れて、これからの生活をしなくてはいけないと感じた。また、人間によって引き起こされた環境問題を解決するため、植物のもつ光合成の研究が鍵を握ると感じた。

A:実は、大気中の酸素濃度変化は生態系にさほど大きな影響を与えません。これは、酸素はもともと大気の約2割を占めている主成分であることによります。一方、二酸化炭素は、大気の0.04%以下を占めるに過ぎません。従って、光合成によって、酸素が発生し、同時に同じ量の二酸化炭素が吸収されると(呼吸の場合は発生と吸収が逆になりますが)、相対的な濃度変化は二酸化炭素の方が圧倒的に大きくなります。ですから、酸素の濃度変化が影響を与える前に、二酸化炭素の濃度変化の影響が現れることになるのです。


Q:エネルギー総計が年々増加しているのが気になった。二度のオイルショックで一時的に増加が止まっているが、その後の増加の仕方を見ると、2010年度のエネルギー需給見通しの値よりも大きくなると思う。だから、太陽電池に頼るしかないと思う。効率が20%程度だと言っても、太陽から注がれてくるエネルギーはものすごく膨大な量なので、問題はないと思う。しかし、太陽電池では夜は発電できないという弱点があるので、それを補えるように電気を貯めておく技術も研究するべきだと思う。そうでないと、昼しか使えないので、あんまり意味が無い。石油や石炭はいずれ無くなるのだから、もっと太陽電池関連の開発に力を入れるべきだと思う。

A:太陽電池はクリーンなエネルギーではあるのですが、講義で紹介したように光は「密度の低い」エネルギーなのです。それが理由で、なかなか経済的に引き合う発電施設を作るまでには至っていません。現在、クリーンエネルギーとしては風力発電の方が先行しています。SFだと、広大な宇宙空間に太陽電池を広げて地球にエネルギーを何らかのタイトビームで送る、といった設定が出てきますが、そこまでできるようになるのはまだまだ先になるでしょう。


Q:植物の形態変化それぞれに明確な理由があるのは当然の事なのだろうが、今まであまり意識していなかった。そう考えて植物を見ると、新芽の出し方や古い(下の方に出ている)葉の枯れ方なども興味深い。今年の夏に育てていたアサガオの双葉も、日光が当たらなくなって枯れてしまったのだと思っていたが、本当にそうなのか。もしそうなら、より多くの光を照射すれば枯れずに済んだのだろうか。だが、全く光が当たらなくなっていたとは考えにくいので、その葉の作り出すエネルギーとその葉を生かしておくために消費されるエネルギーとの兼ね合いで決まるのか等が気になった。講義の中で他に、海洋のクロロフィルや硝酸の分布についての話も面白かった。
 講義の感想:スライドをプリントにして配布してもらえて助かりました。教科書的な内容は無理の無い範囲で参考書の紹介で補うなどして、授業では最新の研究内容に触れられる機会を増やしてください。

A:葉の枯れ方について、すばらしい点に気がつきましたね。この問題は、1990年代になって、やっと実験的に証明されました。それによると、葉が枯れるのは、葉が古くなったときと光があたらなくなったときの2つの条件のどちらかが満たされたときで、光の条件の方が、より強く葉の生き死にに影響を与えるようです。この点については、もしかしたら講義の後半で紹介できるかも知れません。


Q:普段当たり前のように過ごしているが、光合成を始めとし、食物、エネルギ—源など植物からたくさんの恩恵を受けていることを再確認した。植物の環境応答に興味を持った。植物が環境に応じて順応していくという点から、そこに品種改良や遺伝子の組みかえなどにより、乾燥に強い植物で、砂漠化を抑制することができる。また今年は冷夏で、米が不作である。環境にできるだけ左右されなく、作物が生産されることで、食糧自給率をあげることはできないだろうか。現在の食糧自給率は40%である。この先、今まで通りに日本がほとんどの穀物をアメリカに頼り続けるのは難しい。他のアジア諸国も同じように穀物を外国に依存する可能性が高いからだ。そのためにも、食糧自給率をあげるべきだと思う。また、食糧だけでなく、植物により化石燃料とかわれるエネルギ—がつくれないかと思う。今まで以上に植物を有効活用するべきだろう。講義のなかで光合成研究の方向に興味を持った。これからも最新の研究内容や可能性について詳しく聞きたいです。

A:現在の日本の状況では、遺伝子組換え植物を大々的に食用にするのには、抵抗が強いでしょうね。また、遺伝子組換え植物にしても、その遺伝子組換え技術の多くはアメリカに特許の形で押さえられていて、食料の安全保障という意味では、あまり役に立たないかも知れません。このあたりは、科学だけで解決する問題ではないので、難しいですね。


Q:『動物の光合成?』について
 講義では「少なくとも“高等な”動物は光合成をしないのはなぜか?」という問に対し、「(光合成の為に)広い面積をもって移動するのは効率的でない。」との推論をあげていた。 しかし、動物にとって光合成は「効率的でない」というよりは、動物にとって光合成は「必要ない」というほうが適切であると思う。
 仮に、光合成ができて移動のできない生物が、どうにかして動けるようになったとする。移動可能になることで、それまでは自身で光合成をして得ていた栄養分を、他の動かない光合成生物を摂食することで簡単に得られるようになる。そうなれば、自身が光合成をしなくても十分やっていけることになり、光合成の必要性は低くなっていく。そして、光合成能を移動当初は保持していたとしても、移動生活を続けていくうちに最終的には光合成能を無くしていくのではないか。
 また、細胞内共生説によれば、(真核)細胞に光合成細菌が共生したのが植物になり、共生しなかったのが動物になったらしい、ということを習った。この説に従えば、共生が始まったときにはどの細胞もそれほど進化していなかったので、目立った移動能の差もなかったと考えられる。つまり、「植物(=移動しない生物)は光合成をすることを選んだが、動物(=移動する生物)は光合成をすることを選ばなかった」ということではなく、光合成細菌が共生したかどうかが動物と植物を分けた、と言えるのではないかと思う。この点からしても、効率がどうこうというのは少しおかしい感じがする。ただ、光合成能を持つようになった生物も、移動できるようになれば、上述したように必要のなくなった光合成能を捨てた、ということは考えられる。

A:実際に、いったん光合成能力を獲得しながら、それを「捨てた」生物はかなり多いようです。一昔前までは、形態の進化はともかく、光合成といった機能の進化を論じることは難しかったのですが、最近は、様々なゲノムが決定されたこともあり、大分いろいろなことがわかってきました。例えば、熱帯地域の病気として有名なマラリアの病原体であるマラリア原虫も、もとは光合成生物だったようです。逆に、どういう生物が、光合成能を捨てたかを考えることによって、移動能力と光合成能力の関係を明らかにできるかも知れません。


Q:システムとしての生命地球は太陽からの可視光線を植物が利用して光合成を行い、酸素、糖を生産し、それを動物が利用して活動し、その結果発生した熱は赤外光として地球から出て行くわけだが、これは空気が可視光線と一部の赤外光を透過することから成り立った システムであるである。もし、地球の空気が光に対し今と異なる性質を示していたら、地球の環境は大きく変化し、生命は存在していなかったのかもしれない。このように考えると、原始生命となる有機物が合成される以前に、そのような環境ができなければならないのだから、生命の誕生は驚くべきことである。また、今とはまったく異なった生態系ができているということも考えられる。現在の生命が可視光線と呼ばれる波長の光を見ることができるのも、地上に到達するのが可視光線と呼ばれる波長の光であったため、それに適応するように進化したと考えられている。よって、現在の地球と異なる環境になっていたとしても、それに適応する生命が誕生し、現在とは異なる生態系ができていたと考えることができるのである。このことから、宇宙には地球と同様の環境をもつ星が存在し、生命が存在していると考えられているが、地球とは環境のまったく異なる環境の星でまったく別の生態系が存在している可能性も考えることができる。

A:地球と良く似た金星や火星でさえも、生命を支えることができないことを考えると、地球の環境が生命を育むことができたのは、極めて微妙な環境のバランスと、大気を構成する気体分子や水の物理的性質のバランスによるものであることがわかります。SFの分野になるかも知れませんが、地球とは全く異なる環境の星で生態系が存在していたとしても、それを人間が生命あるいは生態系として認識できるかどうかはわからないのではないでしょうか。


Q:自然保護を訴える人の中で、森林の減少や伐採を取り上げる人たちがいる。確かに森林は動植物の宝庫であり、森林が失われれば多くの種が失われるだろう。しかし木を切るということは地球温暖化という側面から見ればむしろ悪いことではない。それは現在のエネルギーの中心は化石燃料であり、また森林は炭素固定のスピードが遅いからだ。化石燃料の使用は地表の炭素、つまり二酸化炭素になる可能性のある母集団を拡大させている。また森林は光合成をする一方、それらが腐敗するときに二酸化炭素を発生させるからだ。だから人間が、コンクリートなどの建築材などで炭素固定するのはもっと積極的にすべきだ。木は成長が速いとき以外は伐採して人間が利用した方が二酸化炭素の削減につながるはずである。しかし問題もある。例えば木の成長が遅くて供給量が足りないところとコストがかさむところだ。しかしこれらの問題こそは生物工学の領域である。光合成の効率のよい、耐久性のある木をつくりだせば、温暖化の解決につながるだろう。
 要望なんですが、これからの授業は最先端の研究についても触れて欲しいです。

A:講義でも触れましたが、化石燃料は過去の光合成産物の「缶詰」であり、同時に「二酸化炭素の缶詰」でもあります。従って、それを開ければ必然的に大気中の二酸化炭素濃度の上昇を招きます。これに対して、確かに、森林の場合は、炭素の循環のサイクルの中に組み込まれているので、話が違います。ただ、光合成の効率のよい木を作っても、多くの人間が石油の代わりにそれを使うようなるかどうかは難しいでしょうねえ。


Q:今回の講義で不思議に思ったのは、生物はどのように葉緑体を獲得したのだろうか。ということです。共生説のように、進化の過程で細胞が葉緑体をとりこんだというのはわかるのです。しかし、植物が発生過程でどのように葉緑体をつくるのかがわかりません。葉緑体は、自分自身で独自のDNAを少量ですが持つのですよね?そのDNAとはどこからくるのですか?
 土のなかで芽や根をだした植物は、その時点ではまだ葉緑体を持っていませんよね。ということは、植物は土から芽を出し、光を感じることで葉緑体を獲得するのでしょうか。進化の過程で、葉緑体を失った私たちは、葉緑体をつくる遺伝子をもっているのでしょうか?そして、環境変化を与えることで、再び葉緑体を持つことは可能なのでしょうか。
 捕食することで、私たちは光合成により有機物をつくらなくても生きていけるようになりました。そこには、環境に適応し無駄なものは排除していくという生物の選択性がみえます。どうして、生物はこんなに合理的に進化を遂げていくのだろうかと感動しました。

A:実は、葉緑体というのは、色素体という一般的なオルガネラ(細胞内小器官)の1つの形なのです。色素体が光の下で光合成をするような形になったのが葉緑体で、色素体には、この他、デンプン貯蔵の役割を担うアミロプラストや、色素をためるクロモプラストなどといった種類があります。従って、葉緑体を持たない細胞も、何らかの色素体(もしくはそのもととなる原色素体)を持っており、葉緑体はそこから分化・分裂して増えていくのです。そして、葉緑体に限らず、他の色素体も、独自のDNAを持っています。


Q:講義中に見た葉緑体タンパク質は、現在の高等植物と呼ばれている種類のもの(恐らく被子植物類のどれか)だろうと思います。葉緑体は細胞内共生によって得られた小器官だと言う説が今の主流ですが、その元となったといわれているシアノバクテリアとは随分違うものになっているように感じます。例えば、海の深いところにいる藻類は、そこまで届く波長の短い光をより多く吸収するために、そのための光合成色素(フィコエリトリン等のカロテノイド)をたくさん持っているだろうし、陸上においても緯度や高度によって生育する種が異なるように、同じような植物においてもある程度異なるのではないかと考えられます。この考えが正しいなら、光合成たんぱく質は恐らく核内遺伝子によってコードされているから、この部分の遺伝子の変化による進化の系統図とかもあるのではと思います。
 ここで質問ですが、植物の種によって葉緑体タンパク質は異なるのですか?(ちなみにミトコンドリアにおいてはそんな話は聞いたことがありません)異なるとすると、一番進化している葉緑体を持つ植物は何だと考えられますか?

A:葉緑体のタンパク質は、確かに生物種によって変化しますが、実は、タンパク質の種類によって、その変化の仕方が違います。光合成の電子伝達を担う反応中心などのタンパク質は、シアノバクテリアでも高等植物でもほとんど変わりません。一方、光を集めるアンテナの役割を果たすタンパク質(光合成色素を結合しているタンパク質)は非常にバラエティーに富んでします。光合成生物の分類は、このことを利用して主に光合成色素の種類によって行なわれていました。幅広い生物種を遺伝子により比較するためには、それらの生物種に共通して存在する遺伝子を使う必要がありますから、例えば、シアノバクテリア(と紅藻など)にしかないフィコビリンタンパク質の遺伝子を使って系統樹を作ることはできません。進化の程度については、「一番進化している」といったときに、何を判断基準にするのかが難しいですね。シアノバクテリアでは、生存に必要な全ての遺伝子を持っていたものが、葉緑体では、多くの遺伝子が核に移行して遺伝子数が減っています。とすると、遺伝子が一番貧弱な葉緑体が一番進化しているのでしょうかねえ。それも少し変な気がしますし。


Q:今回の講義で疑問に思ったのは、暗所で発芽した植物は色が白くなっている理由としてクロロフィルがない、と聞いた気がしますが、これはクロロフィルを合成する遺伝子に光がないというシグナルが働いて抑制がかかっているからでしょうか。その前に、植物にとって暗所で発芽することにメリットがあるのでしょうか。とりあえず発芽してみて、光を求めて成長し、光が当たる前に栄養がつきてしまったらそれまで、なんでしょうか。発芽に適した条件にならないと絶対に発芽しないというよりは、リスクを負って発芽し光が当たるまで成長し、光を獲得する可能性にかけているのか。
 また、発芽初期の頃の植物ではなく、もっと成長した植物を暗所条件で生育した場合、成長速度はどうなるのだろうか。同じように速度は上がるのだろうか。たぶん、ただ枯れてしまうと思うのだが。
 もう一つ疑問に感じたのが、生育速度が光が当たっている場合よりも暗所の方が速いようですが、なぜ生育条件としては好条件な光が当たっているほうも同じような成長速度にならないのでしょうか。光が当たって光合成もできるのだから、むしろ暗所条件の場合よりも速い生育速度になるはずではないのか。
 これからよろしくお願いします。あと、要望ですが講義の資料をHPで公開してもらえないでしょうか。

A:種子には光発芽種子といって光が存在しないと発芽しないものもあります。このようなものは、光が当たる前に栄養が尽きてしまうリスクは回避できますが、一方で、頭の上に 1 cm 土が載っているだけの場合でも発芽するチャンスを逃すというデメリットを背負っています。このような場合は、どちらの複数の戦略が考えられ、植物の種によって、どのような戦略を取るかは違うわけです。基本的に、どの戦略を取っても、メリットとデメリットが存在すると思います。
 生育といっても、もやしが伸びるのは、形が大きくなるだけです。種の重さを量っておいて、もやしにしてから十分乾燥させて重さを量ると、全く増えていないことがわかります。光合成がなければ、見かけが大きくなるだけで、ものの量は全く変わらないんですよ。
 講義の資料については、自作の図はよいのですが、人の図もあるので、著作権の問題もありなかなか難しいですね。将来的には、自分で全て図を作り直して、ホームページに載せたいとは思っているのですが、実現していません。


Q:私は、今まで植物よりも動物、特に人体について興味があり、基礎医学のようなものを学びたいと考えてきましたが、動物に対するアプローチだけでは、考えも単調にかねない。また、植物が、存在してこその動物であり、切り離せるものではないと思い、植物についての、植物における同化、異化についての見解を深めたいと思い受講したいと思いました。植物を扱うことで動物の存在理由、我々動物の在り方、などについても深く考察していけるのではないかと思いました。 植物についての先端の研究分野について興味があり、植物を今までとは違う視点で見たいと思います。植物について無知な状態で考えるところでは、1、光合成においては、逆反応が起こらず、また生成物は、直ちに分解せず、後になって生体反応を行なうときまで貯蔵しうるような化合物のなかに化学エネルギーの形で固定することが可能というエネルギー効率の良さを何かに利用できないか?2、植物についての、特に葉緑体をシステマティックに扱うことで砂漠化が進む地域、植物が育ちにくい地域などにおいて人工の光合成が可能なものを創り環境問題に取り込む。3、葉緑体の生み出す自給自足のメカニズムをどうにか人間には活かすことはできないかなどを考えましたが、次回以降の講義より植物について新しい見方を身につけたいと思います。

A:指摘された3つの可能性は、おそらく多くの人が考えてきたことだと思うのですが、まだまだ実現の域には遠そうですね。人工光合成なども、だいぶ効率は上がってきていますが、植物に比べるとまだ足下にも及ばない状態です。


Q:普段の他の生物学的科目の講義では分子サイズや細胞サイズの話が多いので、今回の講義で生物の地球サイズでの考察を知れて面白かった。特に地球は植物なしでは太陽エネルギーを利用できないということは自分にとって新しい認識で、何だか壮大な感じがしてうれしい気分になった。今太陽電池の効率がまだ低いということだが、太陽電池も太陽エネルギーを利用するという点で植物と同じなので人間は人口植物を作ったと言ってしまっていい気がした。将来太陽電池の効率がもっと上ったら、そこから得られた電力を利用して、CO2→C+O2分解装置(作れたとして)を動かせば、それはもう植物ロボットと言えそうだ。何だか太陽電池が偉大な装置に思えてきたが、そういえば太陽電池のメカニズムを全く知らない。光を利用するくらいだからやはり色素を使っているのだろうか。だとすると太陽電池のミラーの部分は少し青っぽいが、あの薄青色の色素が太陽エネルギーを吸収しているのだろう。エネルギーといえば石油や石炭の違いや生成の過程もあまり知らないので、植物とはあまり直接関係ないけど、太陽電池のメカニズムや石油、石炭についても軽く触れて欲しいです。また光エネルギーの変換機構とかは今まで何度か勉強する機会があったので、「光合成研究の方向」の中から制御・環境応答や、適応・進化についても軽く授業で教えて欲しいです。あと質問とかはいつどのようにすればいいかも知りたいです。

A:僕も、太陽電池の正確なメカニズムはよく知りません。理論的にはわからないでもないのですが、実際の電池でどのようにそれを実現しているのか、調べておきたいと思います。今後の講義では、環境応答、適応・進化についても触れたいと思います。
 質問は、講義の途中でも、いつでも、僕が話しているのを遮ってもらって結構です。