生命生存応答学 第4回講義

過剰な光からの防御(その2)

第4回の講義では光合成系において光が強すぎることによる阻害が起こる例と、そのような光阻害を回避するための防御メカニズムに関してシアノバクテリアの光化学系量比調節とステート変化を中心にお話ししました。


Q:植物は光合成なしには生きていけないが、光合成も時に害をなすことがある。原因は光化学反応によって生じた還元力が過剰になることであり、植物はこの問題に対しても様々なメカニズムで短期的あるいは長期的に応答し、適応する。一方では、被子植物の一部であるC4植物は強光条件に耐えるのではなく、積極的に利用するような性質を持つ。C4植物の最大の特長は、CO2濃縮機構を持つことである。この機構の働きによりC4植物はCO2濃度による光合成速度の制限が少なく、強光に応じて光合成速度を増大させて還元力を有効に使うことが出来る。他、高温、乾燥、貧窒素などの条件ではC4植物は有利である。地上という環境では水中よりも過剰な強光という場合が多いと考えられる。応答とは本質的に異なるが、C4植物は強光条件に適した形質を進化させたとも言える。

A:今回は時間の関係で、講義の中で炭酸固定を取り上げることができませんでしたが、時間があればこのあたりも取り上げたかったところです。


Q:シアノバクテリアでは2つの光化学系へのエネルギー分配の調節機構が存在し、これをステート変化と呼ぶ。ステート変化には少なくとも2つのメカニズムが存在する。強光培養条件ではpsaK2遺伝子が発現し、光化学系I複合体に組み込まれ、アンテナから光化学系Iへのエネルギー伝達が起こる。一方、弱光培養条件ではrpaC遺伝子が発現することが知られており、ステート変化に関与しているとされている。この2つの経路は現在分かっている範囲では独立とされているが、実は遺伝子ネットワークの上流で繋がっているのではないだろうか。2つのメカニズムにおいて機能する遺伝子は別個のものであるが、結果として起こる現象は同一のものである。2つのメカニズムを同時に機能させるよりも、条件によってより大きい効果を得られるメカニズムを選択的に機能させる方が、シアノバクテリアにとってエネルギーのロスが少ないため、生存に有利であると考えられる。

A:レポートして面白いですね。あとは、大学院生向けの講義に対するレポートとしては、あと一歩、踏み込みが欲しいところです。例えば、「条件によってより大きい効果を得られる」とありますが、なぜ「大きい効果が得られる」のかを仮説でよいので、提示するとよいレポートになります。


Q:今回、植物は過剰な光からの防御のために光化学系量比調節を行っていることを知ったが、どうして量比を変えることが防衛につながるのか。光化学IとIIの量比を調節しその差を少なくすれば、ATP合成量が減り過剰なエネルギー産生を行わなくなる。そして、NADPHの生成量も減少し、過還元状態になることを防いで活性酸素の発生を抑えることができるためではないだろうか。また、光化学系IIにおける強光阻害として、その反応中心は光を吸収すると同時に、過剰なエネルギーによって反応中心を構成するD1タンパク質の損傷されることが知られており、光化学系IIに光エネルギーが集中しないよう、エネルギー分配システム(ステート変化)があるのだろうと思う。

A:実は、量比の調節とエネルギー分配の調節は裏腹な関係にあります。弱光から強光に移した時に、もし完全に強光に順化して量比を調節できるのであれば、その時にはエネルギー分配を変更する必要はなくなります。つまり、時間的に全く異なるスケールでの出来事ということでしょう。


Q:光合成生物は進化の上で1つの光化学系から2つの光化学系をもつことになった。光合成細菌のもつ1つの光化学系では硫化水素や有機物がある所でしか生育できなかったのが、酸素発生型光化学系のように光化学系を2つもつ生物は系Iと系IIによる大きなエネルギー差の利用により水があれば生育できるようになった。水があるところで生育できるということは硫化水素や有機物の存在地域よりも断然広い領域において光合成を行い生育できるため、とても有利である。逆に広い範囲ではないが硫化水素や有機物を利用した光合成をする生物はそこにしか生育できないが、硫化水素を利用できる種はそれほど多くなく、また2つの光化学系を協調させる必要がなく、うまく住み分けることができているのかもしれないのだが、やはり大体で利用可能な水で光合成を行うことができることは大きな利点であろう。光化学系を2つもつことによるメリットは大きい気がするがデメリットもある。2つの光化学系を協調させなければならない。系Iと系IIのバランスを保つためにプラストキノンの酸化還元状態をモニターし、光化学系量比調節やステート変化を行っている。これらの調節機構はどのようにして得られたのだろうか。シアノバクテリアもステート変化により分配をしているが、2つの系獲得とほぼ同時だったのだろうか、それとも徐々に得られたのだろうか。PsaK1とPsak2のアミノ酸配列が載っていたが、この似ていないようで似ている配列のアミノ酸は、今のところ一方は弱光にいるというシグナルとして働き、もう一方は強光下で発現してエネルギー分配を調節しているようだが、2つが違う発現パターンをもち、お互いの発現量比もしくは総量などが影響するのだとすると、さらに光分配などに対して緻密なバランスをとっている感じがして興味深い。この2つがさらに機能が明らかになり、後半部は結構配列が類似しているが、どの領域がどの役割に重要なのかなどが分かっていくと面白そうだと思った。

A:水を分解する能力の獲得には、光化学系を2つ持つことが必須ですが、この2つのイベントの進化の上での順番はまだわかっていません。少なくとも今までに、光化学系は2つ持つが、水は分解しない、という生物の存在は明らかになっていません。また、光化学系を一つ持つ生物は、現在では全て色素にバクテリオクロロフィルを使っており、高等植物型の光合成をする生物は、全て色素がクロロフィルです。この色素の変換と光化学系が2つになる進化の順番もわかっていません。高等植物型の光合成の進化は、今でも謎だらけの状態です。