生命応答戦略科学 第2回講義

光の受容とエネルギーの変換

第2回の講義では、植物が光エネルギーを集める仕組みを解説しました。以下に寄せられた感想および質問と、必要に応じてそれに対する答えを掲載します。


Q:クロロフィルがその環境に適応して光を受容しているという事に興味を持ちました。水中で、深さにより波長が変わるので、植物もそれに適応するようになったというのは納得がいくのですが、植物に多く存在するというクロロフィルa自身が赤色光と青色光の波長のみを受容するようになったのはなぜなのか、疑問を持ちました。これは、水中で、青色光の波長が多く存在するから、全体的なバランスを保つためにそうなったのか、あるいは、光合成は光をエネルギーとして受け取るために、青色光と赤色光間のエネルギー差が関係あるのか、ということを考えました。

A:なぜ、全ての光合成生物がクロロフィルを使うのか、というのは難しい質問ですね。全ての光合成生物はその起源が1つのようですから、たまたま最初の祖先がクロロフィルを使った、と言うだけの可能性もあります。アンテナとしてはカロチノイドやフィコビリンを使えるわけですから、反応中心としての機能にヒントがあるのでしょうね。


Q:P700が励起状態になると、その後そのエネルギーはA0→A1→Fx→FA/Bの順に伝わっていく。A0からFA/Bまでの電子伝達を効率良く行なうため、電子受容体とP700との距離を遠くしておくことによって、P700へ再びエネルギーが戻ってしまう無駄を空間的に起こりにくくしている。しかしそれではP700に最も近いA0へ伝わったエネルギーはP700へ戻ることは防がないのだろうか?という疑問をもった。そこである文献(1)で調べた結果、一旦電荷分離が生成すると、電荷再結合反応は巧妙に抑制されているということが分かった。さらに他の文献(2)で、光化学系IのアンテナシステムからP700ヘのエネルギー伝達は20-30ps、初期電荷分離には1-3ps、A0の再酸化には20-50psとあった。このことから、P700からA0への電荷分離は非常に早い反応で起こりやすく、A0を再酸化してP700へエネルギーを戻す反応は起こりにくいことが考えられる。そのため、P700からA0への電子伝達も無駄が起こりにくい仕組みになっていることがわかった。
参考文献:
(1)「光合成反応中心における電子励起エネルギーと電子の超高速移動過程」レーザー学会機関紙、レーザー研究特集号(光受容蛋白質のピコ秒・フェムト秒分子ダイナミクス)31.3号(2003)招待論文 202-206
(2)Review "Structure of photosystem I" Petra Fromme et.al. Biochim. Biophys. Acta vol.1507 Issues 1-3 p.5-31 (2001)

A:このような理由を見ると、1つの複合体の中にたくさんの電子受容体を持たなくてはならない理由がわかりますね。


Q:従来、藻類や高等植物の場合、光合成を行い、水を分解するためにはクロロフィルaにエネルギー伝達可能な波長680nm短波長側にQy吸収帯をもつものでなければならないと考えられていた。しかし、近年、クロロフィル dを光受容色素とする可視光に加え700-750nm付近の近赤外光を吸収して、酸素発生型の光合成を行う機能を有する新種の原核藻類が発見された。この藻類の光化学系タンパク質をコードする遺伝子を単離できれば、これまで利用することができなかった波長領域を利用した光合成機能活用が可能になると考えられ、非常に高効率の光合成植物、藻類などを作り出せる可能性があると思われる。

A:確かにそのような可能性もあるかも知れません。ただ、赤外光はエネルギーが低いので、水を分解するにはかなり無理をしている、という感じはありますね。


Q:地球というシステムの中で、外部からの光エネルギーをどう獲得していくか、植物の光のエネルギー獲得法について学びました。特に、電子伝達のしくみについて、膜に垂直にプロトン輸送をすることができる結晶構造を持つことに、興味を惹かれました。高等植物が、どのような過程を経てその結晶構造を獲得するに至ったか、また、光合成細菌の光合成システムから進化したのもなのか、もっと深く知りたいです。Qサイクルの緻密さに、改めて驚き、今まで何の疑問も抱かず、教科書に書いてある通りに理解だけしていた自分を恥じました。講議に望むにも、研究を進める上でも、疑問を持つ/凝らして見る姿勢を持ちます。クロロフィルに似た構造の物質を持ち、それを知覚に使っている魚がいた、ということにも、とても驚きました。色素物質一つとっても、進化には、色々な選択肢や可能性があるのだと感じました。

A:人間が構造を決めるために結晶を作ってX線回折像から構造推定を行なうのですから、「結晶構造を持つ」「結晶構造を獲得する」という言葉は変ですね。疑問を持って、その疑問に自分なりに答えたレポートに挑戦してみて下さい。