生命生存応答学 第4回講義

植物と光の関わり

第4回の講義では、植物と光の関わりについて、葉緑体移動などの物理的過程から、ステート遷移、サイクリック電子伝達などを中心に強すぎる光から植物を守る仕組みについて解説しました。他に、植物の呼吸と発熱に関して触れました。以下に、学生からのレポートとそれに対する回答を示します。


Q:私はセイタカダイオウの植物に興味を持ちました。高山に生育し半透明の苞葉で花を包んでいる温室植物です。高山は低温で紫外線が強く、セイタカダイオウは低温や紫外線から花の生殖器官などを守るために苞葉を持ちます。また、高山は光量が多いので、吸収される光エネルギーも多いです。過剰な光エネルギーを発熱に利用すれば、低温回避に対してさらに効果が出ると思います。講義のプリントによると、セイタカダイオウは外気温がおよそ8~20度の時に、内部気温はおよそ10~28度まで変化します。生物は代謝に酵素を利用するので、内部気温を酵素活性に適した温度に近づけるのが最良です。それでもセイタカダイオウが発熱しないのは、葉緑体の数が少なく光エネルギーが余らないのではないか。もしくは、セイタカダイオウは1~1.5mほどの高さまで生長するので、葉緑体の数が多く、たくさんの光エネルギーを生長に使っているのではないかと考えられます。葉緑体の数を数え、その数からどれほどの光エネルギーが吸収されるかを計算したら、前者なのか後者なのかがわかると思います。

A:動物にとっては、環境が変化しても自分の状態を一定に維持する恒常性(ホメオスタシス)というのが極めて重要です。特に、恒温動物の場合はそれが顕著です。一方、植物の環境応答は自分の細胞内の状態が変化しても生きていけるように、自分自身を変えるという戦略を取っています。例えば、低温にさらされた時に細胞の温度を上げるのが動物で、低温でも凍結しないように細胞質の成分を変化させるのが植物だ、という言い方ができるでしょう。その意味で、発熱をするというのは、「植物的」ではない反応のように思います。実際に植物の発熱が見られるのは、植物体全体ではなく、生殖器官である花であることが多いようです。それを考えると、セイタカダイオウがなぜ発熱しないのかを考えるよりも、ザゼンソウやスイレンがなぜ発熱するのかを考えた方がよいかも知れませんね。


Q:活性酸素は細胞に害を与える。OH-の濃度が変われば、細胞の溶媒である水の特性、pHに直接関係もしてくるだろう。水中の植物は住んでるところに左右されないのかと思った。ステート遷移について、光化学系Iと光化学系IIの差が生まれるとき、というのは植物がどのようなときにさらされた時に働くのでしょうか?木が風に揺れて日が当たったり当たらなかったりしている状態でも、つまりほぼ常に起こっているのでしょうか?

A:どうも論旨が判然としませんが・・・。pHを決めるOH-(水酸化物イオン)と、活性酸素の・OH(ヒドロキシルラジカル)は別物です。ステート遷移は、系Iと系IIがアンバランスに励起される時に起こりますが、これは、高等植物ではさほど一般的ではありません。ただ、ステート遷移は光の明るさを変えた時にも観察されます。ただし、ステート遷移が起こるためには数分はかかりますから、いわゆるサン・フレックのようにちらちら短い時間で光の明るさが変わるような時にはステート遷移は誘導されません。


Q:クワズイモのシアン耐性回路の話が気になったので調べてみました。授業中説明があったように、クワズイモの呼吸速度が遅いのは細胞内のエネルギー(具体的にはATP)の利用速度が低く保たれているためという説明がありました。一方、AOXに関して授業中、クワズイモではあまり使われていないという説明がありました。これは弱光下ではAOXタンパク質が不活性状態に抑えられており、強い光が当たった際にはAOXタンパク質が活性状態になり、過剰なエネルギーを消費させるという話のようですね。これは林床植物のように普段は弱光に適応しているが、まれに林冠を覆う樹木が倒れるなどして強い光が当たるような環境では納得のいく説明です。しかし、ホウレンソウの例にあるように常時比較的強い光が当たっている植物がAOXタンパク質でエネルギーを一部消費させているというのは不思議な気もします。
 もし、ホウレンソウが常時AOX経路側を使って過剰なエネルギーを消費する必要がある位なら、むしろ単純に光合成色素の量自体を減らしてしまえば良いような気もします。実際はそうなっていない理由を考えると、恐らくAOX経路が滅多に働かない水準まで光学系の活性を落としてしまうと、光量が少ない時間帯に十分な光合成を行うことができず、結果として損をしてしまうのではないかと思われます。AOX経路の活性が環境の光量変化によって制御されるかどうかは不明ですが、もしそのような制御が働いているとすると、人工照明下で常に一定の光量下で育てられている植物は、自然環境下で時間毎に変化する光量下で育てられた植物よりAOXタンパク質の活性が下がり、より効率的な光合成をおこなっている可能性があると考えられますが、そのような比較実験は過去行われていますか?

A:短いフラッシュやパルス光を繰り返し照射した条件で植物を育てる実験はいくつかなされていますが、どちらかというと葉緑体の発達に対する影響や光合成系のアッセンブリーに関する仕事が主ですね。植物がおかれる光環境は夜昼の大きな一日単位と明るさの変化の上に、細かい変動がのっていますから、実際にどのような変化が何を引き起こしているのかを解析するのは案外やっかいです。人工環境下と自然環境下での応答の違いの重要性については、より環境をコントロールしやすいシアノバクテリアを用いた研究例を次回の講義で紹介する予定です。