生命応答戦略科学 第6回講義

呼吸、雨、導管と光合成

第6回の講義では、環境の変化に対する植物の応答戦略を中心にお話ししました。どちらかというと生態学的な視点から、「呼吸と光合成の関わり」、「雨の植物に与える影響」、「植物の分布と導管の太さ」という3つの話をしました。以下に、学生からの意見とそれに対する回答を示します。呼吸の話は、当時大学院生で現在生態研に助教授として戻っている野口君、雨の話は、当時大学院生の石橋さん、導管の話は、東大の日光植物園の館野さんのグループの研究成果です。今回は、出席が非常に低調でした。


Q:雨にぬれた葉の気孔が閉じるという現象を明らかにし、さらにその際に炭酸固定の主な酵素であるルビスコの発現量が半減すると分かった実験が興味深かった。とくに葉の気孔を樹脂の型にとってから顕微鏡で観察したアイディアが面白いと思った。しかしながら、その実験系は日照を考慮にいれておらず、雨がふっても光の量が変化しないという人工的な環境での特殊な応答であったことが後に分かったという。先日のwild typeの研究室内での突然変異の話にもあったように、実験系というのは必ずしも自然の生態系を反映するわではないということも十分頭に入れておかなければならないのだと感じた。

A:自然の条件下で何か研究をしようとすると、考えなくてはいけないファクターが多すぎて結論が得られなくなりがちですし、物事を単純化してしまうと、今度は生物本来の生き方とはかけ離れたものを研究しかねない、という二重背反が常にあります。自分の実験系が生物本来の姿を反映したものかどうかは、常にチェックする必要があるでしょうね。


Q: 『雨の植物に対する影響』のお話しが、研究テーマの分析の仕方や研究の進め方を考える上での大変良い参考となりました。この仕事はどの程度までが、修士課程の研究内容で、どこまでが博士課程の研究内容なのでしょうか。また、3つめのトピックで冬に落葉させれば、エンボリズムの危険性を抑えることは理解できるのですが、落葉した樹木では、樹冠の方までどのようにして水分が運ばれているのでしょうか。冬季に多量の水分は不要でしょうが、樹皮の内側が完全に乾燥していることはないと思いますので。

A:雨の研究の話は、気孔の開閉による一時的な光合成阻害の他に、非可逆的な阻害が存在する、というところまでが修士課程の仕事で、その後、阻害部位をきちんと決定し、さらに低二酸化炭素ストレスとの比較を行って修士課程の仕事になりました。落葉樹木では冬芽なども含めてほとんど休眠状態となり、基本的には自分の細胞の中の水を外に逃がさないことによって水分を維持しているのでしょう。


Q:今週は常緑針葉樹と常緑広葉樹のお話が一番記憶に残りました.エンボリズムの発生により導管内の水路が断裂してしまうと,そこには水がめぐらなくなり植物は生存できなくなるため,寒冷地帯ではエンボリズムが起こりにくい細い導管を持った針葉樹が選択的に生存するようになった,というお話は初めて知ることができました.高い木が水を吸い上げる時には水分子の凝集力を利用しているということも,初めて聞いたお話でした.植物が環境に合わせて進化してきた様子を少しだけ知る事ができました.

 A:針葉樹と広葉樹の分布や、落葉樹と常緑樹の分布は、大昔から知られていたことですが、その原因となると昔の研究手法では手がでませんでした。しかし、最近では、そのような「なぜ」という疑問に対しても、回答を与えるような研究が出始めています。

Q:10メートルを超える背丈の高い木がどのようにして水を吸い上げているのか長年の疑問だったので、今回の講義に出席して有意義でした。水を単に吸い上げるだけでなく、さらにはエンボリズムという現象が自然界にあり、冷温帯の木々がそれを回避するような形体をとっている、との話は目からウロコでした。また、雨の植物に対する影響という大変ユニークな研究テーマから深く展開していった院生の方の姿勢が感動的でしたので、少しは見習いたいと思います。今回の講義に欠席された方が多いのは残念です。

A:自分で本当に知りたいことがあって始めた研究というのは、良い結果につながることが多いようですね。もちろん、ただ疑問があるだけではダメで、その疑問にいかに答えるのか、という戦略を立てる能力も必要ですが。